不動産(土地・建物)を差し押さえる方法をやさしく徹底解説!!

目次

はじめに

強制競売を開始するために必要なもの

まず何よりも債務名義!

債務名義が手に入ったら?今度は執行文を付与してもらおう

その他、必要なこと

強制競売の申立てをしよう

債権者の申立てと裁判所の審査

差押えの宣言

差押えをするとどうなる?その効力

原則は処分禁止

例外:通常の用法に従った使用はOK!

時効の中断

差押の効力はいつ発生する?

売却のための保全処分

差押えに似てる…「仮差押え」とは?

仮差押えは民事保全手続の一つ

仮差押え命令を発してもらうには

まとめ 

■ はじめに

 弁済期を過ぎたのに、債務者から貸金を返還してもらえる気配が全然ない、そもそも債務者には返還するだけのお金があるようにも見受けられない…そういった場合に債権者が使いうる債権回収の手段の一つが強制競売です

 具体的には、不動産などの債務者の財産を競売にかけて金銭に換え、その金銭を債権の回収に充てるという手段で、強制執行と呼ばれる制度のうちの一つに当ります。

 もちろん他人の財産ですから、誰の許可もなしに勝手に持ち出して売り払うわけではありません。そんなことをすると窃盗罪などの刑事罰の対象になってしまいます。

 強制競売という形で債務者の財産を売ってしまうためには、「債務名義」を得た後で、裁判所に「強制競売の申立て」をする必要があるのです。

 この申立てが認められると、裁判所によって「強制競売開始決定」がなされ、強制競売の手続が始まります。公正な立場の裁判所によって、合法的に債務者の財産を売り払う手続が開始されるというわけです。

 さて、この強制競売は、

裁判所による債務者の財産の「差押え」

➡その財産を金銭に換える「換価」

➡その金銭を債権者に与える形での「満足」

という段階を踏んで進められます。

 今回の記事では、この強制競売の流れの中の最初の段階である「差押え」について説明していきます。

 債務者の財産の中でも特に土地や建物といった不動産を差押えるとした場合の、必要な手続や関連する制度をみていきましょう。※債権者は競売にかけようとしている不動産について抵当権などの担保権を持っていないことを前提としています。

■ 強制競売を開始するために必要なもの 

・まず何よりも債務名義!

 先ほど出てきた「債務名義」とは何でしょうか?

 「債務名義」とは一定の権利を表示した公的な証書で、「これがあれば強制競売などの強制執行ができますよ」と法律が認めたものを指します。裁判所に強制競売開始決定をしてもらうためには、この債務名義がなければなりません。

 そのため、強制競売を目指すならば、まずは債務名義の獲得に向けて動きましょう。

 この債務名義にはいくつかの種類があります。

 具体的には、確定判決(債権者が勝訴したもの)、仮執行宣言付判決、執行証書(強制執行認諾文言のついた公正証書のこと)、確定した執行決定のある仲裁判断、和解調書などが挙げられます。

 このうち、仲裁判断と和解調書、執行証書を得るには、仲裁手続の利用に同意してもらうといったような債務者側の協力が必要です。そのため、債務者の協力なしに力づくで債務名義を得るには、債務者を相手取って訴訟を提起し、確定判決もしくは仮執行宣言付判決を取得しなければなりません。

・債務名義が手に入ったら?今度は執行文を付与してもらおう。

 無事に訴訟に勝って、債務名義である確定判決を獲得した!これで債務者の土地を競売にかけられる!…と思いきや、実はそれだけでは競売開始決定をしてもらうには不十分なのです。

 獲得した債務名義に「執行文」がついていなければ、裁判所は強制競売を始めてくれません。この執行文の付与された債務名義のことを「執行正本」といいます。

 では、この執行文とは何かというと、「この債務名義によって強制執行してOKですよ」と示す文書のことです。

 執行文は、それを付与しようとする債務名義の事件記録のある裁判所の書記官に対して、債権者が申立てをすることで付与してもらえます。(ただし執行証書が債務名義である場合に限っては、書記官ではなく執行証書の原本を持っている公証人に申立てることになります。)

 債務名義だけで強制競売を開始しても良さそうなのに、なぜわざわざ執行文をつけさせるといった面倒なことをするのでしょうか。

 それは、債務名義だけでは現時点で強制競売ができるのかがわからないことがあるからです。

 例えば、「○○の引渡しを受けるのと引き換えに金銭を支払え」という内容の確定判決を債務名義とする場合には、債務者に対して○○という物の引渡しがあって初めて強制競売が可能になります。

 しかし、この債務名義を見ただけでは、これまでに引渡しがなされたかどうかはわかりません。

 そこで、「債務者に対して○○の引渡しがなされたのに、債務者はまだ金銭を支払っていません。だからもう強制競売しても良いですよ」ということを証明する執行文も必要になるのです。

・その他、必要なこと

 裁判所に強制競売開始決定をしてもらうには、執行文の付与された債務名義の他に、債務名義の謄本が債務者の元に届けられていることの証明書(送達証明書)、申立書が適法であること(当事者や請求債権、競売の対象となる物件をちゃんと記載しているなど)、債権者が費用を予め裁判所に納めること(収入印紙で)、などが必要です。

 これら全てがきちんと揃ったことを確認したら、以下の手続に進みましょう。

■ 強制競売の申立てをしよう

・債権者の申立てと裁判所の審査

 執行文の付与された債務名義が手に入って準備が整ったら、次はいよいよ裁判所に強制競売の申立てをします。

 債権者が裁判所に強制競売の申立てをすると、申立てを受けた裁判所はその内容を審理します。債務名義やその他の要件が揃っているかを審理し、揃っていると判断した場合には強制競売開始決定をします。

 もちろん要件が揃っていなければ申立ては却下され、何も始まりません。

 また、債権者はこの申立てをいつでも取下げることができます

 ただし、競売が始まって買受申出があった後は、最高価格で買受を申し出た人の同意がなければ取下げることはできなくなります。

 ちなみに、この差押えようとする財産はこの申立書に記入することになるのですが、差押えの対象となるようなめぼしい財産を探すための「財産開示制度」という制度があります。

 これは裁判所の命令によって債務者を裁判所に出頭させ、宣誓の上で自分の持っている財産について陳述させるという制度です。

 しかし、債務者が必ずしも正しいことを陳述するとは限らないため、現時点ではこの制度はあまり活用されていません。

・差押えの宣言

 裁判所は強制競売開始決定の際に、「対象となる債務者の不動産を差押える」といった内容の宣言をします。

 これでやっと強制競売の手続が始まり、同時に不動産の差押えがなされたことになります

 この差押えに至るまでも長い道のりでしたが、強制競売自体はまだこれから、換価、満足、と続いていきます。

 差押えの後のそれらの手続については、この記事では割愛します。

■ 差押えをするとどうなるの?その効力

・原則は処分禁止

 差押えがあるとそれ以後は、債務者はその不動産を売ったり、それに抵当権を設定したりといった処分ができなくなります。この効力を、差押えの処分禁止効といいます。

 もし債権者が差押えられた不動産を勝手に他人に売ったとしても、強制競売の効力は妨げられません。つまり、差押えられた土地を債務者が他人Aに売っても、その後で競売によってその土地をBが買い受けた場合は、土地の所有権はAではなくBに認められることになるのです。

 差押えの処分禁止効は、強制競売の前に不動産の価値が下がらないようにしつつ、確実に換価し、そこから債権を回収するための差押えの中心的な効力です

・例外:通常の用法に従った使用はOK!

 処分できないとはいっても、債務者は差押え後にその不動産が全く使えなくなるわけではありません。せっかく持っているのに全く使えないというのは債務者がかわいそうですし、社会全体として見てもせっかくあるのに使えないというのは勿体ないことですからね。

 債務者は、差押えられた後でもその不動産の「通常の用法に従った使用・収益」ならすることができます

 例えば、債務者は自分の所有する住宅を差押えられても、競売まではそこに住み続けることができます。

・時効の中断

 差押えによって、債権の時効が中断されます。

 つまり、消滅時効によって債権が消えてなくなるのを差押えによって防ぐことができるため、催告など別の手段によって時効消滅を防ぐ必要はないのです。

・差押の効力はいつ発生する?

 上で見たような差押えの効力は、強制競売開始決定が債務者のもとに届いた時か、差押えの登記がされた時かの、どちらか早い時点で生じます

 そのため、債権者としてはできるだけ早く差押えの登記をするよう心がけましょう。

・売却のための保全処分

 債務者が差押えられた不動産を腹いせにわざと壊したり、必要な管理や保存を怠ったりすることによって不動産の価値が下がってしまうことがあります。

 そうなると当然、競売で換価して得られる金額が少なくなり、回収できる債権の額が少なくなってしまうため、債権者が損をする可能性が出てきます。

 こういった物理的な形での価値の低下は、上で説明した「差押えによる処分禁止効」では防ぐことができません。

 そこでこれを防ぐために、差押えをした債権者は「売却のための保全処分」を裁判所に申立てることができます。

 この申立てが認められると、裁判所から債務者や不動産の占有者に対して、不動産の価格を下げてしまう行為(建物の破壊行為など)の禁止が命じられたり、保全のための行為(建物に侵入者が入り込まないよう管理するなど)をすることが命じられたりします。

 そして債務者がこの命令に従わなかった場合は、債務者から費用を払わせて他の人が管理をする、もしくは債務者に罰金を課して一定の期間内に管理を再開させるなどの処置がとられます。

 しかし、この保全処分の申立ては常に認められるわけではありません。

債務等の権利を制限するおそれがあるため、債務者または占有者が不動産の価格を減少させるおそれのある行為をする場合にだけ認められるのです

■ 差押えに似てる…「仮差押え」とは?

・仮差押えは民事保全手続の一つ

 「差押え」に似た言葉として、「仮差押え」があります。

 これは、強制執行を確実に行うために債務者の特定の財産を「仮に」差押えておく制度で、民事保全手続の一つです

 普通の差押えが訴訟後に行われるのとは異なり、仮差押えの手続は訴訟の前か訴訟中に行われます。

 債権者が訴訟に勝った後で不動産を差押えようと考えていても、債務者が差押えから逃れるために訴訟の終結前にその不動産を誰かに売ってしまうおそれがあります。

 そうなってしまうと、債権者はせっかく訴訟を起こしたのに不動産の差押えも競売もできず、そこから債権を回収できなくなってしまうのです。

 そのような徒労に終わることはなんとしても避けたいものです。

 そのための制度が「仮差押え」です。

 訴訟を始める前、もしくは訴訟中に裁判所に申立てて仮差押え命令を発してもらうことで、仮の処分禁止効が生じます。

 差押えの場合と同様に、訴訟を行っている間にその不動産が誰かに売られてしまっても、その売買をなかったことにして訴訟の後に競売にかけることができるのです。

 例えば、債務者が仮差押えされた建物を訴訟中にAに売ってしまっても、結果的に債権者が勝訴した場合は、その後の強制競売でその建物の買受人となったBのほうに所有権が認められることになるのです。

 仮差押えをしていなかった場合でも、「Aが債権者を害することを知っていて売買契約を締結した」ということが立証できれば、詐害行為取消権という債権者の権利を使ってその売買契約を取消すことができる可能性はあります。

 しかし、また煩雑な手続を踏むことになる上に、これが立証できるとは限らないため、やはり仮差押えをしておくことが重要です。

・仮差押え命令を発してもらうには

 仮差押え命令を発してもらうためには、「仮の処分禁止効がなければ、強制競売による債権回収が困難になってしまう」という保全の必要性が認められなければなりません。

 仮差押えを申立てると、裁判所はこの保全の必要性があるかどうかを審査し、必要性があると認めた場合にだけ仮差押え命令を発します。

 また手続面では、債権者が事前に担保として一定の金額(債権額の1030%)を裁判所に納めておかなければなりません。

 この担保は、訴訟で結果的に債権者が負けて、仮差押えが必要ではなかったことが後から分かった場合に、その仮差押えによって債務者が被った損害の賠償に充てるためのものです。

 そのため、この担保は債権者が訴訟に勝った場合や債務者の同意がある場合などは、裁判所に申立てれば返還してもらえます。ただ、この返還手続は少々面倒なのが厄介です。

■ まとめ

 以上が、不動産強制競売の最初の段階である差押えの概要です。

 実際のところ、何度も催告してもお金を返してくれないような債務者の場合、その所有する不動産はすでに何重にも担保に入っていることがほとんどです。そうなると、競売にかけても回収できる金額は微々たるものになってしまいます。

 そのため、訴訟のコストと手間を考えると、強制競売も債権回収の手段としてはあまり有効な方法といえない場合も多いのです。

 しかしそれでも、不動産という財産は一般的に価値が高く、また隠すことが難しいため、強制執行の中心的存在であることは確かなのです。

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