原状回復義務 げんじょうかいふくぎむ

〇 はじめに

原状回復義務とは、契約の解除に伴い債権者・債務者間で発生する義務のことをいいます。

その内容としては、まさに文字通り、契約を締結する前の状況(“原状”)に事実関係を“回復”させるということになります。

原状回復義務は契約当事者間で解除が成立した場合の効果として生じるものでありますので、その義務内容を詳細に理解するためには解除の効果について理解しなければなりません。そこで、ここではまず前提として、解除の効果について指摘をしたうえで、原状回復義務の内容について触れ、最後に原状回復義務が問題となった裁判例を挙げる、という流れで解説を行いたいと思います。

1.解除権の効果
2.原状回復義務の内容
3.原状回復義務に関する裁判例
4.まとめ ―原状回復義務と債権回収との関係―


 
〇 解除権の効果

545条1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。

基本的に、解除権が行使されると、①未履行の契約内容は履行する必要がなくなり、また②既に履行済みの契約内容については、お互いがそれを返還する等して、契約がなされた当時の状態に回復させることになり、そして、③②を行ってもまだなお償うことのできない損害が生じてしまった場合には、損害を生じさせた者がその賠償を行うことになります。解除の効果については、学問的にはその法的構成が問題となっており、直接効果説・間接効果説・折衷説などの立場に分かれて議論がなされていますが、ここでは深く触れずに判例・通説である直接効果説の立場にだけ触れたいと思います。

直接効果説は、契約が解除されると解除の直接の効果として契約上の債権・債務ははじめに遡って消滅すると考える立場です(このことを遡及効といいます)。

この立場は、解除の本質は、契約の拘束力から当事者を解放させ、契約締結前の状況へ事実関係を回復させるという点にあるため、解除の効果の法的構成も端的に契約の遡及的消滅であると考えるべきである、という理由に立脚しています。

 

〇 原状回復義務の内容

では、具体的に原状回復義務の内容はどのようなものになるといえるでしょうか。具体的な事案で検討してみましょう。

【事案】Xさんは、Yさんとの間で新型テレビを50万円で買い取る旨の売買契約(民法555条)を締結した。Xさんは、Yさんから新型テレビを売買契約締結日に即日で引き受けた。一方でXさんは代金50万円を工面できず、支払期限にそれを支払えなかった。Yさんは本件売買契約を解除した。

この事案において、XさんはYさんにたいしてどのような原状回復義務を負うでしょうか。まず、Xさんの手元に目的物である新型テレビが存在していれば、Xさんはそれを返還する義務が生じます。次に、仮に新型テレビがXさんの下で滅失・損傷してしまい原物での返還が不能になってしまった場合には、その新型テレビの価格である50万円を支払うことになります。もし、代替物が用意できる場合には、同種・同等・同量の物を返還することが求められているので、同型の同じスペックの新型テレビを返還することになります。

また、仮に原状回復義務の対象が金銭である場合には、その受領のときから利息を付けて返還することが要求されています(545条2項参照)。

 

〇 原状回復義務に関する裁判例

解除による原状回復義務と保証人の責任

(最高裁昭和40年6月30日大法廷判決)

【事案の概要】

Xさんは昭和31年7月2日、Aさんとの間でAの住宅内にある畳建具等を15万円で買い取る旨の売買契約(民法555条)を締結したと同時に、Yさんとの間でYさんがX・A間の売買契約の債務を保証する契約(民法446条参照)を締結した。

Xさんは、Aさんとの売買契約を締結した日に即日で売買代金である15万円を支払ったものの、一方でAさんは畳建具の引き渡し期限である同年同月30日を徒過してもそれをXさんに引き渡す気配も見せずに数か月が経過した。そこで同年11月、XさんはAさんに対して、「訴状送達日から5日以内に畳建具を引き渡さない場合には売買契約を解除する」旨の催告(541条に基づくもの)を行った。しかしながら、Aさんは催告期間内(訴状送達日から5日以内)に畳建具を引き渡さなかったため、Xさんは同年11月28日に本件売買契約を解除した。

そして、Xさんは①本件売買契約の解除に基づく原状回復義務の履行として、Aさんに対して売買代金相当額(一部が内入弁済されたため14万4800円)の返還を求めた。加えてXさんは、②本件X・A間の売買契約を保証していたYに対しても保証人としての責任があると追及し、同額の支払いを求めた。

第一審(名古屋地裁昭和37年6月2日判決)および第二審(名古屋高裁昭和38年8月19日判決)では、①についてはAさんの支払い義務を認めたものの、②については、本件のXの有する原状回復請求に基づく義務は、「主たる債務が契約解除により消滅した結果生」じたものであり、保証契約の対象となる主たる債務とは「別箇独立の法律上の義務」であり、「保証人は特約のない限りこれを履行する」責任はないと判断し、Xの請求は認めなかった。そこでXさんが最高裁に上告。

 

【判旨】

「売買契約の解除のように遡及効を生ずる場合には、その契約の解除による原状回復義務は本来の債務が契約解除によつて消滅した結果生ずる別個独立の債務であつて、本来の債務に従たるものでもないから、右契約当事者のための保証人は、特約のないかぎり、これが履行の責に任ずべきではないとする判例があることは、原判決の引用する第一審判決の示すとおりである。しかしながら、特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから,保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。」

 

【解説】

この判例は、解除に基づく原状回復義務が保証契約の保証の範囲に含まれるかという点が問題となりました。具体的に本件では、XさんがAさんに対して「売買契約の解除に基づいて、原状回復義務を履行してください」という請求は問題なく認められるといえますが、ではXさんは、保証人としてAさんを保証していたYさんにもそれと同様の請求をできるのかどうかという点が問題となりました。

その点について、本判例が示される以前は、主債務者が契約の効力によって負う原状回復義務は主債務との同一性がない「原因ヲ異ニ」する「別箇ノ債権」であるから保証人はその責任を負わないと判断をしていました。

この考えかたは、明治時代の大審院(今でいうところの最高裁判所)が示した判断を継続して採用していたもので、本件における第一審・第二審の判断もこれに従った形でした。

しかしながら、最高裁はこの従来からの大審院の判断を判例変更する形で、はじめて保証人の責任の範囲に含まれると判断しました。その理由として、たしかに保証人が保証していた債務(本件でいうと、保証人のYさんが保証している債務は、AさんがXさんに無事に畳建具を引き渡すという債務です)と、原状回復義務(本件ではAさんが畳建具を引き渡さなかったため、Xさんへ代金を返還する義務)とは、形式的には別個に独立したものであるといえるものの、

保証契約とは「売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるもの」である、

つまり、保証契約においては、通常、保証人の立場にある者(Yさん)は主たる債務者(Aさん)の契約上の一切の債務を保証し、その契約の不履行により相手方(Xさん)に損害を与えないという趣旨で締結されるものであるといえるから、実質的にみると原状回復義務は元の保証債務が変更されたものといえ同視できると判断したのです。

この判断は、原状回復義務に関する判例ですが、保証契約に関してその範囲を拡大する方向での判断が下されたという点で、債権回収手段としての保証人からの回収という手段(詳細は「保証人からの回収」へ)の重要性をさらに強調させる判断であったといえます。

 

〇 まとめ ―原状回復義務と債権回収との関係―

以上が解除に基づく原状回復義務についての解説です。原状回復義務とは契約を通して一旦成立した関係を、契約が成立しなかった段階にまで遡及させるものとなるため、ときに当事者の間で複雑な問題が生じることもあるといえます。そのため、原状回復義務をめぐってトラブルが生じることを未然に防ぐためにも、契約の解除の段階から弁護士に相談し、アドバイスを受けながらことを進めていくことが肝要であると考えます。

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