動産と債権に対する強制執行!その概要をつかもう。

目次

はじめに

動産に対する強制執行

・動産の差押え

・動産の換価

・債権者の満足(配当)

債権に対する強制執行

・債権の差押え

・債権の換価

・債権者の満足(配当)

まとめ 

■ はじめに

このサイトでは、強制執行についての記事をいくつかご紹介しています。

別の記事では、不動産に対する強制執行(差押え、換価、配当)について詳しく説明していますが、実は債務者の所有する動産や債権に対して強制執行をすることも可能なのです。

 

しかし動産・債権は不動産に比べて目につきにくく、登記で所有者を確認するといったわけにもいかないことがほとんどです。

それでも、債務者が不動産を所有していない場合や、所有していても債権額に満たない価値しかない場合には、動産・債権からも債権回収しなければならないでしょう。

 

では、動産や債権に対する強制執行はどのように行われるのでしょうか。今回の記事では、これらについて説明していきます。

■ 動産に対する強制執行

まず確認しておくと、ここでいう動産とは現金や宝石類、機械類、骨董品、有価証券、そして債務者が小売業の店舗といった店であればそこにある商品などのことを指します。

ただし、登録された自動車や登記された建設機械などは、動産でありますが動産差押えの対象外となります。これらは強制執行においては不動産に準ずるものとして、動産とは別の扱いを受けるのです(民事執行法120条や民事執行規則97条などを参照。)。

 

動産である家具などの生活用品についても、理論的には差押え可能なものはあります。

しかしこれらは差押え禁止の対象となる可能性が高いので、日常生活で使わないような高価な物があればそれらから差押えるのが一般的です。

また、一部の高価な動産を除いて、身の回りにある動産のほとんどは、購入され使用済みになってしまった途端に価値がぐんと下がってしまうので、債権回収の観点からはそれらを差押えても意味がないのです。

そういった価値の低い動産を差押える場合の目的は、債務者にプレッシャーをかけて弁済を間接的に強制する点にあるということがほとんどです。

 

さて、これらの動産に対する強制執行も、基本的な流れは不動産に対する強制執行と同じで、

差押え→換価→満足

と進んで行きます。

 

このそれぞれの段階について、要点を押さえていきましょう

・動産の差押え

動産の差押えも不動産の差押えと同様、確定判決などの債務名義に基づいて、債権者が申立てることによって開始します。

 

もちろん、不動産の差押えの申立てと異なる点もあります。

まずは、債権者は申立ての際に差押え目的物を個別に指定する必要がないということです。動産の所在する場所、例えば債務者の住所などを特定して申立てればそれで十分なのです(民事執行規則99条、同100条を参照。)。

債務者がどういった動産を持っているかなど、他人である債権者は知る由もなく、これを特定して申立てるのは不可能であるので、こうした規定となっています。

 

 

また、動産の場合の差押えは以下の2通りにわけて考える必要があります。

 

①債務者自身が目的物の動産を占有している場合

と、

②債権者や第三者など、債務者以外の人が目的物を占有している場合

です。

 

①の場合は、執行官が目的物を債務者から受け取ることで差押えします。

債務者がそれを拒んだら、執行官は債務者の家に立ち入って、執行の対象になりそうな動産を探すことができます。さらに場合によっては、警察官の援助を求めることもあります(民事執行法123条1項、同6条)。

このとき、どの動産を差押えるかはプロである執行官の裁量で判断されますので、債権者は執行官に任せておきましょう。

 

②の場合はどうでしょう。

債権者が目的物を占有している場合は簡単です。債権者がそれを執行官に提出すれば済む話です。

 

しかし、実際には債務者本人が動産を占有している場合がほとんどでしょう。

債務者と債権者以外の第三者が、債務者所有の動産を占有している場合は、その第三者を説得して任意提出してもらわなければなりません。

これがうまくいかなければ、「債務者が第三者に対して有する引渡請求権」という権利を差押えるという、少々回りくどい方法を採ることになります。

 

 

また、動産の差押えをしても執行官がそれを持ち去らず、債務者にしばらく保管・使用させたままにするという差押えの方法もあります。

動産によっては特殊な保管方法を必要とするものもあるため、執行官は相当と認めるときには債務者自身に差押物を保管させることができるのです(民事執行法123条3項前段)。

この場合にはもちろん、差押えをしたことを表示する封印などが施されます(同条後段)。

また、保管させるだけではなく、執行官が認めた場合は、債務者は差押物を売却までの間、使用することもできます(同123条4項)。

そして先ほど軽く触れましたが、差押えをすることができない動産というのもあります。

それらは、例えば以下のようなものです(民事執行法131条各号)。

 

  • 日常生活に欠かすことのできないもの(食器や寝具、家具、畳、冷蔵庫、エアコン、テレビ、実印など)
  • 現金66万円(民事執行法施行令第1条)
  • 債務者が仕事を行うのに必要な動産(大工の工具、農家の肥料など)
  • 祭祀や礼拝といった宗教的行為に使用する動産(仏像など)
  • 義足や義手など生活に必要な動産
  • 発明・著作に関するもので、未発表の動産

 

これらをまとめて「差押禁止動産」と呼びます。

一般的な家庭にある家財道具は、そのほとんどが差押禁止動産にあたることが分かると思います。

債務者も人間として全うな生活を送っていかなければなりませんので、それに必要な財産を全て奪ってしまうような非道徳的な差押えはできないのです。

また、信教の自由の保護や知的財産権の保護の関係で、祭祀に使う動産や知的財産に関する動産は差押えが禁止されています。

 

さらに、差押える動産の種類だけではなく、その量(価額)についても制限があります。

「債権者の債権額+執行にかかる費用の額」の合計額を超えた価値の動産を差押えることは、超過差押えとして禁止されているのです(民事執行法128条1項)。

これは不動産の差押えにはない、動産差押え特有の制限です。(ただし複数の不動産を差押えた場合については、売却許可決定を保留するという措置が採られることがあります。同73条1項。)

 

しかし差押えを行う時点では、差押えの対象となった動産がどのくらいの価値なのかハッキリわからないこともあるため、後から超過差押えであったことが分かる場合もあります。

そのときは、執行官は超過分について差押えを取消さなければならないのです(同128条2項)。

また、「無剰余差押え」にあたるとして、差押え自体が禁止される場合もあります(民事執行法129条1項)。

「無剰余差押え」とは、差押えられる動産を差押えて売却しても、手続費用と同額かそれに満たない額にしかならないと見込まれる差押えを指します。つまり、債権に充当できるだけの剰余が出ない、全く意味がない差押えのことです。

無剰余差押えは、意味がないだけでなく、債務者の財産を切り崩してしまうだけなので禁止されています。また、差押えを始めてから剰余が出ないことが判った場合には、執行官は差押えを取消さなければなりません(同129条2項)。

・動産の換価

さて、動産を差押えたら次は換価する必要があります。

「換価」は、執行官の責任の下で、差押えた動産を売却して金銭に換えるという手続です。

ただし、手形に関しては売却ではなく取立てによって換価されます(民事執行法136条、138条)。

 

売却の際には執行官が裁量でその動産の価値を評価するのが一般的ですが、中には貴金属や宝石、骨董品といったように値打ちが高く、かつ執行官がその価値を評価するのが難しい動産もあります。

これらを換価する場合には、執行官は適切な評価人(プロの鑑定士等)を選任し、その価格を評価してもらうことになります。

 

ちなみに、動産の換価手続においては、不動産とちがって売却基準価額などは設定されません。

ただし、債務者の財産権を保護する必要があることから、不相当に低い金額での売却はできないことになっています(民事執行法規則116条1項但書、120条3項)。

さらに、株式などの相場がわかる有価証券は、売却日の相場以上の価格で売却しなければならないこととなっていますし(同123条)、貴金属などは地金としての価額以上の価額で売却しなければなりません(同124条)。

もし相場の価格で売れなかったとしても、むやみに値段を下げて安く売ることはできないのです。そのため、売れなかった場合は売却を取消すことになります(同130条)。

 

また、動産の換価では、同じ種類のものをまとめて、一括売却することができます(民事執行法113条)。これは不動産の換価との大きな違いです。

 

 

売却の方法には、競り売り、入札、特別売却、そして委託売却という4種類があります。

しかし、これらのうち入札については、動産売却の場合にはほとんど行われません。

 

最も一般的なのは競り売りです。

競り売りを行う場合は、差押えから1ヶ月以内のいずれかの日を売却期日として、その日時や場所を債権者や債務者に通知し、同時に公に告知します(民事執行規則115条)。

そしてその期日に競り上げの方法で売却がなされます。最高価で買受申出をした人に買受が許可され、その者は原則としてその場ですぐに代金を支払います(同118条1項)。

 

動産の種類によっては、執行官が動産の種類等を考慮して競り売り以外の方法で売却することがあります。これが特別売却です(民事執行規則121条)。

特別売却は、特別な資格を持った人でないと使用することができない機械など、競り売りに適さない動産を個別の交渉で売る時などに用いられる方法です。そのほうが適正な価格で動産を売却できるため、債務者の保護につながります。

 

また、執行官以外の者に売却を委託することもあり、これを委託売却と言います(同122条)。美術品等は専門家である美術商などに任せた方が債務者保護につながりますし、効率的でもあるため、委託売却という形で売却が行われることが多いです。

・債権者の満足(配当)

先ほども説明したように、動産執行では超過差押えが禁止されており、差押え債権者の債権を満足させる分しか差押えが認められていません。

 

そのため、動産の強制執行では不動産の強制執行と異なり、配当を受け取ることができる人が限られています。もしあらゆる債権者に配当を受ける権利を認めてしまうと、債権額分しか差押えをしていないのにもかかわらず動産の換価額が分割され配分されてしまい、最初の差押え債権者が債権を回収できなくなってしまうからです。

 

動産執行での配当要求権者は、その動産の動産先取特権者と質権者です(民事執行法133条)。

そのため、差押えた動産に先取特権者か質権者がいた場合のみ、差押え債権者と先取特権者・質権者とで売却額を分け合うことになるのです。

この先取特権者と質権者は、その権利の対象となる動産から優先的に弁済を受けることになっています(民法303条、同342条)。そのため、差押え債権者がこれらの権利を有さない場合、債権はほとんど回収できなくなってしまうでしょう。

差押えの段階で、先取特権や質権の付着していない動産を差押えることが重要なのです。

■ 債権に対する強制執行

債権という、実体を伴わない観念的なものについても差押えをすることができます。

実際、債権に対する強制執行は不動産や動産に対する強制執行に比べても成功率が高く、債権回収において重要な地位にあります。

不動産に対する強制執行は、対象となる不動産が何重にも抵当に入っていることが多いですし、動産に対する強制執行は上でも説明したように、差押えられる動産が限られてしまうのです。一方で債権は、差押える対象の債権の債務者(この債務者を「第三債務者」と呼びます。)に債権を弁済するだけの資力があればその債権額だけは回収できる可能性が高いのです。

 

債権に対する強制執行もまた、

差押え→換価→満足

と進んで行くので、順に手続の概要をみていきましょう。

・債権の差押え

債権の強制執行も債権者の申立てによって開始されます(民事執行法2条)。

この申立ての際には、債権者が差押えの対象になる債権を明示しなければなりません。これは不動産執行との共通点であり、かつ動産執行とは異なる点です。

また、特定の債権の一部だけを差押えるということもできます。このときも、どの債権のどの部分を差押えるのかを申立て時に特定しておかなければなりません(同133条2項)。

 

この債権の特定が、債権執行の厄介な点です。債権者は債務者の有する債権を全部把握しているわけではないため、財産開示制度などを通じて債権の存在や債務者が誰か等を調べる必要があるからです。

財産開示制度というのは、裁判所の命令によって債務者を裁判所に出頭させ、自分の持っている財産や債権について話してもらうという制度です。しかし、ここで仮に嘘をついたとしても罰則が軽いため、これもあまり有効な方法でないというのが現実です。

 

 

強制執行の対象となる債権のうち代表的なのが、預金債権と給料債権です。これらは多くの債務者が有している債権だからです。

給料債権に関しては、債務者の勤務先がわかれば差押えることができるため、探索しやすく、差押えやすい債権でもあるといえます。

もちろん、売掛金債権や貸金債権などといった他の債権も執行の対象とはなりえます。

 

 

また、動産と同様、債権についても差押えが禁止されているものがあります。

 

以下のものは、定められた限度額を超えて差押えることはできません。

  • 給料、ボーナス、退職金などの債権(民事執行法152条各項)

これらは各債権の4分の1の額までなら差押え可能です。

ただし、夫婦間の扶助義務や子の監護義務に関して生じる債権を債権者が行使しているのであれば、2分の1まで差押えることができます(152条3項、151条の2第1項各号)。

国民年金や厚生年金などの各種年金受給権(国民年金法24条、厚生年金保険法41条)、生活保護受給権(生活保護法58条)、児童手当受給権(児童手当法15条)これらの債権は債務者の生活を支える基盤となるものであるため、差押えられてしまうと債務者が路頭に迷ってしまいます。そのため、その一部または全部については、差押えることが禁止されているのです。

また、動産の場合と同じく、債権の差押えもその額によって制限される場合があります。

差押えられた債権の価額が債権者の債権+執行にかかる費用の額を超えている場合には、他の債権は差押えてはならないことになっています(民事執行法146条2項)。

債権についても、債権回収に必要な分だけ差押えが許されるということです。

 

債権が差押えられると、具体的にどのような効果が生じるのでしょうか。

まず、債務者は、その債権を回収したり、他人に譲渡したりすることが禁止されます(処分禁止効)。そして、対象となる債権の時効は差押えによって中断されます(147条2号)。

さらに、債権者にとってありがたいことに、債権を差押えると、その処分禁止効は担保権にも及ぶのです。

次に、第三債務者については、差押えられた債権の弁済が禁止されます。もし第三債務者が差押え後に債務者に弁済してしまったら、差押えをした債権者にも同じように弁済しなければならないのです(二重弁済、民法481条1項)。

・債権の換価

債権の場合は、売却による換価はあまり行われません。

債権の換価は、その債権の債務者である第三債務者から債権を取り立てることによって行われます。そのほうがより直接的で手っ取り早いことが多いためです。

差押命令が第三債務者に送達され、かつ債務者に送達されてから1週間経つと、債権者は自動的に差押え債権を取り立てる権限を得られます(民事執行法155条1項)。

つまり、債務者に代わって債権者自らが第三債務者から債権を取り立てることができるようになるのです。

債務者と第三債務者へ差押命令が送達されると、送達された年月日が裁判所書記官から債権者に対して通知されることになっているので(民事執行規則134条)、この通知をみればいつ取立権限が生じたのかがわかります。

・債権者の満足(配当)

債権執行の場合、配当手続が少し複雑になっています。

とりあえず簡単に、どのような債権者が配当手続に参加できるかを説明しておきましょう。

 

まず、不動産執行とは異なり、配当要求なしに自動的に配当に加入できる債権者はいません。

 

しかし、配当要求をすることによって配当に加入できる債権者はいます。それは以下の債権者です(154条2項)。

・債務名義を有する債権者

・文書により先取特権を証明した債権者

・仮差押え・差押えをした債権者

債権執行では二重差押えができるので、複数の債権者が同一の債権に対して差押えをすることがあります。

そのため、仮差押え・差押えをした債権者が複数存在しうるのです。

これらの債権者が配当要求をして配当に加入してきた場合には、それらの債権者も一緒に、法定の順位に従った弁済を受けることになります。

■ まとめ

動産や債権に対する強制執行について説明してきました。動産はともかく、債権に対する強制執行は一般的に成功する可能性が高いということで、今後利用する機会もあるかと思います。

動産執行にしても債権執行にしても、申立ての際には複数の書類をきちんと用意する必要があるため、プロである弁護士に依頼して確実かつ迅速に手続を進め、債権回収成功の確率をアップさせましょう。

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