「譲渡担保」~商慣習・社会慣行が作り出した担保物権~

目次

はじめに

譲渡担保の必要性

 ⑴なぜ譲渡担保は生まれたのか

 ⑵抵当権は動産に使えない

 ⑶質権は引渡しが要件

 ⑷譲渡担保の需要

譲渡担保の法的性質

 ⑴法律構成の説明

 ⑵売った後に借りて使う

譲渡担保の実行

 ⑴帰属清算型と処分清算型

 ⑵具体的な清算例

 ⑶清算義務

受戻しの期限

 ⑴期限後の受戻しの可否

 ⑵帰属清算型の受戻し期限

 ⑶処分清算型の受戻し期限

集合物譲渡担保

 ⑴集合動産への譲渡担保

 ⑵集合動産の特定

まとめ 

■ はじめに

 企業が銀行からお金を借りるとき、銀行はなんらかの担保を要求してきます。

 担保とは借金を確実に返してもらうための手段であり、代表的なのは抵当権、質権、または連帯保証人などです。これらの担保制度は、民法という法律に規定されています。

 従ってその条文を見れば、それがどういう制度なのか、ある程度把握することができます。しかしそれらの担保制度以外に、商慣習・社会慣行と裁判所によってあらたな担保物権を作り出しました。

 それが譲渡担保です。譲渡担保は、法律で明記されていないといっても、抵当権や質権と同様に社会に深く根ざし、利用されています。

 譲渡担保は明文化されていないこともあり、民法を読んだだけでは内容が把握できません。

 従ってそれを理解するためには、どうしても学術書や文献に当たる必要があります。

 しかし、そういった専門書を読むのは骨が折れる作業であり、そういう時間を作るのも中々難しいですよね。

 そこで今回そういった方々のために、譲渡担保をわかりやすく解説してみました。譲渡担保の理解に、是非お役立てください。

■ 譲渡担保の必要性

⑴なぜ譲渡担保が生まれたのか 

 先ほど説明した通り、譲渡担保は判例(裁判所)の積み重ねにより、長い時間をかけて認められた担保物権です。

 しかしここまで読まれた方で、民法典には抵当権や質権などの担保物権が整備されているにも関わらず、なぜ判例は慣行上の担保物権を認めたのか疑問に思う方もいらっしゃると思います。

 ある意味そのように疑問を持つのも当然だと思うので、譲渡担保が生み出された経緯についてまず説明したいと思います。

 例えばAという会社が、B銀行から300万借りようとしています。

 A会社は、土地や建物といった不動産を持っておらず、あるのは普段から使用しているパソコンだけです。しかしそのパソコンは、特殊な機能を備えており、市場価値は500万の価値があるといわれています。

 従ってAはそのパソコンを担保に入れて、B銀行から300万借りたいと考えています。このような場合、Aはどういった担保制度を利用すべきでしょうか。

⑵抵当権は動産に使えない

 まず担保物権で最も使用頻度の高い、抵当権は使えないでしょうか。

 この場合A会社は、抵当権を利用することはできません。

 なぜなら抵当権は不動産を対象としており、動産に対して設定することはできません(民法369条1項)。A社の所有するパソコンは動産であり、A社は土地や建物といった不動産を持っていないため、抵当権を利用することはできないのです。

⑶質権は引渡しが要件

 では次に質権についてはどうでしょうか。

 質権は不動産だけでなく、動産にも設定できます。

 従って、結論から言えばパソコンに質権を設定して、300万借りることは可能です。しかし、A社にはそのパソコンを質権には入れたくない事情があります。

 それは質権というものは、設定と同時にその目的物を、質権者に引き渡さなければならないとされています(民法344条)。

 よってA社は300万借りる代わりに、そのパソコンをB銀行に引き渡さなければならないのですが、パソコンがないと仕事ができなくなるのです。

 従ってそのような事情から、A社は質権の設定が可能であっても、質権を利用するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

⑷譲渡担保の需要

 ではA社は300万借りることはできないのでしょうか。

 このようなときのために作り出されたのが、譲渡担保です。譲渡担保の法的性質は、後程詳しく解説しますが、簡単にいうと、動産及び不動産両方に設定でき、設定時に目的物を債権者に引き渡す必要はありません。

 従って、A社は譲渡担保をパソコンに設定でき、そのパソコンをB銀行に引き渡すことなく300万借りることができるのです。

 このように民法元来規定のある担保物権のみでは、対応できない場面があることから、譲渡担保という担保物権が慣行として生まれました。

 譲渡担保は社会的需要があり、その需要に応える形で生まれた担保物権であるということができます。

■ 譲渡担保の法的性質

⑴法律構成の説明

 ではその譲渡担保という担保物権は、いったいどのような担保物権なのでしょうか。

 先ほどから何度も言っている通り、譲渡担保というものは民法上の規定があるものではありません。従って、判例も譲渡担保という慣行上の物権をストレートに認めるのでなく、既存の法制度を使って、譲渡担保の法的性質を根拠付けています。

※少し専門的な話になりますが、民法では物権法定主義という概念があり⦅民法175条⦆、法律が定めている物権以外に新たに物権を創設できないとされています。
 従って判例といえども、ストレートに譲渡担保という権利を認めることはできず、既存の法制度を使ってうまく内容を根拠付ける必要があるのです。

⑵売った後に借りて使う

 以上を踏まえたうえで説明すると、譲渡担保は、売買と賃貸借を併用することにより成り立っています。先ほどの例を使って説明すると、A社はB銀行にそのパソコンを売って、その後そのパソコンをB銀行から賃貸する形をとります。

 そしてその代金として300万受け取ることにより、パソコンを使いながら融資を受けることができるのです。ただしここでの売買は通常の売買とは異なり、300万返済すればパソコンを返却するという、特約付きの消費貸借契約も併存させています。

 従ってA社は300万を期限までに返せば、無事パソコンを取り返すことができるのです。

 このように譲渡担保は、売買と賃貸借、さらには消費貸借を巧みに組み合わせることにより、構成された担保物権といえます。

■ 譲渡担保の実行

⑴帰属清算型と処分清算型

 では債務者が期限までに弁済できなかった場合は、債権者は譲渡担保により債権回収を行うことになりますが、具体的にどのような方法で優先弁済を受けるのでしょうか。

 例えば抵当権実行の場合、目的不動産を競売にかけ、その売却金により債権者は債権の回収を行いますが、譲渡担保はそのような実行手続きはありません。

 譲渡担保は目的物から債権者自ら債権を回収しなければなりません。

具体的にはその方法として、①帰属清算型と、②処分清算型の二つがあるとされています。 

⑵具体的な清算例

①の帰属清算型とは、その目的物の所有権を取得するにより弁済があったとみなし、債権が回収される方法です。先の例でいうと、B銀行が300万の支払いの代わりにA会社のパソコンの所有権を取得することによって、弁済があったものとみなす方法です。

②の処分清算型とは、その目的物を私的に売却し、その売上金により債権を回収する方法です。
処分清算型は、抵当権実行の換価手続きに似ていますが、抵当権の場合は国がその担保権実行に関与している一方で、譲渡担保はあくまで債権者のみで行うことになります。

 従ってその点で、両者は大きく異なります。先の例では、B銀行がA会社のパソコンをパソコン買取店などに売却することで、300万の回収を行うことになります。

⑶清算義務

 ただ譲渡担保の実行で注意しなければならないのは、債権者に清算義務というものが課されている点です。清算義務とは、債権者の債権額と債務者が担保に提供した目的物の価格に差があるときは、債権者はその差額分の金銭を、債務者に支払わなければならない義務のことをいいます。

 清算義務が発生する理由は、それを認めないと例えば、1000万の債権の担保として1億の動産に譲渡担保を設定した場合に、債権者は1000万の債権回収として実質1億取得できるような場合が生じ、債権者に根拠のない利益を与えることになるからです。

 先ほどの例でも、A会社がB銀行に借りた金銭の額は300万である一方、A会社はB銀行に500万のパソコンを担保として提供しています。 

 A会社が弁済期限を過ぎて支払わなかったとはいえ、B銀行が500万の価値のあるものをそのまま手に入れてしまうのは、公平の理念に反するのは明らかです。

 従ってこの場合も、B銀行はその差額分の200万をA会社に支払う義務が生じます。

 ただし清算義務が生じるのは、あくまで債権者の債権額より譲渡担保の目的物の価格が上回る場合のみになります。

 例えば先ほどの例で、A会社のパソコンの市場価格が実は100万程度しかなかったような場合には、B銀行に清算義務は生じません。

■ 受戻しの期限

⑴期限後の受戻しの可否

 譲渡担保の法的性質の解説部分で、債務を期限までに弁済すれば譲渡担保の目的物を返還してもらえることについて言及しました。

 では弁済期限を過ぎてしまった場合は、もう債務者は目的物の返還請求することはできないのでしょうか。

 この点について判例は、弁済期を過ぎても債権者が担保権の実行を完了するまでは、債務者は債務の全額を返済することによって、譲渡担保権を消滅させ、目的物の所有権を回復することができると判断しました。

 よって債務者が弁済期を経過してしまったとしても、まだ目的物を返してもらえるチャンスはあります。そこで判例の言う「担保権の実行の完了」とは具体的にどういうことなのでしょうか。これについては、譲渡担保の清算方法によって分かれてきます。

⑵帰属清算型の受戻し期限

 帰属清算型は二つパターンがあって一つは、譲渡担保の目的物の適正評価額が、債務額を上回る場合です。この場合は、債権者が債務者に清算金の支払いまたはその提供をしたときに、担保権の実行完了になります。

 先の例でいうと、A社のパソコンの評価額が500万で、B銀行の債権が300万なので、差額の200万をB銀行がA社に支払うか、またはその提供をした時に担保権の実行完了になります。

 従ってA社は弁済期を経過しても、それまでに支払いを完了させればパソコンの所有権を取り戻すことができます。

 また帰属清算型については、もう一つパターンがあって、譲渡担保の目的物の適正評価額が債権額を下回る場合についてです。

 この場合は、債権者が債務者にそのことを通知したときにBの担保権の実行完了になります。

 例えば先の例で、A社のパソコンが実は100万程度の価値しかなかった場合です。

 その場合は、B銀行がA社に「パソコンの評価額100万で債権額の300万に足りませんでした」という通知をした時に、B銀行の担保権は実行完了になります。

 よってA社はB銀行からその通知が来たら、もうパソコンの所有権を取り戻すことはできません。

⑶処分清算型の受戻し期限

 そして処分清算型については、その目的物を債権者が処分したときに担保権の実行完了になります。先の例でいうと、B銀行がA社のパソコンを中古ショップ等に行って買い取ってもらったときに、処分が完了したことになります。そうなった場合、もうA社はパソコンを返してもらうことはできません。

■ 集合物譲渡担保

⑴集合動産への譲渡担保

 以上譲渡担保の基本部分について解説してきましたが、最後に集合物譲渡担保について解説しておきたいと思います。

 これまで高価なパソコンに譲渡担保を設定する例を挙げて説明してきました。

 その理由は、実際の事例でもパソコンのような製品に譲渡担保を設定することはあり、またパソコン一台を例に挙げて説明するほうがわかりやすいと判断したからです。

 しかし実際の社会では、パソコンのような加工製品よりも、その部品や素材に譲渡担保を設定することが多いです。例えばパソコンの部品となる電子パーツや、建物の基礎となる鉄鋼のようなものです。

 その理由は、パソコンを作るにしても、パソコンを組み立てる会社よりも、その部品となるパーツを作っている会社のほうが圧倒的に多いからです。

 従ってその最終的な製品そのものよりも、その部品となる物の譲渡担保のほうが需要が高くなります。部品自体は、その製品化されたものよりも価値が下がるため、部品一つに譲渡担保を設定するのではなく、部品の集合体に譲渡担保を設定することになります。

 このような集合動産への譲渡担保を、集合物譲渡担保といいます。

⑵集合動産の特定

 集合物譲渡担保も譲渡担保に違いはないので、今まで解説してきたことは、すべて当てはまります。ただ目的物が集合物であるが故、別に考慮しなければならないことも出てきます。

 それは目的物の特定性です。目的物がパソコン一台の場合は、目的物がどれかはっきりしていますが、目的物が集合物で複数の物となると、どこまでが目的物なのかをはっきりさせる必要があるのです。

 この点について判例は、目的物が集合動産であっても、その種類、所在場所、量的範囲を指定するなどの方法によって目的物が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるとしました。

 従って先の例で挙げたA会社が、パソコンのパーツを作る会社であり、そのパーツの集合体に譲渡担保を設定したとします。

 この場合A会社は、そのパーツの種類、所在場所、量的範囲を指定しなければ、目的物を特定できず、譲渡担保を設定することはできません。

 例えば、本社地下の倉庫内にある、一切のICチップをその目的とするといった指定が必要です。その指定が曖昧で、判例のいう特定性が欠けていると、譲渡担保の成立が認められないことになります。

■ まとめ

 以上が譲渡担保に関するまとめでしたが、いかがでしたでしょうか。

 冒頭でも言及しましたが、譲渡担保は条文上の根拠がある担保物権ではなく、判例が社会の需要に応じて認めてきた担保物権です。

 従って、譲渡担保の内容は判例とともに変わるといえ、譲渡担保を正確に理解するためには、判例を着実に追っていく必要があります。

 しかし毎日膨大な数の判決がなされている中、それを追っていくのは容易なことではありません。譲渡担保のご検討の際には、債権回収に強い弁護士事務所|あすなろ法律事務所へのご相談をおすすめします。

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