相続における債権回収のポイント

目次

はじめに

相続の基本

相続できる人

相続放棄

遺産分割

申請できる人

申請のポイント

必要な書類

亡くなった人の戸籍謄本、相続する人の戸籍抄本(謄本でも可)

相続放棄申述受理証明書

欠格証明書

廃除証明書

特別受益証明書

相続する人の住民票の写し

固定資産評価証明書

登録免許税

まとめ

■はじめに

不動産にからむ法律問題としては、土地や建物を売ったり、買ったりしたときの名義の変更の問題や、お金を貸したり、借りたりといった抵当権や根抵当権などの担保権の問題、日が当たらない、生活音がうるさい、といったご近所トラブルなど、いろいろあります。

 

そんななかでも相続の問題は生きていく上で避けて通ることはできない、もっとも身近な問題の一つです。

 

多くの人は、相続における深刻なさまざまな問題を考えるとき、相続人同士のいわゆる「骨肉の争い」を想像するかもしれません。

 

ですが、相続の問題はそれだけではありません。

たとえば、相続人にお金を貸した債権者の場合、相続人が財産を受け取ってくれたらこんなありがたいことはないわけです。

 

もしも、お金を借りている債務者がお金を返すあてがなく、債権者もなかばあきらめていたときに、債務者に遺産があることが判明したのであれば、それを元手に返してもらえるかもしれないからです。

 

ここでは、債権者の目から見た相続について見ていきたいと思います。

■相続の基本

そもそも相続というのは、亡くなった人の財産のすべてを、法律で決められた一定範囲の人が、譲り受けることを言います。

よく誤解があるのは、財産というのはお金とか不動産とか株券とか、そういった経済的な価値のあるもののみを指すというものです。

ですが、財産というのは、返さなければいけないお金や、引き渡さなければいけない商品などの、「負債」まで受け継ぐことになっています。

そのため、亡くなった人が借金を抱えていた場合、相続する人がその借金を背負うことになるため、相続人を対象として金銭などを貸している人としては、かえって相続によって債権の回収が困難となる恐れがあります。

このような場合、亡くなった人の財産と相続人の財産が混じり合うことを防ぎ、それぞれの財産から優先弁済してもらうという制度を「財産分離」といいます。

相続人にお金を貸したような人は、原則として亡くなってから3か月以内に、家庭裁判所に申し立てることでこの制度を利用できます。

例外的に、3か月以内であっても申し立てができることがありますが、それは相続人の財産と混ざっていない間だけです(お金とか家財道具は相続人の家に運んでしまったら区別がつかなくなることが多いと思います。)。

財産が混ざって困るのは亡くなった人にお金を貸していた人たちも同じなので、この人達も家庭裁判所に申し立てることができます。

これを第1種財産分離と呼ぶことがあります。相続人の債権者などの申し立ては第2種財産分離と呼ばれます。

分離すると、亡くなった人の債権者と、相続人の債権者は、それぞれの債務者の財産からお金を返してもらえるようになります。

ただし、相続財産より亡くなった人の借金のほうが大きい場合、破産手続きを申し立て、破産手続開始決定がなされることで、亡くなった人の財産は破産財団となり、相続する人の財産と分けて考えることができるので、借金のほうが多い場合は破産手続きをとることになるかと思います。

■相続できる人

もちろん相続人でなかったら、受け継ぐはずの財産から回収できません。

相続人とは、

・配偶者(婚姻届を提出している夫や妻)

・子(養子も含みます。)

・子が亡くなっているなど相続権がない場合における、孫などの直系卑属

・直系卑属が亡くなっているなど相続権がない場合における、父母などの直系尊属

・直系卑属も直系尊属も相続人でない場合における、兄弟姉妹

・兄弟姉妹が亡くなっているなど相続権がない場合における、兄弟姉妹の子

を言います。

 

上記のうちのどれかにお金を借りている人が含まれるかを確認してください。

含まれる場合は、お金を借りている人が無資力となっていて、催告しても返してくれない、不良債権となっていたとしても、債権を回収できる可能性があります。

 

・相続放棄

相続することができる権利を持っていたとしても、相続することができる権利を放棄されてしまうことがあります。

 

こうなると債権者としては基本的に打つ手がなくなります。

相続できなくなるからです。

 

もっとも、相続の放棄は、放棄することができる期間が決まっていて、原則として、相続人自身が相続できることを知った時から3か月以内に放棄しなければならないとされています。

 

この期間を経過すると、家庭裁判所によって期間が延長されている場合を除いて、相続の放棄ができなくなるわけです。

期間が延長されるのはどういう場合かといいますと、財産がいろいろあって、借金のほうが多いのかよくわからないようなときに、調査に時間がかかるようなときです。

 

亡くなった人にお金を貸していたような利害関係人は、家庭裁判所に対し、相続放棄があったか回答してもらうことができます。費用はかかりません。

このように、相続が発生したことを相続できる人が知ってから3か月経過しているかが一つのポイントとなります。

ただし、3か月経っていなくても放棄できなくなることがあります。

それは相続財産を処分した場合です。

また、放棄した後であっても相続財産を隠していたようなときは相続人となります。

いずれも相続人としての責任を負わせるべきだからです。

 

・遺産分割

相続放棄と同じように財産を譲り受けない方法として遺産分割協議を利用することがあります。

家庭裁判所を利用すると費用がかかりますが、自分たちでワープロを使って協議書を作って印刷し、署名して実印を押せば立派な遺産分割協議書ができるので手間もかからず、費用もほとんどかかりません。

もちろん、将来、もめごとが起きないようにするには、弁護士に作ってもらうことがベストだといえます。

 

たとえば、Aさんが亡くなり、BさんとCさんが相続人である場合に、BさんとCさんが話し合って、「Bが全財産を相続する。」という内容の協議がなされたとします。

そうすると、Cさんは遺産である家、土地、現金、預金、株券、その他の財産をもらうことはできなくなります。

 

では、相続放棄との違いはなんでしょうか。

 

それは、相続放棄の場合は、借金などのマイナスの財産を受け継がないのですが、遺産分割の場合は、原則として借金などは返す義務を負うという点です。

 

上記の例でいえば、Cさんは家や土地などはもらうことはできませんが、Aさんの借金は返さなければいけないのです。

 

ですが、相続する人にお金を貸している人からすれば、このような遺産分割をされてもいいことはなにもありません。

 

なにしろ借金が増える可能性があるだけですから。ただし相続の放棄と異なり、遺産分割の協議によって財産を取得しないとされた場合には、また債権回収の望みがあります。

それは、土地や建物などの不動産について、登記を移していないときといえます。

どういうことかといいますと、不動産の権利というのは、登記をすることではじめて、他の人に対して「自分が権利をもっていますよ」といえるようになるのですが、最高裁判所は、それは相続した財産について、協議による分割によって土地や建物を手に入れた場合も同じだという判断を示しています。

 

つまり、遺産分割によって権利を取得したとしても、所有者の名義を変更するより前に、相続人にお金を貸した人が、債権者代位という債権者が債務者に代わって債務者の権利を使う方法で、相続人全員を登記してしまって、そのうえで、お金を貸した人の名義で仮差押えの登記を入れ、裁判を起こして債務名義(執行文付き判決書)を取得し、強制執行による差押えの登記を入れてしまえば、遺産分割がなかったなら得られるはずの財産から、事実上、債権の回収ができるのです。

 

先に登記を入れたほうが勝つからです。

 

たとえば、前記の例で、Cにお金を貸していたDが、Aの遺産である土地建物の名義をBが2分の1、Cが2分の1の規定されたとおりの割合で登記を申請し、仮差押えの登記名義を得ると、その後裁判でDが勝って、強制執行を執行裁判所に申し立てると、裁判所の書記官がCの持分に差押えの登記を入れ、その持分が競売にかけられて、その配当金をDは得ることができるわけです。

 

別の見方をすると、遺産分割によって相続したのに登記を放置していると、知らない人から突然仮差押えの登記をされてしまうことがあるので、早めに登記名義を変えたほうがいいといえます。

 

■申請できる人

相続による登記の名義を変えるには、相続人が自らするのが基本です。

 

ですが、相続人が登記を放置することはめずらしくなく、上記で述べたように、債権者が代わりに登記申請する方法もできます。

 

なお、最近、誰が所有者なのかよくわからない空き家が増加し社会問題になっていて、法務局では相続登記を早めに行うように呼びかけるようになっています。

 

■申請のポイント

債権者が相続人の代わりに申請する場合のポイントは、申請書に不動産の所有割合である持分を記載するのですが、相続人が何人もいるときは、法律の既定の通りの割合を記載する点です。

具体的な相続の割合は次のとおりです。

・子と配偶者が相続するときは、それぞれ2分の1

・直系尊属と配偶者が相続するときは、直系尊属が3分の1、配偶者が3分の2

・兄弟姉妹と配偶者が相続するときは、兄弟姉妹が4分の1、配偶者が4分の3

・子、直系尊属、兄弟姉妹が何人もいるときは、その人数で割ります。ただし、兄弟姉妹の場合は、父母が違う場合、同じ兄弟姉妹の2分の1となります。

 

たとえば、AさんとBさんの間にCさんとDさんが生まれ、AさんとEさんの間にFさんが生まれた後、CさんがGさんと結婚したとします。

その後、A、Bが死亡した後、Cさんが亡くなった場合、Cさんの相続人と相続できる持分割合は、配偶者であるGさんが4分の3、Cさんの兄弟姉妹であるDさんとFさんが合わせて4分の1となります。

そして、4分の1をどういうふうに分けるかというと、2対1の割合なので、父母が同じDさんは4分の1×3分の2=12分の2、父母の一方のみが同じFさんはDさんの半分になるので、4分の1×3分の1=12分の1となります。

 

■必要な書類

・亡くなった人の戸籍謄本、相続する人の戸籍抄本(謄本でも可)

亡くなった人の戸籍謄本は、生まれてからのすべてのものが記載されていなければなりません。

たとえば、結婚すると、親の戸籍から抜けますから、結婚後のものだけでは足りません。

これは、子がほかにいないかを確認するために必要だからです。

 

相続する人の場合は、現在の戸籍だけでよく、しかも抄本でもかまいません。

なぜなら、相続するためには、亡くなった日時に生きていないといけないので、相続があったときに生きていたことを確認できればいいからです。

 

登記記録上の住所と本籍地が異なるときは、住民票の除票の写しや、戸籍謄本の附票の写しも必要です。登記に記録された人物と同一人物かわからないからです。

 

・遺言書(公正証書など)、遺産分割協議書(印鑑証明書も必要)

相続分が指定されていたりした場合に、持分の割合などを確認するためです。

なければ不要です。

 

・相続放棄申述受理証明書

相続を放棄した人がいる場合、その人を除いて登記申請するためです。

 

・欠格証明書

相続についての遺言書を偽造したり隠したり、破棄したりなどした人は相続人となれませんので、そのことを証明し、その人を除いて登記する場合に必要です。欠格事由に当たる人が自らその旨を記載した書面を作成し、実印を押して、その印鑑証明書も必要です。

 

・廃除証明書

亡くなった人を虐待していたような人は、亡くなった人の意思で相続人から廃除できます。

廃除は戸籍に記載されますので、戸籍謄本を添付します。

 

・特別受益証明書

亡くなる前に財産をもらっていた人がいるときは、その分を除かないと不公平ですので、その価額がいくらかを記載した書面です。作った人(生前に財産をもらった人)が実印を押し、その印鑑証明書も必要です。

 

・相続する人の住民票の写し

正しい住所で登記するためです。そのため、申請書に住民票コードを書けば不要です。

 

・固定資産評価証明書

ただし、一部の地域では、課税明細書でもかまいませんので、わからないときは法務局などに問い合わせてください。

 

特殊なケースではここに記載したもの以外の添付書面が必要になることがありますので、専門家に聞いてください。

 

■登録免許税

課税標準金額の1000分の4

課税標準金額は、固定資産税評価額のことです。市町村役場などで固定資産の評価証明書を取得するのが基本です。

 

■まとめ

・相続する財産は借金も含みます。

相続する財産と相続人の財産を分離する手続きがあります。

・財産を相続しない方法として相続の放棄と遺産分割の2つの方法がありますが、遺産分割の場合は借金を返す義務があります。

遺産分割の場合は、先に登記をしたほうが権利を取得できます。

・相続人の債権者が相続人に代わって登記の申請ができます。

相続人の債権者が登記をするときで、相続人が何人もいる場合の申請書には、法律の規定通りの持分を書いて申請できます。

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