この手形、ここが空欄になっているけど…?「白地手形」の問題を解説!

目次

はじめに

白地手形とは

白地手形の扱い

補充権には期間制限がある!?

補充権の濫用に注意

白地手形ではない、無効な手形の扱いは?

まとめ 

■ はじめに

先日の記事では、債権回収の手段の一つである手形金回収や手形について知っておくべき点について説明しましたが、手形には他にも知っておくべき重要なポイントがいくつもあります。

その中でも、「白地手形」と言われる手形の一つの在り方について今回は説明していきましょう。

 

また、為替手形は現在ほとんど使われていないという事情を鑑みて、以下で「手形」と言った場合は全て約束手形、「白地手形」と言った場合は約束手形の白地手形を指すものとします。

■ 白地手形とは

手形が手元にある方は、ちょっとその手形の記載事項を確認してみてください。満期や手形金額など、重要事項の記載が欠けている手形はありませんか?もしかしたら、それは「白地手形」かもしれません。

 

白地手形とは、署名者が「後で所持人に補充させよう」という意図で、手形に記載しなければならない事項のうち一部または全部をわざと空欄にしたまま振り出した手形のことを指します。

手形の一部が空欄になっているので、こういった手形のことを「白地手形」と呼ぶのです。

 

手形に記載しなければならないと法律で定められた内容(これを「手形要件」と言います。)を欠いているのですから、白地手形は本当なら手形としては無効なはずです。

しかし、何かと使い勝手が良いため、慣習的に一定の効力が認められているのです。

 

ただし、誰も何も記入していないただの統一手形用紙が白地手形になるはずはありません。これは常識的に考えてもわかる通りです。

白地手形になるためには、最低限必要な記載事項があります。それは、振出人か裏書人、もしくは保証人の署名が少なくとも一つあることです。

 

また、白地手形になるためには、このような署名が最低1つ以上ある手形が誰かに交付されるということが必要です。

そのため、振出人が署名だけした手形を自分の家の引き出しに入れっぱなしにしていて、それが誰かに盗まれて流通してしまったとしても、それは白地手形とは言えないのです(ただし、それを適法な白地手形、もしくは完全な手形だと信じて取得した第三者に対して、署名をした人が責任を負うことになる可能性はあります)。

 

そして当然のことながら、手形要件が全てきっちりと記載されている手形は完全な手形であるため、白地手形とは言えません。

白地手形であるためには、手形要件(その証券が約束手形であることを示す文句、一定の金額を支払うべきであるという約束を示す文句、支払うべき手形金額、振出人の署名、受取人の記載、満期、支払地、振出日、振出地)のうち少なくとも一つが記載されておらず、空欄になっていることが必要なのです。

ここまでで、白地手形とただの無効な手形との違いはなんとなくわかったかと思いますが、確認の意味も込めて最高裁の判断を紹介しておきましょう。

最高裁の判例(正確には大審院の大正10年10月1日の判例)は、当事者が「後で補充させよう」という意思を持っていた場合は白地手形、そうでない場合には無効な手形となると判断しています(この考え方を主観説と言います。)。

つまり、「補充しておいてね」と言って相手に補充権を与えた場合には白地手形となり、そうでない場合は無効な手形となるのです。

 

この補充権は手形が譲渡された場合に一緒にくっついて譲渡されていくものとされています(前出の大正10年の判例を参照。)。手形が手元にないのに補充権だけが残っても意味がありませんし、逆に白地手形だけを得ても補充権がないと空欄を補充できず、困ってしまう場合があるからです。

 

 

さて、ここまで白地手形の概要について説明してきましたが、そもそもなぜ白地手形を振り出すのでしょうか?

普通の手形に比べて明らかに悪用される危険性の高い白地手形を振り出すメリットとは何でしょうか。

 

白地手形で多いのは、確定日払の手形で振出日を空欄にしたものですが、これには振出人の信用状態を隠せるというメリットがあります。

つまり、振出日と満期の間が長ければ長いほど、振出人の資金繰りが苦しいということになるのですが、それがバレるのを避ける目的で振出日を空欄にしていることがあるのです。

また、受取人を空欄にすることで信用状態を隠すこともあります。つまり、振出人の信用状態が良くないと、その手形はババ抜きのようにどんどん人から人へと渡るわけですが、流通の過程を全て裏書に書いていくと、多くの人の間を輾転としていることが一目でわかってしまいます。信用状態の良くないこともわかってしまうのです。そこで、受取人を空欄にしたまま輾転と流通させて、最後の所持人が自分を受取人として記載して呈示するようにしておくと、流通の過程で信用状態の良くないことが知れずにすむのです。

 

振出日空欄や受取人空欄以外の白地手形(手形金額が空欄になっているなど)も、「代金額が決まったらここに記入してね」などと言って、敢えて白地手形として振り出されることもあるにはあります(最判平成5年7月20日の事案など。)。しかし、そういったケースはあまり多くはありません。

こうした白地手形(らしきもの)が発生するのは、手形に署名だけして置いていたところ、盗みや何らかの取り違えでそれが流通してしまい、誰かが補充した場合なども多いのです。

■ 白地手形の扱い

では、手元に白地手形(らしきもの)があった場合、どうやって使えば良いのでしょうか。

・空欄の補充をしなければなりません。

基本的には手形要件を欠く手形は無効ですので、白地手形で手形金を支払ってもらうことはできません。手形上の権利を行使するためには、白地手形の空欄は補充しなければならないのです。

白地手形のまま呈示して振出人に支払拒否されても、振出人の債務不履行とは言えませんし、もちろん裏書人に対して遡求することもできません。

また、補充をしないまま手形金請求訴訟を起こすと所持人は敗訴しますので注意が必要です(ただし、口頭弁論終結時までに適切に補充した場合には勝訴することができます)。

このように、白地手形はあくまでも「不完全な手形」として扱われるのが通常です。

 

しかし、銀行の実務では、振出日や受取人の記載のない手形についてはそのままでも支払がなされることになっています(当座勘定規定17条)。

 

また、白地手形による手形金請求の訴えを提起することによって、手形上の権利の時効中断が認められる場合もあります。

現に最高裁は、受取人白地の手形と振出日白地の手形についての訴え提起に時効中断の効果を認めているのです。

そのため、手形金債権の時効が迫っているときは、とりあえず受取人と振出日は白地のままでも訴えを提起しておくのが得策でしょう。もちろん、その後すぐに弁護士に相談して、口頭弁論終結日までにきちんと全部の空欄を補充しておくのがベストです。

■ 補充権には期間制限がある!?

さて、注意しなければならないのは、白地手形の補充権それ自体も行使できる期間が決まっているという点です。少しややこしい話になっています。

 

満期の記載はある(受取人や振出日などが空欄になっているような)白地手形の場合からみていきましょう。

振出人に対して手形金を請求するためには、記載されている満期から3年以内に空欄を補充しなければなりません。これは、完成した手形についての権利の消滅時効があるためです。

また、裏書人などの遡求義務者に対する遡求権を保全するためには、空欄を補充した上で手形呈示期間内に呈示しなければなりません。これは完全な手形を行使する場合と同様の手順です。

では、満期の記載のない白地手形の場合はどうなるのでしょうか。

この場合、満期の補充権には消滅時効があるとされています。

最高裁は、手形の満期が白地の場合には、満期の補充権は、行使できる時から5年で消滅時効にかかると判断しています(最判昭和44年2月20日、商法522条の準用によります。)。

さらにこの「行使できる時」はいつなのかが問題になりえますが、多くの場合は振出日がこれに当たります。しかし、補充権の行使時期について別途合意がある場合には、その合意によって決められた時が時効の起算点となるのです。

 

少し面倒な話になってしまいましたが、とりあえず、補充権は放っておくと使えなくなるので、早め早めに適切な補充をすることが必要であるということを覚えておいてください。満期の記載がない場合は特に注意が必要です。

■ 補充権の濫用に注意

また、手形に空欄があったからといって、何でもかんでも好きに補充すれば有効になるというものでもありません。

当然のことですが、空欄を補充する場合は予め振出人と合意した範囲の内容を補充しなければならないのです。

白地手形の所持人が、予め振出人が認めた範囲の金額を超えた額を記載したり、事前の合意とは異なる受取人の名前を補充したりした場合は、その補充権の行使は「補充権の濫用」となります。

 

補充権の濫用があると判断された場合、手形行為者(振出人、裏書人、そして保証人を指します。)は補充権を濫用した所持人本人に対しては、もともと合意した範囲でしか責任を負いません。

つまり、「50万円までなら記載していいよ」と言われて手形金額が空欄の白地手形を振出されたのに、受取人が金額欄に「1000万円」と記載した場合は、手形行為者は50万円しか支払わなくても良いのです。

逆に言えば、仮に悪い受取人に補充権を濫用されてしまっても、最初から合意した分の金額についてはきちっと支払わなければならないのです。

 

また、不当補充のあったことを知らずに、補充された後でその手形を取得した人に対しては、手形行為者は補充された内容の全てについて責任を負うことになります(手形法10条)。

この場合も、その手形の所持人が不当補充のあったことを知ってその手形を取得した場合や、不当補充があったと知らなかったことについて重大な過失がある場合は、手形行為者はその責任を逃れられます。ただし、手形行為者の側で不当補充を知っていたことや重過失のあることを立証しなければなりません。これはなかなか大変です。

そして仮に、不当補充を知っていたことや重過失の立証に成功したとしても、最初から合意していた分の金額等についてはきちっと支払わなければなりません。

 

手元に手形があって、これは不当補充された手形なのではないかと心配になってきた経営者の方ももしかしたらいるかもしれませんが、不当補充であることを知っていて受け取ったか、よほどのウッカリがあったかでない限りは大丈夫です。仮に不当補充があったとしても、多くの場合は有効な手形として扱ってもらえるでしょう。

■ 白地手形ではない、無効な手形の扱いは?

「後で補充させよう」という振出人の意思なしに流通してしまった手形は白地手形とは言えず、無効な手形であることは先ほども説明した通りです。

では、もし手元にある手形が無効な手形であったとしたら、1円も支払ってもらえないのでしょうか?

そうとは限りません。無効な手形であっても、「これは有効な(白地)手形だ」と信じてこれを受け取ってしまった第三者の利益は保護される可能性があります。

 

こういった場合は権利外観理論(真実とは異なる外観を作ってしまった者は、その外観を信じて取引を行ってしまった者に対して責任を負う、とする理論です。)、または手形法10条(と手形法77条2項)の類推適用によって、第三者を保護すべきであると考えられています。つまり、無効な手形であってもこういった考え方を使うことによって振出人(もしくは裏書人や保証人)に責任を負わせようというのです。

 

 

参考として最高裁の昭和31年7月20日の裁判例を簡単に紹介します。

この事案では、手形金額と満期、受取人、そして振出日が空欄の白地手形が振出人から交付されました。これを交付された人には白地補充権が与えられておらず、別の者が後日補充するという約束がなされていました。しかし、約束と違う人が補充してしまい、その後、そのことを知らない善意の第三者がその手形を取得して、手形金の支払を求めたのです。

こういった手形のことも「白地手形」と呼ぶかはさておき、最高裁はこの手形は「振出人の意思にもとづいて流通におかれた」と言えるとしました。そして、手形法10条と77条2項の「法意に照らし」、振出人として署名した人は補充された内容の通りの責任を負うと判断しました。

 

また、手形法10条は合意と違う内容が補充された手形を受け取った人を保護するための規定ですが、空欄が未補充のまま手形を受け取って、自分で補充した人も保護されうると最高裁は考えているようです(最判昭和36年11月24日を参照。これは小切手についての判例ですが、手形についても同じ考えがあてはまります。)。

ただし、白地手形を受け取って「空欄はこの範囲で好きなように記入していいよ」と譲渡人に言われた時点でかなり怪しむべきなので、空欄未補充のまま白地手形を受け取った人はほとんどの場合「重過失あり、手形法10条では保護できない」と判断されることになるでしょう。

■ まとめ

以上、白地手形について説明してきましたが、その扱いは意外と難しいものです。

手形に空欄があったら、とりあえずよくわからないままに自己判断で手形に何かを記載したりすることはやめておきましょう。特に手形金が高額な場合は、少しでも不安があったら弁護士に相談するようにしてください。

先ほども説明したように、受取人と振出日が白地の場合は、呈示先が銀行なら白地のまま支払ってもらえるので、下手に書き込まず満期が来たらそのまま持って行くのが良いでしょう。

 

そして、振出人側としての注意点を一つ。

ここまでの説明でわかるように、振出人が統一手形用紙に署名をすると、それだけで一応「白地手形」の外観はできあがってしまいます。盗まれたり取り違えがあったりしてその手形が流通にのってしまうと、権利外観理論等によって知らない誰かが補充された手形金額を支払うはめにもなりかねません。振出人の署名は他の手形要件を全て埋めてしまった後で、内容をよくよく確認してから記載するようにしたいものです。

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