詐害行為取消権による債権回収~責任財産保全のために~

目次

はじめに

責任財産の保全

2017年の民法改正の影響

詐害行為取消権の要件

詐害行為取消権の効果

まとめ 

■ はじめに

 企業間で金銭の貸し借りが行われる際、その額は数千、数億の額に上ることも珍しくありません。このような場合、何らかの担保権が設定されることが通常なのですが、あらゆる企業が担保を設定できる不動産や保証人を用意できるわけではありません。従って、担保権の設定なしでの金銭の貸し付けを行う場合も、当然出てきます。

 そのような場合、当然強制執行による債権回収を行うことになります。このような場合、強制執行を行う側にとっては、債務者の総財産が多ければ多いほうがいいということになります。しかし、融資を受けてその返済が滞るような会社は、他にも債務を負っていることが多く、強制執行前に総財産を減らすようなことを行うことも少なくありません。また財産の減少により、せっかく強制執行を実行しても配当が受けられず、結果債権を回収できないケースも出てきます。

 従って、強制執行により債権回収を行う場合、債務者の財産を債権者側で確保する必要がでてきます。その制度が、今回解説する詐害行為取消権です。詐害行為取消権とは、一言でいうと、債務者の行った法律行為(詐害行為)を債権者で取り消すことです。しかし、詐害行為といっても一応は成立した法律行為であり、それを取り消すとなると様々なところに余波が出てくるため、様々な要件を満たす場合にのみ、行使が許されています。

 また詐害行為取消権は、2017年の法改正で大きく影響を受けた分野でもあります。従って、以下では、改正法も念頭に置きつつ、詐害行為取消権とは何か、詐害行為とは何かについてわかりやすく解説していきたいと思います。

 

■ 責任財産保全の制度

⑴責任財産とは何か

 先ほど強制執行を行う場合、債務者の総財産が重要になると言及しましたが、強制執行の際、その引き当てになる債務者の財産を責任財産といいます。担保権などの債権回収手段を持たない一般債権者は、その責任財産に対し強制執行を行うことで債権を回収するしかありません。

 しかし債務者は、担保権の設定のない財産を強制執行に入る前の段階では自由に処分でき、意図的に特定の債権者が債権回収できなくすることもできてしまいます。そのような事態を防ぎ、債権者を保護するためにできた制度が詐害行為取消権です。詐害行為取消権を行使した場合は、債権者は債務者の行った法律行為を取り消し、責任財産を保全し、結果自己の債権を守ることができるのです。

⑵取り消し範囲の限定

 ただ一方で法律行為を取り消すということは、少なからず取引の安全を損なうことになり、あまりに取り消しの範囲を認めてしまうと、経済活動を阻害することになってしまいます。従って詐害行為取消権については、どこまでその取り消しを認めるのかが重要になってきます。

 

■ 2017年の民法改正の影響 

⑴大幅な条文の追加

 詐害行為取消権については、従来条文が3つしかなく(民法424条から426条)、当然たった3条で詐害行為取消権の事例すべてを網羅できるはずもなく、実際の運用は、判例の解釈によってかなりの部分補われてきました。

 しかし2017年の民法改正で、詐害行為取消権の条文が大幅に改正され、条文自体が新たに創設されることになりました(民法424条がその9まで追加され、425条がその4まで追加されることになりました)。条文の数は以前の3つから14になったので、かなりの改正が行われたといえます。以前の旧条文もそのままなのはなく、その文言について多少の変更が加えられています。

⑵判例の明文化

 ここまで大幅な条文の変更がなされると、詐害行為取消権の制度そのものが変更されたように思われるかもしれません。ただ実はそうではなく、今まで運用の根幹を担っていた判例の解釈が、明文化されたものと云われています。従って判例の判断を明文化したということであれば、詐害行為取消権の行使の結果も、従来と同様になる部分もかなりあると思われます。ただ一部以前と異なる趣旨となった条文もあるので、注意が必要です。

 ただここまでお読みいただいた中で、「民法が改正されたことは分かったから、もう旧条文の話をしても意味ないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。確かにその通りなのですが、旧条文を無視できない理由もあるのです。

⑶旧条文の必要性

 先ほど触れたように2017年に民法は改正されました。

 しかし改正民法の施行には、その施行のための政令が必要で、その政令は制定されていません。

従って、民法は改正されたもののいまだ実施されておらず、旧民法が適用されているのです。その民法実施のための政令は、2020年頃に制定されるといわれているので、それまでは旧条文に基づいて運用がなされることになります。従ってこのような理由があるので、当分は旧条文に基づく詐害行為取消権というものが重要になってきます。

 よって今現在、旧条文に基づいて世の中が動いている以上、今回の解説も旧条文に基づくものとさせていただきます。そして場面ごとで必要な場合は、改正法もその都度言及していきたいと考えています。ただ前述した通り、詐害行為取消権は概念そのものが大きく変更されたものではないため、旧条文に基づく制度理解は、改正民法実施後も必ず生きてくると思われます。前置きとして長くなりましたが、ご理解いただけると幸いです(ちなみに、この記事は2018年2月に執筆しています)。

 

■ 詐害行為取消権の要件

⑴4つの登場人物

 詐害行為取消権を行使する場合、債権者、債務者、受益者、転得者の四人の登場人物が出てきます。債権者とは、詐害行為取消権を行使する者で、債務者に対して債権を有している者です。債務者とは債権者に対して債務を負っている者で、取り消しとなる法律行為を行った者です。受益者とは債務者の行為によって利益を受ける者で、転得者とは受益者が得た利益を転得して得た者です。詐害行為取消権の要件については、それぞれの立場から検討したいと思います。

⑵債務者の要件

①詐害行為とは何か

 前述した通り、詐害行為取消権とは、債務者の行った詐害行為を債権者が取り消すことなのですが、その詐害行為とは何かについてまず説明したいと思います。詐害行為とは、債権者を害する法律行為をいいます。具体的に言うと、A社はB社に1000万の債務を負っている一方で、C社にも1000万の債務を負っていたとします。またそんな中、A社の総財産は1000万しかなく、確実に全債権者に対しての債務を弁済できないような状況です。

②詐害行為の具体例

 このような場合に、A社はB社を困らせる意図でC社と結託して、C社に全財産の1000万支払った場合は、これが詐害行為となります。また弁済ではなく、同様の意図で担保権の設定をした場合も詐害行為となります。例えば、A社に不動産があり、いまだ担保権の設定がされていない場合に、C社と結託してC社のみに抵当権を設定する行為も詐害行為となります。

 更に弁済や担保権の設定のほかに、動産や不動産の処分も詐害行為になります。先ほどの例でいうと、A社の総財産が不動産しかなく、その不動産の市場価格が1000万だったとします。このような状況で、A社がその不動産をC社に無償で譲渡した場合も、B社に対する詐害行為となります。この場合、単なる譲渡ではなく、譲渡により他の債権者(B社)の債権の回収が難しくなるという状況が必要になってきます。

③「法律行為」から「行為」へ

 またここで改正法についてですが、旧条文では取り消しの対象が「法律行為」となっていたのですが、改正法では「行為」が取り消されるとされています。このことは、法律行為ではなく、事実行為も取り消されることを条文上で明確にしたことになります。よって改正法は、旧条文よりも取り消しの範囲が広くなったと言えるでしょう。ちなみに弁済や債務の承認も事実行為にあたります。

 また取り消すためには、財産権を目的とした法律行為であることが要求されています(民法424条2項)。この要件に関しては、改正前と後で全く変わってないところです。

④詐害行為の意思

 また債務者は詐害行為を行った場合、「この行為によって債権者の権利が害される」という認識がなければ、詐害行為は成立しないとされています。この場合あくまで債権者が害されるという認識があればよく、「これをやることによって債権者を困らせてやろう!」といった害意といったものは必要ありません。

 ただこのことはあくまで一般的な要件で、例外的に弁済や担保権の設定により詐害行為を行う場合は、受益者との通謀(お互いの意思の連絡)が必要になります。このことは従来判例の解釈により必要とされていた要件なのですが、昨年の改正で明文化されました(改正民法424条の3の1項1号)。

⑤債務者の無資力

 以上の要件である、債務者の詐害行為、詐害行為の意思に加えて、債務者が無資力であることも要件として必要とされています。

前述したように詐害行為取消権とは、債務者に弁済する経済力がなくなったときに、責任財産保全のために債権者が法律行為を取り消す制度です。

従って債務者に弁済する経済力がある場合には、何をするかも債務者の自由であり、債権者が債務者の行為に対して介入する理由もありません。従って債務者に弁済する経済力がない(無資力)であることは、当然の要件と言えるでしょう。

 先ほどの例でいうと、A社がB社に1000万、C社に1000万の債務を負っていても、もし5000万の資産があれば、A社がC社に1000万の弁済をしてとしても、A社は4000万の資産が残ることになります。従ってA社は無資力とはいえないため、B社は詐害行為取消権を行使することはできません。

⑶債権者の要件

①金銭債権の必要性

 以上債務者側に必要な要件を見てきましたが、次に債権者に必要な要件をみてみましょう。

この点詐害行為取消権は、強制執行となる責任財産を保全し、債権者の金銭債権を保護するための制度であるため、債権者が金銭債権を有していることがまず必要になります。

②特性物債権の許容性

 ただこの点判例は、特定物債権(物の引き渡しを請求する権利など)においても、債務者が履行しなかった場合、最終的には損害賠償請求権に変わるため、詐害行為取消権を行使することができるとしています。

 これはどういう事かというと、例えばE社がF社からパソコンを買ったとします。この時点でE社は買主になるため、F社に対しパソコンを引き渡すことを請求できます。この時点でE社の権利は、パソコンの引き渡しを請求する権利(特定物債権)であり、金銭債権ではないため、詐害行為取消権を行使できません。

 しかし、F社が弁済期を過ぎても代金を支払うことはなかった場合、E社の権利は引渡しを請求する権利から、F社に対して損害を賠償する権利へと変化します。損害は金銭でのみ賠償できるので、損害賠償請求権を有するということは、金銭債権を有することになります。

 従って、F社が債務不履行に陥った時点で、E社は金銭債を有することになり、その結果詐害行為取消権を行使できることになるのです。よって特定物債権を有していても、それが損害賠償請求権に変化したときは、詐害行為取消権を行使できることになります。

③金銭債権の取得時期

 そして債権者は金銭債権を有しているだけでなく、債務者が詐害行為を行う前にその債権を取得しておく必要があります。その理由は、責任財産の保全に債権者が関われるのは、自分が金銭債権を有しているからであり、金銭債権を有しないときの債務者の行為に口を出すことはできないからです。

 従ってA社がB社に2017年の12月に1000万の債権を取得したとして、B社が2017年の11月に無資力にも関わらず、不動産を無償で譲渡するようなことを行っていたとしても、A社はその行為を取り消すことはできません。

⑷受益者及び転得者の要件

①詐害行為当時の認識

 受益者とは前述した通り、債務者の詐害行為により利益を得た者であり、転得者とはその受益者からさらに転得して利益を得た者です。受益者の要件は、詐害行為の当時、債務者が詐害行為を行っていたことを受益者が知っていたことになります。また転得者の要件は、転得の当時、債務者が詐害行為を行ったことを転得者が知っていたことになります。

②取引安全の保護

 具体的に言うと、B社がA社に1000万の債権を有していて、A社が無資力にもかかわらず、C社に1000万の贈与により詐害行為をしたとき、その贈与を受けたC社は「1000万の贈与がB社に対する詐害行為になる」ということを認識していなければなりません。またその1000万を更にD社に転得した場合、D社もC社と同様に、A社の行為の詐害性を認識していなければならないということです。このように受益者及び転得者に対する詐害性の認識が必要とされるのは、詐害行為の存在を知らなかった場合にも、詐害行為取消権を認めてしまうと、取引の安全が害され、経済活動の萎縮に繋がってしまうからです。

 

■ 詐害行為取消権の効果

⑴現物返還可能な場合

 では詐害行為取消権を行使した場合、債権者は行為を取り消すことができるといっても、具体的に何ができるのでしょうか。この場合、不動産の譲渡を詐害行為として取り消す場合は、目的物の現物返還が可能かどうかで、何ができるのかが異なります。まず現物返還が可能な場合ですが、例えばA社がB社に5000万の債権を有していて、B社が詐害行為として8000万の不動産をC社に譲渡した場合は、A社がB社の行為を取り消した結果、その不動産の所有権及び登記は、C社からB社に移転します。

 またこの場合、A社はその不動産の引き渡し及び移転登記を、自己に移転することをB社に請求できるのかについてですが、判例はできないとしています。この判例は、今回の改正で明文化されていません。

⑵現物返還不能な場合

 次に現物返還できない場合についてですが、この場合は債権者は受益者または転得者に対し、その受けた利益に相当する価格賠償を請求することができるとしています。例えば、先ほどの例でいえば、B社がC社に不動産を譲渡した後、大きな地震が起きてその不動産が消滅してしまった場合は、A社はその不動産の価格に相当する8000万をC社に請求することができます。

⑶金銭や動産の譲渡の場合

 次に取り消しの対象が、動産の譲渡や金銭の譲渡の場合はどうでしょうか。この場合は、取り消した後、債務者に返還するにとどまらず、債権者自身に引き渡すことができると判例は判断しています。

 先ほどの例でいうと、B社が詐害行為としてC社に8000万譲渡した場合で、その行為を取り消した時は、A社は直接C社に対して支払うことを請求することができます。

ただしこの場合、A社はB社に5000万の債権を有しているので、8000万全額ではなく5000万に限ります。また金銭ではなく、例えば高価な美術品である絵画をB社が譲渡した場合も、A社はC社に対しその絵画の引き渡しを要求して、金銭の支払いに替えることができます。

⑷詐害行為取消権の優先弁済的機能

 従って、金銭や動産の譲渡を取り消した場合は、債務者の責任財産の保全という手段を超えて、優先弁済権として機能することになります。詐害行為取消権が債権回収としての手段となりうるのは、元々の制度趣旨を超える位置づけをした判例があるからです。またこの判例は改正法で明文化され、民法426条の6で規定されています。

 

■ まとめ

 

以上が詐害行為取消権の解説でしたが、いかがでしたでしょうか。詐害行為取消権は、民法の債権総論に規定されているのですが、債権総論の中でもとりわけ抽象的で、難解とされている分野でもあります。従って今日の解説でも、なかなか理解が難しかったかもしれません。ただそうだとしても、担保権を持たない一般債権者にとって、詐害行為取消権が非常に有効な債権回収手段となる点は、是非押さえて頂きたいです。

 もし御社が有効な担保権を持たず、強制執行の中での債権回収を検討されているときは、詐害行為取消権行使のチャンスかもしれません。

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