自己破産した経営者は再び経営者になれない?その後の生活の変化は?
2022/12/06 10:58
目次
会社経営者が自己破産を検討するときには気がかりなことがいくつかあると思います。会社自体はどうなるのか?その後の生活にはどのような変化があるのか?もう一度経営者になれないのか?なれるとしてどのような点に注意したらいいのかなどです。
この記事では、経営者が自己破産することで直面するさまざまな疑問にお答えしていきます。
経営者が自己破産すると会社も破産するのか
経営者が自己破産したとしても会社が破産するとは限りません。ですがいくつか注意しなければならないポイントがあります。
法律上、経営者個人での自己破産は可能
法人である会社と代表取締役個人はあくまで別人格です。そのため経営者が破産したとしても会社まで破産するわけではありません。経営者と会社を同時に破産させなければならないという決まりはありません。経営者のみ自己破産することも、反対に会社のみ自己破産することも理論上は可能です。
実際は「経営者」と「会社」の同時破産が多い
経営者の自己破産の原因が会社の経営状態と関連している場合には会社も同時に破産するケースがほとんどです。
経営者が会社にお金を貸している場合や役員報酬の未払いがあるときには破産管財人が経営者の代わりに会社に対し支払いを請求することになります。支払えないのであれば会社も破産するほかないのです。
裁判所も会社との同時破産を求めてきます。会社財産と経営者個人の財産が混同していることも多く破産管財人による調査を個人財産だけでなく会社財産にまで広げる必要があるからです。
会社と代表取締役の関係は法律上「委任契約」にあたります。委任契約は破産すると終了することになっています。そのため、代表取締役のみ破産してしまうと会社の代表者がいなくなってしまい精算が必要な会社であっても手続きをする人がいなくなってしまいます。精算されないと会社は存続していることになりますがそうなると債権者は税法上の損金処理が難しくなるという問題もあります。
費用が高くなるのではないかと心配されるかもしれませんがその必要はありません。裁判所にもよりますが個人の費用のみで受け付けてくれる所もあります。例えば、東京地方裁判所であれば個人の破産手続きで利用されている「少額管財(20万円~)」となれば会社も同時に手続きが可能です。
例外的に経営者個人のみで自己破産できるのは会社に大きな債務がなく純粋に経営者個人の債務しかないときです。
経営者が自己破産するとその後どうなる?
経営者が自己破産した場合にはさまざまな影響が生じます。誤解されているデメリットも多いためくわしく解説していきます。
会社・個人共に債務の支払義務を免れる
自己破産をして免責されると税金などを除き原則としてすべての債務について支払責任がなくなります。そのため経営者個人が金融機関などから借金をしていたとしても返済する必要がなくなります。
会社の連帯保証人となっていた場合には本来であれば会社と連帯して債権者に返済する義務があるわけですが、免責決定を受けることで連帯保証債務についても支払義務がなくなります。
経営者個人の資産は回収される
破産は財産を精算するための手続きです。そのため自己破産した経営者個人の財産は破産管財人が処分して債権者に分配することになります。
高価な財産は処分されてしまうため不動産を所有している場合には注意が必要です。たとえ住居として使用していたとしても基本的に不動産は処分されることになります。
自宅を守ろうとして不動産の名義を変えようとする方がいらっしゃいますが絶対にしてはいけません。免責がもらえなくなってしまいますし、詐欺破産罪に問われるおそれもあるからです。
会社を同時に破産させない場合には株式が処分されてしまうことにも注意してください。経営者であれば自社の株式を保有しているはずですが十分な資産価値があるケースでは処分されることになります。処分されないケースもあるので弁護士にご相談下さい。
自由財産は手元に残すことができる
自己破産したとしても「自由財産」については処分しなくていいことになっています。
<自由財産の種類>
・99万円までの現金 ・差押禁止財産(生活や職業上必要な家財道具等) ・破産手続開始後に手に入れた財産 ・その他裁判所が認めた財産(一定額以下の財産) |
自由財産は裁判所によって拡張してもらえますが認めてもらえる範囲はケースバイケースです。あくまで目安ではありますが20万円以下の財産であれば認めてもらいやすいといえます。
<関連記事>自己破産しても財産は残せるの?
家族が責任を負うことはない
家族であっても別人格であることから法的な責任を負うことはありません。したがって、家族の財産については提出する必要はありません。ただし、家族名義のものであっても破産者が購入したものなど実質的な所有者が破産者であるとみなされると処分される可能性はあります。
もちろん連帯保証人となっていれば保証人としての責任は負うことになります。
<関連記事>自己破産した際の家族への影響は?家族へのデメリットなど徹底解説!
ペナルティー・罰則は発生しない
会社や経営者が破産したとしても法的な罰則が発生することはありません。もっとも、経営者には会社に対する「善管注意義務」や「忠実義務」が課せられています。そのため会社に対する損害賠償責任が発生する可能性があります。ただし、結果として経営がうまくいかなかったからといってそれだけで責任を問うことはできません。そのため特に経営者として不注意が大きかった場合や法令違反、自己の利益を図るような行為をしたときに責任が発生することになります。
債権者に対する責任が発生することもあります。ですがそのためには職務について悪意または重過失があったことが必要とされています。
したがって、悪質な問題を起こしていない限り損害賠償責任が生じることはありません。
信用情報機関に破産した事実が記録される点には注意が必要です。永久に記録されるわけではありませんが5~10年の間は金融機関等から融資を受けたりクレジットカードの発行を受けたりすることができなくなります。いわゆるブラックリストです。
信用情報機関やブラックリストについては、こちらの記事「債務整理後の生活への影響は?仕事や住宅ローンへの影響など解説」をご参照下さい。
破産手続き中は生活に制約がある
自己破産を申し立てると生活にいくつか制約が生じます。これらの制約は手続きが終了するか免責されることで終了するためそれほど心配はいりません。
職業における制約
宅地建物取引士や警備員、保険外交員などに就くことができなくなります。免責決定が出ることで制限が解除されます。ケースにもよりますが免責決定までは3~6か月程度かかります。
転居や旅行における制約
転居や泊りがけの外出については裁判所の許可が必要となります。財産の調査や処分のため破産者と連絡が取れなくなると困るからです。
郵便物における制約
破産者宛の郵便物は破産管財人に一旦転送されることになっています。財産を調査するためであり内容に問題がなければ本人に返されます。調査が完了すれば転送は終了します。
<関連記事>自己破産のデメリットとは?
自己破産した人は2度と経営者になれない?
自己破産を経験したからといって会社経営ができなくなるわけではありません。ですがいくつか注意点があります。
自己破産しても経営者になることは可能
自己破産したとしても経営者になることはできます。旧商法時代には破産者が取締役になることが制限されていましたが現行法では制限がないからです。ただし、警備業や宅建業など一部業種については免責決定を受けるまで営業許可を受けられない点には注意が必要です。
破産したときと同じ会社の代表取締役に就任することも可能です。注意点としては破産すると一旦は取締役を退任する点です。そのため再度株主総会等での選任手続きが必要となります。
再び経営者になる場合の注意点
経営者になるために法的な制約はほとんどありませんが事実上のハードルは存在します。
問題点の一つは融資が受けにくくなる点です。個人が自己破産すると信用情報機関に事故情報が記録されることになりますが5~10年の間は記録が残ることになります。そのため破産者本人が融資を受けたり連帯保証人となったりすることが難しくなり事業資金を得にくくなります。
このような場合には、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金」制度の利用を検討してみることをおすすめします。廃業歴等があり創業に再チャレンジする人向けの融資制度です。
他にも身近な人に代表取締役になってもらう方法やクラウドファンディングを利用する方法などがあります。このように資金調達の方法は多様化しています。
取引先との関係にも注意が必要です。破産により取引先に損害を出している場合にはこれまで通りの取引は難しいかもしれません。新たな取引先を探したり事業を変更したりすることも必要かもしれません。
このような障害がありうることを把握しておけば計画を立て対処していくことも可能となります。
会社も同時に破産したら|従業員・取引先への対応
会社も同時に破産させる場合には従業員を解雇することや取引先への通知が必要となります。弁護士に依頼しない場合には全て自分で行う必要があります。
従業員に対しては廃業や解雇の通知のほか、失業保険等の説明、給与等の支払いなどが必要となります。ハローワークに関連する離職証明書等の作成や交付なども求められます。
債権者に対しては破産申立予定であることや弁護士が窓口となることを通知することになります。弁護士が代理人となっていれば代わりに通知してもらえます。
まとめ
経営者が自己破産した場合に再び経営者になれないということはありません。その後の生活や再創業のときに多少の制約はありますが工夫次第で経営を行っていくことは可能です。
自己破産するときには会社も同時に破産することがほとんどであり会社に債務がないときを除き一緒に破産することが望ましいといえます。
精算手続きを無理なく行うためには早めに弁護士に相談することが大切です。
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本記事の監修弁護士 前田 祥夢(東京弁護士会所属)