時効の援用とは?やり方やメリット・デメリットを詳しく解説
2023/05/22 03:42
目次
借金などの債務は、一定期間が経過すると時効により消滅することがあります。
その際、「時効の援用」が必要となります。
時効の援用自体は単純なものですが、やり方を間違えるとデメリットも大きいので注意が必要です。
この記事では、時効の援用とはなにか、その方法やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
時効の援用とは
時効の援用とは、時効による利益を受ける意思を示すことです。
時効による利益を受けるためには時効の援用をすることが必要です。
時効には、権利をもらえる「取得時効」と、権利がなくなる「消滅時効」の2つがあります。
例えば、他人の土地を自分の土地だと信じて建物を建てて何十年も住んでいた場合に、その土地の権利をもらえることがありますが、これは「取得時効」です。
一定期間土地を使っているなどの条件を満たすと所有権をもらえるのです。
ただし、「時効の援用」をしなければ権利をもらうことができません。
具体的には、「時効によって権利を取得しました」と意思表示することが必要です。
借金などの債務に関係するのは「消滅時効」の方です。
これはお金を貸している人の権利である、「金銭債権(お金を請求できる権利)」がなくなるかどうかという問題だからです。
一定期間権利を使わないでいると時効によって権利が消滅することがあるのです。
金銭債権も時効によって消滅します。
ただし、「時効の援用」をしなければ効果が認められません。
たとえ時効期間が経過していたとしても時効の援用をしないと借金の支払い義務が残ったままになってしまうのです。
つまり、消滅時効の援用というのは、借金が一定の期間放置された場合に、「時効なので支払いません」と意思表示することで、支払い義務を免れることをいいます。
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時効援用を成立させる3つの条件
時効による恩恵を受けるには「時効の援用」が必要です。
ですが時効が成立するためには一定期間の経過など、いくつかの要件が必要となります。
ここでは、消滅時効の成立のためにどのような要件が必要となるのか見ていきたいと思います。
消滅時効の期間が経過している
時効が成立するためには一定の期間の経過が必要です。
原則的な期間は次の通りです。
起算点 |
時効期間 |
権利を行使することができることを知った時から |
5年 |
権利を行使することができる時から |
10年 |
※不法行為や身体に与えた損害については期間が異なります。
いずれか早い方が適用されることになっています。
「権利を行使することができることを知った」というのは、債権者(お金を貸している人)が知ったという意味です。債務者(お金を借りている人)が知っているかどうかではありません。
「知った時」と「できる時」の違いがよく分からないかもしれません。
普通の借金や売買代金など、契約によって発生する債権については、「権利を行使できることを知った時」と、「権利を行使することができる時」は普通一致します。
契約で支払日が定められていれば、その日が「権利を行使することができる時」であり、同時に「権利を行使できることを知った時」にもなるからです。
つまり、普通の借金などは早く到来する「5年」が時効期間です。
10年が適用されるケースがあるのか疑問に思うかもしれませんが、起算点がずれるケースもあります。代表的なのが「過払い金請求」です。
過払い金について
過払い金というのは、支払いすぎていた利息のことで、債務者は返してくれと請求することができます。これを「過払金返還請求権(不当利得返還請求権)」といいます。
金融業者との取引が終了した時が「権利を行使することができる時」に当たりますが、過払い金が実際に発生しているかは利息を計算し直さないと分かりません。
例えば、金融業者との最後の取引から10年経過した後に過払い金があることに気付いたとしたら、知った時から5年経過していなくても請求できない可能性があります。
ただし、時効は期間が経過したら当然に成立するものではないので、過払い金の可能性があるときには専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
2020年3月31日以前に発生した債権
2020年4月1日に法律が改正されているのですが、それより前に発生した債権については旧法の期間が適用されることになっています。
旧法では、原則として「権利を行使できる時から10年」です。
ですが、金融業者などからの借金のように商行為によって発生したものについては、原則として権利を行使できる時から「5年」となっています。
ただし、「飲食店のツケ」など、これよりも短い期間で消滅するものもあります。
債権者に裁判を起こされていない
時効期間は絶対的なものではありません。5年経過したからといって当然に時効期間を満たしたことにはならないです。
どういうことかというと、時効期間というのは「更新」されたり、「猶予」されたりすることがあるからです。
つまり、一定の出来事があると、時効期間がリセットされたり、延長されたりするのです。
時効期間を更新したり、猶予したりする方法はいろいろありますが、裁判所を利用した手続きが代表的です。
債権者が訴訟などの法的手段を使うのは時効対策が理由の一つです。
例えば、訴訟を起こされると訴訟をしている間は時効が成立しません。もし債権者が勝つと時効期間はリセットされることになっています。しかも時効期間は「10年」になります。裁判で権利が証明されると期間が長くなるのです。
「支払督促」という手続きを利用されたときも同様の扱いになります。異議を申し立てないと期間はリセットされ10年になります。
「仮差押え」により財産の処分が禁止されているときにも時効の完成が猶予されます。
借金があることを認めていない
時効がリセットされる原因は法的手続きだけではありません。
返済義務があることを相手に認めたときにも時効はリセットされます。これを「権利の承認」といいます。
「返します」と言った場合だけでなく、一部を返済しただけでも承認となります。
特に、念書などにサインをしてしまうと、証拠に残るため時効の援用が難しくなります。
時効の援用をするメリット
時効の援用にはいろいろなメリットがあります。
借金がなくなる
借金などの債務をゼロにすることができます。高額な借金であっても関係ありません。
借金がなくなるので督促されることもなくなります。
手続きがカンタン
借金をなくす方法として自己破産や個人再生がありますが、裁判所を利用するので時間がかかります。
時効の援用の場合には、債権者に意思表示するだけです。
実際には証拠に残すことが大切なので、内容証明郵便を使います。
費用が少ない
内容証明郵便を送付するだけですので費用は大して掛かりません。
弁護士に依頼したとしても自己破産などの費用よりも安く済みます。
ブラックリストから抹消される
金融業者からの借金を延滞していると信用情報機関に事故情報が記録されます。
いわゆる「ブラックリスト」です。
借金を返済せず、債務整理もしていないと、ブラックリストに掲載されたままになる可能性があります。
時効の援用をするとブラックリストから抹消される可能性が高いです。
※援用を受けた業者が信用情報の変更をしてくれないケースもあります。また、信用情報機関によってはすぐに抹消してくれないこともあります。
時効の援用をするデメリット
時効を援用する際には細心の注意が必要です。
失敗する可能性がある
時効の援用は失敗する可能性がそれなりに存在します。
時効期間は一定の事情があると更新されたり、猶予されたりします。
このような更新事由や猶予事由があると、時効期間の起算点がずれるため、時効が完成したと思っていたのに、まだ先だったということが生じるのです。
例えば、最終返済日を誤解して起算し、時効が完成していないのに時効を援用してしまうことがあります。
法的手続きでなく単なる催告であっても、6か月間時効の完成が猶予されることになっているため、期間が延長されていることに気付かずに時効を援用してしまうこともあります。
もし債権者が債権の存在を忘れている場合には、時効の援用をすることで相手に権利があることを教えてしまうことになります。
遅延損害金を請求される
借金を延滞していると「遅延損害金(遅延利息)」が発生します。通常の利息よりも高いことが多いので注意が必要です。
時効の援用に成功すれば借金はなくなるので問題はありませんが、援用に失敗した場合、債権の存在に気付いた相手方から遅延損害金も請求されるおそれがあります。
遅延損害金率が年20%の場合、5年近く滞納しているときには、元本額に近い遅延損害金が発生していることになります。
時効援用の手続きの流れ
時効の援用の仕方について具体的に見ていきます。
時効期間を調べる
時効期間が経過しているかを調べることから始めます。
金融業者からの借金については、信用情報機関に開示請求することで確認することができます。
開示された記録から最終の取引日を確認することで、5年経過しているか判断していきます。
信用情報機関については、「債務整理後の生活への影響は?仕事や住宅ローンへの影響など解説」をご参照ください。
時効援用通知書を作成・送付する
時効期間を満たしていたら、時効の援用をするために通知書の作成をします。
一般的に内容証明郵便(配達証明付き)を使います。
時効援用通知書には以下の事項を記載します。
・作成日または発送日(時効期間を経過しているか要確認) ・差出人の住所氏名(念のため生年月日も) ・相手の住所、名前(会社の場合にはできれば代表者名も) ・債権を特定できる情報(契約日、契約内容、契約番号等) ・時効の援用(「消滅時効を援用します」など) ・信用情報の抹消のお願い(必須ではない) |
消滅時効の成立
時効期間などの要件を満たしている限り、時効の援用によって消滅時効が成立することになります。
その結果として返済の義務はなくなります。
相手に内容証明が届いたかどうかは、郵便局からのはがきで確認することができます。
消滅時効が成立した場合には相手からの連絡は特にないことが一般的です。
少額でもいいから支払うように連絡が来ることがありますが、応じてしまうと時効が成立しなくなるので注意してください。
信用情報への反映は金融業者や信用情報機関の対応により異なります。
時効の援用はリスクがある
時効の援用に失敗すると逆に返済を迫られることになります。
また、遅延損害金が多額になっていることが多いため時効の援用をする際には細心の注意が必要です。
時効の援用は相手方に意思表示するだけなので債務者自身で行うこともできます。
ですが時効期間を計算することは簡単ではありません。
信用情報機関に情報開示請求を行い、時効期間を満たしているか確認する必要があります。
時効期間が更新されたり猶予されたりすることがあるため気が抜けません。
債務によって時効期間が異なることもあります。
そのため、弁護士に依頼して確実に時効を援用することが望ましいといえます。
少しでも自信がなければ弁護士にご相談ください。
まとめ
・時効を成立させるには時効の援用が必要です。時効の援用とは、時効による利益を受ける意思表示をすることです。通常は、内容証明郵便を債権者に郵送する方法で行います。
・消滅時効期間は、金融業者からの借金の場合には「5年」です。
・「債務の承認」や、「裁判などの法的手続き」などをとられると、時効期間は更新されたり猶予されたりします。
・時効の援用に失敗すると、遅延損害金を請求されるおそれがあります。
・時効の援用をするときには弁護士に相談することが大切です。
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借金などの債務の解決方法は時効だけではありません。
債務整理によって借金を根本的に解決することができます。
債務整理には、「任意整理」、「個人再生」、「自己破産」などの種類があります。
例えば、任意整理であれば話し合いで返済を楽にすることができます。
その人に合った借金の解決方法を選ぶことが大切です。
借金などの債務のことでお困りのことがあれば一度弁護士にご相談ください。
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本記事の監修弁護士 前田 祥夢(東京弁護士会所属)