給与の差し押さえを受けるまでの流れや回避方法を解説
2024/03/11 04:51
目次
借金などの返済ができずに支払いを滞納すると給与を差し押さえられることがあります。
この記事では、強制執行による給与の差押えについて手続きの流れや回避方法を解説します。
給与の差し押さえとは
給与の差し押さえとは、勤め先から受け取れるはずの給料を差し押さえられてしまい、強制的に借金などの債務の返済に充てられる手続きです。全額が差し押さえられるわけではありませんが、生活費が減ってしまったり勤め先にも迷惑がかかったりするなど影響が大きいので注意が必要です。ただし、返済期日を守れなかったとしても当然には差し押さえはできません。差し押さえには条件が必要だからです。
給与の差し押さえを受けるまでの流れ
給与を差し押さえるには一定の条件が必要です。その条件は簡単には満たせないため、債権者(お金を請求できる人)は一般的に次のような流れに従って行動します。
電話や郵便による督促
債権者はできるだけ時間やコスト、労力をかけずにお金を回収したいと思っています。そのため最初は電話や郵便などで「返済が遅れています」「早く支払ってください」など簡単な督促をしてきます。消費者金融やクレジットカード会社の場合には自動音声やハガキで督促をすることも多いです。債権者によっては自宅に訪問することもあります。
<関連記事>借金を滞納するとどうなる?滞納のリスクと対処方法を詳しく解説
一括請求
督促を無視していると分割払いの債務であっても一括返済を求められることがあります。一括請求は書面でされることが多いです。
支払期限まで支払わなくていい権利のことを「期限の利益」といいますが、長期間滞納すると期限の利益が失われて将来の分も支払期限が来てしまうからです。
遅延損害金も請求されることがあります。遅延損害金というのは、返済が遅れた場合に支払う利息のことで通常の利息よりも高いことが多いです。
一括請求書には「期日までに支払いがないときは法的手段をとります。」など訴訟などを予告した内容が書かれていることもあります。
特別送達(支払督促・訴状)
法的手段を予告されたのに支払いをしないでいると、裁判所から「特別送達」が届く可能性が高くなります。
「特別送達」というのは、裁判所が訴状や支払督促などを送付する際に利用する特別な書留郵便のことです。特別送達を無視すると相手方の言い分を認めたものとして、敗訴したり、「仮執行宣言」というものが出されたりして、給与などが差し押さえられる可能性が高くなります。そのため、特別送達が届いて自分で対応できそうにないと思ったらすぐに弁護士に相談してください。期限を過ぎると仮執行宣言などが出されてしまうからです。
<参考>支払督促とは?
仮執行宣言
支払督促が届いたのに無視していると「仮執行宣言」というものが発付され、「仮執行宣言付支払督促」というものが送られてくることがあります。仮執行宣言付支払督促が届いても支払わないでいると、いつ給与などが差し押さえられてもおかしくありません。
支払督促ではなく訴訟になった場合には、答弁書(反論書)を提出したり呼び出された期日に出廷したりして適切に対応しないと敗訴してしまいます。もし訴状を無視するなどして敗訴判決が確定したり仮執行宣言がついていたりすると、給与などが差し押さえられる可能性が高まります。
差し押さえ
給与などの差押えには仮執行宣言付支払督促や判決書などの「債務名義」というものが必要です。公正証書も「強制執行を受けても構いません」という内容が書かれているものだと債務名義になるので、給与を差し押さえることができます。
債権者が給与の差押えを裁判所に申し立てると、差押命令が債務者と勤務先に届けられます。給与が差し押さえられると勤め先は給与の支払いが制限され、全額の支払いができなくなります。
<参考>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説
給料差し押えの対象
月給だけでなくボーナスや退職金も差押え対象です。給与を対象とした差押えは借金などが完済されるまで続くことになります。
ただし、給与を全額差し押さえられてしまうと生活ができなくなってしまいます。そのため、給与は差押禁止部分があり原則として手取り分の4分の1までしか差し押さえできないことになっています。
つまり、給料から所得税や住民税、社会保険料を差し引いた残りの4分の1が原則として差し押さえの対象となります。
ただし、手取りの給与が44万円を超えるときは33万円を超える部分は差し押さえできます。ボーナスも同じ扱いですが退職金は原則通り4分の1です。
養育費など扶養義務等
養育費などの扶養義務についての差押えは、例外的に2分の1まで差押えできます。
差押範囲の変更
差押禁止部分については個別の事情によって裁判所に申し立てることで変更してもらえる可能性があります。
<関連記事>給料が差し押さえられてしまう?対処法や手続きなどを徹底解説!
給与の差し押さえを回避する方法
給与の差押えを回避するにはいくつか方法があります。
一括返済
差押えを行う目的は借金などの債権の回収です。そのため全額を返済することができれば給与の差押えを行う必要がなくなります。
異議申立て
支払督促を無視すると仮執行宣言が発付されて給与などの差押えが可能になります。これを防ぐ方法としては、2週間以内に裁判所に異議申立てをする方法があります。ただし、異議申立てをすると訴訟に移行することになっている点には注意が必要です。
自己破産
自己破産とは、債務者自身が裁判所に申し立てることで財産を清算し、原則として借金などの債務の支払責任を免除してもらう手続きのことです(税金など一部の債務は免責されません。)。
自己破産手続きが行われると、給与などの差押えは中止、失効されることになります。そのため、まだ差押えが行われていない段階であっても、弁護士から消費者金融などの債権者に依頼を受けましたという連絡(受任通知)がいくと、債権者は差押えをしたり、その前提となる法的手段をとったりすることがしにくくなります。
自己破産は、任意整理など他の債務整理の方法では借金などを減らすことが難しいケースでも、根本的に解決できる可能性がある手続きであり、借金が多いケースなどに向いています。
<関連記事>破産宣告とは?自己破産との違いやメリット・デメリットを詳しく解説
任意整理
任意整理は、債権者と話し合いをして返済の負担を軽くしてもらう債務整理の方法です。一般的には将来の利息をなくしてもらったり長期の分割払いにしてもらったりする方法です。金利が高い債権者であれば毎月の返済が楽になり滞納が解消されて差押えのリスクが低くなる可能性があります。債権者としても支払を継続してもらえるなら手間や費用のかかる法的な手続きをとるよりも現実的だからです。
ただし、すでに給与が差し押さえられているケースでは債権者が交渉に応じてくれることはあまり期待できません。せっかく手間やコストをかけて差し押さえをしたのに、差押えを取り下げるメリットが特にないからです。
基本的に差し押さえがされる前に検討できる方法といえます。
個人再生
個人再生は、借金などの債務を大幅に減らして原則3年の分割払いで完済を目指す方法です。借金などの額にもよりますが、5分の1~10分の1に債務が減る可能性があります。任意整理とは違い元本も減らすことができます。
自己破産の場合は、免責を受けると原則として借金などの債務の支払い責任がなくなるのに対し、個人再生では返済する義務は残りますが住宅ローンを残すことでマイホームを維持できる可能性があるなど自己破産にないメリットもあります(その場合住宅ローンは減りません。)。一方で安定した収入があることなど条件がやや厳しいことや手続きが複雑であることがデメリットといえます。
個人再生も裁判所の判断で給与の差押えを中止してもらえる可能性があります。
法的手段をとられる前に債務整理をした方が差押えの流れを止めやすいですが、法的手段をとられてからでも差し押さえを回避できる可能性があるため早めに弁護士に相談した方がいいでしょう。
個人再生など債務整理について詳しくは、「債務整理とは?債務整理の種類やメリット・デメリットを詳しく解説」をご覧ください。
※給与の差押えが税金の滞納によりされることもあります。税金の滞納のケースは差押えの仕組みが異なるため債務整理では直接解決できません。税金を分納する方法などが対策として考えられますが、借金などの債務整理も併せて考える必要があるため弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
・借金などの返済を滞納すると給与を差し押さえられることがあります。
・給与の差押えは滞納しても当然にはすることができません。訴訟や支払督促、公正証書の作成などが必要です。
・給与差押えの流れは、1.電話や文書による督促、2.一括請求、3.特別送達(訴訟、支払督促)、4.仮執行宣言、5.差押えなどとなっています。
・給与は全額差し押さえられるわけではありません。原則として4分の1までですがケースによって異なります。
・差し押さえは債務整理によって回避できることがあります。
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給与の差押えでお困りの方へ。
給与を差し押さえられてしまうと借金などが完済されるまで差押えが続きます。返済が難しいときには早めに債務整理を検討されることをおすすめします。債務整理には種類があるためケースに応じて適切な方法を選択することが大切です。
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本記事の監修弁護士 前田 祥夢(東京弁護士会所属)