債権回収における不動産登記記録(登記簿)の見方・注意点について

 

目次
はじめに
不動産登記記録(登記簿)の見方
「表題部」と「権利部」ってなに?
登記記録(登記簿)の基本
登記事項証明書(登記簿謄本)の入手
差押え(強制執行、仮差押え)可能な財産を見つける
差押えの対象
登記名義が違ったら(相続)
登記名義が違ったら(売買等)
共同担保目録を忘れずに
支店名から取引口座を見つける
担保権(抵当権、根抵当権等)がついていたら
用益権(賃借権、地上権等)について
まとめ
 

■はじめに

債権回収のためには裁判、競売のための強制執行等、経験豊富な弁護士でなければ対応が難しい手続きをしなければなりません。
たとえ裁判で勝訴して得た判決書や、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)、仮執行宣言など、債務名義をもっていたとしてもそれだけでは債権回収ができたことにはなりません。
競売等をするためには、強制執行による差押え、その前提としての仮差押えが必要なのです。
 
そのためには、差押えの対象となる、金銭への交換価値の高い、債務者による隠匿がしにくい財産が必要です。
ここでは不動産登記記録(登記簿)を通して差押え可能な財産を把握し、強制執行による競売等によって換価へとこぎつける方法と、注意点を見ていきたいと思います。
 

■不動産登記記録(登記簿)の見方

不動産登記記録(登記簿)は、大きくみると「表題部」と「権利部」に分かれます。
債権回収のための強制執行による競売等による差押えや、その前提となる仮差押えにおいて特に重要なのは「権利部」の登記記録です。
 

・「表題部」と「権利部」ってなに?

「表題部」とは、土地や建物という不動産の表示に関する登記がされている部分のことです。
不動産の表示に関する登記とは、地番とか、面積とか、建物であれば鉄筋何階建てなど、物理的形状等を記録したもののことです。
区分建物(マンション)の場合は、一棟全体の表題部と専有部分(各部屋)の2つの表題部があります。
 
「権利部」とは、「所有権」や、「抵当権」、「根抵当権」などの担保権等、目には見えない権利を記録したもののことです。
誰が権利をもっているかを記録しておくことで、第三者に対抗(民法177条)できるようになります。
ただし、「留置権」のように登記されない担保権もあります。
 
強制執行による差押えや、仮差押えをすると、差押えがされていることが「権利部」に記録されます。
すでに差押えがされている場合、配当要求という手続を使って債権回収ができますが、差押えが取り消される可能性があるときなど、新たに差押えをすることもでき、そのときは二重差押えによる新たな差押えの登記がされます。
 
ところで、差押えの登記の後に売買などを登記原因として所有権の登記名義人が変わっていることがあります。
「差押えがされているのに処分なんてできるの?」と疑問をもたれる方もいるでしょう。
 
差押えがされると、差押えの目的となる財産の処分が禁止されます。しかし、実際には不動産を処分して登記することが可能です。
 
これは、強制執行手続が取下げや取消しなどによって、なかったことになることもあり、処分の当事者間では一応有効にしておく必要があるからです。
つまり、強制執行手続が滞りなく済んだときは、売買による所有権移転登記などの登記を無効として、抹消登記することにしているのです。
 
結局、差押後に譲渡された人は権利を取得できなかったことになるわけです。
 

・登記記録(登記簿)の基本

「権利部」はさらに「甲区」と「乙区」に分かれます。
 

「甲区」には、所有権に関する登記の登記事項として、所有権の保存の登記、所有権の移転の登記、その抹消や変更の登記、買戻しの登記などが入り、「乙区」には、所有権以外の権利に関する登記の登記事項として、抵当権等の担保権の設定の登記、抵当権等の移転の登記、その抹消や変更、順位の変更、また賃借権、地上権、地役権や永小作権などの用益権が記録されます(不動産登記規則4条4項)。

 
土地や建物の所有権や不動産を差し押さえた場合の差押登記は「甲区」に、「抵当権」、「根抵当権」、「賃借権」などは「乙区」に記録されるわけです。
債権者が強制執行をしたいという場合、不動産の所有者が債務者であるか確認するには、「甲区」を見ればいいわけです。
これに対し、抵当権者や根抵当権者などの担保権者がいるか、いたとして債権額がいくらかなどを確認するには、「乙区」を見ます。
 

・登記事項証明書(登記簿謄本)の入手

さて、登記記録(登記簿)の見方の基本がわかったところで、そもそもどのようにして登記記録を確認すればよいのでしょうか。
 
それには2つの方法があります。
 
1つは、登記所(法務局と呼ぶのが一般的な役所名ですが、法務局は登記以外にも供託という弁済や第三者弁済を受け付けるなど登記以外の公務も行っていますので、このような呼び方をします。登記を扱う専門の公務員を登記官といいます。)に登記事項証明書(登記簿謄本のことですが、国民の権利保全や登記業務を円滑にするため、登記簿を電子化したため、法改正によって呼び方が変わりました。)をもらい、債務者の財産として強制執行可能かを判断する方法です。
窓口で直接もらう方法(債権者自ら登記所に出向いて請求する方法で登記所の人に色々教えてもらえます。)、郵便でもらう間接的な方法(法務局のホームページからダウンロードし印刷し必要事項を記載し、かつ収入印紙や登記印紙を貼り付けた書類と、請求者の住所を記載し切手を貼り付けた返信用封筒を別の封筒に入れて折り返し郵送でもらう方法。書類に不備があった場合の補正の問題や、時間もかかるので債権回収にはちょっと問題。)、インターネットを利用した方法(パソコンを使って取り寄せる方法。これも日数を要するので債務者による財産の隠匿や、他の債権者による強制執行の可能性のあるケースでは問題。)が可能です。
窓口では登記事項を要約した書面を登記所の人からもらうこともできます。以前は閲覧、つまり内容をその場で見せてもらうことができましたが登記簿が電子化されているので登記事項をコンピューターでプリントアウトしたものをもらうことになっています。あくまで閲覧の代わりですので登記官が登記事項に誤りがない旨を確認した証明書とは違いますので、債務者の財産を把握し強制執行のための参考資料と考えてください。
 
もう1つは、登記情報提供サービス(http://www1.touki.or.jp/gateway.html)を利用して、債権回収のための強制執行による競売等が可能な財産を把握する方法です。
パソコンなどネット上で登記記録を確認するものです。
登記事項証明書よりも手数料が安いという特徴があります。
ただし、登記官の認証文や登記官印がないため、法的な証明力がありません。
そのため、行政手続などで登記事項証明書がなければできない手続では利用できません。
債権回収のために債務者の換価可能な財産としての不動産の権利関係を把握程度であれば十分実用的といえます。
 
登記事項証明書等を請求するときは、債務者の所有であるか確認できれば良いとか、法的に有効な物権がついているか全部確認したい、昔の物権も確認したい、というようにいろいろあるので、登記事項のどの部分が必要かを示さなければなりません。
知りたい権利関係がもれなく記載されるように請求する必要があるのです。
よくわからなければ省略されないように全部の事項が記載されているものを請求しましょう。
 
その際、抵当権や根抵当権など、担保権が複数の不動産に設定され登記される場合に作られる共同担保目録についても忘れずに請求しましょう。
共同担保目録については後で詳しく説明します。
 

■差押え(強制執行、仮差押え)可能な財産を見つける

不動産登記記録をもとに差押え可能な財産を見つけるには、2つの方向性が考えられます。
 
1つは、すでに債務者の財産として把握している不動産の担保価値を見極めること。
もう1つは、新たな財産を発見すること。
新たな財産の発見としては、不動産の発見と、預金口座の発見に分けることができます。
では、上記の視点で詳しく見ていきたいと思います。
 

・差押えの対象

債権回収目的の強制執行は、不動産執行、動産執行、債権執行に大きく分かれます。
不動産登記記録から把握していく財産としては、不動産と預金債権ということになるでしょう。
 

・登記名義が違ったら(相続)

登記記録を見ていると、債務者が所有しているはずなのに、目的不動産の登記名義人が債務者以外の人物になっていたりします。
例えば、債務者である「甲野太郎」さんが住んでいる土地建物があったので登記記録を確認したところ、所有者として「甲野一郎」さんが記載されていたような場合です。
 
この場合、姓が同じだし、登記名義を取得したのが何十年も前なので、もしかしたら太郎さんのお父さんか、ひょっとしたらおじいさんかもしれないと気づくわけです。
そこで戸籍調査をしてみたらやっぱりお父さんだったことがわかり、しかもすでに亡くなっていることがわかったりします。
 

不動産を所有している人が亡くなっていれば、相続が発生し、所有権は相続人に移転します(民法896条)。

したがって、相続放棄などがなければ、今は債務者である甲野太郎さんが所有者の可能性が高いわけです。
単に登記名義を変えていなかっただけです。
 
相続人の名義に変えることは、債権者代位権(民法423条)によって債権者の単独で可能です。
 

・登記名義が違ったら(売買等)

強制執行を免れるために債務者が第三者に権利を移転してしまい、そのために登記名義が違ったりすることもあります。
債権者を害することを知りながら売却し、登記名義を移した場合には、債権者は詐害行為取消権(民法424条1項)を行使して不動産を債務者のもとに取り戻し、登記も債務者に戻すため抹消登記する必要があり、債権者は判決をもとに債務者に代位して抹消登記手続ができます。
 
ただし、詐害行為取消権は裁判所に請求しなければならないので、弁護士に依頼するのが現実的です。
 

・共同担保目録を忘れずに

登記記録を請求する際は共同担保目録も併せて請求しましょう。
 
お金を貸し付ける場合、土地や建物などのめぼしい資産を担保に取るわけですが、別々の不動産を担保に入れることも多く、そのような抵当権などは頭に「共同」の文言がつき、将来の債権回収がより確実になります。
共同の担保関係にある土地や建物といった不動産を把握しやすくし、登記官の公務の便宜や、債権者の便宜のため、共同の担保関係にある抵当権や根抵当権を記録した専用の記録を共同担保目録といい、債権回収に一役買うことになります。
 
ではなぜ共同担保目録が債権回収のために重要なのかといいますと、債権者が把握していない、強制執行による競売や強制管理による差押えが可能な、債権を満足させうる、換価可能性のある優良な、債務者所有の財産を発見できる可能性があるからです。
 
例えば、債務者が住んでいる不動産であれば債権者はすでに把握しているわけです。
この不動産の登記記録を見ると、乙区に「共同担保 目録(X)1号」などと書かれていたりします。
そうすると同じ債権を担保するための抵当権や根抵当権が設定された、別の不動産があることがわかるわけです。
しかし、その別の不動産がどこにあるのかは共同担保目録を見なければわかりません。
そこで、共同担保目録が必要なのです。
 
ただし、そのまま差押えができると思うのは間違いで、取り寄せた登記記録の写しをよく読み、債務者以外の人が担保を提供する物上保証人の所有でないかを確認してから、強制的に財産を換価する法的な手続きである、強制執行に入りましょう。
共同担保目録の記録の入手は、上記で書いたように登記記録の入手の際に請求すればできます。忘れずに請求しましょう。
 

・支店名から取引口座を見つける

抵当権者が銀行の場合、登記記録の抵当権者の表示として、銀行名の他に取扱支店名を記載することができます。
 
これがなぜ債権回収で重要なのかといえば、差し押さえるための財産は債権者が見つけなければならないからです。
 
預金債権を差し押さえるには、金融機関名だけではなく支店名まで特定しなければなりません。
住宅ローンを利用したために抵当権が設定されたのであれば、同じ支店に預金口座がある可能性があるわけです。
 
債権者は、財産開示制度を使わなくても、債務者所有の換価容易な財産である、預金債権を発見できるのです。
ただし、銀行から「自分も債権をもっている」として、相殺(民法505条以下)を主張され債権回収ができない可能性もあるので注意が必要です。
 

・担保権(抵当権、根抵当権等)がついていたら

債権額や極度額という項目を見ると、その不動産が競売にかけられたときに、抵当権者や根抵当権者などの担保権者が、優先弁済を受ける金額がある程度わかります。
 
根抵当権の場合は、極度額といって、その金額までしか担保権を行使できません。
 
抵当権の場合は債権額と記載されますが、注意すべきはその金額プラス約定利息や遅延利息等の2年分についても担保権を行使できます。
ですので利息、損害金の項目も確認しましょう。
また、抵当権、根抵当権などの担保権が設定されてから、かなりの年月が経っている場合、ある程度弁済がされ、場合によっては債務が消滅しているかもしれません。
なので、担保権設定の原因日付も確認しましょう。
 
逆に、比較的新しい担保権が複数ついている場合、債権回収が難しいかもしれません。
 

・用益権(賃借権、地上権等)について

債務者が賃借権の権利者として登記されている場合、敷金の項目に注意しましょう。
賃貸借関係が終了したときに敷金が戻ってくる可能性があるからです。
 
債権者代位権を行使して債務者に代わって敷金を受け取ることや、賃貸人が支払いを拒むときは敷金返還債権を差し押さえて、その後取立訴訟を起こすという方法で強制執行もできます。
さらに取立ての代わりに敷金返還債権を差押債権者に移転してもらう転付命令という制度もあります。
 

■ まとめ

・登記記録から債権回収のための情報を読み取るには、「権利部」が重要であり、所有権については「甲区」に、所有権以外については「乙区」に記載されます。
・不動産が債務者の所有か確認するには「甲区」を、担保価値を把握したり債務者所有の他の不動産を調べたりするには「乙区」を確認します。
・登記記録を確認するには不動産を管轄する登記所(法務局)で登記事項証明書等を請求するか、登記情報提供サービスを利用します。その際、共同担保目録の請求も重要です。
登記名義が債務者と違ったりするときは調査のため弁護士に相談しましょう。
・銀行の支店名が記載されているときは、その支店に差押え可能な預金債権があるかもしれません。
・担保権は設定金額だけではなく、約定利息や遅延利息、設定日付も重要です。担保権はすでに債務が弁済されたことによる付従性(債権がなければ存在できない担保権の性質)により消滅しているかもしれません。
・不動産が債務者所有でなくても、賃借権が設定されているときは、敷金から債権を回収可能なことがあります。
 
不動産登記記録からわかることは、たくさんあることがお分かりいただけましたでしょうか。
詳しくは経験豊富な弁護士にご相談ください。

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