強制執行により債権回収を行う場合には相応の費用がかかります。強制執行の種類により費用の額は大きく異なります。

 

この記事では、債権回収に関する強制執行の費用や強制執行の基本的な流れについて解説していきます。

 

強制執行にかかる裁判所費用

強制執行にかかる費用は、裁判所関係の費用と、弁護士費用の2種類があります。まず、裁判所関係の費用としてどのようなものがあるのか確認していきます。

 

予納金

予納金とは、最終的な費用を事前に確定できないため手続きに必要な費用を概算で納めるものです。

不動産や動産を対象とした強制執行の際には、予納金として費用の支払いが求められることになります。特に不動産の場合には予納金が高額となるので債権者の負担は小さくありません。予納金の額は事案や裁判所によって異なります。

予納金は強制執行がうまくいけば回収することができますが、売却等がうまくいかないときには実際にかかった費用を差し引いた金額が返還されることになります。

 

収入印紙代

収入印紙は、不動産や債権に対する強制執行を申し立てる際に申立費用として納める必要があります。

 

郵便費用

不動産や債権を対象として強制執行する際には郵便切手も予納する必要があります。当事者に必要な書類を郵送する必要があるからです。

裁判所によっては郵便費用を切手ではなく電子納付で受け付けている所もあります。

 

債権執行に必要な費用

債権執行は、債務者のもっている債権を対象として強制執行するものです。

例えば、預金は金融機関に対する債権なので強制執行の対象にできます。給料も勤め先に対する金銭債権なので強制執行可能です。他にも売掛金や賃料債権などの金銭債権が対象となります。

債権執行をすると債務者の持っている債権が差し押さえられ、債権者が直接取り立てることが可能となります。

 

<債権執行費用(相場)>

内容

費用

申立費用(収入印紙)

4,000円

郵便切手

3,000円~

送達証明

数百円~

執行文付与(必要な場合)

数百円~

登記事項証明書(関係者に法人がいる場合)

数百円(1通)

※債権者と債務者が一人のケース。強制執行の費用は裁判所や事案により変わります。

 

不動産執行に必要な費用

不動産を対象とした強制執行には2つの手続きがあります。「強制競売」と「強制管理」と呼ばれるものですがほとんどが強制競売となっています。強制管理は管理人に不動産を運用させて賃料等の収入から債権回収を行うものですがあまり使われていません。そのため、この記事でも強制競売を念頭に解説をしていきます。

 

不動産執行においては「予納金」の納付が必要となります。予納費用の額は裁判所によってばらつきがありますが、少なくとも数十万円は必要となります。

裁判所関係の費用は最終的には債務者の負担となるため、売却代金から回収していくことが可能ですが一旦は債権者が支払うため経済的な負担が生じます。また、強制執行は必ず成功するとは限らないため予納金が返還される保証はない点に留意する必要があります。

 

不動産を差し押さえると不動産登記記録に差押えが記録するため登録免許税もかかります。

 

<不動産執行費用(相場)>

内容

費用

申立費用(収入印紙)

4,000円

予納金

80万円~200万円

※請求債権額が2000万円未満は80万円

予納郵便切手

94円~

登録免許税(差押登記費用)

確定請求債権額の1000分の4

送達証明

数百円~

執行文付与(必要な場合)

数百円~

     

※東京地裁の場合。強制執行費用は裁判所や事案により変わります。

 

動産執行に必要な費用

現金や貴金属、美術品、店舗商品などの動産も強制執行の対象物です。動産執行の実施機関は「執行官」です。債権執行や不動産執行の場合には裁判所が執行機関となる点で違いがあります。執行官が担当するため強制執行の費用も執行官の手数料として支払います。

ただし、動産執行も費用が実際にどれくらいかかるかはケースによって異なるため、執行官報酬も含めて予納金という形で支払います。

 

<動産執行費用(目安)>

内訳

費用

申立予納金

2万円~(東京地裁は3万5,000円~)

開錠費用(必要な場合)

8千円~3万円くらい

※金庫の開錠が必要なときは別途8千円~

送達証明

数百円~

執行文付与(必要な場合)

数百円~

     

運搬や保管が必要なときには別途費用がかかります。強制執行費用は裁判所や事案により変わります。

 

予納金は余ったら返還してもらえますが逆に足りないときには追納を求められることもあります。

 

弁護士に強制執行を依頼した場合の費用

弁護士に強制執行を委任したときには弁護士費用も発生します。弁護士費用は以前は規制が設けられていましたが現在は自由化されています。そのため事務所によって費用にばらつきがありますが、ある程度の相場は存在します。

 

相談料

法律相談に乗ってもらうだけでも費用がかかります。多くの事務所で「5,000円~/30分」程度となっています。もっとも一定の条件を満たすと無料になる事務所もあります。

 

着手金

着手金は強制執行手続きを依頼した段階で生じる費用です。強制執行が成功しなくても支払うことになります。

 

<強制執行着手金(相場)>

内容

着手金

金額での目安

訴訟

債権額の8%~

10万円~

債権執行

債権額の4%~

5万円~

動産執行

10万円~

不動産執行

15万円~

※(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬等基準など参考。実際の費用は事務所やケースにより変わります。

 

報酬金

強制執行がうまくいったときには成功報酬費用が生じます。

 

<強制執行報酬金(相場)>

成功報酬費用

回収額の10~35%

 

強制執行は事務所によって費用に幅がありますが、着手金と成功報酬金を合わせて考える必要があります。基本的な傾向は、着手金が高額な事務所では成功報酬費用が安くなる傾向があり、成功報酬費用が高額な事務所では着手金が安い傾向があります。

着手金は強制執行の成否に関係なく費用がかかるため、不安な場合には着手金の安い事務所を検討した方がいいかもしれません。

 

その他の実費

日当や交通費などの費用が必要となることもあります。

 

<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説

 

裁判所に強制執行を申請する手順

勝訴判決書などを取得したら裁判所に強制執行手続きを申し立てることになります。

 

申請する前に必要なこと

強制執行はすぐには行うことができません。債務名義と呼ばれる債権を持っていることを証明する公的な文書が必要となります。

 

債務名義については、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。

 

執行文の付与申立て

執行文というのは、確定判決書等の債務名義に現在強制執行できる力があることを証明する文言のことです。確定判決書等の末尾に記載されます。

原則として強制執行するには債務名義に執行文が必要となります。そのため裁判所の書記官や債務名義が公正証書の場合には公証人に執行文の付与を申し立てます。

 

例外として、仮執行宣言がついた債務名義や少額訴訟の確定判決などは執行文がなくても強制執行可能です。

 

債務名義の送達証明申立て

強制執行の約束事として、債務名義の正本や謄本を執行開始までに債務者に送達することになっています。判決書については訴訟手続きの中で送達されます。

一方で公正証書や調停調書などは公証人や裁判所書記官に申請して送達してもらうことになります。公正証書の場合には作った時点で送達していることがあります。

 

送達した事実は証明しなければならないので送達証明書の申請も行います。動産執行に関しては執行開始時に送達するケースもあります。

 

債権執行の申請手順

債権執行は以下のような手順で手続きをしていきます。

 

1.申立て

どの裁判所でもいいわけではありません。基本的に債務者の住所地を受け持っている地方裁判所に申し立てます。収入印紙や必要な書類も添付します。

 

2.差押命令

差押命令が債務者と第三債務者に送達されます。

 

3.取立て

債務者に差押命令が送達されて1週間経過したら第三債務者から直接回収していくことが可能です。給料債権など例外的に4週間となっているものもあります。

 

<関連記事>少額訴訟の費用相場は?費用倒れを回避する方法も解説

 

不動産執行の申請手順

不動産執行は以下のような手順でしていきます。

 

1.申立て

強制執行の対象となる不動産所在地を受け持っている地方裁判所に申し立てます。

 

2.差押え

不動産登記記録に差押登記が入り債務者による売却等が制限されます。

 

3.売却

売却手続きが実施されます。少なくとも数か月は必要となります。売却がされると配当手続きが行われます。

 

動産執行の申請手順

動産執行は以下のような手順でしていきます。事前に執行官とよく打ち合わせをすることが大切です。

 

1.申立て

差押えしたい目的物のある地域を管轄している地方裁判所の執行官に申し立てます。

 

2.差押え

執行官などが現場に行き財産を調査し差押え可能な動産を差し押さえていきます。

 

3.配当

通常は差押え日から1週間~1か月の間に競り売りが実施され、基本的にすぐに配当が行われます。

 

強制執行は技術的な側面が強いため臨機応変に対応することが求められます。せっかく勝訴判決をもらっても強制執行での対応がうまくいかなければ債権の回収に失敗することもあります。ケースによっては費用倒れになることもあります。

無理をせず早い段階から弁護士に相談することで債権回収の可能性と費用対効果を高めることができます。

 

<関連記事>強制執行による債権回収|手続きの流れを分かりやすく解説

 

まとめ

・強制執行の費用は、裁判所費用と弁護士費用の2種類があります。

・裁判所費用は強制執行の種類によって異なります。

・債権執行と不動産執行は申立費用4,000円の収入印紙が必要です。

・不動産執行は予納金として数十万円以上を納める必要があります。

・動産執行は執行官に申し立てますが予納金として「35,000円~(東京地裁の場合)」が必要です。

予納金等の裁判所関連の費用は競売代金などから回収可能ですが、回収が保証されるわけではありません。

・弁護士費用は着手金と成功報酬金に分かれます。着手金は強制執行の成否と関係なくかかります。成功報酬金とトータルで検討する必要があります。

 

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