最高裁平成27年6月1日「債権譲渡に関する判例解説」


最高裁平成27年6月1日

・ 事実の概要

原告はX社との間で金銭消費貸借契約を締結をし、金銭を借り入れていた。その後、X社は被告会社に吸収合併されX社が有していた原告への債権は被告会社に譲渡される事になった。
この債権譲渡に際して、被告会社から原告へ送られた契約書には「いかなる適法かつ有効な相殺,反訴または抗弁にも服する ことはない」と記載されており、原告はそれに対して異議を止めない承諾をした。
この際、原告は旧貸金業法43条1項の適用がない場合の残債権は約33万円であるとして、被告会社からの支払い請求額の違いを主張したところ、原告は被告会社からの送られた契約書に異議を止めない承諾をしているため、その主張が許されるかがも問題となった。

・ 判決の要旨

譲受人において上記事由の存在を知らなかったとしても、このことに過失がある場合には、譲受人の利益を保護しなければならない必要性は低い…
譲受人が通常の注意を払えば上記事由の存在を知り得たという場合にまで上記効果を生じさせるというのは、両当事者間の均衡を欠くものといわざるを得ない。したがって、債務者が異議をととどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において、譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても、このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は、当該事由をもって譲受 人に対抗することができると解するのが相当である。

・ 解説

民法上では、債権者が有する債務者への債権は、譲渡できる性質のものである限り譲渡する事ができるのが原則です。そのため、貸金債権などは自ら回収が困難なったものを、債権回収に長けた業者に安値で売却して、債権が回収できなくなるリスクを回避するといったことがままあります。
この場合、債権譲渡された債権についての債務者は債権の譲渡人から債権譲渡についての通知を受けるか、自ら債権譲渡について承諾することが必要となります。(民法467条1項)この場合に承諾において、債務者が異議をとどめなかった場合は新たな債権者となる、債権の譲受人に対して、債務者が有していた抗弁事由を主張できなくなります。そのため、この判例でいうと、XはYに対して旧貸金業法43条1項の適用を受けない結果払いすぎた過払い金は貸金元本に充当できるはずであると主張できるところ、異議をとどめない承諾をしたことによりYに対して同じことを主張できなくなります。
しかし、この異議をとどめない承諾は債務者に対して大きな不利益を伴うことが多いため、その適用条件については狭める解釈をるべきではないのではないかと考えられるようになりました。
この点、今回の判例では、468条1項の趣旨が抗弁事由が付いてない債権と信じて譲渡を受ける譲受人の保護という一般債権取引の安全にあることから、債務者が有している対抗事由について譲受人が知っていたような場合は、それを知りつつ債権譲渡という取引に関与した以上、468条1項による保護をうける必要がないと判断しました。そして、468条1項は債務者に酷な規定であることから、債権の譲受人が債務者の抗弁事由を知らなかったとしても、知り得たような場合には、やはり468条1項の適用はなされないと判断しました。
これにより、債務者としては異議をとどめない承諾を行った場合であったとしても、債権の譲受人に対して抗弁事由を主張できる可能性が大きく広がることになります。しかし、その場合であっても債務者は債権の譲受人が抗弁事由の存在を知り得たことについて立証をしなければならないため、大きな立証上の負担を持つことは否めません。よって、今回の判例が出た後においても、債務者は債権譲渡における承諾については慎重な態度で挑むことが望まれるといえます。