最高裁平成26年10月28日判決

・ 事案の概要

原告は、無限連鎖講の防止に関する法律2条に規定する無限連鎖講いわゆるねずみ講と呼ばれる組織運営を行う会社Xにおいて破産管財人を務める者である。
被告は、X社との間で会員契約を締結し、約818万円を出資金として支出し、その後約2950万円の配当を受けた。
X社は約4000名の会員を集め、会員から募った出資金は約25億6000万に至ったが、平成23年には破産開始決定を受けることとなり、原告がその破産管財人として選任された。X社との関係では事業の損失を受けたX社会員の多くが破産債権者となっている。
原審では、原告が被告に対し被告の受け取った配当金を、不当利得返還請求権に基づきその支払いを求めていたところ、被告に対する配当金の給付は不法原因給付に当たるとして、返還請求をすることはできないと判断されていた。

・ 判決の要旨

本件配当金は,関与することが禁止された無限連鎖講に該当する本件事業によって被上告人に給付されたものであって,その仕組み上,他の会員が出えんした金銭を原資とするものである。そして,本件事業の会員の相当部分の者は,出えんした金銭の額に相当する金銭を受領することができないまま破産会社の破綻により損失を受け,被害の救済を受けることもできずに破産債権者の多数を占めるに至っているというのである。このような事実関係の下で,破産会社の破産管財人である上告人が,被上告人に対して本件配当金の返還を求め,これにつき破産手続の中で損失を受けた上記会員らを含む破産債権者への配当を行うなど適正かつ公平な清算を図ろうとすることは,衡平にかなうというべきである。

・ 解説

本件判例は、不当利得返還請求の場面において不法原因給付(民法708条)が適用されるかが問題となった事案となります。
ここでいう、不法原因給付とは不法な原因で給付したものは、返還を求めることができないという規定であり、民法におけるクリーンハンズの原則に由来します。つまり、相手方に対して何かしらの返還請求をするにあたってはその請求の根拠が反道徳的、反倫理的なものであってはならず、(清らかな手による請求であるということ)反道徳的、反倫理的な手段によってなされる請求は、これを認めないというものです。例えば、殺人契約を締結して、依頼人がその報酬を前払いしたような場合、このような契約は公序良俗に反して無効(民法90条)にあたるため、気が変わった依頼人が契約の無効を主張して、先払いした報酬の返還を求めたとしても、それは請求の根拠が反道徳的、反倫理的なものであるため認められないということになります。
本件では、破産するに至った無限連鎖講の運営会社の破産管財人による請求です。そして、無限連鎖講の会員となる契約は高利率の配当を誘引してなされるものであるものの、実際はそれに見合った配当を受けられる会員はごく一部に限定されるというものなため、反倫理的、反道徳的なものと言えます。そのため、本来であればX社破産管財人による被告への請求は認められないということになります。しかし、この結果をよしとしてしまうと、会員のうちごく一部の会員だけが利益を得て、その他大勢の会員利益を得られず損失だけを被ってしまうという、無限連鎖講の不公平な仕組みをそのまま許容してしまうことになります。
これを回避し、会員の間の損失を少しでも公平にするために本件では不法原因給付の規定の適用が回避されたものと考えられます。もっとも、この結論の背景には、X社がすでに破産状態に陥っており、破産管財人という公平に破産会社の資産を管理する人員が選任されているということが起因している点も少なくないと考えられます。そのため、原告が破産管財人ではなくX社自身であったような場合は同様の結論に至ったかどうかは難しいところと言えます。