目次

■はじめに
■裁判所を使う or 使わないの判断
■裁判所を使わない手続き方法
■弁護士に依頼することとの関係
■まとめ

 

 

■はじめに

支払いが遅れている場合、どのように対応したら良いのか迷うことがあります。
特に、金額が大きい場合や期日をだいぶ過ぎている場合、連絡がつかないときや債務の存在自体に争いがあるようなときは簡単ではありません。

 

対応の仕方は大きく裁判所を利用する方法とそうでない方法に分けられます。

 

どのような場合に裁判所を利用するという判断をするべきか、ある程度の目安がないと困ります。それぞれメリットとデメリットがあるからです。

 

裁判所を利用しない場合にも気をつけるべきことがたくさんあります。

 

ここでは、裁判所を利用すべき場合かそうでないかを判断するために押さえておくべき内容と、利用しない場合における基本的な回収方法について解説していきます。

 

 

■裁判所を使う or 使わないの判断

遅延している支払いへの対応としては、任意に支払ってもらう方法と強制的な方法の2つに分けることができます。

 

後者の方法を採用する場合には裁判所を使うことになります(※調停など任意的な支払いを目的として裁判所を利用することもあります。)。

 

裁判所を利用するか否かの判断に絶対的な基準があるわけではありません。
ですが、その判断にあたって考慮すべき事項というものがあります。
ここでは債権の回収手段を考慮する場合に、一般的に検討すべき事項について見ていきたいと思います。

 

手続自体の難易度

裁判所を用いた方法としては、仮差押え、通常訴訟、強制執行、担保権実行、民事調停、少額訴訟などいくつも種類が用意されています。
これらの手続きは、それぞれの制度によって費用や時間、専門性などに違いがあるため難易度が異なります。いずれにしても全般的に専門性が高いため、手続に精通した弁護士が関与しなければ手続きを進めていくことは難しいといえます。

 

これらに対し、裁判所を利用しない手続としては、電話やFAX、メールや郵便、訪問などによる催告が考えられます。これらは特別な方式は不要でありいつでも行うことが可能です。専門性も低いため自分たちの力ですることもできるという容易さが特徴といえます。

 

ですが、実行が容易であるということは、それだけこちらが本気で回収しようとしている意思が伝わりにくいため、相手に対する心理的な圧力という面で弱く、回収の可能性はそれほど高いとはいえません。

 

任意的に支払ってもらえる可能性の有無

相手が自ら支払ってくれればそれに越したことはありません。
そこで、強制的な方法をとらなくても支払ってもらえる可能性の有無と、可能性があるとしてその程度がどれくらいあるのかを検討します。

 

もしも相手方との信頼関係がなくなっていたり、債務の存在自体を否定されていたりするなど、任意の弁済が期待できないような場合には、裁判所を利用した手続きを検討せざるをえません。

 

また、支払ってもらえる可能性があるとしても、その可能性が低かったり、回収できる金額が少なかったりするときも裁判所を利用した手続きの検討を要します。

 

もし相手が自ら支払ってくれる可能性があるような場合に、強権的な手段を用いて相手方に迫るようなことをすると、相手方との信頼関係が壊れてしまって回収がより困難となることもありえます。

 

財産の隠匿の可能性

債務者によっては強制執行を警戒して財産を隠してしまう人もいます。
例えば、銀行口座から預金を引き下ろしてしまったり、不動産や自動車などの高価な財物を売却してしまったり贈与してしまうようなケースです。

 

このようなことがあると財産の行方を調査するために余計な時間と費用がかかることになります。
特にやっかいなのは財物が第三者の手に渡っている場合です。この場合、詐害行為取消権を行使して取り戻さなければならなくなりますが、この手続きは裁判所を利用しなければならず時間とコストがかかることになります。

 

このような財産隠しに対抗するには裁判所を利用した仮差押手続きを使います。
これにより財産を勝手に移動することができなくなります。

 

隠匿の蓋然性が高いようなケースでは裁判所を利用した手続きを当初から選択する必要があるといえます。

 

要する期間

裁判所を使う場合には相応の時間がかかることになります。
訴訟手続であれば、事前調査や仮差押手続きから判決を得て強制執行をするまで、少なくとも数か月から1年程度は見ておく必要があります。複雑なケースではそれ以上かかることもあります。

 

費用

裁判所を使う場合、裁判所へ納めなければならない申し立て費用や予納郵券代が生じます。これらの費用は原則として敗訴者が負担しますが、当初は申立人が負担することになります。また、相手に財産がないため強制執行ができなかったり、存在すると思っていた財産がなかったりして空振りとなり回収ができなかったような場合には、事実上債権者が負担することになります。

 

また、裁判所はだれでも使うことができますが、手続きは簡単ではないため確実に行うためには弁護士に依頼することが大切です。そのため、裁判所を利用する場合には弁護士に依頼する費用も考慮する必要があります。

 

債権額の多寡

裁判所を利用するべきか否かの判断材料の一つとして、債権額も考慮する必要があります。
費用がそれなりにかかる以上、債権額が小さいほど利用がしづらくなるからです。
回収に失敗した場合の影響が大きいこともあり、債権額が大きいほど確実性のある裁判所を利用した方法の重要性が高まるといえます。

 

相手方との関係

裁判所を利用するということは第三者が介入するということであり、事態をそれだけ大きなものとします。また、多くの人にとって訴えられることはもちろん、裁判所から何らかの連絡が来るだけでも大きなプレッシャーとなります。

 

裁判所を利用することのメリットの一つとして、そのような心理的な圧力を利用することで任意に支払ってもらうことが期待できるほどです。

 

それだけ強力な方法であるだけに、相手方との信頼関係が崩れるおそれがあります。
支払いが遅れたのは一時的に資金繰りが悪かっただけで、すぐに支払うつもりだったような場合では、相手が意固地になって支払ってくれなくなるかもしれません。

 

特に、長年の取引関係にあるような場合には今後の取引のことを考えると安易に選択することはできないといえます。

 

税金

不良債権となり回収が不可能となった場合には損金処理により税金を軽くする方向で処理することも考えなければなりません。

 

損金処理をする場合、回収が不可能であることを税務当局に納得してもらわなければなりません。
特に債権放棄を行う場合には寄付金として新たに課税対象となるおそれも否定できませんから、回収の努力をしたことを明確に証明する必要があります。

 

裁判所を利用していれば、判決書や調停調書、和解調書などの公的な書類で証明することが可能となります。

 

小括

裁判所を利用すべきか否かの判断は単純な二者択一というわけにはいきません。
まずは裁判所を利用しない方法を試してみて、効果が期待できないことがわかったら裁判所の利用を検討するというのが一般的だと考えられます。ただし、執行が困難となるおそれがあるようなときは直ちに仮差押えなどが必要となることもあります。

 

裁判所を利用した方法も訴訟のほかに調停や支払督促などいくつも種類が用意されています。個別のケースによって最適な方法は異なりますから弁護士に相談することが大切です。

 

 

■裁判所を使わない手続き方法

裁判所を利用しない方法にもさまざまな種類があります。
ここでは代表的な方法について見ていきます。

 

電話、メール、FAX

支払いが遅れていると一口にいってもその理由はさまざまです。
資金繰りが悪いのかもしれませんし、失念しているだけかもしれません。あるいは債務の存在自体を認識していないのかもしれません。

 

うっかり忘れているだけであったり債務を認識していなかったりするような場合には、それに気づいてもらうだけで十分です。

 

そのためには、手軽な方法である電話やメール、FAXによる催促が考えられます。
単純な方法ではありますが悪質とはいえない遅延に対しては効果的といえます。
時間も手間も大してかからず多くの場合に利用可能です。

 

債務の存在を否定しているようなときであっても、はじめから支払ってもらえないはずだと決めつけないことも大切です。不満はあっても支払ってもらえる可能性はゼロではないからです。

 

普通郵便

請求書を普通郵便で送付し催告をする方法も重要です。
電話などでは連絡がつかないようなケースでも連絡がとれるケースがあるからです。

 

この際、普通のはがきなど請求書であることやその内訳が第三者にわかるような方法を用いると、債務者の反感を買うおそれがあるので注意が必要です。

 

直接訪問

電話などで連絡がとれないような場合などに直接相手方の住所などに赴いて請求する方法も有効です。
電話よりも心理的なプレッシャーがかかり、素直に応じてもらいやすくなる効果が期待できるからです。

 

この際、退去を命じられたのにも関わらず居座ると不退去罪に問われるおそれがあるので注意が必要です。

 

内容証明郵便

郵便局のサービスである内容証明郵便を利用する方法もよく用いられます。
どのような内容が送付されたかが証明されるだけですが、本気で回収しようとしているという意思が伝わるため心理的な圧力がかなりかかります。無視すれば訴訟などの手続きを起こしてくるのではないかとプレッシャーを感じるのです。
弁護士が作成名義人となっているとさらに効果的です。

 

消滅時効

債権には消滅時効があるため一定の期間が経過すると時効を援用されて請求できなくなってしまいます。催告をすることで6か月間は猶予されますが裁判上の請求などの手続きをしないと時効を止めることはできないので注意してください。くわしくは弁護士に相談してください。

 

和解

相手の資産状況が悪い場合には、すぐに支払えと言っても無理があります。
そこで、分割払いや弁済期を延期するなどの提案をし新たな契約をする方法が考えられます。

 

場合によっては保証人を立ててもらったり、金額が大きい場合には抵当権などの担保権を設定してもらったりすることも考えられます。

 

新たな契約を書面にすることも大切です。口頭での約束も契約としてもちろん有効ですが、後日の証拠にするために必要だからです。

 

その際、公証人役場に行き強制執行認諾文言付き公正証書を作成することも有効です。これは将来強制執行を行う場合に必要な債務名義となるからです。これにより裁判を行う必要がなくなるのです。執行されたくないという動機にもつながりますから任意の支払いを促す効果も期待できます。

 

 

■弁護士に依頼することとの関係

弁護士に依頼すると必ず裁判所を利用した手続きをとると思っている人が少なくありません。
ですがそれは誤解であり、訴訟手続などは回収のための手段の一つに過ぎません。大切なのはいくら回収できるかということであり、そのためのコストや時間も重要だからです。

 

実際にはそれぞれのケースに最適な手段を検討し裁判所を利用するか判断することになります。
前記したような電話や請求書などによる催告も行います。
それでは専門家に依頼する意味がないのではないかという疑問をもつ方もいるかも知れません。
ですが実際には、債権者が直接請求しても一向に支払わなかった債務者が、弁護士からの請求を受けると一転して素直に支払うということがあります。

 

これは債権者の本気度が伝わるとともに訴訟などの強制的な手続きをとられるのではないかという心理的な圧力を感じるからです。
このように同じ手段を使っても弁護士が行うというだけで意味が大きく変わるのです。

 

迅速に回収が可能ですから財産の隠匿の可能性も減らせます。

 

残念ながら回収が不能となった場合でも、弁護士が対応したという事実があれば回収不能であることが認められやすくなり、損金処理がしやすくなるというメリットもあります。

 

 

■まとめ

  • 裁判所を利用した方法は費用や時間がかかることから、債権額が大きい、確実な回収が必要、任意の支払いが期待できない場合などに適しています。専門性が高いため弁護士に依頼することも大切です。
  • 裁判所を利用しない方法は容易ですが心理的圧力が弱いため効果は限定的です。単純な催告では消滅時効を完全に止めることもできません。
  • 財産の隠匿のおそれがあるときは仮差押えなどの手続きが必要となります。迅速に行わなければ回収が難しくなります。
  • 弁済が困難なときは分割払いなどの約束をする方法があります。証拠とするため書面にすることも大切です。
  • 弁護士に依頼したとしても直ちに訴訟になるわけではありません。ケースごとに最適な手段が選択されます。