目次
はじめに
ポイント1~損害の種類
ポイント2~求める相手
ポイント3~物的損害について
ポイント4~人的損害について
ポイント5~過失(落ち度)の程度
まとめ
 

■はじめに

企業が営業上必要な車を運行している場合、交通事故に巻き込まれることがあります。
 
これにより修繕や交換などの必要が生じた場合、車両そのものの損害のほか、営業がしばらくできなくなるため、営業上の損害が発生します。
 
トラックなどの運送用車両の場合には、積荷に被害が及ぶこともあります。
 
交通事故による被害は自社の車が稼働中の場合に限られません。
店舗や事務所に車が突っ込むような大きな事故が起こることもあります。
 
また、従業員や役員が死亡したり重症を負ったりする人身損害が発生することもあります。
これにより、営業上の損害が会社自体に生じることになります。
 
ここでは、企業活動によって予想される交通事故による被害について、主に会社が被害者の場合を想定して解説していきます。
 

■ポイント1~損害の種類

損害の種類は、物的な損害、身体的な損害(人身損害)、精神的な損害があります。
会社が被る損害としては、物的損害が特に問題となります。
 

■ポイント2~求める相手

・加害者
まず、第一に考えられるのは相手方本人です。
ですが、通常は任意保険に入っているため、直接本人への請求を考慮しなければならないのは、無保険の場合くらいと考えられます。普通は、次に述べる加害者の加入する保険会社に請求していきます。
 
なお、自賠責保険は強制加入のため、完全な無保険ということは考えにくいといえますが、

自賠責保険は人身に被害が発生した場合の制度ですので、物を対象としては使えません。

・加害者の保険会社

通常は、加害者の契約している保険会社の担当者と交渉していくことになります。

普段から事故処理を行っているプロであり、なるべく保険会社の負担を軽くしようとしてきますので、その言葉をうのみにすることなく、賠償額などに少しでも不満が生じれば、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
 
・自己の加入する保険会社
相手方が無保険かつ無資力であったり、自損事故だったりしたような場合、自己の保険会社に対し、契約の範囲で請求していくことになります。
 

■ポイント3~物的損害について

・車両自体
自動車やオートバイなどの車両自体の修理費用が請求できます。
 
修理業者に見積りを立ててもらい、明細書を保険会社に提出することにより請求していきます。すでに修理に出していたり、修理を終えていたりする場合には請求書等を提出します。
 
ただし、修理費用の全額が認められるとは限りません。
その事故に起因して発生したものではないと保険会社が判断した場合、減額されてしまいます。トラブルになりやすいポイントの一つです。
 
修理費用が多額にのぼり、買い替えたほうが安上がりになることもあります。
このときに考慮されるのは、事故直前の価格です。この金額が認めてもらえる上限ということになります。車を買い替えたからといってその全額が認められるわけではありません。
 
買い換える場合に一つ気になることは、税金や登録費用など諸経費がかかることですが、廃車など買い換えざるを得ないような場合には、これらの費用も損害になりますので請求できます。
 
修理したことにより市場価値が落ちることがありますが、このような評価損については、保険会社はなかなか認めてくれません。
ところが、裁判例では評価損として、修繕にかかった金額の10%から50%程度、事案によってはそれ以上の賠償を命じているケースは少なくありません。
 
このことから、弁護士の介入によって初めて評価損を損害として扱ってもらえる可能性があることがわかります。
 
一般的に評価損の算出は、1.車両価格が高額であるか、2.修理費用の額、3.車両の骨格部分(フレームやシャーシー等)の修理であるか、4.車両登録からの年数、5.走行距離などを総合的に評価して行われています。
 
最も重要な点は、商品価値の下落の有無にあるとされ、この有無で請求ができるか、できるとしてどの程度まで認められるかということが影響を受けます。
 
したがって、高級車両について車両登録から年数が経っておらず、走行距離もさほどなく、骨格部分を修理したことで商品価値が下落しているにもかかわらず、評価損として扱ってくれないようなときは、弁護士に依頼することで賠償額が増える可能性があります。
 
・運送用車両
トラック、バス、タクシーなどが被害にあった場合、修理をしている間は営業ができず、その分の損失が生じます。したがって、本来稼げたはずの金額について請求可能です。
 
ただし、予備の車両があるような場合には、営業損失は生じない点に注意が必要です。
 
・代車
レンタカーを利用したようなときは、その費用についても請求できます。
 
・荷物
運送用トラックなどが被害にあったような場合に、積荷が被害を受けたときは、その積荷の価額についても請求できます。
 
通常は物理的に損傷のある場合に請求が認められますが、経済的な交換価値が無くなっている場合にも請求が認められます。
どのような場合かといいますと、壊れている可能性がある場合に、それを検査すると費用がかかりすぎるし、かといって検査をしないで出荷すると企業としての信頼を失い甚大な損害を受けるような場合です。
 
裁判例としては次のケースが有名です。
※運送保険契約上の保険金支払い事由としての「損害」に該当するとしたケース。
 
筆ペンおよそ16万本を積んだ大型事業用貨物自動車が、普通乗用車とぶつかるなどした交通事故にあい、車両は全損状態となり、筆ペンの梱包箱は壊れ、路上にばらまかれる筆ペンもあったという事例について、大阪地裁(平成20年5月14日判決)は、ここでいう「損害」とは、交換価値を失うことであり、それには物理的に壊れただけではなく、経済的な商品価値を失うことも含まれるとした上で、今回のような大きな事故に見舞われた商品を事情を明かして正規の商品として取り扱うことは相当ではなく、一方で事故にあったことを隠して販売すれば、企業としての信頼を失墜させ営業上甚大な損失が発生することが予想できる。そうすると全品の検査が必要となるが、採算がとれなくなってしまうため、物理的に損傷していることが確認できなくても、「損害」にあたるとしました。
 
つまり、見た目が問題なくても、事故の態様と商品の内容によっては損害として賠償を求めることができるということです。
 
このように裁判所は、荷物の損害について柔軟に判断してくれていることがわかります。
 
正規品として扱うことができないのに、損害を認めてくれないときは、弁護士に相談することをおすすめします。
 
・店舗、事務所が壊れた場合
まず、建物等の物理的なものに問題が起きていれば請求できます。
 
その他に、その建物が使用できないことにより被った営業上の損失も請求できます。
例えば、コンビニの店舗に自動車が突入する事故が発生し、1か月間営業ができなかった場合、その間の利益分についてもできます。
 
・慰謝料(精神的損害)
物的損害では、原則として慰謝料請求は認められていません。
 

特段の事情があるケースでは、理論上は物的損害について慰謝料請求が認められる可能性がありますが、現実的には請求が認められた事例はあまりありません。

 
典型的な例として、家族同様に扱われている犬や猫などのペットについて、死亡したり重い後遺症を伴う重症を負ったりしたケースについては、飼い主に慰謝料請求が認められることがあります。
 

■ポイント4~人的損害について

・従業員
従業員が被害にあうことで、会社が得られるはずだった利益が無くなってしまうことがあります。
 
例えば、営業成績がトップの従業員が被害を受け、後遺症のために会社全体の売上が半減してしまったような場合です。
 
結論からいえば、このような損害が発生したとしても、会社としては補償を求めることはできません。
 
本来企業は、従業員が病気や事故にあった場合に備えて、他の者を用意しておくなどの対策をとることができること、従業員と会社との関係は雇用契約に基づく債権関係にあるが、債権侵害の場合、意図的に侵害したときのみ賠償が認められることなどが理由です。
 
・役員
通常の会社の場合、代表取締役をはじめとした役員が被害を受け、それにより会社に損害がおきたとしても、前記従業員の場合と同様に、会社としては請求できません。
 
例外的に判例が認めているものとして、会社機関としての代替性が否定され、しかも経済的に法人と代表者とが一体的な関係にあるような場合には、法人代表者の被害により、法人自体が損害を受けたときは、その損害の賠償を求めることができます。
 
判例のケースは次のようなものです。
 
被害者は薬剤師であり、個人で薬局を経営していたが、税金対策のために有限会社をつくり、その唯一の取締役となり自ら薬剤師として当該薬局の一切の業務を行っていたところ、事故にあい視力障害を被ったため会社の利益が減少したという事例です。
 
会社=経営者個人の状態です。
 
一つ疑問に感じやすい部分は、面倒なことをせずに個人として請求すればいいのではないかという点ですが、個人としての報酬金額が事故前後で変わらなかったため、個人としての請求が難しかったという事情があります。
 
このように、個人と会社が経済的に一体といえるような特殊な場合のみ法人からの請求が認められています。
 

■ポイント5~過失(落ち度)の程度

交通事故の場合、一方的に相手に非があることもありますが、自分の側にも落ち度があるとされることも多く、その場合、落ち度の割合によって請求できる金額が変わります。
 
例えば、10%の落ち度があるときには、請求金額が10%差し引かれてしまうわけです。
 
ここで気をつけなければいけないこととして、自分たちの側にも問題があるということは、その部分については加害者になりうるわけです。自動車同士の事故の場合には、相手の自動車にも損害が生じているはずだからです。
 
自社の車の損害が100万円、相手の車の損害も100万円として、相手が80%、自社の側が20%の落ち度があるとすると、自社の損害については80万円の請求が認められ、相手の車については20万円の賠償義務が生じることになります。つまり、実際には差額の60万円のみ請求できることとなります。
 
もしも相手の車が特殊な車両であり、その損害が500万円だったとしたらどうでしょう。自分の方が20%のときは、100万円の賠償義務が生じる事になります。
相手のほうが悪いのに、実際の負担は自社のほうが大きくなってしまいます。
 
この例では、過失がない、少なくとも10%くらいにすることができれば、被害者が賠償するような理不尽なことにはなりません。
 
このように、落ち度の割合が決定的に重要となるため、交渉には細心の注意が必要です。
 
自己の加入している保険会社に示談交渉を依頼することも考えられますが、落ち度の判定で納得いかないことも多々あると思います。この判定は法的判断であり、法律家ではない保険会社の人間では、裁判実務と異なる不利な割合にされてしまうことがあります。
 

実際の過失割合の算定は難しいので弁護士に相談することをおすすめします。
どうしても自社の負担が大きくなるようなケースでは自社が加入している保険会社を頼ることになります。

 

■まとめ

・損害の種類として、物的損害、身体的損害、精神的損害がありますが、会社の損害としては物的損害がポイントとなります。
・請求の相手方としては、加害者本人、加害者の保険会社、自己の加入する保険会社が考えられます。

通常は、加害者の保険会社と交渉することになりますが、保険会社は保険金を少なくしようとしてきますので気をつけなければなりません。

・自社の車が破損した場合、事故直前の時価を上限に、修理費用を請求できます。買い換えざるを得なかった場合、取得税や登録費用などの諸費用も請求できます。修理に出す前でも見積書を提出して請求できます。
・営業用車両の場合に、遊休車などがないときは、逸失利益も請求できます。
・修復歴車として市場価値が落ちる評価損があったとしても、保険会社はなかなか認めてくれませんが、弁護士が介入することで損害として認められることがあります。
・積荷があった場合、外見からは問題がなくても事故の態様によっては損害を認められることがあります。
・役員や従業員が死亡したり重症を負ったりして売上が落ちたとしても、賠償を求めることはできません。ただし、会社=経営者個人といえる経済的一体性があるときは、認められることがあります。
・落ち度がどれくらいあるかによって損害の負担額も変わりますが、相手の車が高額な場合は、相手のほうが悪くても、こちらが賠償しなくてはならないことがあります。落ち度が大きいほど影響があるので、その認定には注意が必要です。
 
保険会社は内部のマニュアルに基づき賠償額を提示しますので、弁護士が交渉をするだけで賠償額が変わることがあります。
 
不安を感じたり、過失割合や賠償額に不満があったりする場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。