目次
■個人で請負代金の回収することを困難にしている5つの事情
・5つの事情をおさえた上でどうやって請負代金を回収すればいいのか
■メリット1 契約内容に不備や漏れがないか確認できる
■メリット2 不利な内容での契約を回避できる
■メリット3 会社対個人という図式で不利な立場を防止
・請負代金の回収トラブルで弁護士が出てきたら弁護士を
■メリット4 請負代金の回収を一任することができる
■まとめ
債権の回収問題の中で、請負工事の代金の回収は売掛金とは違った回収の難しさがあります。電子部品の売掛金の回収には、電子部品業界の特徴や事情が絡んできます。賃料の回収には、不動産業界に特有の事情や特徴が絡んできます。同じように、請負工事の代金の回収にも、請負の特徴や事情が絡んできます。
債権を回収する方法の中でも代表的な方法である通常訴訟や調停、支払督促などは基本的に業種を問わず使うことができます。しかし、債権を回収する方法を講じれば100%回収できるというわけではなく、
それぞれの業種の特徴や事情を考慮して進めなければ、回収率はぐんと下がってしまいます。これは、工事の請負代金を回収する場合も同じです。
工事の請負代金回収を弁護士に相談することで、回収率のアップを期待することができます。また、スムーズな工事の請負代金の回収も期待できます。なぜ弁護士への相談が回収率をアップさせると共にスムーズな回収に繋がるのか、4つのメリットで確認します。工事の請負代金の回収を困難にしている業種の特徴や事情も合わせて確認します。
■個人で請負代金の回収することを困難にしている5つの事情
発注者が指定期日までスムーズに支払いをしてくれれば問題ありません。しかし、請負代金は「お金の問題」だからこそ、時に発注者との間にトラブルが発生し、請負人が自ら回収に乗り出さなければならないことがあります。ただ、請負人が個人で請負代金を回収することは、非常に難しいと言えまず。なぜなら、請負特有の5つの事情があるからです。
請負代金を回収することを難しくしている事情は「請負は信用と信頼で仕事を受注する」「確認を後回しにして発注者と請負人の間に齟齬が生まれる」「契約書や取り決めに不備があった」「請負代金は基本的に仕事完成後の支払いである」「請負人という個人に対して発注者が会社という図式」の5つです。
①請負は信用と信頼で仕事を受注する
請負の場合は、発注する側である建設会社や建築会社と請負人である職人の「信用」や「信頼」が絡んできます。発注者と請負人は既に信頼関係を築いている場合が少なくありません。「この工事をお願いします」「わかりました」で仕事の発注が行われる関係です。
発注者は何度も同じ請負人に発注していることも珍しくありません。だからこそ請負代金の回収は難しくなります。債権の回収によって良い関係を壊してしまうかもしれないという懸念があるからです。
信頼関係を壊したくない。請負代金の回収によって、もう仕事を発注してもらえないかもしれない。お得意様を失うかもしれない。だからこそ、請負人側は請負代金の回収を諦めてしまうことが少なくありません。
特に請負人は、訴訟や調停などの法的な回収手段は避ける傾向にあります。法的な手段でなければ回収が難しい局面では、請負代金の回収を諦めてしまいがちです。
②確認を後回しにして発注者と請負人の間に齟齬が生まれる
長年の付き合いによる信用や信頼から、請負では契約書類の確認を後回しにしてしまうことがあります。
発注者である会社と職人の付き合いが長ければ、「工事をお願いします」「わかりました」で先に仕事を受ける旨を伝え、契約書面を取り交わす前に仕事の準備に取り掛かってしまうことがあるのです。お得意様から「急ぎです」と言われれば、職人側もなるべく応えようと考えます。
この「契約書面などの準備や確認を長年の信頼感から後回しにしてしまう」ことが多いのも請負の特徴です。
契約書は債権の証拠の1つになります。確認を後回しにすることによって、契約書の内容と請負工事の内容に齟齬が生じる可能性があります。請負代金を回収しようとしても難しくなり、回収自体を諦めてしまうケースがあります。
③契約書や取り決めに不備があった
契約書を用意しても、不備があったり、重要事項の取り決めを忘れてしまったりすることにより、請負代金の回収をすることが難しくなります。
たとえば、契約書上の請負代金の支払時期の記載に不備があったとします。請負人はそのことに気づいていませんでした。何時も請負人に発注する会社はそれでもきちんと払ってくれていたので気づかなかったのです。トラブルにもなったことはありませんでした。
しかし別の会社の請負をした時に契約書の不備を突かれて、請負代金の回収トラブルになりました。このように、契約書を用意しても記載などに不備があれば、その分だけ請負代金の回収が困難になります。
契約書を工事内容に合わせてチェックすることは大変なことです。だからこそ契約書や取り決めの不備に気づかず、後でトラブルになってしまうことがあるのです。
④請負代金は基本的に仕事完成後の支払いである
請負人が仕事を完成させて、工作物や建築物を引渡します。それと引き換えに、仕事を発注した人(会社)が請負代金を支払うという契約が請負契約です。したがって、請負契約では、基本的に支払いが工事の完成後になります。契約時に一部の代金を支払うといった契約や、進捗に合わせて一部の代金を支払うなどの契約で請負が行われることもありますが、「請負人が仕事を完成させてはじめて支払いを受ける」のが請負契約の基本です。
しかし、仕事が完成し、やっと請負代金を払ってもらえる段になっても、発注者が支払いに応じないことがあります。たとえば、発注者が工作物や建築物に瑕疵があると主張している場合がこれにあたります。
この場合、スムーズに請負代金を支払ってもらうことが難しくなります。ケースによっては、瑕疵をめぐって、訴訟で決着をつけることもあります。支払いがなかなか受けられない。訴訟費用や弁護士費用の捻出も必要である。請負人の生活にも大きな打撃を与えます。
発注者側の請負代金債務と請負人の損害賠償債務の相殺などの主張に対して、少しでも代金が入るならと妥協してしまうことがあります。中には請負代金の特徴を悪用し、請負代金の減額を狙う悪質なケースもあります。瑕疵の指摘が真実か否かに関わらず、生活のことを考えるとゼロよりだったら少しでもすぐに請負代金を受け取りたいと、請負人が涙を呑むのです。
⑤請負人という個人に対して発注者が会社という図式
請負の場合、発注者が建設会社や建築会社で、請負人が個人というケースが少なくありません。会社は弁護士と顧問契約を結んでいることも多いため、個人である請負人が法的に弱い立場に立たされてしまいます。さらに、請負人は会社側から仕事を受注しているという立場でもあるため、請負代金の回収においては不利になることが考えられます。
仕事を発注する側である強い立場と、仕事を受ける側である弱い立場。組織という強い立場と、個人という弱い立場。会社の顧問弁護士という法的な知識に強い立場と、法律の深い知識を持たない請負人という弱い立場です。この図式により、請負人が個人で発注者である会社から請負代金を回収することが非常に困難になります。また、会社の顧問弁護士という法律の専門家が出てくることによって威圧感を覚え、請負代金の回収を諦めてしまうこともあります。
・5つの事情をおさえた上でどうやって請負代金を回収すればいいのか
業種や契約ごとに特徴があります。請負にも5つの特徴があり、請負人が債権の回収をする際の壁になってしまうことがあります。信頼や信用のともなう仕事関係は、素晴らしいものかもしれません。しかし裏を返すと、信頼や信用を壊すことを恐れるあまり、債権の督促や回収に踏み出すことが難しいという現実があります。
発注者が会社という点も、信頼関係があれば心強さがあります。ですが、いざトラブルになると立場の強さと弱さが明確になり、請負代金の回収を阻む壁になってしまうことが考えられます。
請負代金の回収をスムーズに行う方法の1つは、弁護士への相談です。弁護士へ請負代金の回収を相談することで得られる5つのメリットによって、請負代金の回収率をアップさせることができます。
■メリット1 契約内容に不備や漏れがないか確認できる
弁護士に請負代金の回収を相談するメリットは、第一に「契約内容や契約書面に不備がないか法的な観点でチェックできる」という点です。
請負は、建物の修理から大規模な工事まで、様々な仕事が考えられます。発注者の要望により、似たタイプの仕事でも、契約内容が変わってくることがほとんどです。工事に使用する材料や工法、進め方など、請負代など、案件が100あれば100通りの違いが出てきます。
契約書などの重要書類についてはテンプレートを用意しておくことも考えられますが、工事の内容が変われば契約書も変わってくるためテンプレートをそのまま使うことはできません。また、案件ごとの違いを契約書に漏れがないように活かす必要があります。しかし、法的な知識がなければ、案件ごとの違いを漏れなく契約書に活かすことは難しいと考えられます。さらに、契約書に不備があると、不備を突かれる形で請負代金の未払いが発生する可能性があるため、法的なチェックをしておくことが必要です。
弁護士への相談によって、案件を契約書などの重要書類に活かすことができます。また、契約書に不備はないか、契約書などの書面に請負代金を請求する上での不安要素はないかを洗い出すことができます。請負代金の回収トラブルになるような不備や不安要素の対策をすることによって不払いを減らすことができれば、総合的に債権の回収率もアップすることになります。
■メリット2 不利な内容での契約を回避できる
建築会社や建設会社などから仕事を受注する場合、仕事をもらう側である請負人は弱い立場に立たされます。不利な条件について不満をもらしたりすると「他にも請負人はいる」と関係を切ることを示唆されることもあるため、会社側が有利な請負代金の条件で請負契約を結ばされることがあります。また、知らず知らずのうちに、請負代金の面で不利な条件で契約してしまうこともあります。契約内容において請負人が不利だと、債権の回収においても不利な立場に立たされてしまう可能性があります。請負人が不利な契約は、請負代金の回収率を下げてしまうのです。
弁護士に相談することにより、その契約が請負人にリスクのある契約かどうかがわかります。また、その契約によって請負代金を回収する上でどんなトラブルになる可能性があるかを精査できます。高リスクの請負契約を弾いたり、リスク対策をしたりすることで、総合的に請負代金の回収率をアップさせることができます。
■メリット3 会社対個人という図式で不利な立場を防止
請負の場合、発注者は会社で、請負人は個人ということがよくあります。この場合、どうしても会社の方が強い立場になり、請負人の方が弱い立場になりがちです。発注者である会社に交渉しようとしても、「会社側から仕事をもらっている」「契約内容の交渉をすれば、仕事を切られてしまうかもしれない」と考え、遠慮が出てしまいます。また、会社側の要望に対しても、「請負工事の期日や費用の面で難しい」と思っても、立場を考えるとなかなか会社側に対して主張することができません。
さらに、会社側は弁護士と顧問契約を結んでいることがあるため、交渉の場に弁護士が出てくることがあります。請負人という個人に対し弁護士は、会社側の立場であるという面でも強い立場ですが、法律のプロという面でも強い立場です。弁護士が出てくると、特に強く交渉の不利さを覚えるのではないでしょうか。
こんな時はやはり弁護士の出番です。請負人が弁護士に交渉の代理人になってもらうことにより、不利な立場に陥ることを防ぐことができます。スムーズな交渉も可能になります。
・請負代金の回収トラブルで弁護士が出てきたら弁護士を
請負代金の回収においても、会社側の弁護士が出てくることにより、請負人が法的にも仕事の面でもさらに弱い立場になってしまうことがあります。
弁護士は債権や契約のプロです。契約や債権のプロを相手に個人で債権の回収をはかることは、どうしても不利です。プロには同じプロをぶつける方がスムーズな解決が期待できます。弁護士同士の話し合の方が平和的に解決できる可能性があるというメリットもあります。
■メリット4 請負代金の回収を一任することができる
請負代金の回収には色々な方法があります。メールや電話での督促といった自分でできる方法から、調停や通常訴訟、強制執行などの裁判所で手続きして行う回収方法まで様々です。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあり、方法によっては印紙代や切手代などの費用も必要になります。また、方法ごとに必要になる手続きが異なります。
請負代金を回収するためには「請負代金を回収しても費用でマイナスにならないかどうか」「時間的かつ労力的な負担」などを考えて方法を選択する必要があります。弁護士なら、請負代金の額や法的な手段を避けたいなどの要望や事情に合わせて請負代金を回収する方法を提案することができるというメリットがあります。債権の回収を弁護士に一任することも可能です。
■最後に
一言で債権の回収といっても、その債権が生じた業種によって特徴と違いがあります。その特徴を把握した上で債権の回収を進めなければ、回収率がぐんと下がってしまいます。請負にも5つの特徴があります。請負代金の回収を考えているなら、請負契約の特徴をおさえ、回収についての策を練ることが重要になります。
弁護士は請負の特徴や請負人の事情を把握していますので、より良い請負代金の回収について適切なアドバイスを受けられるというメリットもあります。
弁護士に相談したからといって必ず法的手段を用いなければならないわけではありません。早めの相談こそが、請負代金の回収率アップに繋がるのです。