目次

潜在能力の発掘

人的担保

まとめ

 

無資力の債務者から債権を回収することは相当の手間や苦労がかかることを覚悟する必要があります。現に財産を有する債務者が相手であれば、
最終的には訴訟等の手続で強制的に回収が図れますし、
どこに財産があるのかが明確なのですからポイントも絞り込むことができます。

しかし、無資力の債務者が相手となるとそうはいきません。
相手には無いものは無いし、無い以上袖は振れないからです。
むしろ自分には支払えないということを開き直って主張してくる可能性もあります。
債権者にとって堂々としている債務者程面倒なものはありません。

そのため、債権回収を実現するにあたっては、
債務として引き当てる財産の「無い」ところから「有る」を作り出す必要があります。
この財産創出こそが、債権者が無資力の債務者を相手に満足する結果を得る数少ない方法といえるでしょう。

潜在能力の発掘

まず、無資力者から債権を回収する方法の第一は、潜在的な支払能力を見つけ出すことから始まります。
いま、無資力者がどのような資産状況にあるのかを徹底的に調査した上で、
債権回収に役立ちうる財産を発掘するのです。
当然債務者としては、債権回収のための引当てとなる財産が見つかったらそれを差し押えられるわけですから、見つからないように必死となるでしょう。
債権者としては、そんな債務者の隠した財産をうまく掘り当てられるよう、鼻を利かせる必要があります。
そのためにまずは、不動産等の登記簿に記載されるような権利を見つけることです。
このような権利は往々にして財産的価値が高いことから発掘することができれば、
差し押さえて強制執行をかけることにより、
債権回収を実現できる可能性があります。
そこで、これらの権利関係については徹底的に漁る必要があります。
具体的には、
不動産であれば、登記事項のうち、全部事項証明書(抹消された過去の登記関係も記載されている証明書のこと)や、閉鎖登記簿謄本(不動産が閉鎖されて無くなったことを示す謄本のこと)まで調べ上げることが望ましいといえます。
そしてもしこの中で、
債務者名義のものが見つかれば、引当てとすべき財産を掘り当てたといえることになります。
仮に、債務者名義でないものしか見つからなかったとしても、
登記名義の推移が債務者から別の人へ登記が移転している場合であって(登記簿であれば、名義に下線が入っていない者が現在の名義人です。)、その登記移転に関する権利関係の変動によって債務者が無資力になることにより、結果的に債権者が債権を回収できなくなるという状況に陥ることを債務者も登記を移転される者も知っていたような場合、
債権者は詐害行為取消権というものを行使する
ことにより、
その登記移転や権利の変動を取り消すことができます。(民法423条)
そのため、債務者の権利関係は過去も含めて洗いざらい整理をする必要があるのです。
とはいえ、こういった債権者のための権利というものはいつでも使えるわけではありません。
先ほどの詐害行為取消権であれば、債権者が取り消すことのできるような事情を知ったときから2年が経過すれば時効により権利が行使できなくなりますし(民法426条)、
このような権利を実際に行使するにあたっては、
訴訟を提起する必要があるため、
債権者としてはかかる時間やコストを考えれば積極的に採用できない手段ともいえます。
また、債務者が無資力状態になっている場合、
当然他の債権者も債務者から引当てになるような財産を調査している可能性もあります。
そうなると、どの債権者が早く債務者の財産を発掘できるかという争いになりかねません。
特に、無資力の債務者を相手にする場合、
残された財産というパイに多くの債権者が飛びつくと考えられます。
そのため、債権者は他の債務者に出遅れた結果泣き寝入りする羽目にならないよう、
迅速を心がけて調査していく必要があります。
そうはいっても、他の債務者の方が調査の開始が早かった場合、
迅速に調査する努力をしても、
債務者の財産を発見した時には既に、
他の債権者が差し押さえた後という状況も考えられます。
しかし、この場合であっても債権者が何とか債権を回収する手だてはあります。
まずは、自身も債権者の1人として現在行われている差押手続きに参加することが考えられます。
この場合は、差押え後の競売手続きによって発生した代金を分配するにあたって、
自己の債権額に応じて配当を受けることとなります。(民事執行法871項)
また、債務者が、本来有しているはずの財産を隠匿しているがために
無資力のような状態になっている場合、
隠匿している財産を掘り出して引当てにしていく必要があります。
この場合、隠匿している財産が動産(不動産とは異なり、PCや貴金属等比較的携行性のある財産のこと)である場合、中々隠している場所を発見することは難しいです。
不動産登記のように客観的に調べることのできる資料が少ないからです。
警察機関等であれば、令状を示して隠匿財産のありそうな場所を隅々と調べあげるということもできるでしょうが、それができない普通の一般人に過ぎない債権者としては、とにかく隠された財産のしっぽを掴むべく、債務者の周囲の調べていく必要があります。
例えば、債務者が以前金目の物を有していたかどうか、
有していたとすれば今も有しているだろうか、
売却したとしたらその分の金銭が債務者の手元に渡るはずだが、
ある日を境に羽振りがよくなるような債務者の変化がないか、等多々の事情を調べてアタりをつけていく必要があります。
 
いずれの方法をとるにしても、
相手の情報を調査し、財産を発掘するには相当の労力と素早さが肝心となります。
相手に債務を支払うような資力が無いと感じた瞬間から、
いかなる方法で債権を回収するかの計画を立て、実践していく必要があるといえます。

人的担保

まず、第一に債務を履行すべきなのは債務者本人であることは間違いありません。
しかし、どれほど調査しても債務者に財産が存在しないような場合、
債務者の近辺に資力を有した関係者がいる場合には、
債務者本人から直接取り立てるよりも、
他の人に債務者の債務を肩代わりしてもらう、
いわゆる人的担保をとることの方が効果的な場合があります。
ですがこの場合保証人となる人に対する交渉は、あくまで任意なので限界があるということです。
保証人というのは直接お金を借りた人間ではないので、
早くお金を返すよう詰問しても効果がなく、
近親者ということもありますので、債務者の債務を保証してくれませんか・・・
というように、いささか謙った交渉を行わなければなりません。
そうなると、債権者側にも譲歩せざるを得なくなる可能性がでてきます。
例えば、債務を保証するから債務額を減額してほしい等が典型です。
もちろん、一銭も回収できずに債権が焦げ付くのに比べれば、
多少の減額とはいえ弁済の見込みがある以上そちらの方が望ましいといえます。

まとめ

 以上で、無資力の債務者から債権を回収するための財産の発見方法として、
物的財産の発見人的財産の発見の二つについて述べました。
これら二つについてはどちらが先決的というわけではないので、
債務者の特徴をみながらどの財産を発見しやすいかの目星を立てた上で実際に債権回収に向けた動きだしをするのが効率的といえます。
いずれにせよ債権回収は、
迅速な行動というものを常に意識しながら行うべきといえます。
無資力状態にまで陥っている債務者は多くの場合他からも借金その他の債務を負っている可能性があります。そうなると、他の債権者もこぞって債務者の残り少ない財産から債権分を回収しようと動き出すと考えられます。
この競争に遅れてしまうと回収できる債権が減額、あるいは1円たりとも債権が回収できないまま終わる事態になりかねません。
そのため、債権者としては債務者の動向に常に気を配りながら債権回収の計画をあらかじめ用意しておくことが望ましいといえます。