〇委任契約とは
委任契約とは、ある者(委任者)が、法律行為をすることを委託して、相手方(受任者)がこれを受託する契約のことをいい(委任契約とは、法律行為を行うことを委任者が受任者へ依頼する内容の契約である)、民法643条から656条にその規定が置かれています。
定義のなかでは、「法律行為」をすることを委託してということになっておりますが、法律行為でない事務の委託も委任の規定が準用されますので基本的には“委任者から委託された事務を処理する契約”については委任契約に該当するといえます。ちなみに、法律行為ではない事務の委託については「準委任」とよばれます(民法656条)。
このように、“委任者から委託された事務を処理する”ような場合には委任であるといえるため、委任契約は様々な形で用いられており、具体例もたくさん挙げられます。
例えば、弁護士に事件の処理や訴訟代理人を依頼することや、会社の顧問として業務に従事してもらうことについて、また、不動産業者に不動産の売却を依頼する場面などは、この委任契約が根拠となっています。また、意外と知られていないことですが、取締役や監査役といった会社の役員も会社から経営を委ねられているという点から、会社との間では委任契約を締結しているのです。
〇委任契約の特徴
まず、委任契約は、当事者間の申立と承諾があれば成立する諾成契約としても性格を有します。その特徴としては、委任契約は“高度の信認関係”をその基礎においているという点が挙げられます。事務を委託する者は、
「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって」委任事務を処理する事務を負っています(644条)。この「善良な管理者の注意を~」というのは、いわゆる善管注意義務と呼ばれるものです。
文面通り読むならば、善良な管理者つまり、丁寧に扱っていれば大丈夫そうですが、この「善良な管理者の注意」というものは、自己の所有しているものと同一の扱いではなく、それ以上の“一般的なレベル”での注意を求めるものであり、しかもその“一般的なレベル”というものは、債務者が従事する職業や社会的・経済的地位といった様々な事情に応じて、一般的に要求されるレベルの注意といわれており、受託した人の置かれている環境によってその注意義務の度合いが変わります。加えて、この善管注意義務は委託契約が有償であろうと無償であろうと変わらずに受託者側が負う義務になるのです。受託者側からすると、やはり一定程度の信頼関係の構築がなされた上ではないと引きうけるのが大変な契約といえます。そして、委任契約の原則形態は無償となっていて、委任契約の締結時に報酬を約束したときだけ有償契約となります(643、648条)。しかしながら、現代ではほとんどの場合が有償による委任となっています。先ほど指摘をしましたが、有償・無償関係なく善管注意義務が要求されていますので、無償ではとても受け入れられません。また、委任契約は解除の理由がなくともいつでも解除することができます(651条)。これも委任契約が当事者間の対人的信頼関係を基礎とする契約であるという点、つまり、“高度の信認関係”をその基礎においているという点から挙げられる特徴の1つであるといえます。
〇委任契約において債権回収が問題となる場面
では、委任契約における債権回収が問題となる場面については、どのような場合が挙げられるのかについて、少々指摘をしたいと思います。まず、最初に指摘できるとすれば、受任者の委任者に対する報酬請求権です。これは、有償で委任契約を締結した場合に、「委任に基づく報酬を支払ってください」という請求ですね。基本的には、委任事務を履行した後であればいつでも請求できます。もっとも、報酬の支払いについて特約がある場合には、この限りではありません(648条2項、624条2項参照)。また、受任者のせいではない理由で、委任契約がその履行の途中で終了してしまった場合には、受任者はその時までに履行した割合に応じた報酬を請求できます(648条3項)。
委任者に対する報酬請求のほかにも、受任者としては、委任者に対して「事務の処理にかかった実費を返してください」という、費用償還請求もすることができます(649条、650条)。
〇民法総則の代理権との関係
委任契約は“ある者(委任者)が、法律行為をすることを委託して、相手方(受任者)がこれを受託する契約”であるため、民法総則で出てくる代理権の授与と何が違うのか?という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。
この点については、委任が一定の事務処理を受任者が委託して処理するのに対して、代理権の授与というものは、代理人が本人(代理を依頼した者)に直接効果が生じる法律行為をなしうる権限を本人によって授与されるというものであり、法律上の構成はやはり明確に区別できる点があるといえます。委任契約に基づいて事務を受任している者(受託者)は、委託者本人としてではなく“あくまで受託者”の立場なのですが、代理関係における代理人は、代理した本人と同様の立場であるのです。
“法律上の構成はやはり明確に区別できる”ということが結果としてあらわれる場面が、代理人(あるいは受託者)がさらにその事項について代理(あるいは委任契約を締結)した場面です(このようなシチュエーションのことを、法律用語では「復代理」あるいは「復委任」といいます)。よりわかりやすくするために、Aさん・Bさん・Cさんを例として挙げて説明します。
本人Aが代理人Bに、とある事項Xについて代理をしたところ、その代理人Bがその事項Xについて、Cを代理人に据えたという場合のことです。この場合、原則として復代理人であるCの行為は本人Aへと帰属します。つまり、適式に復代理をおこなえば、その復代理人の行為により生じた結果は本人Aに生じることになるのです(ただし、復代理には様々な規定があるので、一概にはいえないところもあります)。
一方で、委託者A´がB´にとある事務Yを委任したところ、その受任者B´がその事務Yについて、C´を復委任した場合については、復委任したC´が相手方とした契約の効果は委託者A´には帰属しないのです。つまり、代理では本人と復代理人との契約関係が存在するものの、委任契約では委任者と復委任先の受託者との間には契約関係が存在しないのです。そういう意味で、やはり法概念としては別個のものであるといえます。
もっとも、代理権の授与と委任とは、“委任が法律行為の委託を目的とするものである場合には、委任が同時に受任者に対する代理権の授与を伴う”といったように、事実上同一の行為でなされることも少なくないといえます。
〇請負契約との関係
委任契約は、その契約の性質として契約当事者間でサービスの提供を対象とした契約を行っている点、請負契約と類似しているといえます。このように、契約の目的として、サービスの提供を扱う契約類型のことを、いわゆる労務型の契約といいます。労務型の典型契約(一般的に、民法典に具体的に規律されている契約類型のことをいいます)としては、委任契約と請負契約のほかにも、雇用契約や寄託契約といったものが挙げられます。
では、委任契約と請負契約の区別はどのように判断すればよいのでしょうか。実際のところ、請負契約と委任契約との区別は、理論的には可能ではありますが、微妙な事案もかなり見受けられます。例えばですが、「コンピュータのシステムを開発」するという業務委託の契約は、一般に請負と考えられていますが、委任と考えられなくもありませんし、実際に委任契約であると指摘する立場もあります。
その理由としては、前述の通り、請負契約は「仕事の完成」を目的とする契約であり、委任は事務を委託する契約であるという点そもそも契約の類型として類似していること、またそれに加えて、両方とも、請負人・受任者に一定の裁量権が認められているという点が挙げられます。一方で挙げられる相違点としては、債務内容の本質が少し異なる点です。つまり、請負契約が、“仕事の完成”というものにその本質があるのに対して、委任契約は仕事を完成することそのものが債務内容とはなっていません。
個別の契約について、請負契約と考えるか、委任契約と考えるか、その判断次第では、特に契約が中途で終了してしまった場合の対応等で、大きな違いが生じるおそれがあるといえます。
これら委任と請負という二つの契約については、正しく区別して理解することは難しい場合もあるため、委任契約書などを作成する場合は、これから自らが締結しようとしている契約が、委任契約なのか請負契約なのか、弁護士に相談しアドバイスをもらうことが重要と言えます。
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