平成25年7月3日東京地裁判決 不動産売買において居住者の死因が自殺であると説明されなかったことに対する損害賠償の事案

 

  • 事実の概要

原告は、被告Ⅰとの間で平成22年10月に賃貸マンションを約4億円で購入した。この売買契約の際、被告Ⅱが仲介業者として原告と被告①の間に入っていた。
本件賃貸マンションは平成22年4月ごろ、マンション一室で居住者が死亡していたのが確認されたが、居住者の死因は自然死であって事件性がないと判断された。そのため、被告Ⅰ被告Ⅱは原告との間の売買契約の際、原告によるマンション内での居住者死亡の確認に対して、自殺ではないと回答した。
その後、原告はインターネット上においてマンション内での居住者死亡は自殺ではないかと疑念視する書き込みがあったのを発見したため、マンション管理会社に確認したところ、自殺ではなく自然死であると回答を受けた。改めて警察に確認したところ、居住者の死因は自殺であるとの回答を受けた。
そのため、原告は調査説明義務の不履行として1億円の損害賠償請求を求めた。

  • 判決の要旨

建物は収益物件であるところ、本件建物の居室における自殺の有無は心理的瑕疵としてその収益率等に影響を与える事項であると認められるから、本件売買契約の売主である被告Y1が、本件売買契約締結時あるいは代金の決済時に本件自殺について認識していた場合には、本件売買契約上の付随義務として、本件自殺について買主に説明する義務を負う。
宅地建物取引業者は…宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)35条に基づく説明義務を負い、当該説明義務を果たす前提としての調査義務も負うものと解される。…被告らは居住者の死因に重大な関心をもつ不動産管理会社から「自殺ではない」との報告を受けており、またインターネットでの書込みはあくまで「自殺か?」という疑問形で問いかけられているに留まり、自殺について新聞等による報道がされた事実や、近隣で噂になっていた等の事情を認めるに足る証拠はなく、被告らには独自に直接、警察や居住者の親族に死因を確認するまでの調査義務があったとは認められない。

  • 解説

マンションをはじめとした不動産にあたっては売買時に居住者の死亡の有無について買主に説明することが求められます。住居という生活空間において過去死亡した者がいるという事実は、強い心理的な影響を与えるためです。実際、居住者が死亡したような場合は、その不動産の資産価値は一般的に数10%低下することが多いため、不動産取引における居住者の死亡の有無と、死因の説明は重要な義務と言えます。
また、死因などについては説明する義務があると同時に、居住者の死因がどのようなものであったかを調査する義務も付随して求められます。今回の判決も、被告らがこのような調査義務に違反したと言えるかが問題となりました。判決では、死因について自殺ではないかとする憶測が飛んでいたものの、あくまで憶測はインターネット上の噂レベルのものであったこと、及び不動産管理会社から自殺ではないとの報告を受けていたことから、ひとまず調査義務違反がないと判断されました。もっとも、自殺ではないかとの憶測が具体的であったり、多くの人々の間で広まっていたような場合は、死因についての強い関心が強まっていることから、独自に調査した上で死因を明確にする必要が生じる可能性があります。
不動産における死亡事実は、売り手にとっては隠したい事実であり、買い手にとっては詳しく知りたい事実な為、説明をしたか、していないかで紛争へと発展することが多いとされています。もっとも、後から知らされていない事実が明らかになるような場合は売主にとって不利な事実となることが多い為、売買時には可能な限り死亡に関する情報を説明することが必要と思われます。