一般先取特権の概要
一般先取特権とは、債権回収を行う際に優先して弁済を受けることが認められている特別債権の一種のことをいいます。通常、多数の債権者がいる場合、債務者の財産は債権者の保有する債権額に合わせて按分するのが原則ですが、一般先取特権は、例外的に優先的に債権回収ができるため、他の債権に比べて焦げ付く可能性が低くなります。難解な用語が並んでいますが、1つずつ解説をしたいと思います。
〇 先取特権とは
一般先取特権とは何かということを説明する前に、そもそも先取特権とは何なのか、わからない方がほとんどかと思いますので、先取特権についての説明をしたいと思います。
先取特権とは、「債務者が債務を弁済しない場合に、法律の規定によって債権者に債務者の目的財産の競売による換価金から優先的に配当を受けることを認める物権」のことをいいます。
たとえば、ある動産の売買代金の債権者(動産を売った側)は、債務者(動産を買った側)が売買に基づく代金を支払わないときに、当該動産を競売、つまり公に売りに出して、それによって金銭化された金銭(このことを「換価金」といいます)から優先的に売買による代金債権を回収する権利を有します(民法311条5号、321条)。つまり、
先取特権とは、法律が定める一定の債権者が、債務者と合意をなくしても、債務者の一定の財産から債権回収を行う手段の一つとして用いられるものなのです。
そういった内容から、先取特権はいわゆる法定担保物権の1つであるといわれています(法定担保物権とは、法定された要件を満たした際に認められる担保物権のことで、先取特権のほかに留置権(民法295条)が挙げられます)。
〇 先取特権が認められる理由―先取特権という制度の趣旨―
この先取特権の大きな特徴として、債権回収を実現する確率が上がるということが挙げられます。通常、多数の債権者がいる場合、債務者の財産は債権者の保有する債権額に合わせて按分するのが原則ですが、先取特権は、例外的に優先的に債権回収ができるため、他の債権に比べて焦げ付く可能性が低くなるのです。ここまでの説明だとまとまりすぎていますので、具体的な細かい内容について以下で触れていきたいと思います。
まず、上記で「通常、多数の債権者がいる場合、債務者の財産は債権者の保有する債権額に合わせて按分するのが原則」と述べましたが、これは民法上の原則の1つとして挙げられます、債権者平等の原則から導かれることです。債権者平等の原則とは、ある債務者に対する多数の債務者は、対等の立場で平等に弁済(支払い)を受けるのが原則である、という考えです。この考えによるならば、多数の債権者がいる場合には、各債権者の行える債権回収の範囲は、“各債権者が有する債権額に合わせて按分(基準となる数量に比例した割合で物を割り振ること)した範囲”に限られる、ということになるのです。
しかし、先取特権は、債務者の一定の財産から“他の債権者に優先して”自己の債権回収をはかることができる、ということをその内容としている権利です。つまり、債権者平等の原則とは相容れない権利であるといえます。
では、なぜこのような権利が認められるといえるのでしょうか。
その理由としては、常に債権者平等の原則を維持していては、不都合な場面がいくつかあるということが挙げられます。
たとえば、会社や事務所などの従業員は自身が働いたことの対価として賃金を受け取る権利(賃金債権)を得るわけでありますが、会社や事務所の経営が傾いてしまって、他の債権者らに会社や事務所が有する財産を根こそぎ持っていかれてしまった場合、従業員は自らの賃金という生活のためになくてはならない非常に重要な債権を回収できなくなってしまう場合が考えられます。こういったケースを避けるために、法は「雇用関係」により生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有するとしています(306条2号)。債権者平等の原則を維持するならば、会社や事務所の従業員は、会社や事務所に対して債権を有している取引先等の他の債権者と平等の地位になってしまい、他の債権者の中に埋もれる形で、債権回収の実現のためかなりの労力を割くことになりかねません。そこで、法は、“賃金債権という非常に重要な財産を保護しよう”という趣旨から社会政策的観点から従業員に、債務者(会社や事務所)の財産から“他の債権者に優先して”まずは自身の債権回収をはかることができるとしたのです。
このような社会的弱者が有する債権を社会政策的考慮から保護する場合のみならず、債権者間の実質的公平を実現するためや債権者の通常の期待・意思を維持するため、また、特定の産業の保護といった理由から、ある特定の債権者を保護すべきと考えられる場合に、その目的を実現するために先取特権が認められているのです。
〇 一般先取特権
ここまで、先取特権の具体的内容について、そして先取特権の制度の趣旨について説明をしました。ここからは、一般先取特権そのものについて説明をしていきたいと思います。
一般先取特権とは、債務者の全財産(「総財産」)を担保の目的物とします(306条)。もっとも、実行の場面、つまり財産を金銭化してそのお金を差押えることによって債権を満足させる場面では、「総財産」を一体として捉えるのではなく、個々の財産について権利を行使することになります。
具体的に、一般先取特権となる対象として、法律に定められているものは以下の4つになります(民法306条)。
①共有の財産等の管理により生じた共益の費用
②給料等の雇用関係の費用
③葬式に関する費用
④日用品の購入に関する費用
以下、この4つについて、さらに詳細についてみていきたいと思います。
① 共有の財産等の管理により生じた共益の費用(306条1号)
ここでいう共益の費用という言葉は、“他の債権者にとって利益になるような行為をした際にかかった費用”と言い換えると、わかりやすくなるのではと思います。共有の財産等の管理により生じた共益の費用について先取特権が認められる趣旨としては、ある債権者がこの「共益の費用」を支出することによって、他の債権者も利益を受けることができたのであるならば、まずは、その共益に資する行為にかかった費用について優先的に回収をさせることこそが、債権者間の公平にかなう、という点にあります。
「共益の費用」について、具体的に何が「共益に費用」に該当するか問題となりますが、民法では、「債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用」で債権者の共同の利益のために出費されたものについては、先取特権が認められるとします(307条1項)。
② 給料等の雇用関係の費用(306条2号)
この条文は、以前は「雇人の給料」という文言で定められていましたが、平成15年の民法改正で「雇用関係」とより意味を拡大した文言に改正されました。給料等の雇用関係の費用について先取特権が認められる趣旨としては、具体例を挙げて前述した通り、社会的弱者が有する債権を社会政策的考慮から保護するという点が挙げられます。この「雇用関係」の費用とは具体的にどの範囲の人々に適用されるのでしょうか。その点について、平成15年の民法改正前の判例になってしまいますが、最高裁昭和47年9月7日判決が「広く雇用関係によって労務を供給する者」は306条の対象となり、「労働法上の労働者や継続労務提供者に限らない」と判断しています。そのことからこの「雇用関係」というものは、かなり広範囲で認められるものであると考えられます。
③ 葬式に関する費用(306条3号)
「債務者の為にされた葬式の費用のうち相当な費用」についても一般先取特権の対象となっています。その趣旨としては、財産が乏しい者についても相応の葬式できるようにすることが、人間としての尊重・国民道徳の維持にかない、また、衛生面の見地からも必要であるといえることから、葬儀社をはじめとする葬儀を実施するものが、債権回収の心配をせずに葬式のために支出ができるようにするため設けられたものであるといわれています。
④ 日用品の購入に関する費用(306条4号)
債務者らの「生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給」についても先取特権が認められています。その趣旨としては、生活必需品の供給者が資力の乏しい者にも安心して供給ができるようにするため、生活必需品の供給者の債権に先取特権を付すことにより間接的に資力の乏しい者の生活を保護することを目的として設けられたものであるといわれています(社会政策的判断)。先取特権が認められる範囲が6か月に限定されている理由は、これ以上の長期の生活費用について先取特権が認められるとすると、先取特権が認められる債権額の範囲が膨れ上がり、(先取特権を有していない)他の債権者との間で、不都合が生じてしまうためです。
〇 まとめ
以上が一般先取特権についての説明となります。上記①~④にあてはまるような債権を有する方は、一般先取特権の優先効力の恩恵を受けることができます。最初に述べましたとおり、先取特権の主張ができるような状況においては債権回収が実現する確立が非常に高まるといえます。弁護士をはじめとする法律専門家のアドバイスの下で、適切かつ迅速に対応をすることによって、他の債権者との間で債権回収を有利に進めることができるといえます。
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