目次
はじめに
商業登記簿における債権回収と関係の深い項目
商号
目的
本店の所在場所
公告をする方法
会社ができた日
資本金の額
取締役会に関すること
取締役について
監査役について
会計監査人について
会計参与について
代表取締役について
支店について
まとめ

 

■はじめに

企業経営をしていく中で、取引先として個人ばかりではなく、会社などの事業者とさまざまなやり取りを行うことがあります。
 
日本における企業の99%以上は中小企業です。
経営規模が小さければ経営体力も大企業と比べれば低いことはやむを得ません。
 
大会社も例外ではありませんが、そのような会社の中には景気のいい会社だけではなく、景気の悪い会社もあります。
 
景気が悪いだけならまだしも、長年のあいだ経済活動を行っている実態がなかったにも関わらず、突然経営を再開するあやしげな会社も存在します。
 
ここでは、催告をしても支払ってもらえないなど、経営上の問題を抱えている株式会社を商業登記簿の観点から見極めたり、対策を立てたりすることに重点を置いてみていきたいと思います。
 
なお、商業登記簿の確認などは、その会社のある地域を担当する法務局に行くか、インターネットでできますが、手数料がかかりますので注意してください。
 

■商業登記簿における債権回収と関係の深い項目

・商号

会社の名称のことです。もし名前が変更されているのであれば、過去になにか問題があって変えざるを得なかった可能性があります。
 
個人の名前は、変更することが非常に難しく、昔であれば名前の変更は比較的自由に行えたようですが、今は家庭裁判所の許可を得なければなりません。
 
社会生活上の必然性から家庭裁判所の審判官(裁判官)がやむを得ないと考えた場合にのみ認めてくれます。
もし、簡単に氏名の変更ができるとすれば、その人個人を特定することが難しくなるため、犯罪歴を隠したり、借金歴を隠したりして生活できてしまうからです。
 
あまりに難しいので、借金歴、破産手続歴などをごまかすために養子縁組を偽装して姓を変えるようなケースもあるようです。もちろん親子関係をつくる意思表示がないのに、役所に事実と違うことを届け出て、戸籍簿にウソの記録をさせているわけですから、犯罪行為に当たりますので、これは許されないことです。
 
これに対し、会社などの企業の場合、名称を変更することはかなり自由にできます(銀行ではないのに「○○銀行」と名前をつけたりはできないといった制限はあります。)。
 
そのため、過去に社会問題を引き起こしたような企業が名称を変更することはめずらしくありません。
 
変更前の名称もわかりますので、インターネットで検索するなどすればそのような大きな問題があったかをある程度までは把握できます。その際注意すべき点としては、同じ名称の会社は世の中にたくさんあるということです。同じ名称だからといって同じ企業とは限らないのです。住所や役員が同じかを確認することが大切です。
 

・目的

個人の場合には、基本的にその人がなにをしようが法律で規制されていない限り、その人の自由です。
ですが、会社は個人と違い、会社の中で決めたルール(定款)の範囲で活動ができることになっています。
 
会社は、どういった活動を行うのか、その目的を定めなければなりません。
もし、どういった活動を行うかということが書いてあるのに、それとはまったく違う活動を行っていたら、それは会社の活動ではないわけですから、債権者としては、会社に対し、支払ってくれと請求したとしても、会社が応じてくれないこともありえます。
 
普通は、いくつもの活動内容が具体的に書いてあり、最後に、「それらの具体的な活動に関係する活動」という、包括的な書き方で、広い範囲の活動ができるように規定してありますので、通常は問題にはなりませんが、念のために、取引先の会社の活動内容に、自社との取引が含まれるか確認した方がいいと思います。
 

・本店の所在場所

会社がどこに本拠地を置いているかという、住所のことです。
もしも、ホームページなどに記載している住所と一致しないときは、架空の会社かもしれません。

単に登記変更をし忘れているだけなのか、注意が必要です。

 

・公告をする方法

資本金を減らしたり、合併したりするときなどには、官報のほかに、ここで規定した方法でその旨を告知すると、個別に債権者に告知しなくてもいいことになっています。

取引先であっても、個別に教える必要がないということです。債権者としては自分たちで常に気をつけていないといけないということになります。
一般の人で官報を定期購読して毎日チェックしている人はなかなかいませんので、会社が定めた方法に気をつける必要があります。
具体的には、日本経済新聞などの一般の新聞紙やWEBページが書かれています。広告費が高いので、最近はWEBページを定めることも多いと思いますので、その場合には、自動チェックツールなどを使って、そのページに変更がないか常にチェックすることが重要だと思います。
 

・会社ができた日

会社ができて間もないのであれば、実績が少ないため、多額の取引については慎重にならざるをえないかもしれません。
 
反対に、歴史がある場合には一見安全そうに見えますが、役員が総入れ替えになっているような場合には、注意が必要かと思います。
 
例えば、長年同じ役員でやってきたのに、ある日突然すべて入れ替わったような場合、経営活動の実体がなく抹消や変更の登記を放置していたものを、第三者が買い取ってまったく別の会社として経営しているのかもしれません。実体は新興企業であり、なぜ新しく会社をつくるのではなく、他人の会社を買い取ったのか、その理由に注意する必要があるかと思います。
 
公証役場での手続などが省けたり、費用が安くすんだり、単に箔をつけたいからということもあるようですが、悪徳商法などに利用されることも考えられるからです。

また、債権回収にあたって仮差押え、強制執行の際、預金口座の預金債権に手続きをとります。
その際、どの銀行のできれば具体的な支店まで特定することが必要となります。

設立の登記の申請から5年以内であれば、設立のときに使った書類が閲覧できます。
設立のときに使う書類というのは、会社の根本的な規則である定款などのほかに、資本金となる金額を払い込んだことを示す通帳のコピーや銀行などの金融機関が発行した証明書が含まれます。
 
これらの書類について、閲覧できる正当な理由があると認められるときは、閲覧して書き写したりすることができます。
 
つまり、設立の際に利用した銀行などの金融機関が発行した通帳の写しなど、払い込んだことを示す書類から、現在も取引している可能性のある口座を見つけられることがあるのです。
 
このようにして預金債権を特定できる可能性があるわけです。
 
なお、資本金を増額しているのであれば、その申請の時から5年間も同じです。
 

・資本金の額

資本金は、その金額分のお金が会社の金庫や銀行に常にあるということを意味してはいません。
株主に対して、会社が儲けたお金を、資本を提供した見返りである配当として交付される金額を規制するなど、会社から外に出ていくお金を規制する基準となる金額のことです。
 
この金額が大きいほど、外に出ていくお金が減るわけですから、債権者にとっては基本的には担保になるお金が増えるので、望ましいといえます。
 
資本金がいくら必要かというような法的な規制はないので、1円でもかまわないのですが、さすがにそれでは債権者から信頼されませんので、300万円くらいは用意することが多いと思います(昔、有限会社で最低限必要だった資本金の額です。)。
 
ただし、資本金100億円の会社でも倒産したりしますので、資本金の額はあくまでも目安にすぎないことを忘れてはいけません。額が大きすぎると配当がしにくくなり、新たに出資してくれる人が少なくなったりして、かえって良くないこともあるのです。バランスが重要なのです。
 
もし、資本金の額が小さいなどの場合に、多額の取引をせざるを得ないようなときには、弁済期の支払いを確実にするため、取締役などと、根保証も考慮に入れた保証契約(できれば連帯保証)を結んだり、会社と連帯債務者になってもらったり、抵当権や根抵当権といった担保権をつけてもらったり、第三者に物上保証人になってもらうことで、優先弁済権を確保することも検討する必要があるかと思います。
 
不良債権化させないためには事前に対策することが重要といえます。
 

・取締役会に関すること

株式会社は取締役1人と株主1人がいればつくることができます。
しかも、株主が取締役になることもできますので、1人で会社がつくれるわけです。
 
税制面での優遇や、各種法制度や民間の企業の取引で法人でなければできないことなどもあるので、個人事業主が、法人成りすることがよくあります。
 
そういう規模の小さい会社は取締役会を置いていませんので、比較的すぐにわかります。
取締役会のある会社は、その旨が記載されるからです。
 
取締役会のある会社は、比較的規模が大きいので、法律上も規制が強くなっています。

ですので、設置しなくていいのならわざわざ取締役会など置きたくないのです。
例えば、取締役会を置くと、監査役と呼ばれる人か、会計参与と呼ばれる人を置かなくてはいけなくなります。

取締役も3人以上必要です。報酬を支払ったりしていろいろ面倒なことになるわけです。
 
取締役会が置かれていないのであれば、比較的小さい会社だということになります。
資本金が十分に大きければ信頼しやすいですが、そうでなければ、取引は慎重にならざるをえないかもしれません。
 
併せて従業員がいれば安心感は増すかもしれません。
1人の取締役がすべての事務を行っている会社であれば、個人事業主と変わりないからです。

その取締役が事故や病気になってしまったら、簡単には債権回収ができなくなってしまいます。

また、重要な契約の際には取締役会のお墨付きが必要となります。
取引を承認した決議がなされているか、決議書などにより確認する必要があります。
取締役が勝手に契約しようとしているだけかもしれないからです。
もしそうなら、あとで契約が無効であると主張されてしまうかもしれません。
 

・取締役について

取締役会がなくても、取締役が複数いれば、比較的大きな会社である可能性が高まります。
その際、名字が同じかという点にも注意する必要があります。
もしも名字が同じであれば、親族で経営している可能性が高くなるからです。取締役同士の仕事のチェック体制が甘くなる可能性もありますし、そもそも実体がなくお飾りで名前だけ載せているだけということもありえます。
ただし、日本の会社では同族により経営されていることはめずらしくありません。あくまでも、赤の他人が経営に携わっている場合と比べると規模が小さいことがありうるという可能性の問題ですので、取引の内容や資本金の額などに応じて気にすべき事項ということになろうかと思います。
 

・監査役について

会計や具体的な取締役の仕事ぶりについて、チェックする人です。
この人が置かれているということは、同族企業でないかぎり、比較的規模の大きい会社ということになりますので、信頼感があります。
 

・会計監査人について

会計についてチェックする人です。公認会計士やその法人のみがなれます。
大会社などの規模の大きい会社の場合に置くことが強制されています。
会計の専門家である公認会計士が選ばれていますので、信頼性が高い会社の可能性があると思います。
 

・会計参与について

取締役などといっしょに貸借対照表などの計算関係の書類を作る人です。
公認会計士と税理士、それらの法人のみがなれます。
税理士などの専門家が選ばれるため、比較的信頼のできる会社の可能性があると思います。
 
取締役や監査役などの役員等が仕事上のミスをしたことにより損害を受けたときは、会社だけではなくそれらのミスをした人に支払いを求めていくことができることもあります。
 

・代表取締役について

取締役の中で取引などの対外的行為ができる権限をもった人のことです。
取締役が1人の場合は、その人が代表取締役です。

他の役員などと違って、住所も登記されています。平の取締役などに対して損害の賠償を求めることは住所がわからないときはそれだけ難しくなりますが、代表取締役の場合は住所がわからないということは基本的にないことになります。
 
ただし、(特に大企業の社長などの)登記されている住所は、実際に住んでいる住所と異なることがあります。誘拐事件などに巻き込まれることがあることから、安全のためにダミーとなるマンションなどを借りてその住所を記録することが事実上行われているようです。
 

・支店について

支店まで置かれている会社であれば、比較的大きな会社である可能性があり信頼感が高まるといえます。
 

■まとめ

・会社の名称は自由に変更することができるので、重要な取引をするときは変更前の名前について調べることも重要です。
・会社は、その目的の中で活動ができるので、自社との取引がその目的の中に含まれるか念のため確認します。取締役が無断で取引しているだけかもしれません。
・会社の住所が、名刺やホームページと同じか確認します。違うなら架空の会社かもしれませんし、そうでないとしても長期に渡って変更せずに放置しているのであれば、いい加減な会社ということになります。
・合併などの重要な出来事があるときは会社が定めた方法で公告がなされます。取引先であっても、個別に告知しなくていいので債権者の側でチェックしておく必要があります。
・資本金の額があまりに小さい場合は、要注意です。担保がそれだけ小さいからです。連帯保証などを役員と結ぶことの検討が必要です。
設立や資本金を増やした際の申請から5年以内であれば、お金を払い込んだことを示す通帳のコピーなどが閲覧できる可能性があります。これにより取引先銀行と支店を特定できることがあります。
・取締役会が置かれているのであれば、重要な契約の際には承認決議が必要です。決議書などで承認の有無を確認しましょう。
・取締役の数が1人の場合、個人事業主が税金対策などで法人成りしただけかもしれません。会社だからといって安心はできません。
・代表取締役の住所は登記されています。仕事上のミスなどにより責任を追求するときに参考にできます。
もしも、上記の手続きが難しいとお感じになる場合には、弁護士と債権回収についての委任契約を結べば、代わりに手続きを行いますので、弁護士に相談されることをおすすめします。