目次
はじめに
レンタル倉庫を貸し出す場合の法律関係は?
債権(倉庫レンタル料)を回収するためのポイント
まとめ 

 

■ はじめに

レンタル倉庫市場は近年ますます拡大しており、2015年にはなんと市場規模500億円を突破しました。
 
それでも日本でのレンタル倉庫の普及率は先進国の中で最も低いと言われています。
裏を返せばそれは、今後も市場が拡大していく伸び代があるということを示しているとも言えるのです。
特に東京などの都会の場合、スペース以上に貴重なものはありません。
豊かになって物は溢れているこの現代、部屋に入りきらないものを保管する場所としてレンタル倉庫はますます普及していくでしょう。
 
中小企業経営者や個人事業主の方の中にも、空いている土地や建物を有効活用するためにレンタル倉庫を設置して貸し出そうと考えている方もいるかもしれません。
 
今回の記事では、レンタル倉庫を貸し出す場合の法律関係と、顧客からの債権回収のポイントについて説明していきます。
 

■ レンタル倉庫を貸し出す場合の法律関係は?

  • レンタル倉庫事業は2種類ある

レンタル倉庫を貸し出すと一口に言っても、このサービスは大きく2種類に分けられます。
 
一つは、サービス利用者が物を事業者に預け、管理までしてもらう「寄託」型のサービスです。
もう一つは、サービス利用者が倉庫というスペースだけを借りて、そこに物を入れ、自分自身で管理する「賃貸借」型のサービスです。
 
それぞれについて詳しくみていきましょう。

  • 「寄託」型の場合は倉庫業法の適用あり!

サービス利用者が物を事業者に預けて管理させる場合、このレンタル倉庫事業は民法上の寄託契約にあたります(民法657条)。
 
この寄託型のレンタル倉庫事業には、倉庫業法という短い法律の適用があります(倉庫業法2条2項)。
そして、個人用の寄託型のレンタル倉庫は、この倉庫業法では「トランクルーム」と呼ばれています(倉庫業法2条3項)。
 
この倉庫業法について特に注意すべきなのは、寄託型のレンタル倉庫事業を行う場合には国土交通大臣の登録を受けなければならないとしている点です(倉庫業法3条)。
 
申請は、申請書や添付書類を揃えて地方運輸局長に提出する形で行います(倉庫業法施行規則1条の2第1項)。
 
 
また、これは余談ですが、国土交通省は一定の基準を満たしたトランクルーム業者に「優良トランクルーム」という認定を与えています(倉庫業法25条)。
この認定は勝手に与えてくれるものではなく、申請が必要です(倉庫業法25条の2)。
優良トランクルームに認定されればぐっと顧客を集めやすくなるので、トランクルーム事業を始めた場合はできるだけ認定を申請するようにしたいものです。

  • 「賃貸」型の場合

サービス利用者が倉庫を借りて、物の管理は自分で行うという賃貸型の場合は、倉庫業法の適用はありません。

つまり、登録等の手続は不要で、誰でも倉庫を貸し出すことができるのです。
この場合、顧客との間に民法上の賃貸借契約を結ぶことになります(民法601条)。
倉庫という建物(又はその一部)を貸すということで、家を貸す場合とほとんど同じというわけです。
 

■ 債権(倉庫レンタル料)を回収するためのポイント

寄託型についても、賃貸型についても、債権回収において重要なポイントはほとんど同じです。
 
ただし、寄託型の場合は、レンタル料等が発生することを契約書に明記しておくよう気をつけましょう。
なぜなら、民法の寄託契約は原則として無償とされているため、特約で有償であることを定めなければそもそも債権が発生しないことになってしまうからです(民法657条)。
特約で料金を定めていなかったからといって、「寄託契約は無償契約のはずだ、料金は支払わない」とごねてくる利用者はまずいないかとは思いますが、面倒な事は避けられるなら避けておきたいものです。
とはいえ、きちんと倉庫業法に従って約款を作り、料金も掲示している場合にはこうした心配は不要です(倉庫業法8条1項、同9条)。
 
では、以下で円滑な債権回収のために準備できることや、いざ債権を回収する際の方法についてご紹介していきましょう。

  • 債権回収を円滑にするために事前にできること

まず考えられるのが、料金前払方式を取り入れることです。
事前にレンタル料を支払ってもらえば、倉庫を提供したのに対価がもらえないなどということは起こりようがありません。
 
しかし、レンタル倉庫事業の場合、数年以上という長期に渡って貸し出すことも稀ではありません。そういった場合に全ての期間の料金を一度に前払いしてもらうのはあまり現実的ではないでしょう。
 
そこで次に考えられるのが、利用者に保証に入ってもらうということです。
利用者と保証会社とに保証委託契約を結んでもらい、利用者には1年ごと(又は1月ごと)に保証料を支払ってもらいます。
そしていざ利用者が倉庫の賃料を支払えなくなった場合には、保証会社が一旦レンタル料を立替払いするという仕組みです。
 
もちろん、保証会社と保証委託契約を結んでもらう代わりに、利用者の親戚などに連帯保証人になってもらうということも考えられます。
しかし、連帯保証人の支払能力はまちまちで、必ずレンタル料を支払ってもらえるとは限りません。それに利用者としても、いちいち連帯保証人を探すのは面倒です。
そのため、保証会社と保証委託契約を結んでもらうほうが互いにメリットが大きいと思われます。
 
また、クレジットカード決済を取り入れるという手もあります。
クレジットカード決済であれば、クレジットカード会社からレンタル料相当の金額は支払われます。その後で、クレジットカード会社から利用者に対してその分の請求がなされるので、とりあえずレンタル倉庫事業者の元にはレンタル料は支払われるという形になるのです。
 
さて、ここまでは支払方法や保証について説明してきましたが、利用者の支払に対するインセンティブを高めるという方法もあります。
支払が期日に遅れた場合、延滞料金を取ることを特約で定めておくという方法です。
例えば、国土交通省の発表しているトランクルーム標準約款(各事業者が約款を作る際の基準となるもの)では、延滞金は年利6%とされています(標準約款40条)。
これは商法で定められている商事法定利率と同じです(商法514条)が、消費者契約法で定められた上限は年利14.6%です(消費者契約法9条2号)。
そのため、トランクルームの延滞金も年利14.6%と上限いっぱいに設定している事業者が多いです。
これだけ高い延滞金を請求されるとなると、利用者側もかなり気をつけて、期日までにレンタル料を支払ってくれるようになります。

  • 利用者の支払いが遅れたらまずはどうする?

振込がない、または口座残高が不足していて引き落としができないなど、期日に料金の支払が確認できなかった場合は、まずはできるだけ早く利用者に直接連絡しましょう。
このように「支払ってください」と連絡することは民法上の「催告」にあたります(民法541条)。
 
うっかり支払を忘れていた場合であれば、催告を受けてすぐに支払ってくれる利用者が多いと思われます。

また、連絡の際には遅れた日数分だけ延滞金が発生することを明確に伝えることを忘れないようにしましょう。

寄託型のレンタル倉庫の場合は、「料金支払が遅れている場合は利用者の荷物引き取りを拒絶する」という内容の条項を予め規約に入れておきましょう。
いわば、中の荷物を人質のようにすることで、支払を促すのです。

  • いざとなったら

上の手段を試しても、どうしても支払ってもらえない場合にはどうしたらよいのでしょうか。
 
まずは、もう一度催告することが考えられます。
ただし今度は弁護士に依頼し、「支払ってもらえない場合は法的措置を採ります」といった内容を含めて弁護士の名前で書面を送ります。
「法的措置」という言葉と、弁護士に依頼しているという事実から、事業者側が本気であることを示すのです。
また、後で契約を解除する場合に備えて、催促をする際は内容証明郵便を使うと良いでしょう。契約を解除したことを訴訟で証明しやすくなります。
それでもなお支払がない場合には、支払督促を使ったり訴訟を提起したりする必要がでてきます。

支払督促とは、簡易裁判所の書記官が書類審査だけで支払を命じる法的措置です。
簡単で、手数料も安い手段ですが、支払督促に対して相手が異議を申し出た場合には訴訟手続が始まってしまいます。

そのため、相手が異議を申し出る可能性が高いと考えられる場合には、最初から訴訟を提起したほうが手間もコストも節約できます。
とはいえ、倉庫のレンタル料の場合は債務が発生しているのは明らかなので、ここで異議を申し出る利用者はあまりいないものと考えられます。
 
訴訟を提起する場合は、請求額が60万円以下であれば少額訴訟という制度が使えます。
少額訴訟は、原則として審理が1回だけです。そのため、迅速に勝訴判決が欲しい場合にはとても便利な手段といえます。
しかしこれについても、相手方が申し出た場合には通常の訴訟に移行することがあるので気をつけましょう。
 
また、債権回収のために動く一方で、レンタル契約を解除することも忘れないようにしましょう。
3ヶ月以上も支払を遅滞させる場合、倉庫を貸し続けてもその後のレンタル料も支払ってもらえない可能性の方が高いためです。
 
その解除の方法については、予め規約に規定している場合には「解除します」という意思表示を利用者に伝えるだけで可能です。
しかし、規約に規定していない場合、解除するためには先ほど出て来た「催告」が必要になります(民法541条)。
「催告」をして、1〜2日ほど待っても支払がなされない場合には、利用者に「解除します」と伝えれば解除することができます。
 
また、3ヶ月以上支払が遅滞している場合には、倉庫の中にある利用者の荷物を処分することも検討し始めるべきでしょう。
このことについても予め規約で定めておけば、後の無用な争いを避けることに繋がります。

  • 強制執行をしなければならない場合も

支払督促が発付されたり、訴訟で事業者側が勝ったりしたにもかかわらず、それでもまだレンタル料を支払わないという利用者がいたらどうすればよいのでしょうか。
 
この場合は、強制執行によってレンタル料を回収しなければならないでしょう。
強制執行とは、強制的に債務者の財産を差押えて売却し、その換価によって得られたお金を債務弁済に充てるという処分です。
 
この強制執行を始めるには「債務名義」という文書が必要です。
訴訟に勝った場合はその判決が債務名義になります。

一方、支払督促の場合は、発付から2週間以内に債務者が異議を申し出なければ、債権者が申立てることによって裁判所に「仮執行宣言」をつけてもらえます。
この「仮執行宣言付支払督促」が債務名義になるのです。
この強制執行ですが、そもそも債務者である利用者が十分な財産を持っていないならば、何も回収できません。法律の力を借りても、無い袖は振れないのです。

また、同じ債務者について自分の他にも債権者がいる場合、その債務者の財産を債権者同士で取り合う形になるので、回収できなくなる可能性は高まります。
 
ただし、レンタル倉庫業者の債権回収が他の債権者の債権回収よりも優先される場面があるのです。
レンタル倉庫業者は、倉庫の中にある利用者(債務者)の持ち物について「動産先取特権」という権利を持っています(民法303条、同311条1号、同4号、同312条、同320条)。
つまり、強制執行によってレンタル倉庫の中にある利用者の持ち物(動産)を売却・換価した場合、そこから得られるお金はレンタル倉庫業者が優先して回収できるのです。
 
動産はほとんどの場合、誰かが購入して中古品になってしまった時点で価値がガクッと下がります。そのため、個人の使っているレンタル倉庫の中の動産を換価してもあまり債権回収の足しにはならないことが多いというのが実情です。
しかし、高価な物を預かっている場合にはそれなりの効果を発揮しますし、また、動産を差押えることで料金支払へのプレッシャーをかけることもできます。そういった意味で、動産に対する強制執行もやはり一定の意味を持っているといえるでしょう。
 

■ まとめ

どんなに気をつけていても、レンタル業を行う限り料金未払いは発生してしまうものです。
未払いが発生した場合にどのように対応するのか、予めしっかり決めておくことが損害拡大の防止に繋がります。
また、訴訟を提起する場合はもちろんのこと、支払督促を使う場合や催促状を送る場合にも、少しでも不安がある場合は債権回収に詳しい弁護士に相談するようにしてください。