目次
はじめに
ポイント1~損害の賠償を求めるとき
必要な条件
製造された物
欠陥
責任を負う者
作った物の移動(納入)
危害を受けたこと
因果関係
ポイント2~損害の賠償を求められたとき
責任を免れる条件. 5
納入時における問題の把握可能性
原材料等の提供者の指図に問題があった場合
利用者の落ち度
消滅時効
ポイント3~事前の対策(万が一に備えて)
説明書きの充実
出荷後の対策
まとめ

 

■はじめに

自動車や自転車、工具などの機械類、医薬品やサプリメント、洗剤などの化学薬品類、パソコンやスマートフォン、電子レンジなどの電化製品類、椅子や机、タンスなどの家具類など、世の中には様々な商品が作られ、販売されています。
 
これら様々な商品には、商品自体の欠陥や商品についてきた使用法を解説した取扱説明書自体の不親切により、ちゃんとした使い方ができなかったために、怪我やアレルギーを引き起こしたりするなど、人の身体に大きな問題を引き起こしたり、火事や爆発を引き起こしたりするなど、大切な家や家具などの財産を失ったりして、大きな問題が発生することがあります。
 
民法という一般的な法律では、こういった被害が発生したとき、対処する際に2つの大きな問題がありました。
 
1つ目は、基本的に商品を売ったお店などに対してのみ責任を求めていくことになり、作った人と売った人が違う場合には、作った人に対して責任を求めていくことは難しかったという問題です。
 
2つ目は、作った物自体に問題があることを知りながら放置していたり、問題があることに気づくことができたのに何もしなかったりするなど、特に非難されるべき場合でないと、基本的に責任を求めていくことができないという問題です(ただし、売った人に対しては他の一定の条件を満たすとある程度の範囲で責任を求めていくことができます。)。
 
しかし、スマートフォンなど作られた商品がとても複雑な仕組みになっていたり、医薬品類や食品類など作る過程において特殊な加工がされていたりして、一個人が、商品を作った人の責任を求めていくことはとても難しくなってきています。
 
そこで、作った人などに直接責任を求めていくことをしやすくしようとして生まれたのが製造物責任法(PL法)です。
 
ここでは、PL法について、損害を受けた側の被害回復のコツ、損害の賠償を求められた場合の対処法、そして、そういった事態が将来起こらないようにするための予防法という、3つのポイントに絞って、解説していきます。
 

■ポイント1~損害の賠償を求めるとき

・必要な条件

PL法に基づいて損害の填補を求めていくには6つの条件をクリアしなければなりません。
 

・製造された物

1つ目の条件は、問題が起こった物が、製造された物といえることです。つまり、人の手が加えられた物のことです。不動産を含めるか議論になりましたが、含まれないことになっています。物でなければなりませんから、コンピューターのプログラムそのものは含まれないことになります(ロボットなどの物に入っていれば対象になることはあると考えられます。)。
りんごや豚、魚などの農畜産物は、人の手を加えて別の物にしたり、新たな価値を付け足したりしたとはいいづらいですから、ジャムやハム、缶詰などにしたといった場合は別として、普通は含まれないと考えられます。
 
ただし、遺伝子組み換え食品など、農畜産物においても解釈によっては対象に当たると考えることもできるかもしれません。例えば、りんごを病害虫から守るために遺伝子を操作したところ、毒りんごができてしまったような場合です。これはもう人の手を加えた物と言って良いようにも思えます。
 

・欠陥

2つ目の条件は、作られた物自体に、重大な問題があることです。これは、作られた物が、その利用方法などから当然必要とされるような、安全性がないことをいいます。これは、計画を立てる段階、計画を基に具体的に作る段階、作った物についての説明をする段階の3つに分けて考えることが重要です。
 
物を作る場合には、どのような構造にするかということをあらかじめ図面などにしておくことが一般的と言えるかと思いますが、このような計画段階での問題が対象になります。
 
裁判例では、おもちゃのケースとして使われる球型の容器を小さな子供が誤って口の中に含んで窒息状態になり、重い障害を負ったというケースにおいて、その構造上、呼吸を確保するための穴をいくつも開けておくことや、口の中から取り出しやすくするために、角型や多角系のものにしたり、指などに引っ掛けやすくする為なめらかなものではなく、ざらついたものにしたりするなど、対策を取らなかったことを問題としたものがあります。
 
計画自体に問題がないとしても、具体的に作られた物に問題が起こることもあります。
例えば前記のケースであれば、計画段階では容器に複数の穴が開けられることになっていたのに、出荷された物自体は、工場の機械の不調により穴が開いていなかったような場合が考えられます。
 
計画自体や作られた物自体に問題がなかったとしても、その使用方法についての説明が悪かった場合も問題となります。
例えば、塩素系の洗剤について、それ単体では危険性が低いとしても、酸性の洗剤と混ぜて使用すると有毒な化学物質に変化することがあることから、説明書などにきちんとその旨を記載しておかないと問題となります。
 
以上、これらのどれかに当たると、欠陥があることという条件を満たすことになります。
 

・責任を負う者

3つ目の条件は、相手が問題となっている物にどのように関わっているかという条件です。物を作ったり、手を加えて別の物にしたりした人が基本です。
 
ですが、他にも輸入した人が含まれます。
輸入した人が含まれることに違和感を覚えるかもしれませんが、これは実際上の必要性から含まれることにしたものです。
 
なぜなら、外国で作られた物であれば、それを作った人は当然外国にいることが一般的ですので、外国の人に責任を求めていくのは大変なことだからです。
 
輸入した人を対象に含めれば、消費者保護に役立つわけです。
輸入する人にとって過酷なことではないかと思うかもしれませんが、輸入した人は債務の不履行などを理由として、作った人に責任を求めていくことができる可能性があるわけですし、危険な物を売ったりしないように十分注意していれば、通常は問題ないわけですから、酷なこともないはずだからです。
 
また、実際には作っていない者であっても、自分が作ったとパッケージなどに書いていたり、作った者と特別な関係にあるため実質的に作ったと考えられたりするような者も対象となります。
 

・作った物の移動(納入)

4つ目の条件は、作った人の意思によって作られた物が利用する人のもとに移動することです。盗まれたりしたときには責任を負わないわけです。
 

・危害を受けたこと

5つ目の条件は、利用者などが作られた物によって、その身体を害されたり、家や家電製品、家具など、元々所有する物などが害されたりすることです。
ここで気をつけるべきは、問題を引き起こした物自体はこの法律の対象にならないということです。
例えば、スマートフォンが発火して家が燃えた場合、家は対象になりえますが、元凶となったスマートフォン自体は対象外です。
この場合、スマートフォンについては、販売したお店に、別の法律によって瑕疵担保責任というものを求めて催告していくことが現実的かと思います。わざわざ訴えなくても、悪いと認めてもらえれば、和解(示談)に応じてもらえることもあると思います。
 

・因果関係

6つ目の条件は、具体的に損害が発生したこと、そしてそれが作られた物自体の問題によって引き起こされたと言えることです。
風が吹いたとしても桶屋が儲かることは普通ないわけで、特に知っていた事実を除いて、常識的に考えられる範囲の出来事のみ対象になるということです。
 
以上の6つの条件を満たした場合、この法律に基づいて責任を求めていくことが可能になります。ただし、下記に述べる条件を満たすと、相手側は責任を免れるので注意が必要です。
 
なお、損害の賠償を求める事ができる者に特に限定はありませんので、消費者契約法と異なり、一般個人だけではなく事業者も含まれます。
例えば、取引先会社から納入された機械の欠陥によって自社工場が全焼してしまったようなときは、この法律の対象となりえます。
 

■ポイント2~損害の賠償を求められたとき

・責任を免れる条件

損害賠償責任を求められたとしても、納入した時点では問題があったとはとても気づけない場合や、問題が原材料の提供者の指図に基づいて作ったことが原因となっていたり、利用者による普通考えられないような使用法によって問題が起こったりした場合には、責任の全てまたは一部を免れることができます。
 

・納入時における問題の把握可能性

作った物を納品した時点で誰がどう見ても問題がなかったと言えるような場合にまで責任を負わせることは、公平とはいえません。
 
そこで、作った物を納めた当時、その物についての安全性に関して、世界最高の客観的レベルにある知識、見識をもってしても、損害を発生させるような問題が起こることについて思いもよらない場合、そのことを訴え証明したときは、責任を負わなくていいことになっています。
ただし、世界最高レベルで判断されるため、そう簡単には責任を免れることはできないと思います。
 
裁判例では、魚料理を作ったお店が、魚に含まれていた特別な毒によって重い健康上の被害を受けたとして訴えられたケースにおいて、近辺で採れた魚によって同様の被害が発生していなかったからといって、問題の発生の可能性について本などにより知ることができたのであれば、責任を免れないとしています。
 

・原材料等の提供者の指図に問題があった場合

問題の原因が、原材料や物の一部として使われる部品を作った者の指図によって引き起こされた場合において、問題の発生について知ることができなかったようなときには、責任を免れます。
 

・利用者の落ち度

利用者が普通考えられないような使い方をしたために問題が起こった場合には、損害賠償金が減らされることがあります。あまりに異常な使い方をしたのであれば、そもそも欠陥とは言えないので責任を免れることもあります。
 
ただし、問題のある利用法であったとしても、十分にそのような使い方がなされるであろうことを予想することができるときは、責任を完全には免れることができないと考えられます。
この場合、責任を免れるためには、後に述べる事前の対策を施しておく必要があります。
 

・消滅時効

請求はいつまででもできるわけではなく、タイムリミットがあります。
原則として、危害を受けた人やその法定の代理権限をもった人が、損害と責任を負うべき人を認識した時点から3年、または納品した時点から10年以内に請求しないといけません。
 
ただし、ある程度の時間が経過することで健康被害をもたらす物質については、損害が発生した時点から数えます。
 

■ポイント3~事前の対策(万が一に備えて)

・説明書きの充実

商品本体のシールなどに正しい使用法や、危険な取り扱い方法について見やすい文字や絵によって警告することが重要です。
 
医薬品など薬品類の表示が典型的ですが、カップ麺や冷凍食品などの食料品の包装もかなり細かく書いてあり参考になります。これは熱湯や電子レンジによる事故や食中毒など人体に対する取り返しのつかない重大な事故の危険が起こりやすいからと考えられます。
 
商品本体におけるシールによる表示では十分ではない場合、別途取扱説明書などによる警告表示が重要となります。
 
家電製品などの取扱説明書が典型的で参考になると思います。
 
ただし、文字が小さくて読みづらいなどの問題があれば、必要な説明をしたことにはならないと裁判官に判断される恐れがあります。
 
特に危険な使用法がある場合には、塩素系洗剤の警告表示のように目立つ大きな文字で書かれることが重要と考えられます。
 

・出荷後の対策

商品に問題があることが、あとになってわかることは少なくありません。
そこで、カスタマーセンターの設置や定期検査、保証書、リコール制度などのアフターサービスが有効だと考えられています。
 
カスタマーセンターの設置やリコール制度は、予防法務の観点からとても重要な機能を果たします。
例えば、バッテリーから出火しボヤになったという苦情がカスタマーセンターに入り、直ちにリコールを実施すれば、大規模火災により死傷者が出ることを防げる可能性があります。
 
さらにいえば、もし死傷者が出れば、損害賠償責任のほかに、製造責任者や担当役員等が業務上過失致死傷罪という犯罪に問われることも考えられます。
 
定期検査も同様に事故を未然に防ぐために重要なことです。典型的には、消防器具やガス器具、自動車などについて行われていますが、これらの法律上義務付けられたものに限られるものではありません。
健康被害など大規模な被害が生じることが予想される物については、このような制度を設けることが必要と考えられます。
 
これらの対策を行うことで消費者の利益だけではなく、企業の側を守ることにもつながることになるのです。
 

■まとめ

・PL法に基づいて責任を求めるには、いくつかの条件が必要です。製造物であること、欠陥があること、責任を負う者が一定の範囲であること、物を引き渡すこと、損害が生じたこと、欠陥により損害が生じたと常識的に言えることが必要です。
一定の条件を満たすと責任を免れることができます。出荷時に欠陥の存在を知ることが世界最高水準の知見によっても不可能であったことや、原材料や部品の提供者の指示が適切でなかったことや、利用者が異常な使い方をしたこと、消滅時効により被害者の権利がなくなったことがあれば、責任を免れることがあります。
・商品の欠陥を完全に防ぐことは難しいことですが、可能な限り被害を出さないようにするために、商品の説明書などをわかりやすくしたり、カスタマーセンターを設置したりするなどアフターサービスを充実させることが重要です。
具体的な事情により上記に述べたことが当てはまらないことも考えられますので、詳しくは弁護士に相談してください。