目次
「支払能力」と「支払意思」が重要
債権回収の困難さ
債権回収するための手順は3つ
債権回収の手順1「内容証明郵便」
どのような文面にすべきか
真実味をもたせる最適解は弁護士への依頼
債権回収の手順2「通常訴訟」
なぜ支払督促や少額訴訟ではだめなのか
債権回収の手順3「強制執行」
さいごに

債権の回収において、債務者に支払意思がないことは「債権を回収することの難度を高める」「債権を回収するために強固な手段を使わなければならない可能性が高い」「債権の回収でトラブルに発展するリスクが高い」という点で、非常に厄介な債権の回収案件になります。督促により回収できそうなケースや、示談交渉に応じてくれることがわかっているケースよりも、債権者の頭を悩ませるのが「支払意思のない債務者から債権を回収する方法」です。
 
支払意思のない債務者からはどのように債権を回収すればいいのでしょうか。厄介な債務者である「支払意思のない債務者」から債権を回収する方法を、3つの手順で解説します。支払意思のない債務者から債権を回収するケースは、事業を営んでいれば出会う可能性の高い問題です。今後のためにも知識で足場を固め、いざという時に迅速な解決策を選択できるようにしておきましょう。
 

■「支払能力」と「支払意思」が重要

 

債権を回収するためには、債務者の「支払能力」と「支払意思」が重要になります。

支払能力とは、「債権を支払う能力」のことです。具体的に言うと、「債務者の債権を返済する資力・財力」のことを指します。債権を返すだけの財産(金銭や不動産、有価証券など)があるかどうか、ということです。対して支払意思は、金銭的な事情を指すわけではありません。支払意思は「債権を返済する意思(気持ち)があるかどうか」ということを指します。
債権を返済してもらうためには、債務者に「支払能力(資力)」と「支払意思(返済するという気持ち)」の2つが存在していることが大切です。
支払能力と返済能力のどちらかが欠けていると、債権の回収においてトラブルに発展する可能性が高くなります。
 
債権は一言でいってしまうと「お金の問題」です。「返そうという気持ちがある」「返すだけの財産がある」のであれば、債務者はすんなりと債権の支払に応じてくれることでしょう。債権の返済に必要な2つの要素のうちどちらかが欠けているということは、それだけ債権の回収に困難さが伴うということに他なりません。
 

・債権回収の困難さ

 
売掛金は将来的に回収できれば営業上のプラスになります。しかし、心得ておくべきポイントは「売掛金はすぐに入金されない」「回収できなければマイナスである」という点です。売掛金は仕事上の契約などにより発生するため、額が大きくなりがちな債権です。売掛金が発生してもすぐに支払われないため、「約束の日に振り込まれない」「金額が違っている」「支払日を伸ばしてくれと言われている」「債務者側の売掛金の振込日まで待ってくれとお願いされた」などの回収トラブルに陥りがちです。
 
事業を営んでいる場合、「売掛金をどのように回収するか」が大きなポイントになります。また、普段から売掛金が未回収にならないように対策することもポイントになります。
 
しかし、中には一般的な対策をしても債権の回収が難しいケースが存在します。債権を回収しようと思って行動しても、債務者にまったく財産がなければ回収することは難しい話になります。財産調査をしても「財産はなし」という結果になれば、どんな方法を使っても債権回収は極めて難しくなります。
 
ただ、現時点で支払能力がない債務者とは、示談交渉の余地があります。現時点で債務者に財産がなくても、将来的に売掛金などのお金が入る予定があり「支払意思」があれば、建設的な交渉の場を設けることによって債権を回収するための道筋をつけることができます。問題は、「財産がありながら支払う意思を見せない債務者」、つまり「支払意思のない債務者」です。
 
支払う意思がないのですから、現時点で財産がないという債務者のように示談交渉で話をまとめることが難しくなります。催促しても、返済に応じてくれる可能性は低いことでしょう。また、債務者に支払能力はないが支払意思はあるケースのように、債務者側から返済に対する建設的な意見を出してくる可能性も低いと考えられます。債務者に支払意思がないケースでは、債権者側が「強い力を使って債権を回収すること」が基本になるのです。
 
財産があっても支払う気がない。連絡も受け取らない。無視をする。とぼける。支払いができないわけでもないのに、何度も返済を引き伸ばす。態度にも「返済します」という気持ちや誠意が見えない。このように支払意思が欠けた債務者からは、どのように売掛金をはじめとした債権を回収すればいいのでしょうか。
 

・債権回収するための手順は3つ

 
支払意思のない債務者から債権を回収する手順は3つです。「内容証明郵便の発送」「通常訴訟をする」「強制執行をする」ことが、債権を回収する3つの手順になります。

債権を回収する3つの手順の中では、内容証明郵便が最も簡易でソフトな方法になります。

強制執行は公的な権力が介在するため、支払意思のない債務者から債権を回収する手順としては最も強固な方法になります。
支払意思のない債務者であっても、内容証明郵便の内容によっては翻意して回収に応じる可能性があります。まずは内容証明郵便を送って様子見し、必要に応じて次の手順である通常訴訟に進むという流れになります。ただし、ケースによってはいきなり通常訴訟をした方が良い場合があります。すぐに強制執行ができるケースもあります。個人で判断するよりも、弁護士に相談しながら「3つの手順のどこからスタートするか」を決める方が安全です。
 

■債権回収の手順1「内容証明郵便」

 

支払意思のない債務者から債権を回収する1つ目の手順として、「内容証明郵便を債務者に送付すること」が考えられます。
内容証明郵便とは、「いつどんな内容の手紙を誰から誰に送付したか」を日本郵便が証明してくれる郵便のことです。内容証明郵便の送付は、普通郵便の送付より手数料が多く必要になるというデメリットがあります。しかし、内容と送付をきっちり日本郵便に証明してもらえるという大きなメリットがあることから、債権の回収案件ではよく使われています。内容と送付を日本郵便が証明してくれるということは、債務者の「受け取っていない」「内容など知らない」「そんな話は聞いていない」という言い訳を封じることに繋がるからです。

 
支払意思のない債務者の言い訳を封じる以外にも、内容証明郵便を送付することにはメリットがあります。支払意思がなかった債務者を「支払意思ありの債務者に変化させることができる」というメリットです。そのためには、内容証明郵便の文面を工夫することが必要になります。
 

・どのような文面にすべきか

 
内容証明郵便はただ送付すればいいというわけではありません。内容と送付を日本郵便が証明してくれるというメリット、債務者の言い訳を封じるというメリット、債務者を翻意させるというメリットを最大限に活かす内容で送付する必要があります。
 
支払意思のない債務者は、お金を返す気持ちがないわけです。内容証明郵便の内容が時候の挨拶や、優しく返済を催促するような内容であれば、手紙だけで債務者の翻意を促すことは難しいでしょう。しかし、内容に「法的措置を臭わせる文言」があればどうでしょう。「返さなくても強固な手段は取らないだろう」と債権者を甘く見ていた債務者の場合、法的措置を臭わせるだけで債権の回収に繋がる場合があります。
 
債権の回収ができなければ「法的措置を取ることを検討している」とはっきりと記載することがポイントです。しかし、法的措置を取ることを記載しても、文言によっては甘く見られてしまう可能性があります。そこで、内容証明郵便に真実味を持たせることが重要になります。
 

・真実味をもたせる最適解は弁護士への依頼

 
内容証明郵便に「法的措置を取る」と記載して、素直に債務者が返済してくれれば問題ありません。しかし、内容で法的措置を臭わせても、そこに真実味がなければ「どうせ嘘でしょう」「法的措置を取ると書けば返済に応じると思っているのだろう」と、債務者に甘く見られてしまう可能性があります。
 
内容証明郵便は個人でも送付することができます。個人で送付する内容証明郵便で法的措置を臭わせることにも一定のメリットがあります。しかし、「法的措置を取ることに真実味を持たせる」ことにより、さらなるメリットを見込むことができます。内容証明郵便の法的措置という内容に真実味を持たせる方法は簡単です。弁護士に依頼して内容証明郵便を送付すればいいのです。
 
支払意思のない債務者は、「債権者からの内容証明郵便を受け取った場合」と「債権者から債権の回収を依頼された弁護士からの内容証明郵便を受け取った場合」どちらにより恐怖を感じるでしょうか。どちらの内容証明郵便に対し、「本当に法的措置を取ることを考えているようだ」や「すぐに返さなければ大変なことになる」と感じるでしょうか。後者ではないでしょうか。
 
弁護士に依頼して内容証明郵便を送付することで「現在進行形で法的措置の準備をしている」「弁護士が債権の回収に協力している」というプレッシャーを債務者に与えることができます。個人で内容証明郵便を送付するのではなく、弁護士に依頼して送付してもらいましょう。支払意思のない債務者に対してより効果的な内容証明郵便になります。
弁護士に内容証明郵便を依頼すると、内容証明郵便の内容まで細かくチェックを入れてもらえるというメリットもあります。個人で送付するケースのように、効果的な文言の使い方に頭を悩ませる必要はありません。
 

■債権回収の手順2「通常訴訟」

 
支払意思のない債務者から債権を回収する2つ目の手順としては、「通常訴訟をすること」が挙げられます。通常訴訟とは、裁判所で手続きできる訴訟の一種類です。訴訟には手形訴訟や少額訴訟など、いくつかの形態があります。通常訴訟とは、民事訴訟と言われて想像する一般的な形式の訴訟です。
 
内容証明郵便を送付しても支払意思が見えない債務者に対しては、より強固な通常訴訟という手段で返済を迫るという流れになります。通常訴訟の場合、相手方に裁判所から訴状などの書類が届きます。訴状を見ただけで債務者はある程度の心理的な圧迫感を覚えます。内容証明郵便の後に実際に法的措置を取った証拠とも言える訴状が届けば、それだけで債務者の気持ちは「怖い」「こちらも弁護士を立てなければいけないだろうか」「訴訟の費用がたくさん必要になるかも」「今のうちに返済を申し入れた方が得策ではないか」と揺れます。
 
債務者が訴状を無視したり、何もせずに放置したりすると、債権者側に有利な状況となります。債務者が裁判へ出廷せず、答弁書の作成もしていないと、債権者(原告側)の主張が事実であると認めたとみなされます(民事訴訟法159条)。つまり、内容証明郵便を無視した債務者も、訴状を無視することは難しいということです。
 
通常訴訟の判決をもらうことにより、支払意思のない債務者も観念して返済する可能性があります。通常訴訟の判決が下っても債務者が返済に応じないのなら、判決を強制執行の布石として使うこともできます。無駄がありません。
 
なお、裁判所では通常訴訟の他にも債権の回収に有効な手続きを取ることができます。債権や債務者の状況によっては通常訴訟以外の方法が適切なケースもあります。支払意思がない債務者からの債権を回収する場合も、弁護士が事情や状況から別の方法が適切だと判断することがあります。弁護士とよく話し合って方法を選択した方が安心で、ケースにより即した債権の回収が可能になります。
 

・なぜ支払督促や少額訴訟ではだめなのか

 
裁判所で手続きできる債権の回収方法には、他に「支払督促」や「少額訴訟」などがあります。支払督促や少額訴訟も法的措置です。通常訴訟ではなく、支払督促や少額訴訟でもいいのではないかと思うかもしれません。

支払督促は、債務者から異議の申し立てが行われれば、請求額に応じて地方裁判所または簡易裁判所での通常訴訟手続きに移行します。支払意思のある債務者への効果は見込むことができますが、支払意思のない債務者に使うと手間や費用が増える可能性が高いです。支払督促で異議の申し立てがあれば通常訴訟に移行するわけですから、いきなり通常訴訟の準備をしてしまった方が手間と費用の節約になります。

少額訴訟にも似たようなところがあります。少額訴訟の判決に対して異議の申し立てがあれば、通常の訴訟手続きに移行します。異議後の訴訟では反訴の提起が制限され、異議後の判決については控訴をすることができないという制限もあります。異議が出れば、制限付きの訴訟になる可能性が高いということです。最初から通常訴訟を提起した方が、制限もなく、費用や手間のロスを防ぐことができることが多いのです。
 
ただし、ケースバイケースという面もあります。事情や回収すべき債権について弁護士に相談したら「通常訴訟より支払督促などの方が有効だと思われる」などの提案があるケースもゼロではありません。いくつかの方法を提案される場合もあります。回収すべき債権に合った方法を、弁護士と相談しながらよく考えてみてください。
 

■債権回収の手順3「強制執行」

 
支払意思のない債務者から債権を回収する3つ目の手順は、「強制執行」です。
 
強制執行は公的な権力によって財産の差押えを行い、強制的に弁済させる方法です。債権の回収方法の中でも最も強力な方法が、この「強制執行」になります。強制執行は債務者の財産を差押さえ、強制的に債権の回収をはかる強力な方法だからこそ、使うには条件が必要になります。

条件とは、「債務名義があること」です。債務名義は公文書に限られます。「強制執行受諾文言が付された公正証書(執行証言)」や、和解調書、調停調書、確定判決などが債務名義にあたります。

私的な債権の契約書類は債務名義になりません。強制執行ができる公正証書を所持しているなどの場合以外は、強制執行のために必要な債務名義を取得するところからスタートしなければいけません。通常訴訟の判決で支払意思がなかった債務者が翻意によって返済すればそれでよし、返済がなければ確定判決を使って強制執行を行い、債権回収をはかるという流れになります。
 

■さいごに

 
支払意思のない債務者からの債権回収は難易度が高く、債務者の支払意思に任せるような方法では債権の回収を見込むことが難しいという特徴があります。支払意思のない債務者から債権の回収をするためには、3つの手順を使い分けて進めることになります。「内容証明郵便」「通常訴訟」「強制執行」が、支払意思のない債務者から債権を回収する3つの方法です。
 
支払意思のない債権者との債権回収トラブルは、どんな債権でも起こる可能性があります。支払意思を見せていた債権者が翻意して支払意思がなくなることもあり得ます。特に売掛金という債権が五月雨式に発生する場合、比例して支払意思のない債務者とのトラブルが増えることが考えられます。常日頃から債権の回収知識を固めると共に、対策をしておくべきではないでしょうか。
 
債権を回収するための対策としては、弁護士事務所との顧問契約などが挙げられます。事情に通じた担当弁護士がいれば、事業に合わせて契約についてのアドバイスを受けることができます。また、債権や債務者ごとに対策を講じることも可能です。トラブルが起きた時も、迅速に対応してもらうことができます。
弁護士と連携を密にしておくことによって、債権が回収不能になる確率を減らすことができます。支払意思が見えない債務者からの債権の回収も、弁護士と相談の上で事前に対策をしておくことが有効です。