目次
はじめに
ポイント1~定型約款とはなにか
定型約款とそれ以外の約款
定型約款の表示義務
ポイント2~有効な定型約款の作り方
定型約款を有効なものにする
定型約款の有効条件
定型約款が無効となる場合
ポイント3~定型約款の変更
変更の必要性
変更の条件
経過措置
まとめ

 

■はじめに

民法という生活ルールを定めた法律が明治時代につくられたときには、今日のように大きな企業が一方的にルールを定めて消費者などの一般利用者がそのルールに従うことが当たり前の状況というのはあまり想定されていないものだったといえます。
 
しかし、時代は大きく変わり、鉄道、バス等の旅客運送、荷物運送等の物流、電気、ガス、水道といったエネルギーインフラ事業、銀行、保険といった金融保険事業、携帯電話、インターネット接続サービス、ネット通信販売等の通信関連事業など、1対1という契約形態から、1対大衆という経済構造に変化してきました。
 
当然ながら、このような経済構造はわれわれの生活においてもはや不可欠のものです。
いちいち個別に細かい条件について合意をし契約をしていくというのは現実的ではなく、ひいてはサービスの利用者にとっても利益とはいえません。
毎回そのようなことをしていては迅速に取引ができませんし、料金もまちまちとなり、高い利用料を支払わざるを得ないからです。
 
こういった経済構造を維持し発展させていくためには、1対1の契約関係を原則としたこれまでの法律では対応しきれません。
 
これまでも、約款とか利用規約と呼ばれるものにより大衆との契約を簡便に行う方法が取られてきました。
 

しかし、民法の基本的な考え方では、契約の内容をよく理解して、その内容について個別に合意していない限り、原則としてその内容に当事者が拘束されることはないため、トラブルがあとをたちませんでした。

 
多くの利用者が内容をよく読んでいないのが実情なので、思いもよらないような金銭的な負担などが記載されていたり、一方的に企業側が約款の内容を変更できると定めているときに、その有効性が問題になったりしていました。
 
そこで、現代の経済構造に対応するために、約款についての基本ルールが法律としてつくられ、(予定では2020年4月1日から)適用されることになりました。
 
定型約款については、ルールを守ってつくらないと有効性が否定されたり、つくった後でも変更のルールに従わないと、たとえ形式的に変更したとしても、古い約款や規約が適用されたりすることになりますので、約款や利用規約に基づいてサービス料や違約金などを請求しても支払いを拒否されることがでてくるなど、債権回収に支障が出てくることがありますので注意してください。
 
一番の問題は、約款をつくった企業自身が約款の有効性に自信がもてない場合です。
このような中途半端な約款をつくりますと、訴訟に発展するリスクが高まります。
なぜなら、サービスの利用者が支払わなくてもいいと思ってしまう可能性が大きくなってしまうからで、誰がどう考えても支払わなくてはいけないということがはっきりと分かるような約款や利用規約にしておけば、支払いを拒絶される恐れは小さくなり、訴訟にまでならずにすむことが多くなるのです。
 
ここでは、約款のうち、民法で規制されることになった定型約款と呼ばれるものについて解説していきます。
 

■ポイント1~定型約款とはなにか

・定型約款とそれ以外の約款

約款と呼ばれるものがすべて民法に規定された定型約款といえるわけではありません。
一定の条件を満たしたもののみが定型約款と呼ばれ、民法上の明示された規制の対象となります。
 
そもそも約款とは、個性のない似たような多くの取引を手早くさばくために、利用者との間の約束事をサービスを提供する企業が一方的に用意したもののことです。
 
銀行口座を開いたり、生命保険に加入したり、インターネット上の通販サイトの会員になったり、パソコンのソフトをインストールしたりするときに、約款とか利用規約というタイトルが付いた長い文章で書かれた文書のことです(約款は紙に書いたものである必要はなく、コンピューター上に表示されたものでかまいません。内容がわかればいいわけです。)。
 
そうすると、全国でチェーン展開する不動産賃貸業を営む企業が用意した賃貸借契約書や大企業が作成した労働条件等が記載されている労働契約書も約款といえなくはないかもしれません。
 

しかし、民法で規定されている定型約款といえるためには、サービスを提供する企業などが、大衆など特定の人ではない多くの人を対象とした取引であり、かつ、取引の内容を画一的なものとすることが両当事者に合理的といえる場合に(定型取引)、企業側が用意した契約の中身とするためのルール、といえなければなりません。

 
そのため、標準的な契約書のひな型が用意されていたとしても、サービスを受ける利用者等の個性により、契約の内容(賃料や給料等)を変えることが一般的に予定されているような、賃貸借契約や労働契約等については、定型約款に当たらないと考えられます。
 
このように、「約款」とタイトルに書かれていたり、契約書のひな型が用意されていたりする契約であっても、民法上の定型約款といえるとは限らないことに注意してください。
また、「約款」と記載されず、「利用規約」などと記載されていたとしても、内容が上記で示したようなものであるときは、定型約款にあたります。
 

・定型約款の表示義務

定型約款を使った契約をしたときやしようとするときは、契約に先立って、または契約後の相当な期間までにサービス利用者から求められれば、サービス提供者は、適当な手段で約款の中身を示す必要があります。もっとも、求められる前に文書やデータで約款を渡していたのであれば応じなくてもかまいません(企業イメージのことを考えますと、応じたほうが良いとは思いますが。)。
 

■ポイント2~有効な定型約款の作り方

・定型約款を有効なものにする

定型約款をつくったとしても、契約を結んだ企業とサービス利用者がそれぞれその内容を守るべき義務が発生するためには、一定の条件をクリアしなければなりません。
 
この条件を満たさない限り、利用者側は利用料金の支払、メールマガジンの購読、違約金の支払いなど約款に記載された債務の履行を拒むことができてしまいます。
企業側から見れば、利用者に対し、サービスを受けたことに対しての利用料金の請求、メールマガジンの購読の要求、サービスの解約などに対する違約金の請求等ができなくなるおそれがでてきます。
 
ここでは、定型約款を有効なものにする条件について詳しく解説していきます。
 

・定型約款の有効条件

定型約款を有効とするために必要となる積極的な条件は2つあります。どちらか1つでも満たすことで足ります。
 
まず1つ目は、定型約款を契約の中に取り入れるという約束をした場合です。
お互いが納得しているのであれば何も問題ないわけです。
気をつけるべきは、後述する例外を除いて、サービスの利用者が約款の内容を知らなかったとしても、そこに書かれた約束事を守らなければいけなくなるということです。
 
普通の契約であれば、内容を知らなければ契約したことにはなりませんので、無効だと言い張ることができることもあるのですが、それができなくなるわけです。したがって、サービスの利用者側としては安易に応じることは危険なわけですが、実際のところは多くの人が(法律家を含めて)、約款を十分に読まずに様々な契約を結んでいます。
 
そういった実情がありますので、詳しいことは後で述べますが、一定の場合には約款が無効となります。
そのため、むしろサービスを提供する企業側が、無効な約款をつくらないようにすることが重要と言えます。
 
2つ目の有効条件は、企業側が前もってサービス利用者に、用意した約款を契約の中身にするということを示すことです。
 
きちんと約款を契約に含めますよということを示しているのであれば、サービスの利用者側にとって本来不利益となることはないからです。
なぜなら、約款の内容を知る機会があったことになるわけですから、その内容を知らなかったとしても自己責任になるわけです。
ただし、この場合にも後述する例外があるので注意してください。
 

なお、鉄道やバスにおける旅客運送約款など利用者にいちいち直接約款を示すことが現実的ではないような場合については、公表(広く一般の人々が知ろうと思えば知ることができる状態にすること)で足りるとされています(鉄道営業法18条の2等)。

 

・定型約款が無効となる場合

約款や利用規約の有効性がこれまで問題となってきた理由のひとつは、サービス利用者が約款や利用規約の内容を十分に理解していないことにありました。
 
そもそも利用規約等の約款を隅から隅まで読んでいるという人はなかなかいないわけです。
それこそ、パソコンのソフトをインストールしたり、WEBサービスを利用したりするたびに、長文の同じような約束事を読まされるわけで、大抵の人は読み飛ばしてしまいます。
 
このような実情がある以上、長文の約款の中に、一般には予期できない料金等の特別の負担を強いるような条項が紛れ込んでいたとしたらどうでしょうか。
約款をきちんと読めと注意書きしておいたのだから読まないほうが悪い、とはいい切れません。
まともに読む人なんて少数派だろうということは想定できるからです。
 
そこで、サービス利用者の信頼を裏切るようなことをしたときには効力が認められません。
 
具体的には、定型約款の効力が否定されるケースは2つあります。
 
1つは、上述した定型約款を利用した契約をする前後における約款の開示請求がされた場合において、企業が正当な理由もないのに開示を拒んだときです。
ここで正当な理由というのは、例えば、インターネット上に規約があるような場合に、サーバーがダウンするなどして規約を示したくても物理的にできないようなときです。
 
2つ目は、約款の内容が、利用者の権利を限定したり、本来の義務をより重くしたりする場合に、その契約の性質や現実的な事情、契約上の社会的な一般常識からみて、信義にもとり誠実とはいえず、利用者側に対して一方的に利益を侵害するようなときです。
 
もともとこれまでも、2つ目のようなケースでは、契約は無効として扱われうるものだったといえます。しかし、法律上明記されたことで、サービスを提供する企業側に注意を促し、無効のおそれのある約款をつくらないように導くことで、紛争を未然に防ぐ効果が期待できます。
 
以上のように、定型約款をつくる際には、積極的な有効条件を満たしつつ、消極的な無効条件を満たさないように注意することが大切といえます。
 
もしも、無効な約款や、約款の一部に無効な条項をつくってしまいますと、支払いをあてにしていた利用料や違約金等を請求できなくなってしまうことになります。
個別のケースだけであればまだよいのですが、他の利用者にも影響する条項が無効となった場合には、多額の損害が生じることになります。
 

■ポイント3~定型約款の変更

・変更の必要性

携帯電話やインターネット接続サービス、銀行預金、生命保険契約、電気ガス契約など、長期に及ぶ約款に基づくサービスの供給契約を結ぶことが少なくありません。
 
このような長期契約の場合に必然的に問題となるのが約款の変更の問題です。
 
社会状況や、企業の経営状況が変化したり、関係する法令や判例の変更が行われたりすることにより、既存の約款の内容を維持することができなくなることがあります。
 
通常、契約の内容を変更するには、契約の当事者同士が、契約の内容を変更するという意思表示をすることで初めて内容を変更することができます。
 
しかし、大量の契約について個別に合意をすることは現実的とはいえませんし、利用者にとって不利な内容でなければ一方的に変更を認めても構わないという許容性もあります。
 
例えば、利用者による契約解除に関する違約金の定めがあったものを削除するという内容の変更は、利用者にとってむしろ歓迎すべきものです。これを形式的に当事者の合意がなければ変更できないとすることは不合理といえます。
 
そこで、民法は一定の条件を満たすことにより、サービスを提供する事業者側による一方的な約款の変更を認めることにしました。
 

・変更の条件

変更の条件は2つあります。
1つは、変更により、サービス利用者側の一般的な利益にかなう場合、または、変更により契約自体の目的に反することになるものではなく、しかも、必要性や変更する中身が一般的に見て適当なものであること、一方的に変更することがあるということをあらかじめ定めてあったこと等、様々な事情を総合的にみて、合理性があるといえることです。
 
2つ目は、約款を変更することや、変更の日付、変更内容について、メールやWEBサイトなどによって、あらかじめ利用者に知らせることです。
 
これらの条件を満たすことで、変更したことを利用者に対抗することができるようになります。
 

・経過措置

法律が施行されるより前になされた契約についても上記に述べた規制が及ぶのが原則です(旧法に基づいて生じた効力が否定されるわけではありません。)。
ただし、事業者側か利用者側のいずれかが、書面またはコンピューター上の記録により、新法の効力が生じる前に、新法の適用に反対するという意思表示をしたときには適用されません。
 

■まとめ

・約款には改正民法によって規定されることになった定型約款と、そうではないものにわかれます。
・定型約款は一定の条件を満たすことで契約の内容となり、契約当事者を拘束します。
・定型約款を用意した事業者は、契約の相手方から契約の前後に要求があった場合、約款の中身を示す義務があります。
・定型約款は一定の条件を満たすと無効となることがあります。
定型約款は変更が可能です。変更のための条件を満たすことで事業者側が一方的に変更することができます。
・新法施行前になされた契約については、契約当事者が、新法の施行より前に文書やコンピューター上の記録により反対の意思を示すことで、新法の適用を否定できます。
 
定型約款は新しい制度であり、今後の実務上の取り扱いが増えていくにしたがって明らかになっていく部分も多いと思います。そのため、判断に迷う難しいところも多々あるかと思います。
債権回収にあたってトラブルになっているような場合には弁護士に相談してください。