目次
はじめに
「配当」でなく「弁済金の交付」が行われる場合とは?
「配当要求」できるのは誰?
配当要求できる債権者とは?

配当を要求すべき時期は決まっています
配当要求の効力
配当の手続の流れ
裁判所による配当期日の指定
「配当を受けるべき債権者」と提出書類
配当期日には何をする?
配当表に対して不服がある場合はどうする?
配当の実施
配当の順位
配当に関しての不服
配当異議の訴えで原告が勝訴したら
請求異議の訴え
不当利得返還請求の可否
まとめ 

 

■ はじめに

不動産競売手続は、裁判所による債務者の財産の「差押え」
➡その財産を金銭に換える「換価」
➡その金銭を債権者に与える形での「満足」という段階を踏んで進められます。
今回の記事では、最後の段階、配当等による債権者の「満足」について説明していきます。
債務者に対して債権を持っているのは、差押えをした債権者だけではないのが普通です。
不動産競売手続が始まってしまうということは、債務者に資力がない状態であることがほとんどであるため、
債務者に商品を売って代金を支払ってもらっていない商店や、家賃を支払ってもらっていない大家、お金を貸した人、税金を回収できていない官公庁などが皆、債権を回収しようと集まってきます。
では、誰がどういう順位で、いくらの配当を得られるのでしょうか。そして、配当の手続はどのように進むのでしょうか。

■ 「配当」でなく「弁済金の交付」が行われる場合とは?

債権者が差押債権者一人である場合は、債権者同士で売却された不動産の代金を分けあう必要がありません。
そのため、配当はなされず、その債権者一人に対して不動産の売却代金から債権の全部または一部の弁済がなされます。
また、債権者が複数人いる場合でも、売却された不動産の代金によって全ての債権と費用が賄えるときは、単に全ての債権を弁済すれば済むため配当の手続は不要です。
このように足りない代金を巡って債権者同士で争う可能性がない場合は、「弁済金の交付」が行われます。
そして、債権を弁済し終えてまだ余りがある場合には、それは債務者に返されます。
これに対して、債権者が複数いて、かつ不動産の売却代金が全ての債権を弁済するに足りない場合に行われるのが「配当(割合弁済)」なのです。
1円でも多く回収したいという思いは誰しも同じなので、なるだけ公平な分配がなされるよう、法定の手続を踏んで、法定の配分で配当されます。

■ 「配当要求」できるのは誰?

「換価」の記事でも軽く触れましたが、自らが差押えをしていなくても、配当に参加する意思を示すことで配当を得られることがあります。
この配当要求は誰でもいつでもできるわけではなく、配当要求できる債権者の種類や期間は決まっています。

① 配当要求できる債権者とは?

配当要求ができるのは、以下の3種類の債権者です。
・ 差押えした債権者
・ 債務名義の取得が間に合わなかったため、仮差押えをした債権者
・ 一般先取特権を持っていることを証明した債権者
本来なら、全ての債権者に対して平等に配当要求の資格を与えるのが望ましいのですが、債権者であるという嘘をついて配当要求してくる偽の債権者が後を絶たなかったことから、自分で差押えをした債権者や、それに近い債権者に限定される形となりました。

ちなみに「一般先取特権」とは、他の債権者の債権よりも優先して弁済される債権のうち、共益の費用、雇用関係によって生じた債権、葬式の費用、及び日用品の供給によって生じた債権のことです。
先取特権は、もともと他の債権者の強制執行に乗っかって配当を受けることを前提としているため、配当要求資格が与えられているのです。

② 配当を要求すべき時期は決まっています

配当を要求できる期間は、差押えの効力発生時から物件明細書の作成までです。
一般先取債権者が大量に配当要求をすると、一般先取債権の総額が売却した不動産の価格を超えてしまう可能性があります。
そうなると、一般先取債権の回収が優先されることから、差押えをした債権者の債権に分配される分の代金がなくなり、無剰余執行になってしまうのです。
(無剰余執行については売却「換価」についての記事を参照してください。) そうした事態を避けるため、物件明細書の作成というタイミングで配当要求を締め切ってしまうのです。

③ 配当要求の効力

債権者は、配当要求をすることによって「配当を受けるべき債権者」となり、配当を受けられる地位を取得します。
配当を受けるべき債権者については、後ほど説明します。

■ 配当の手続の流れ

配当要求の後で不動産の代金が納付されると、いよいよ配当の手続が始まります。その流れを見ていきましょう。

① 裁判所による配当期日の指定

まず、不動産の代金が納付されると裁判所が「配当期日」を定めます。これは不動産の代金が納付されてから1ヶ月以内の日になることがほとんどです。
配当期日が定められると、配当を受けるべき債権者と債務者がその日に裁判所に来るように呼出しを受けます。

② 「配当を受けるべき債権者」と提出書類

配当を受ける資格をもっている「配当を受けるべき債権者」は、以下の4種類です。
・ 差押債権者
・ 配当要求した債権者
・ 差押前の仮登記をもっている債権者
・ 差押登記前に抵当登記した債権者
これらの債権者は、債権の元本、利息、執行費用の額などを記載した計算書という書類を提出するよう裁判所から催告を受けます。計算書の提出締め切りは配当期日の指定から1週間以内です。
各債権者から提出された計算書は、配当表という書類の原本を作るための資料として使われます。
配当表とは、どの債権者がいくら配当を受けるかを記載したものです。債権者が配当表に対して異議を申し出ない限り、最終的にはこれに従って配当がなされるという大変重要な書類です。配当表には、配当期日や担当の裁判所書記官の名前、不動産の売却代金の額、債権者の氏名や債権額、配当の順位などが記入されています。

③ 配当期日には何をする?

配当期日には、配当を受けるべき債権者全員と債務者が裁判所に出頭します。
そして、予め裁判所が作成した配当表の原案が出頭した債権者と債務者に提示されます。
その原案に対して参加者の誰かが異論を述べた場合は、それに関係する債権者と債務者に対して裁判所が質問をし、書類を調べて、債権の額や配当の順位などを定め、最終的な配当表の内容を決めていきます。
最後まで主張が受け入れられなかった債権者・債務者や配当表の内容に不満のある債権者・債務者は、当日に配当異議の申出をすることになります。 配当異議については次の項目で詳しく説明します。

④ 配当表に対して不服がある場合はどうする?

・ 内容についての不服 配当表の内容について不満のある債権者または債務者は、配当期日に出頭して、配当異議の申出をした上で、配当異議の訴えを提起することになります。
訴訟によって権利関係についての決着をつけるのです。
配当異議の申出をするときは、異議の相手方(債務者なのか、他の債権者なのか)と異議の内容(どの債権についての異議なのか等)を示さなければなりません。

配当異議の申出があると、異議のある部分については配当が一旦留保されることになります。 しかし、1週間以内に配当異議の訴えを提起して、かつ提起したことの証明書を裁判所に提出しなければ、配当異議の申出は取下げられたものとみなされます。

その結果、配当表の通りに配当がなされることになります。注意が必要なのは、配当異議の訴えを提起するだけではなく、訴えを提起したことの証明書を提出するところまで1週間以内に済ませなければならないことです。訴えを提起しただけで安心してしまわないように気をつけましょう。
・ 配当表作成の手続に対する不服または、配当表の内容ではなく、配当表を作成する手続に問題があったとして配当表の不服を申立てる方法もあります。
具体的には、配当を受けるべき債権者が配当期日に呼び出されなかった場合や、計算書を提出するよう催告がなされなかったといった場合などは手続に問題があるといえるでしょう。
これらの場合、不服のある債権者または債務者は、配当期日の前や配当期日の当日に執行異議を申立てることになります。

⑤ 配当の実施

配当異議の申出がない部分については、配当期日の当日に、配当表に従った配当がなされます。
配当期日に出頭しなかった債権者がいた場合は、その配当額は供託されます。
供託とは、法律で定められている場合に限って、国家機関である供託所に金銭などを預けて、後に債権者などに対して支払いをしてもらうことができるという制度です。
また、配当異議の訴えが提起された債権についての配当も、一旦供託されます。訴訟が終わるまでは配当額が確定しないからです。

■ 配当の順位

以上で配当手続の流れについてはわかりましたが、具体的な配当の順位は法律でどう定められているのでしょうか。
不動産競売手続において、債権の金額のみを基準として配当をしてしまうと、逆に不平等な結果となります。
なぜなら、不動産競売手続にかかる費用を立て替えてくれた債権者もいるからです。
また、税金などは優先して回収させることが社会政策的な観点からは望ましいとされています。
その他もいろいろな事情が考慮されて、現在は原則として以下の順位で債権が充当されることになっています。
①不動産競売手続にかかった費用に関する債権
②官公庁が回収すべき税金
③抵当権などによって担保されている債権
④優先されない一般の債権
ただし②と③については、②の税金の法定納期前に③の抵当権などが設定されていた場合は、順位が入れ替わって③のほうが優先される場合もあります。
複数の債権が同順位にあって、かつ不動産の売却代金がそれら全てを回収するに足りない場合は、債権額に応じて按分する形で配当されます。

■ 配当に関しての不服

配当手続が終わってしまったけれど配当に不服があるといった場合、どのような手続を踏んで不服申立ができるのでしょうか。

① 配当異議の訴えで原告が勝訴したら

先ほども手続の流れの中で触れた「配当異議の訴え」ですが、原告が勝訴した場合、訴訟の後にどのような処理がなされるのでしょうか。簡単にみておきましょう。
配当異議の訴えには、原告が債務者である場合と、債権者のうちの一人である場合が考えられます。
どちらの場合も被告は他の債権者のうちの一人です。
・ 原告が債務者の場合は?
原告が債務者で原告勝訴の場合、配当表に入れるべきではない債権が入れられていたことになるため、配当表は作り直しになります。
訴訟に参加しなかった債権者も、それまでの配当によって債権を全部回収できていなかった場合は、敗訴した債権者が抜けた配当表が作り直されることによっておこぼれの形で配当を増やしてもらえる可能性があるのです。債権者に配当が再配分された後、まだ売却代金の残余があれば債務者に返されることになります。
・ 原告が債権者の場合は?
少し話しが複雑になるので、例を使って説明しましょう。
ここにA、B、Cの3人の債権者がいるとします。
それぞれが持っている債権額は以下のとおりです。これらは全て優先権のない一般の債権とします。
A: 100万円B: 200万円C: 300万円
そして、不動産の売却代金から費用を引いたら300万円が残ったため、これを3人に配当しました。債権額に従って按分するため、配当額は最初、以下のようになりました。
A: 50万円B: 100万円C: 150万円
配当手続後、Aが「Bは債権を持っていない!」としてBを相手取って配当異議の訴えを提起し、全面勝訴しました。
この後、配当表は変更されるのですが、どのように変更されるのでしょうか。
まず、敗訴したBの配当額はもちろん0円になります。 そして、Cについては配当額の変更はありません。訴訟の判決は当事者間でのみ効力をもつのが原則だからです。
問題は原告Aの配当額ですが、これについて最高裁判所の判決は、最初からBがいなかったとしたらもらえていたはずの配当額を超えて、債権額を上限として回収することができるとしました。 
つまり、初めから債権者がAとCだけだったらAは75万円、Cは225万円配当されていたはずでしたが、今回勝訴したAは75万円を超えて、債権額100万円を全て回収できるというわけです。
(Bが抜けたことで100万円を再配分できるようになったため、うち50万円はAに渡るのです。)
そして、残った50万円はCでなく債務者に返されます。 最終的な配当額は以下のようになります。
A: 100万円B: 0万円C: 150万円債務者: 50万円
残りの50万円が債権者Cではなくて債務者に返されるのは不公平なような気もしますが、これを回収したかったら、Cも配当異議の訴えに当事者として参加する必要があるのです。

② 請求異議の訴え

請求異議の訴えとは、債権者に債務名義はあるけれども、弁済などによってその債権がなくなったため債務名義の執行力もなくなったとして、強制執行を永久に若しくは一時的に不許可とすることを求める訴えです。
これは債務者が債権者を相手取って提起する訴えになります。 

③ 不当利得返還請求の可否

配当が終わった後で正しくない配当であったことがわかった場合、もらいそびれた債権者が、多くもらいすぎた債権者に対して民法の不当利得返還請求をすることができるでしょうか。
これについては、抵当権者などの担保権者を無視したような配当がなされた場合には、その担保権者には不当利得返還請求が認められるとされます。
一方で、優先権のない一般債権者については、不当利得返還請求は認められないとされています。

■ まとめ

以上で、不動産競売手続は全て終わりです。債権回収のためとはいえ、長い手続でしたね。大変おつかれさまでした。
配当手続に関しては、計算書の提出期間や配当異議の訴えを提起すべき期間が1週間と短いため、手続が遅れてしまわないように注意する必要があります。
最後まで気を抜かずに、必要な場合は弁護士に相談しつつ手続を進めていきましょう。