「仮差押え」の手続きに必要な2つのポイント

仮差押えを実行する為に必要なのは、「裁判所の許可」と「保証金」の2つです。
ひと言で表現すればシンプルですが、実際の手続きには、裁判所に提出する詳しい事情を記載した申立書を作成したり、裁判官に何度も面接に行く必要があります。
手続きが煩雑で対応が難しいですが、仮差押えは効率良く債権回収するには有効な手段で、弁護士に依頼するケースも増えています。
手続きの流れを知っておけば、どのような状況で仮差押えをすべきか?という判断の助けになります。

■裁判所の許可で債務者の財産を凍結させる

仮差押えを行うには、裁判所の許可をとり、仮差押えの決定書を受け取る必要があります。
請求債権目録等の必要書類をまとめた申立書を裁判所へ提出し、審査・面談を経たのち、仮差押えの決定書(仮差押命令)が出され、実際に執行となります。
仮差押えが実行されると、債務者の財産(預金や不動産など)に制限がかかります。
預金に関しては、金融機関に対して預金者への払戻しを禁止する命令が出されます。このため仮差押えが解消されるまでの間、債務者は銀行を通じた取引ができなくなります。
土地や建物といった不動産に関しては、仮差押えされた事が不動産登記簿に記載されます。これにより不動産の処分にも制限がかかります。

■担保金が必要な理由とは

仮差押えの手続きは債権者の申し立てによって行われ、裁判所では短期間で決定書が出されます。
裁判を起こして、強制執行(本差押え)の判決を待つと数ヶ月かそれ以上かかりますが、仮差押えの決定はそれよりも非常に早く行えるのがメリットです。
しかし仮差押えの申請の中には、債務者が一方的な主張をしたり、虚偽の申告をしているケースも存在します。
そのため裁判所では、仮差押えの申請には担保金を必要とします。
後々、債務者が損害を被ったと判断された場合には、この担保金が損害賠償金に充てられます。
裁判所に担保金を納める事で、事実関係の精査にかかる時間を大幅に短縮できるのが仮差押えの特徴です。
こうして相手の資産運用に制限がかかる事で、債務の回収が済むまで他の取引を出来なくしたり、他人に財産が渡らないようにする=財産の保全が仮差押えの目的です。
悪質な相手だと名義変えや財産隠しをする場合も考えられますが、預金の引き下ろしや不動産の処分をできなくする事で予防策になります。
債権が売掛金なら取引先、給料ならば勤務先からのお金の流れが止まるので大きな効果が期待できます。

「仮差押え」の活用方法・より確実な債権回収を目指す。

■早い段階から効果を発揮する法的手段

仮差押えの効力は「債務者(相手)の財産を凍結できる」事です。
ポイントになるのはその迅速さで、手続きをスムーズに進めれば1週間程度で実行できます。
民事裁判を起こして強制執行が確定するには数ヶ月以上かかるのと比較すれば、仮差押えがいかにスピーディーな対処法であるかがお判り頂ける筈です。
仮差押えが実行される事で、債務者は支払いを迫られます。例えば複数の取引先があり、あなたへの支払いよりも他の取引を優先させたい場合であっても、融通がきかなくなるわけです。
そして心理的なプレッシャーも無視できません。仮差押えによる財産の凍結は裁判所を通じて執行されます。
長い期間を経て判決が確定するよりも、遥かに早い段階で「支払いせざるを得ない」と思わせる事が可能です。

■仮差押えのメリットと注意点

債権回収にあたって、仮差押えを行う利点をまとめると
・強制執行(本差押え)より格段に早く実行できる
・債務者の財産凍結により支払いを督促できる
・財産隠しされる前に先手を打てる

といった事柄が挙げられます。
話し合いでは解決できない時、限られた期間で解決したい時に有効な手段だと言えます。
ただし仮差押えも万能というわけではなく、幾つかのデメリットも存在します。
まず裁判所に仮差押えを申し立てるには保証金が必要です。これは債権=請求額の2割~3割程度になるケースが多いです。
次に、債務者が破産した場合は仮差押えは無効になってしまいます。仮差押えはあくまで、相手が倒産や民事再生法の適用に陥る前に解決するための手段です。
法的には、支払い義務が確定する前に財産を凍結し、支払いを促すのが仮差押えです。弁護士と相談して効果的な
タイミングで活用しましょう。

「仮差押え」の実際の手続き

【仮差押え】申し立てから決定までの流れ

法的には、仮差押えは訴訟をすることを前提に行うものです。
従って仮差押えをしたら訴訟を提起し、勝訴判決が確定したら本差押え(強制執行)という手順となりますが、もし仮差押えによって支払いがあれば、そこで訴訟を中止し、仮差押えを取り下げる事も可能です。
仮差押えの 申し立て手続きは
申し立て

書面審理・債権者面接(面接が不要な場合もあり)

担保の決定

保全決定(保全命令発令)

という流れになります。これに沿って具体的な手続きを見てみましょう。

■申し立てに必要な書類と審理

仮差押えには、申立書・申立印紙・申立郵券・委任状・目録・疎明書類・報告書、当事者が 個人の場合は住民票、法人の場合は資格証明書が必要です。
これらの書類で債権者の身分を証明し、債権が有る事と保全の必要性(強制執行の前に仮差押えをする理由)を疎明します。
疎明(そめい)とは、 証明には至らないが事実関係が確からしいと思わせる事です。仮差押えは訴訟の判決を待たずに裁判官が決定するものなので、この疎明が申し立ての成否を分ける事になります。
書類の提出先となる管轄裁判所は、仮差押えの対象である「債務者の財産」の所在地です。
例えば預金口座なら、預金口座がある銀行の本店所在地の管轄の地方裁判所、給料債権なら、債務者が勤務している会社の所在地の管轄地方裁判所となります。
もし、すでに債務者に対して簡易裁判所で訴訟を起こしているなら、その簡易裁判所に仮差押えの申立をすることが可能です。
準備した書類に基づいて、書面審理または債権者の面接が行われます。
仮差押えの手続きでは、殆どの場合、債務者への審尋が行われることは有りません。保全の性質上、秘密裏に手続きを進める必要がある為です。

■担保の決定~仮差押えの発令へ

民事保全法に基づく管轄裁判所に対して必要事項を疎明した後、裁判所が指定した保証金を供託します。
仮差押えは債務者の意見を聞く余地が無いまま手続きが進行するため、債務者に損害を与えた場合の補償を考慮して担保が要求されます。担保は基本的に保証金となります。
保証金は、回収する債権の評価額の割合で算出されます。目安としては債権の20~30%ですが、個々の事例によって割合は変わってきます。小額の申し立てでは保証金がゼロの場合もあります。
以上の手続きを経て裁判所が認めたら、仮差押命令が発令されます。
仮差押命令が債権者に送達されて、2週間以内に執行を申立てなければなりません。
仮差押えを申し立てる際の要件をまとめると
1 債務者にお金を貸した事実など、請求権を持っている事(被保全権利)を疎明する
2 早急に仮差押えをしておかないと債権回収が困難である事(保全の必要性)を疎明する
3 保証金を供託する事

この3点を満たす必要があります。このうち特に1・2を満たす上で、書類の準備や煩雑な手続きが要求されます。
こうした手間やリスクを解消する事が、仮差押えの手続きを弁護士に依頼するメリットだと言えます。