目次
■はじめに
■相手を追い詰めるリスクとは
1.任意に支払ってもらえる可能性が低くなる
2.財産を隠される危険性がある
3.相手に自己破産を選択させかねない
■相手を破産させない
相手を破産させると生まれるデメリット
相手の負担を軽くする
■関係構築が鍵
継続的な取引関係の有無
8つのメリット
■まとめ
■はじめに
商品代金、サービス料金、貸付金など名目のいかんを問わず、債務者との信頼関係は回収の可能性を高める重要な要素となります。
相手の置かれている現状を知らなければ、ただただ非現実的な返済を迫ることになりかねません。
目的は、あくまでもお金を支払ってもらうことであり、相手方をやり込めることではありません。貸したものを返してもらえなければ意味がないのです。
どうすれば回収率を高められるかを考えることが最も重要といえるでしょう。
もちろん理想はお互いが満足のいくカタチで問題が解決されることです。
そのためには、相手から必要な情報を引き出し、それぞれのケースに応じた柔軟な解決方法を模索していく必要があります。
そこで必要となるのが、相手との信頼関係です。
相手の方からすでに修復不可能なほどに関係を破壊してきているときは別ですが、こちらから不必要に壊すことはないのです。そのようなことをしてもなにもメリットはありません。
関係を壊さずにすむのであればそれにこしたことはないのです。
ここでは相手との信頼関係を維持することで得られるメリットや、これを失う危険性について解説していきます。
■相手を追い詰めるリスク
権利があるからといって闇雲にそれを振りかざすことは得策とはいえません。
かえって回収が難しくなることがありうるからです。
状況を見ながら、具体的なケースに応じて柔軟に対処していくことが重要です。
1.任意に支払ってもらえる可能性が低くなる
たとえ現時点での債務の返済が滞っていたとしても、支払いが一時的に難しくなっているだけで、なるべく早く返済したいと考えていることは多いものです。
だれも好き好んで督促の電話を受けたり、内容証明郵便を受け取ったりしたいとは思わないはずです。
滞納の状況にもよりますが、なるべく高圧的と受け取られる言動をとらないほうが無難といえます。
滞納から日が浅い場合や、常習的でないような悪質といえない場合には特に気を使ったほうがいいでしょう。
信頼関係があれば、後日、無事に支払ってもらえることも少なくありません。
一方反感を買うことで、素直に支払ってもらえなくなることもあるのです。
2.財産を隠される危険性がある
また、その気もないのに、「訴える!」などと強制的な回収手段を相手にちらつかせることもリスクとなりえます。
実際には当面法的な手続きなどをとるつもりもないにもかかわらずこのような態度を見せると、「財産が差し押さえられてしまうのではないか」という危機感を相手に植えつけることになります。
その結果、財産を隠されてしまうことがあるのです。
たとえば、銀行口座から預金が引き出されてしまえば、将来的に強制執行をしようとしたときに、引き出したお金がどこにあるのか、またそもそもそのお金が現存するかもわからなくなってしまいます。
せっかく、取引先口座を把握していたのに下手に追い詰める言動をしたことで、回収が難しくなってしまうのです。
※実際に法的な手段をとる場合には、事前に仮差押えを行うことで処分等を防ぎます。
夜逃げ
財産だけではなく、本人自身が行方をくらませてしまうこともあります。
債権者としては、夜逃げをされるとは思っていないことが多いものです。
普通は、その前に自己破産などの手続きをとると考えるからです。
しかし、実際には突然相手と連絡がとれなくなるケースが存在します。
これは、自己破産を申請しても免責を得られる見込みがないときや、闇金からの借り入れがあるときが考えられます。
破産手続きをしても免責を受けなければ借金はなくなりませんが、免責は必ず認めてもらえるものではありません。たとえば、以前にも経験があるときには一定期間経過しなければ許されません。
そのため、このような状況にある人が夜逃げという選択をとることが少なからずあるのです。
闇金の場合にはもともと違法な貸し付けを行っている業者ですから、裁判所の決定を無視して過酷な取り立てを続けることもめずらしくはありません。
そのため、耐えきれずに行方をくらませてしまうことがあるのです。
そもそも、闇金に手を出す状況自体が、追い詰められた結果といえます。
そうなる前に話し合いをし、無理なく返済できる状況を探っていくことも重要といえます。
もちろん探偵を雇うなどして居場所を突き止め、回収することは不可能ではありません。
しかし、そのためには費用や時間、労力が余計にかかることになります。
3.相手に自己破産を選択させかねない
多くの人は、どうしても支払いができなくなったとき、最終的にはこの手続きをすることになります。そして、特に理由がない限り免責も与えられます。
これによって返済の必要がなくなり、こちらとしてはどうしようもなくなります。
相手を追い詰めすぎると、高金利の業者から借り入れるなどして、支払能力がさらに悪化し破産手続きをとられるリスクがさらに高まることになります。
自己破産について詳しくは後述します。
社会的信用を失うリスク
これまで、有名な企業や自治体が売掛金債権や租税債権の回収の際、脅迫まがいの方法をとったために世間から糾弾されたことがあります。
このように相手方を追い詰めることが自社の信頼を損ねることがありうることにも注意が必要となります。
■相手を破産させない
相手を破産させると生まれるデメリット
免責が認められることで債務はなくなります。
このような事態は、債権者としてもっとも避けたいシナリオと考えられます。
したがって、相手を破産させるような事態を引き起こさない方法を考えていく必要があります。
相手の負担を軽くする
支払いに困っている人は、弁護士への相談を躊躇することがあります。弁護士に依頼すると高額な費用がかかるというイメージがあるからです。
しかし追い詰められてかなりのプレッシャーを背負った状態になれば多くの人は弁護士のもとへ駆け込みます。そしてイメージしていた弁護士費用と比べて実際の依頼費用がそれほど高くないと分かると、自己破産を含めたさまざまな債務整理の方法を依頼することが多くなります。
つまり、「追い詰められる」ことで、一度「弁護士への相談」に踏み切れば、「債務整理」という流れになることが多いといえます。
債務者としては借金がなくなったり、減少したりする大きなメリットを受けるわけですが、債権者側としては困ったことになります。
特に、免責決定を受けてしまうと、債権の回収ができなくなってしまいます。
このような事態を避けるためには、返済が十分可能な状況をこちらが作ることが大切です。
つまり、前記の「追い詰められる」という状況をなくすことで、その後の流れを断ち切るわけです。
具体的には、何回かに分けて返済することを提案したり、約定利息や遅延利息を軽減したり、免除したりすることが考えられます。
こういった対応をすることで、なんとか返せそうだと判断してもらえれば、最悪の事態を避けられる可能性が高くなるのです。
もちろん、債権の額や収入状況、第三者に対する債務の存否などにより、具体的な方法を検討する必要があります。
たとえば、ほかにも権利者がいるのに自分だけ負担を軽くしても問題は解決しないからです。
■関係構築が鍵
以上に見てきたように、債務者に圧力を掛けて関係を悪くするよりも、良好な関係を維持した状態でいるほうが回収の可能性が高まりますし、その金額が高くなることも期待できます。
ほかにもさまざまなメリットがあります。
継続的な取引関係の有無
継続的な取引関係にある場合
以前から何回も取引をしたことのある間柄であれば、すでに信頼関係が構築されているはずです。これを壊さないようにすることが重要です。
この関係性自体が大きな財産であり、債権回収における重要な武器の一つとなるのです。
武器というのは必ずしも相手を傷つけるものだけではありません。
最終的には相手の傷を浅くし、良好な関係を維持することに役立つものもあるのです。
その具体的な効果は、回収方法の柔軟性という形で現れます。
継続的な取引関係がない場合
これまで一切関係のなかった相手であっても、信頼関係を構築しようとする姿勢は無意味なことではありません。
督促をすること自体が、相手方に信頼されるきっかけとなりうるのです。
もし居丈高に相手に迫れば、反発心を引き起こし、良好な関係を築くことは難しくなります。
結果的に強硬な回収手段をとらざるをえなくなり、費用や時間、労力が余計にかかることにつながります。
反対に、相手を尊重した態度で臨むのであれば、反発する理由はなく話し合いが可能となり、とりうる手段が広がることになります。
8つのメリット
簡易な方法での回収が可能となる
債権の回収方法において、簡易的な方法としては、電話やメール、郵便などでの催告があります。
信頼関係が維持されていれば、電話で催促するだけでも支払ってもらえる可能性があります。単に支払いを失念していただけかもしれませんし、覚えていたとしても一時的に資金繰りが上手くいっていなかっただけで、すぐに解消されるかもしれないからです。
また、債務者としては信頼関係のあるところから支払手続きを進めようと考えてもおかしくありません。
後回しにされた場合、再び資金繰りが悪化するなどして回収が困難になることもありえます。
費用や時間を節約できる
支払督促や訴訟手続をとる場合、それなりの費用や時間がかかることになります。
任意に支払ってもらえれば、それらの費用や時間を節約できることになります。
準消費貸借
信頼関係があれば、債務の額や支払い方法について確認した債務承認弁済契約や、準消費貸借契約を結び、これを書面にして証拠とすることもできます。
もともとの契約に書面がないときや、債務の額や利息、支払条件など新しい約束について証拠に残すことも重要といえます。
公正証書
前記の契約を公正証書(強制執行認諾文言付き)で作成することも期待できます。
この書面は強制執行を可能とする債務名義となります。
強制的に作ることはできず、あくまで任意で作成に協力してもらうため、信頼関係が必要です。
消滅時効
債権には時効があり、行使しないでいると権利を失うことがあります。
これを防ぐには裁判を起こすことなどが必要となります。
しかし、いちいち訴訟手続をとることは煩雑であり簡単なことではありません。
また、相手方にとって酷とならないのであればもっと簡易な方法を認めても良いはずです。
そこで、相手方に権利を認めてもらうことによっても時効にかかることを防ぐことができることになっています。
承認してもらうためには、信頼関係が重要といえます。
具体的には、前記の契約書のような書面を作成することが大切です。
これにより証拠に残すことができるからです。
担保の設定
支払いの猶予や分割払いをしてもらうにしても、将来の支払いを確実にしたいところです。
信頼関係があれば、担保を立ててもらうことも期待できます。
具体的には、保証人を立ててもらったり、貴金属など財産的価値のある物に動産質権を設定してもらったりすることが考えられます。金額が大きければ抵当権も検討できます。
財産状態を把握しやすい
信頼関係が維持できていれば、資産を把握することもしやすくなります。
どのような財産がどれだけあるのかが大雑把にであっても知ることができれば、将来弁済期を守れなかった場合に差し押さえて競売するときに役に立つことになります。
和解の可能性が高まる
訴訟など裁判所での手続きが行われたとしても、相互の信頼関係が残っていれば和解できる可能性が高まります。これにより早期に紛争を解決することや柔軟な解決に至ることがあります。
■まとめ
- 相手との信頼関係は債権回収において重要な役割があります。そのため、できるだけ壊さない方向で検討することが有益です。
- 任意に支払ってもらえる可能性が高まります。
- 不必要に追い詰めると、財産を隠されたり、自己破産されたりするおそれが高まります。
- 自己破産のリスクを小さくするためには、無理のない返済プランを話し合いなどで探っていくことが有効です。
- 新たな契約書を作ることに協力してもらいやすくなります。公正証書(強制執行認諾文言付き)であれば訴訟をせずに強制執行ができます。
- 権利の存在を認めてもらうことで時効にかかることを防げます。その場合、前記のような書面にすることが大切です。
- 保証人などの担保を立ててもらうことも期待できます。