目次

はじめに

ポイント1~リフォームの種類と特徴

ポイント2~請求の手段

ポイント3~訪問販売

必要書類

申し込みの撤回、契約の解除

ポイント4~先取特権

まとめ

 

■はじめに

水回り、内装、外装等、リフォームもさまざまです。

 

従来から行われてきた屋根や外壁の塗装などのほか、様々な部分でリフォームが行われるようになってきています。種類が豊富になり、その分金額も千差万別となっています。

 

最近では、高齢化の問題からバリアフリーリフォームやオール電化リフォーム、災害への備えから耐震工事などが増えています。中には新築に近い形にまで工事する大掛かりなものもあります。

 

そのいずれも依頼主である施主の意向に沿って工事を進めますが、代金を一括で前もって支払うことはあまりないため、工事が完了しても支払ってくれない事態が生じます。

 

リフォームにおけるトラブルの傾向としては、工事期間がある程度かかるため、その間に施主の資力が悪化することがあること、施主が抱いていたイメージと異なる外観となったことで感情的な反発により支払いを拒否されること、塗料や建材による健康被害が生じうること、訪問販売に起因する各種の問題などがあります。

 

一方で資産としての不動産が存在するため、担保として活用可能という特徴もあります。

 

この記事では、個人住宅のリフォームに関して、主に事業者の立場から、代金の未払いやその他のトラブルについて解説していくことにします。

 

■ポイント1~リフォームの種類と特徴

リフォームの内容によって工事代金の支払方法や、その他のトラブルが起こる原因に違いが生じます。そこで、主なリフォームの形式ごとに、その特徴を見ていきます。

 

・外壁塗装

精算方法としては、工事が終了した後の一括払いが多いとされています。

そのため、資力が不足するなどしてまったく支払ってもらえない恐れが生じます。

ごく普通の一軒家では、塗料の種類にもよりますが、相場として少なくとも50万円以上、100万円を超過することもよくあるため、これだけの金額を支払ってもらえないと経営に影響を与えかねません。

 

資力不足の他にも、工事に何らかの不満をもたれたことで問題となる事例も少ないとはいえません。

 

例えば、イメージしていた色と異なったことでトラブルが起きることがあります。これについては見本を交付することで防ぐことが考えられます。

 

塗装について特に注意が必要なのは匂いです。

塗料の種類によっては健康被害を訴えられ深刻な問題になることがあります。

匂いに敏感な人がいないか聞き取り調査し、その場合、安全性の高い水性塗料を提案するなどの工夫が必要と考えられます。

 

内装リフォーム

内装に関しても壁紙やフローリングに使われる接着剤等が原因で健康被害を訴えられることがあります。

 

これを防ぐためには、安全性の高い材料を用いたり、見本があればそれを示したりするなど、施主が納得するまで説明を行うことが重要といえます。

 

内装に関しても履行方法が一括後払いや分割払いが多いと考えられますから、トラブルが起きないように事前の対策が大切です。

 

耐震リフォーム

自治体によっては補助金が交付される場合もあり、その分だけ債権回収のリスクが小さくなりますから、確実に交付されるようにすることが肝要といえます。交付される条件や金額は、自治体や年度によっても異なりますから、注意が必要です。

写真の撮り忘れによる工事内容の確認ができない場合など、条件を満たさないと補助金の交付がされない恐れがあります。その結果、損害が生じたとして支払いを拒否されることも考えられます。

 

バリアフリーリフォーム

介護保険により、手すりをつけるなどのバリアフリー工事に給付金が出ます。

事前申請など、条件があるので気をつけなければなりません。

介護保険の対象ではなくても自治体によって独自の助成金制度を設けている事があり注意を要します。

給付金を受けられたはずのケースで受け取れないことになりますと、支払いを拒否されるなどトラブルの原因となります。

 

■ポイント2~請求の手段

・電話、FAX、メール、郵便

もっとも手軽な督促方法です。定められた日に入金がない場合、その理由が資力不足などではなく、うっかり期日を失念していたような場合には効果的です。

 

しかし、何度催促をしてもはぐらかされてしまうような場合には、その先の進展が期待できず、時効のおそれも出てきます。

 

そのような場合であっても弁護士が請求することで履行してもらえることがあります。時効にかかる前に弁護士に相談されることをおすすめします。

 

調停

当人たちのほか、民間人である調停委員を交えて話合いで解決を目指します。

話合いで解決しますので、約束した内容であれば、強制執行をしなくても相手が自ら支払ってくれることも多いといえます。費用も安く、非公開で行われますのでプライバシーも守られます。

また、口頭での約束だけで客観的な証拠がないようなときでも進められるので、訴訟よりも柔軟な解決が可能です。

調停調書が作られると確定した判決と同様に債務名義となりますから、差押えも可能です。

 

強制的な回収は専門性が要求されますし、不利に扱われないためにも、当初から弁護士に依頼することを考慮すべきです。

 

訴訟

どうしても請求に応じてもらえないときは、訴訟の可能性も考慮していかなければなりません。

訴訟は専門的な部分が多いですから、個人で行うことは難易度が高いです。

 

督促を弁護士が行えば、一般の方では効果の低い電話や郵便であっても回収できることも多いので、結果として訴訟を回避できることも少なくありません。

時間と費用を節約するためにも早めに弁護士に相談してください。

 

■ポイント3~訪問販売

住居を訪ねてリフォームのセールスを行うような場合、特定商取引法における訪問販売にあたるため、同法に気をつける必要があります。

 

法律に違反した場合には、契約を解消されたり、行政処分や罰則の対象となったりするので注意が必要です。

ここでは、リフォーム会社にとって特に注意を要する規制について説明していきます。

 

身元の開示

セールスを開始する前に、会社名、セールス目的であること、どのようなサービスを提供しようとしているのかを相手に示す必要があります。

これは、勧誘を受けているということをはっきり認識させるためです。

したがって、「無料診断に来ました。」と伝えただけの場合には、セールス目的を明らかにしていないため違法となります。

 

・勧誘の禁止

セールス活動をした際に明確に断られた場合には、その契約について再度訪問することも含めて勧誘が禁止されます。違反した場合には業務停止命令等を受けることがあります。

 

ここで問題となるのは「セールスお断り」等のステッカーが貼られている場合です。

これは契約対象などがはっきりしないため、直ちに禁止されるものではありません。

 

ただし、一部の自治体が条例で規制していることがありますので注意が必要です。

 

・必要書類

事業者は、申し込みがあった場合や契約をした場合、法令で定められた形で、役務の種類や取引条件等を記載した書類を差し出さなければなりません。取引条件があいまいだとトラブルになりやすいからです。違反に対しては懲役刑を含んだ厳しい制裁があります。

 

この書類には、工事の内容が具体的に書かれていなければならず、「リフォーム工事一式」や「屋根工事一式」といった記述では足りません。

 

・説明義務

クーリングオフ等についての説明を行う義務があります。

 

また、クーリングオフの権利などを妨害するために、法令で定める事項について、事実に反する説明をしてはいけません。

 

例えば、特別に安い価格で提供すると説明したが、実際には普段から同じ価格であるような場合です。

 

解除権については、例えば、「足場をすでに組んでしまっているので解除できない」と告げることや、「個人的理由でのクーリングオフはできない」、「違約金が必要」など、法律に反する説明をするような場合です。

 

ほかに、そんな事実はないのに、「雨漏りがしている」、「柱が腐っていてわずかな地震でも倒壊する」などと告げることも許されません。

 

仮にこのような形で契約をさせた場合、故意であれば犯罪となります(刑法上の詐欺罪に問われる可能性もあります。)。よく確かめなかった過失による場合でも契約の解消や行政処分の対象となります。

 

また、一定の重要な事項について故意に説明しないことも禁止されています(つまり、重要な事項についてはきちんと説明しなければなりません。)。

 

・威迫の禁止

人を不安にさせることで困らせ戸惑わせるようなことも許されません。

 

・申し込みの撤回、契約の解除

一定の要件を満たすと消費者は、書面によって一方的に申込みや契約をなかったことにできます。

 

クーリングオフの場合、前記の必要書類を受け取った日から8日が経過するまで解消できます。そのため、書類を交付しなかったり不備があったりすると、この期間がスタートしないので注意が必要です。

 

解除等の意思表示をする際、書面ではなく口頭でも許されるかという問題があります。

結論からいえば、解除の効果が認められる可能性があるということになります。

ただし、認める理由については見解が一致しておらず、異議を唱えなければ合意による解除を認めうるという立場(特定商取引法ガイド「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)平成28年版」(消費者庁)P.56)や、消費者保護という趣旨を重視して書面による必然性はなく書面と同等の明確な証拠があればよいという立場(東京簡判平成17.5.26等)などがあります。

いずれの見解に立ったとしても、口頭による契約解消の効果を認めうることになりますが、最終的には解除等の意思表示がされたことを証明しなければなりませんので、書面で行うべきといえます。

 

その書面の種類にも気をつけなければなりません。

本法における撤回や解除の効果は書面を発信したときに生じます。

そのため、書面を送ったことを証明できればいいことになります。

一般的には、はがきの両面のコピーをとった上で、特定記録郵便が使われることが少なくありません。送ったことが客観的に分かるからです。

 

ですがこの方法ですと何らかの事情により配達されなかったり、到達はしていても他の郵便物に紛れてしまう可能性が高くなったり、トラブルが起きやすくなります。

そのため、配達記録が残る簡易書留も利用されています。ただし、この方法も内容が記録されませんので問題がないわけではありません。

 

そこで、消費者の立場としては、内容証明が一番確実とされています。

事業者の立場としては、特定記録郵便はトラブルのもとですので、少なくとも簡易書留を利用してもらえるように説明しておいたほうがいいかもしれません。

 

また、この場合、損害賠償や違約金を請求することはできません。

 

・原状回復

前記規定により契約がなかったことになった場合、元の状態に戻す義務が生じます。

具体的には、すでに代金を受け取っていればこれを返還しなければなりません。すでに利益が消費者に発生していたとしても、不当利得の返還請求はできませんし、相殺することもできません。

 

すでに工事を行っている場合、不動産等を元の状態に戻すよう請求されたときは、無償でこれに応じる義務があります。

 

したがって、クーリングオフ可能期間内はリスクが高いため、工事を始めるのは控える方が無難といえます。

 

■ポイント4~先取特権

リフォーム工事は不動産の価値を高める効果があるため、他の債権者よりも優先して債権の回収が認められるべきです。

 

そこで、リフォームのような工事をした人には、先取特権という優先的に弁済を受けられる地位が与えられています。

 

抵当権者や質権者がいたとしても優先して回収できます(租税債権者などとの関係では劣後することがあります。)。

 

また、訴訟をして判決などの債務名義をとらなくても競売などを行えるメリットもあります。

 

ただし、あらかじめ予算額を登記しておかなければなりません。実際の費用がこの額を上回ったとしても、その金額については他の債権者と同じ立場になります。

 

ここで気をつけなくてはならないのは、税金と司法書士への報酬です。登録免許税だけで債権額の1000分の4が必要となります。

 

そのため、リフォーム金額が大きかったり、抵当権者などの債権者が他にいたりする場合などに利用を検討することになるかと思います。

 

■まとめ

・リフォーム工事では一括前払いは通常行われないため、滞納の可能性が常にあります。

・施主の思惑通りに工事が行われないと支払いを拒否される恐れがあります。十分な事前説明が必要です。

・補助金が交付される工事については、交付条件を確実に満たすように注意する必要があります。交付されなかった場合、代金の支払いを拒否される恐れがあります。特に自治体が独自に設けている制度には注意を要します。

・訪問販売の場合、必要書面の交付など規制が厳格であり、守らないと契約を解除されたり行政処分を受けたりします。

・クーリングオフは簡易書留など書面によって行うことが重要であり、その旨を消費者に説明しておくことが大切です。

・クーリングオフ可能期間内は工事に着手しないことがリスクを低減させます。

・工事金額が大きい場合やほかに抵当権者などがいる場合には、先取特権の利用を検討します。