目次

葬儀費用の特徴が未回収債権を生む。葬儀費用回収の4つの注意点

葬儀の実情とは。葬儀件数は増え1件あたりの費用は減少傾向にある

葬儀費用は数万円から。都市部を中心に少額化が急速に進んでいる

葬儀費用回収の具体的な方法とは。債権回収の進め方と方法

悪質な支払いの引き延ばしや支払い拒否には仮差押えの活用なども検討を

葬儀費用の回収について葬儀社内でマニュアルとテンプレートの準備を

大量の少額債権への督促や回収を可能な状況にしておくことが重要

葬儀費用の回収を弁護士へ相談する時は弁護士選びが重要。債権の回収率に影響

弁護士を選ぶポイントは2つ。費用倒れしないかが重要なポイントになる

最後に

 

葬儀社からの葬儀費用回収の相談は、少子高齢化による葬儀件数の増加に伴って増えています。葬儀社が督促などの未回収債権への対応をする場合、「家族を亡くしたばかりの遺族の気持ちを傷つけるのではないか」「葬儀費用を具体的にどのようにして回収するのか」という2点に非常に迷うようです。

 

債権回収の実務に携わる弁護士の視点から、葬儀費用の回収における注意点について解説します。「家族を亡くしたばかりの遺族を傷つけるのではないか」「葬儀費用を具体的にどのようにして回収するのか」という葬儀社が債権回収において迷いがちな2点についても、記事の中で解説を入れます。

 

■葬儀費用の特徴が未回収債権を生む。葬儀費用回収の4つの注意点

 

葬儀があると、葬儀に伴う費用が発生します。葬儀費用の支払い方法は葬儀会社によります。クレジット決済や電子マネー決済といった決済法が選択できない葬儀社も多いという現状です。遺族は葬儀を出し、葬儀と同時並行して金策のために奔走することになります。葬儀費用の第1の特徴は「急な支払いである」という点です。急な支払いであるからこそ、お金を準備することが難しいのが葬儀費用です。

 

葬儀会社側も遺族の事情を理解し、支払いを急かさず待つという柔軟さで対応していることが多いのではないでしょうか。葬儀費用の第2の特徴に「事情をくんで、支払いまでの期間が比較的長め(柔軟)に設定されている」という点があります。この柔軟さが債権の回収問題に発展することがあります。期間が柔軟に設定される傾向にあるからこそ、葬儀費用の踏み倒しや未払い、回収の大幅な遅れが発生する可能性があるのです。柔軟さが裏目に出てしまうためです。

 

未払いや回収の遅れがあると、当然ですが葬儀社の経営状況に影響を及ぼします。葬儀のために要した人件費や会場費などが会社に入って来ないわけですから、かなりの痛手になります。

 

葬儀というサービスを提供したわけですから、そのための費用を受け取るのは当然のことです。遺族の心情に配慮することは確かに重要ですが、そのために債権の回収を諦めることは悪手です。会社が傾いてしまいます。

 

葬儀費用の回収は、葬儀の実情に合わせて対策し回収を進めることが重要になります。そのために注意したいポイントは次の4つです。

 

  • 債権回収のための基礎知識として葬儀の実情を知っておく
  • 葬儀費用の回収を具体的にどのように進めるべきか方法を知っておく
  • 債権回収について葬儀社内でマニュアルやテンプレートを用意する
  • 債権問題を相談する場合は弁護士を選ぶこと。費用倒れについても検討する

 

■葬儀の実情とは。葬儀件数は増え1件あたりの費用は減少傾向にある

 

2018年9月16日に、翌日17日の敬老の日にちなんで発表された総務省のデータによると、日本人の人口に占める65歳以上(高齢者)の割合は28%を超えるという結果でした。65歳以上の高齢者人口は増加傾向にあります。ベビーブーム世代である団塊の世代が退職をしたことにより、急激な増加傾向にあります。

 

2012年と2018年を比較すると、高齢者が500万人も増えていることが分かります。高齢者は今後も増え続け、2042年には3,800万人を超えると目されています。高齢者人口が増えたため、世の中には高齢者に合わせたサービスが多く登場しています。

 

サービスの一例としては、リタイアメント世代に焦点を当てたカルチャースクールなどが代表的です。高齢者をターゲットにしたパックツアーなども提供されています。法律や金融の面では、不動産運用や相続対策などがよく話題に上ります。反面、高齢者が増えたことにより、介護施設不足や介護施設の人手不足などの解決すべき問題としてよくニュースで取り上げられます。

 

地域によっては葬儀社や葬儀会場の数が葬儀件数に合っていない。混雑により、火葬場や葬儀会場の予約をなかなか入れることができない。このような問題もクローズアップされることがあります。

 

野村総合研究所が2016年に発表した「葬祭単価の低下が互助会業界に与える影響」によると、葬儀件数は2015年~2030年にかけて20%以上の増加が見込まれるという結果です。現在も地域によってかなり混雑している葬儀の現場は、今後さらなる件数の増加により混雑が予想されます。

 

・葬儀費用は数万円から。都市部を中心に少額化が急速に進んでいる

 

一般財団法人 日本消費者組合の2017年「第11回葬儀に関するアンケート調査報告書」では、葬儀の平均費用は約197万円となっています。

 

ただ、このアンケートの回答数が数百人程度のため、実際の葬儀費用とかなりの乖離があるのではないかと言われています。アンケートには伝聞での回答も含まれています。仮にこの葬儀費用を基準にしたとしても、将来的にこの費用平均が維持されるかどうかは疑問です。なぜなら、葬儀費用は全体的に少額化傾向にあると言われているからです。

 

2013年4月12日付の「NHK生活情報ブログ」によると、関東では葬儀の5件に1件が火葬だけで済ませる直葬という形態であるとのことでした。費用目安で約20万円だそうです。10万円ほどの葬儀プランを提供している会社も登場しています。

 

野村総合研究所が2016年に発表した「葬祭単価の低下が互助会業界に与える影響」によると、葬儀単価は今後さらに減少するとの予想です。一昔前は、葬儀費用といえば100万円以上を見なければいけないような費用でした。現在は一昔前より少額化が進みました。今後さらに少額化が進むだろうという結果です。

 

葬儀費用が少額債権化し、さらに、件数が増加する将来的には、多数の少額債権を自社内でどのように回収するかが大きな課題になるはずです。これは、葬儀費用の回収について考える上で知っておきたい実情であり、注意点でもあります。

 

■葬儀費用回収の具体的な方法とは。債権回収の進め方と方法

 

葬儀社が遺族から葬儀費用の回収を行う場合、「葬儀費用を具体的にどのようにして回収するのか」が問題になります。葬儀費用も債権の一種です。なので、売掛金や売買代金のような他債権と同様の方法で回収を試みることになります。

 

ただ、債権の回収方法には、色々な方法があります。債権回収の方法は大きく分けて通常訴訟・少額訴訟・調停・支払督促・強制執行などの裁判所を通して行う方法と、任意交渉・電話や手紙などでの督促といった裁判所を通さない方法の2つがあります。債権額・債務者の返済への態度・債権の性質・債権者の意見・状況・滞納の期間などを考慮して適切な回収方法を選択することになります。

 

債権の回収は、ソフトな方法(電話や手紙での督促など)からスタートすることが基本です。督促からはじまって、債務者の対応を見ながら、少しずつ強い方法に切り替えて行きます。より強い債権回収方法(訴訟や強制執行など)に何時でも切り替えることができるように、契約書などの証拠整理も行います。

 

債務者が任意で払ってくれれば解決です。督促の段階で支払ってもらうことができれば、あえて訴訟をする必要はありません。

 

債務者が支払いを行わない理由も色々です。純粋に支払いを失念している場合もあります。葬儀直後は相続手続きや保険請求の手続き、続く初七日や四十九日の法要の準備で忙しくしており、葬儀費用の支払いまで手が回っていないことも考えられます。

 

葬儀から暫くは故人の縁者が手を合わせにやって来ることも少なくないため、非常に慌ただしい日々が続きます。失念していても不思議ではありません。単純に失念しているだけならば、手紙などで督促すれば任意で支払ってくれる可能性が高いと考えられます。

 

・悪質な支払いの引き延ばしや支払い拒否には仮差押えの活用なども検討を

 

葬儀費用の回収が難航するのは、葬儀費用の支払いを悪質に引き伸ばしているケースや言い逃れをして支払いになかなか応じないケース、葬儀会社の対応が気に入らないなどの理由をつけて支払いを拒絶しているケースなどです。債権問題が複雑化しているケースではどのように債権の回収を進めたらいいのでしょうか。そして、どのような方法を選択すればいいのでしょうか。

 

どのような方法を選択すべきなのかは、ケースバイケースです。債権の回収方法が適切かどうかは債権の回収率に影響するため、慎重に選ぶ必要があります。債権問題が複雑化しているケースにおいては、弁護士に相談の上で対策を取った方が、さらなる複雑化を防ぐという点と問題の長期化を防ぐという点では安心です。債務者から逃げられてしまい葬儀費用をほぼ回収できなかったという失敗を防ぐという点でも安心です。

 

弁護士が介入して任意交渉をした上で公正証書を作成したり、債務者の財産に仮差押えをした上で交渉を行ったりするなど、ケースによって方法を使い分けることも重要です。債権回収の実例を踏まえて布石を打ったり、回収方法を併用したりすることも重要になります。

 

■葬儀費用の回収について葬儀社内でマニュアルとテンプレートの準備を

 

債権の回収は、迅速に適切な方法を選択できるかが1つの鍵になります。

 

たとえば、葬儀費用である30万円が未回収だったとします。この葬儀費用に対して、すぐに請求をしたらどうでしょう。顧客は葬儀費用が発生していることを把握していますので、資金準備の状況によってはすぐに支払いに応じてくれる可能性が高いはずです。対して、1年後に請求したらどうでしょう。葬儀費用が発生したことは把握していても、期間を開け過ぎたことにより、準備していた資金がゼロになっているかもしれません。

 

これは極端な例です。ですが、債権の回収率は迅速に着手するほど回収率が上がる傾向にあるため、この例がまったくの無関係とは言えません。早めに着手することが大切です。早めに債権の回収に着手するためには、請求・督促・債権回収の流れを葬儀社内でマニュアル化しておくことが必要です。

 

・大量の少額債権への督促や回収を可能な状況にしておくことが重要

 

マニュアル化しておけば、社内マニュアルで定められた期限を過ぎた債権に関しては社員が迅速に督促などの事務を行うことができます。これは、少額債権の回収を社内で行う場合に有効な手段です。1つ1つの債権に対して、そろそろ督促すべきか、弁護士に相談すべきか悩む必要がなくなります。悩む必要がないため、迅速な着手が可能になります。

 

さらに、督促状などのテンプレートをあらかじめ準備しておくことが望ましいと考えられます。葬儀会社の債権回収は、「家族を亡くしたばかりの遺族の気持ちを傷つけるのではないか」という懸念と切り離して考えることはできません。

 

債権の回収が困難になるケースとしてよくあるのが、債務者との喧嘩です。たとえば、債務者が工場の経営者だったとします。債権者が工場に直接足を運んで督促したとします。債権者と債務者の会話が返済を巡って口論に発展してしまい、債務者が支払いに対して頑なになってしまいました。これは、大切な人を亡くした直後の葬儀費用の負担者にもあり得ることです。督促状の文面で債務者が気分を害してクレームに繋がり、返済を拒絶したという例もあります。

 

さらに、督促は法律に則って行う必要があるという注意点もあります。メールや手紙で督促する場合は文面に何を書いてもいいという訳ではありません。電話での督促も同じです。何を言っても許されるという訳ではありません。葬儀費用負担者の心情に配慮すると共に、法律にも注意する必要があるのです。

 

督促などは「迅速」に行う。その上で「法律」に則っており、なおかつ「遺族の感情に配慮」した文言を使う必要があります。あらかじめ心情に配慮し、かつ、弁護士にリーガルチェックを受けた督促テンプレートを用意しておくことで、債権問題が深刻化する可能性を低くすることができます。

 

■葬儀費用の回収を弁護士へ相談する時は弁護士選びが重要。債権の回収率に影響

 

葬儀費用の回収は弁護士事務所に一任することができます。弁護士事務所に債権の回収を一任すると、督促から回収までの一連の流れを弁護士事務所が行います。定期的に回収状況の報告も行います。

 

少額債権が多数発生すると、債権の対応や事務処理に追われて本来の業務を圧迫するようになります。葬儀費用の回収に悩んでいる場合は弁護士事務所に回収を一任してしまうことも方法の1つです。

 

債権回収を弁護士事務所に一任することによって、本来の業務に専心できるというメリットがあります。債権回収にまつわるストレスから解放されるというメリットもあります。

 

・弁護士を選ぶポイントは2つ。費用倒れしないかが重要なポイントになる

 

債権回収を相談する時は、弁護士(弁護士事務所)を選ぶことが重要です。債権の回収率にも関わります。

 

債権問題は法的なトラブルなので、全ての弁護士が適切な対処をしてくれるだろうと思うかもしれません。法律は非常に広い分野です。男女問題や土地問題、刑事事件、著作権問題など、トラブルの種類も多岐に渡ります。

 

弁護士事務所にはそれぞれ専門分野や得意分野があるため、債権問題をほとんど扱わないという事務所も存在しています。債権問題を得意としているかどうかによって実務経験や実績がかなりの差が生まれます。まずは、債権問題を得意としている弁護士事務所かどうかをチェックしましょう。

 

さらに注意したいのが2つのポイントです。

 

債権問題を得意としている事務所でも、大量の小口債権回収案件に対応していないことがあります。債権回収を相談する時は「小口債権の回収に対応しているか」「大量の小口債権回収の相談や依頼ができるか」「小口債権を1件から回収依頼できるか」という点に注意してください。

 

もう1つ注意したいポイントは、費用です。小口債権の回収を弁護士事務所に依頼すると、費用が回収した債権額を上回ってしまう可能性があります。債権を回収できて、なおかつプラスになる。これが債権回収における真の成功ではないでしょうか。成功報酬制の弁護士事務所を選択するなど、費用面で注意することが重要です。

 

■最後に

 

葬儀社が葬儀費用を回収する時は注意したいポイントは大きく4つです。

 

督促状や社内での対応マニュアルについても相談することが可能です。マニュアル作成や督促状のテンプレート作成などの対策を事前に講じておくことや、適切なタイミングにケースに合った債権回収手段を講じることによって債権はより回収しやすくなります。ひいては、債権トラブル防止にも繋がります。

 

葬儀費用の回収は弁護士事務所に一任することも可能です。将来的な葬儀事情を視野に入れて、信頼できるパートナーを見つけるところから準備を進めてみてはいかがでしょうか。