はじめに

債権の回収を確実なものにするためには事前に取引の安全性を高めておくことが大切です。そのためには取引の内容について事前に調査することも大切ですが、万が一の場合に備えて担保をとれるか検討することも重要です。
取引の内容や相手の資産状況によっては不動産などの価格の高いものを担保にとることは現実的とはいえません。根抵当権などを設定するには費用も時間もかかるからです。回収をする段階でも時間を要します。
また、めぼしい財産が商品や事業に欠かせない機械しかないこともあります。このようなときには質権を設定したくても債権者に占有を移さなくてはならないためすることができません。「のれん」のようなあいまいな権利については設定対象にすらなりません。

そこで実際上の必要性から民法典に規定のない方法が利用されています。上記の問題を解決可能だからです。動産だけではなく債権も対象とできるため取引先への売掛金債権なども担保になります。

ここでは譲渡担保に関する全般的な知識について見ていきます。

ポイント1~どのようなものか

譲渡担保というのは、債務者や物上保証人から財産権を形式的に債権者に移し、返済が滞った場合にその財産から弁済を受けられる権利です。

法律に直接定められているものではないので民法の条文を探しても見つかりません。解釈上認められているものにすぎませんが最高裁判所からも認められています。

メリット

抵当権をはじめとして法律上規定のある担保権もありますが、これらでは取引の実情に合わないことがあり譲渡担保が重宝されることになります。
例えば、相手に土地や建物がないときに代わりに動産や預貯金、売掛金債権などがあればこれらを担保にすることが可能となります。債権者にとっては担保のバリエーションが広がり、一方で債務者にとっても継続的な取引をしてもらえる可能性が高まることから双方にとって利益となります。

動産に関しては質権が設定可能ですが債権者に占有を移す必要があるため、工場の機械など債務者のもとに留めておかなければ意味のないケースでは使うのが困難です。所有権のみ債権者に移し引き続き目的物を債務者に残しておくことでこのような問題は起こらなくなります。

実は工場の機械や自動車など動産についても抵当権を設定できるケースがあります。しかし登記をしなければならないため手続きの煩雑さや費用がかかることになります。また、担保権の実行をする際にも裁判所の競売手続きが必要であることから債権額や財産が高額でないと利用がしにくいといえます。譲渡担保であれば登記の必然性がなく担保権の実行も自分で売却するなど簡潔に済ませることが可能であり、個別のケースに合わせて柔軟に対応することができます。

倉庫にある商品など常に変動する物(流動動産)を目的とすることができることも大きなメリットとなります。通常であれば一つ一つの物に対してそれぞれ権利を設定するため、売却のたびにそれを解除し、新たに別の物に設定し直すことになりますがその必要がありません。

また法律で定められた担保権の場合には目的となる権利が所有権や債権など明確なものでなければならないところ、営業権(のれん)のようなあいまいさの残るものであっても経済的価値がある限り対象にできます。

財産の種類

担保にとることのできる財産に特に制約はありません。経済的な価値があり譲渡可能なものであれば問題ありません。
不動産も対象となります。土地や建物の場合には登記をするため根抵当権がよく使われますが、競売をせずに担保権を実行できるためその利便性の高さから不動産でもよく使われています。

さらによく使われているのが動産を対象としたものです。不動産がない場合や債権額が大きくないため抵当権を設定できないようなときに利用されています。

動産と同様に活用されることが多いのが金銭債権です。売掛金債権や預貯金債権など譲渡可能なものであれば対象になります。動産と異なる特徴として第三債務者に直接返済してもらうことが可能であることが重要です。

集合物について

動産を対象とする重要な意義として複数の物をひとまとめにして設定できることがあります。債務者の所有する製品に関して倉庫など保管してある場所や種類を指定することでそこに含まれる一切の物を担保にすることができます(集合物譲渡担保)。ここで重要なことは現在保管されている製品に限定されないということです。倉庫に保管されている製品は常に在庫が変動しますが新たに搬入した物も対象となります。

複数の債権についても一緒に担保にすることができます(集合債権譲渡担保)。現在債務者がもっている債権だけではなく将来発生する債権も一括して対象となります。例えば、Xが預貯金債権やAに対する売掛金債権をもっている場合に、Bに対してこれから発生する売掛金債権も含めて対象にすることが可能です。

ポイント2~利用の仕方

譲渡担保権を利用するには、設定契約、対抗要件の取得、担保権の実行という流れをとります。

設定

設定契約をすることが必要です。書面を交わす必然性はありませんが後日の紛争を予防するためには必ず作成しなければなりません。特に集合物を対象とするにはその対象を明示しておかないと効力が否定されることがあるため契約書の作成は必須となります。

集合物であれば種類や数量・所在地などを示すことで対象を特定することが求められています。例えば、「A県B市C1-1にあるX倉庫にあるY社製品全部」などと特定します。気をつけなければならないのが量的な範囲です。債務者の負担を軽くするために「48トン中28トン」などの定め方をすることがありますがこれでは対象が明確でないため効力が認められなくなってしまいます。そのため負担を過大なものとしないためには、数量としては「一切の製品」などの表現を用いてあいまいさをなくし、場所と種類で対象を絞るほうが問題が少なくてすみます。

債権が目的となっているケースでも対象を特定する必要があります。具体的には第三債務者を識別できる住所名称等の事項、種類や発生原因など可能な限り対象を具体的に契約書に示します。いまだ発生していない債権についてはいつからいつまでに発生する債権であるかも明示することが大切です。将来の債権を無制約に担保にとることは行きすぎだからです。最高裁判所もあまりに長期に渡るときは公序良俗違反で無効となると指摘しています。具体的な状況によって結論は変わりますが、一般的には5年以内のものであれば有効と認められる可能性が高いと考えられます。

不動産や動産であるときは担保権を実行した場合に権利者に最終的に権利を帰属させるのか処分して債務に充当するのかを契約上明確にしておきます。

対抗要件

設定者ではない人に対抗するには必要な条件を満たさなければなりません。具体的な方法は目的物によって異なります。

不動産に関する権利については一般的に登記が対抗要件となっています。譲渡担保についても同様であり移転登記が必要です。ただし登録免許税が高いこともあり仮登記で済ませることもあります。これにより設定者は無断で目的物を処分することができなくなります。

動産に関しては引き渡しが要件となっています。普通の売買であれば所持している物を買主に現実に引き渡すことが通常ですが譲渡担保であれば債務者のもとに目的物を残しておかなくてはなりません。このようなケースでは所持している人が本人のために占有することを示すことで引き渡した扱いとなり対抗力が発生します。これは占有改定という方法です。
例えば、AがBの所有する甲パソコンを担保として譲り受けた場合に、BがAのために所持することを示すことでAは第三者であるCに対抗できるようになります。
もっとも、実際に占有している人を所有者と考えることが通常であるため権利者の名前をわかりやすいところに表示しておく必要があります。これを怠ると第三者に即時取得される可能性があります。
例えば、前例でBがCに対し甲パソコンを売却し現実に引き渡した場合に、パソコンにAが権利者であることが全く示されておらずCがBを所有者だと信じていたときは、Cが正当な権利者とされてしまうことがあります。
そのため、ネームプレートを貼り付けておくなどして他に権利者がいることをわかりやすく表示しておくことが重要です。

動産についても登記制度があり登記することで対抗力を得ることが可能です。ただしこの制度を利用するには譲渡人が法人である場合に限定されています。集合物にも対応しています。気をつけなければならないのは即時取得を完全には防げないということです。具体的な事案により異なりますが、登記を調査する義務が取引相手に存在する場合には過失があるものとして即時取得が否定されると考えられます。取引の迅速性が要求されるような商品の場合にはいちいち登記を調査することが不可能であることから、高価な商品が対象である場合や譲渡担保権者がほかにも想定されるようなときに有効な方法と考えられます。

債権が対象である場合には対抗要件の問題はやや複雑となります。第三債務者と二重譲受人などの第三者それぞれに対抗問題が生じるためです。債務者に対する対抗要件は譲渡人からの単なる通知または債務者の承諾で備えることができます。
これに対し、第三者に対する対抗要件は確定日付のある通知または承諾とされています。通常は内容証明郵便を利用することになります。譲渡人から通知しなければなりませんが譲渡人に通知書を作成してもらい権利者が預かっておく方法が実務上用いられることがあります。返済が滞ったときに譲受人が書面を発送するためです。
債権においても登記が普及してきています。登記をすることで第三者対抗要件を備えることになります。債務者対抗要件については登記事項証明書を送付することで備えることができます。

実行

債権の場合であれば第三債務者から取り立てることで回収します。ここでは物を対象としたものについて見ていきます。

実行方法は2つに大別できます。権利を確定的に取得する方法(帰属精算型)と任意に処分してその代金から回収する方法(処分精算型)を選ぶことができます。どちらの方法をとるかは事前に契約書に明記しておくことが大切です。
抵当権など一般の担保権の場合には裁判所に申し立てて競売などの手続きを実施してもらうことになります。そのため相応の手間と時間、費用がかかることになります。

権利を確定的に取得する方法は債権額以上に儲けられるという意味ではありません。物の価格と債権額を比較して前者が上回る場合には差額を清算金として債務者に返すことが必要です。

担保権の実行をするには債務者に対して通告することが必要です。目的物は債務者のもとにあることから引き渡しを求めることになります。清算金が生じるときにはこれを支払ってはじめて引き渡しに応じてもらえることになります。

まとめ

  • 譲渡担保権は法律に規定のない解釈上認められている権利であり設定契約により生じます。
  • 不動産を担保にとれない場合に動産や債権を担保にすることで取引の安全性を高めることができます。債務者にとっても継続的取引を得やすくなるメリットがあります。
  • 質権と異なり物を債務者の手元に残せるため事業用の動産を担保にとることができます。
  • 債権の回収は競売による必要がなく確定的に権利を取得したり、売却して代金から回収したり、債権であれば第三債務者に請求できるため方法が柔軟かつ簡潔です。
  • 複数の動産や債権に設定することもでき新たに物や債権が生じたとしても契約をし直す必要がありません。
  • 対象となる財産に制約はないため営業権などのあいまいな権利も対象となります。
  • 設定契約では対象を明確にするため発生原因や所在などを具体的に記載することが必要です。
  • 動産や債権であっても登記をすることで対抗要件を備えることができます。
  • 担保権の実行方法は書面で定めておきます。いずれの方法であっても物の価格が債権額を上回るときは清算金として返還する必要があります。