目次
はじめに
債権発生前への関与
債権発生後、弁済期前の関与
具体的依頼方法
まとめ

 

■ はじめに

弁護士に対して債権回収を依頼するというのは、多くの場合債権回収の必要性が生じた場合になされます。本来であれば債務を支払うべき期日があったにもかかわらず債務は支払われず、支払うよう催告しても一向に支払われる兆しが感じられないため、仕方なく弁護士に依頼するといった場合が多いです。
しかし、債権回収を円滑に行うのに必要な施策は事前に用意することも可能です。
むしろ、債務者との間でトラブルとなってしまい債権を現に回収できない状況を生じさせるよりは、事前に弁護士に関与してもらい、トラブルが発生しないような準備をしておくことの方が、円滑に債権回収を実現するという点では効果的とも言えます。
そのため、これから債権を得るといった予定がある場合は、その債権について将来的に発生しうる懸念をあらかじめ確認した上で、その懸念を払拭するための予防的施策を弁護士とともに構築することが重要と言えます。
このように、トラブルが発生する前にあらかじめトラブルが発生しないような仕組みを用意することを予防法務といい、弁護士の重要な仕事の一つとなっています。
弁護士の仕事は実際にトラブルが発生してから対応する以外にも予防法務も存在します。また、トラブルが発生してから弁護士に依頼するより、弁護士費用を削減することができるため、債権者にとって予防法務は重要な意味を持ちます。

 ■ 債権発生前への関与

まず、債権が発生する前に弁護士に予防法務として関与してもらうにあたり、契約書の作成が挙げられます。
個人の金銭の貸し借りでは契約書といった書面を作成しないことも多く、作成する場合であっても、将来のトラブルを未然に防止するための条項を上手く加えることができず、あまり契約書が機能しないといった場合がありえます。
このような場合、まず単純な金銭の貸し借りであっても契約書を作成することを債権者と債務者の間で合意し、契約書をお互いに交わす必要があります。これにより、事後的に借りた金額がいくらであったとか、返済期日がいつであったとかの争いを未然に防止することができます。
次に、作成した契約書を交わす前に、弁護士にチェックしてもらい、トラブルを防止するために必要な条項を付け加えたりするアドバイスをもらうことが必要です。
例えば、実際に返済期日が到来しても債務者に返済する金銭がなく、債権者が泣き寝入りすることがないよう、担保を立てる条項を加えることが考えられます。
この担保は色々な種類があり、債務者の不動産に抵当権を設定することもあれば、返済を受けるまで債務者の貴金属など、金銭価値の高い物を預かるといった方法があります。
どういった方法をとることが最適なのかは専門家である弁護士にアドバイスを受ける必要があります。また、何を担保とするかについては債務者の同意も必要となるため、この同意を得るための交渉についても弁護士に依頼することも考えられます。
他にも、返済期日に債務者が債務を支払わなかった場合にペナルティとなる条項を付け加えたり、債務が分割払いとなっているような場合に弁済期日を過ぎても支払われなければ、残りの債務を一括して請求できるといった条項を加えることも考えられます。
もっとも、このような条項はいずれも債務者に一方的な負担がある条項なため、こういった条項を契約書に加えることについて債務者の反発が予想されます。そのため、債務者がこのような条項が必要な相手かどうか信用力の吟味や、債務者に折り合いをつけるため、債務者に有利な条項を加えたり、柔軟な対応が必要です。
契約締結の前段階から、債務者に対して強い負担を強いると、債権者と債務者の関係が悪化してしまいます。円滑な債務の履行は債権者と債務者の友好な関係を前提としているため、そういった関係に亀裂が入らない程度に債権回収のための施策を用意するというバランスが重要です。
このバランス感覚は熟練の弁護士しか持つことはできないので、将来的に債権回収をスムーズに実現するには、弁護士の事前の関与が重要と言えます。

 ■ 債権発生後、弁済期前の関与

もし、すでに自分たちで契約書を作成して交わしてしまった後であるとか、契約書はないが契約自体は締結しているといった場合、上記の方法を通じて弁護士の関与を求めることはできません。
もっとも、弁済期前段階においては、弁護士の関与を通じて債務者の債務履行を無事実現するための方法をいくらか実施することができます。
まず、事後的に債務不履行時のための担保提供の申し入れが考えられます。担保さえあれば、仮に債務を履行されなくても、担保から債権を回収できるため債権者としては安心です。
しかし債務者の心境としては、契約時に担保の話が出ていなかったのに突然担保の提供を求められるため、強い反感を覚えることは避けられません。
こういった状況で債務者に担保を提供してもらうには、担保の必要性を示した上で交渉する必要があるため、弁護士に入ってもらうのも一つの手段としてありえます。
当事者同士の話し合いは感情的になることも少なくないため、債務者に対して説得することが求められる担保提供の話し合いについては、第三者的立場を維持できる弁護士に入ってもらうことが効果的と言えます。
担保を提供してもらうのは、このままでは債権回収に困難が生じるであろうという可能性が高い場合に効果的な手段です。しかし現状そこまでの懸念が生じていない場合は、かえって債務者の反感を強めてしまい問題があります。
そのため、債務者の債務不履行の懸念がそこまで大きくない場合は弁護士の存在をほのめかす他、弁済期の確認にとどめておくので十分と言えます。例えば、顧問弁護士を抱えているといった情報を提供するだけでも、いくらか債務不履行のリスクを減らすことができると考えられます。債務不履行があった場合、顧問弁護士を通じて催告がなされることが容易に想像できるからです。
何れにしても、少しでも債権回収ができないかもしれないという懸念を抱いた場合は、その懸念が現実のものとなる前に早い段階から弁護士に相談することが重要です。
そうすることで、もし債務が履行されなかった時に債権回収を実行するにあたって必要な証拠などを事前に準備することができるため、債権回収を成功させる可能性が大きく高まります。

 ■ 具体的依頼方法

債権回収の必要性が発生していない段階で、弁護士への関与を求める場合、まずは法律相談に参加し、弁護士のアドバイスを聞くことから始まります。
弁護士の開催している法律相談は1時間5000円〜1万円ほどのタイムチャージ制でなされているところが多く、与えられた時間の中で自由に相談することができます。
1時間5000円〜1万円と言うコストは決して安くはありませんが、将来債権が回収できなくなるかもしれない可能性を考えれば、リスクヘッジの費用としては妥当なものと思われます。もっとも、1時間という限りある時間の中で効率的にアドバイスを受けるには、事前に相談すべき事項と資料を準備した上で臨むことが必要です。
また、法律相談を通じて弁護士の関与が必要となった場合、契約書の作成を弁護士に代行してもらうということも考えられます。最近ではネットでも契約書の雛形なども存在しますが、弁護士に契約書作成を依頼した場合、依頼人の契約内容に合わせて必要な条項を取り入れたテーラーメイドなものを作成してくれるため、契約書に穴がなくなります。
何かトラブルが生じたときに穴がないようにあらかじめ定めておくのが契約書なため、穴がないように弁護士に作成を依頼するのが確実かつ安全と考えられます。

 ■ まとめ

債権回収に関する弁護士の関与となると、一般的には債権回収の必要性が生じた場合に行われることが多いです。
しかし、そもそも債権回収を弁護士に依頼しなければならないようになることがないよう、事前の措置を準備しておくことは、効果的に債権回収を進めるにあたって必要なこととなります。
債権回収には時間も労力もかかるため、こういったコストを少しでも下げるために、事前に弁護士に関与してもらうことは重要と言えます。