はじめに

債権の回収を考える際、担保権の存在を考慮しておくことが有益です。
取引を始めるときやすでに取引が行われ支払いが遅滞している場合など担保権を意識する段階はさまざまです。
担保権と一口に言ってもその種類はいろいろありそれぞれの権利により回収の可能性や手段が異なってきます。
たとえ事前に担保権の設定契約をしていなかったとしても留置権や先取特権のような法定担保物権の場合には一定の要件を満たすことで行使可能です。

債権回収の手段として債権譲渡をしたり逆に他人の債権を譲り受けたりすることがあります。相続や合併などによって取得することもあります。
このような場合に担保権がどうなるかということも考える必要があります。当然に担保権も取得できるとは限らないからです。
他人に債権を問題なく譲るにはどうしたら良いのか、また譲り受けた債権を確実に回収するにはどうしたら良いのかということも考えていかなければなりません。

これから担保権の性質に関して随伴性を中心に解説していきます。

担保物権の一般的な性質

物権の一種であることから物権一般の特徴も備えています。例えば、一つの物には同じ権利は複数成立しないというものがあります。
そのほか、担保物権には権利の種類を問わず一般的に持っている特徴があり通有性と呼ばれています。このような特徴は債権の回収を目的とすることから導き出されています。

これから述べる性質は民法に直接規定された権利に関するものであり、また一般的な傾向を示すものであって権利によっては当てはまらないものがある点には注意が必要です

まず、付従性と呼ばれる性質が挙げられます。これは債権がなければ担保権も存在しないという特徴のことです。すなわち担保権の意義は債権を守ることにあるため被担保債権が存在することではじめて成立し、これが消滅したのであれば同時になくなるというものです。従たるものは主たるものに影響を受けるということです。
例えば、AがBに3,000万円を貸しその所有する建物に質権をつけた場合に、3,000万円の金銭消費貸借契約が無効で金銭の授受もないときは質権も無効です。また、有効に契約がなされた後全額が弁済され債権が消滅したときは何らの手続きもとらずに質権は直ちに消滅します。
この性質に関しては後述するそれぞれの権利によって厳密に適用されるものや反対に緩和されているものがあるので注意しなければなりません。

この性質に似たものとして随伴性という性質もあります。似ているのも当然であり前記の付従性から導かれる性質です。
これは債権が移転した場合には担保権も共に移動するという特徴です。担保権は債権の回収を容易にすることで債権の価値を守るために存在するため債権が移動すれば一緒に移るのが自然だからです。
ただし、あくまで別の権利ですから特約によって権利を移らないことにすることは可能です。その場合には担保権は消滅することになります。
例えば、AがBに3,000万円を貸し付けてBの所有する土地に抵当権を設定した場合に、Aがその債権をCに譲渡したときは、特約がない限り抵当権もCに移転することになります。
ただし、後述する根抵当権については気をつけなければなりません。元本の確定前にはこの性質が否定されているからです。

債権の全額の弁済を受けるまで対象物全体に権利が及び行使可能とされる不可分性という特徴もあります。例えば、AがBの所有する機械を修理し150万円の請求権がある状態で、Aがその機械を所持し返済との引き換えを求めているときに、Bが140万円を弁済したとしてもAは機械全体の引き渡しを拒むことができます。

目的物が売却などによって金銭に変わることもあります。担保物権の多くは物の交換価値を目当てにしており、その対象が売却、賃貸、滅失、毀損などによって交換価値が具現化し金銭請求権に変化したのであればその具現化したものに効力が及ぶのが自然です。このような効力を物上代位と呼びます。
留置権は優先弁済効がなく目的物の返還を拒絶できる権利にすぎないため代位性は否定されています。
一般の先取特権についても認められていません。その対象が債務者のすべての財産であり代位を認める必要がないからです。

それぞれの担保権ごとの注意点

前記したように担保権の通有性は民法典に規定された権利について一般的に認められる性質とされています。しかし条文上規定されている権利であってもその特徴がすべて認められているとは限りません。一方で、民法に定められていない権利について通有性が認められることもあります。
ここではそれぞれの権利ごとに注意すべきポイントを見ていきます。

留置権

他人の物について発生した代金請求権などを持っている場合に、その債務が履行されるまでその物を留め置くことができるものです。特に約束をしなくても当然に生じます。そのため、少額の債権でも活用できるメリットがあります。
例えば、AがBから依頼されて時計を修理し5万円の代金請求権が発生した場合、Bから時計の返還を求められたとしても支払いを受けるまで拒否することができます。

このように債権が存在しなければ発生しませんし、返済されれば一緒になくなります。したがって付従性が肯定されています。

債権が他人に譲渡されれば留置権も移転します。したがって、随伴性が認められることになります。ただし、この権利は物を占有することがその要件となっているため債権の移転だけして物の占有を移転させないということはできません。もし物の占有を移転させなければ留置権は消滅することになります。債権を譲渡する場合には物の占有移転も忘れずにする必要があります。
例えば、AがBの所有する自動車を修理し30万円の代金請求権が発生した場合に、当該自動車を占有しているときは、AがCに当該請求権を譲渡し自動車を引き渡せばCが留置権を行使できます。これに対し、引き渡しを忘れてしまうと権利は消滅し行使できなくなります。

前記したように不可分性も肯定されます。しかし、物上代位性は認められていません。目的物を留置する権利にすぎないからです。

先取特権

法律に規定された特殊な債権を取得した場合に当然に発生します。
例えば、Aが債務者BのCに対する債権が時効消滅しそうになっている場合に、時効の更新手続きをとり費用を支出したときは、他の債権者にとって利益となるものである限り優先して回収できます。
付従性、随伴性、不可分性が認められています。物上代位も認められていますが、債務者の総財産を目的とする一般先取特権には認められていません。

質権

担保として預かった物に成立し完済まで対象物を留置し、返済してもらえないときはその物から回収することができる権利です。
付従性、随伴性、不可分性、物上代位性をもっています。もっとも、根質権に関しては付従性と随伴性は元本の確定がなされるまでは否定されています。根抵当権に関する規定が準用されると解されるため根抵当権の記述を参照してください。

抵当権

債務者や物上保証人との間で契約をすることにより成立するもので留置権や質権と異なり占有を伴わないという特徴があります。

この権利も債権を回収するためにある以上、債権が存在しなければ抵当権も生じず被担保債権が消滅することにより同時に消滅します(付従性)。
したがって、本来は被担保債権と関係なく独立して処分することはできないはずです。ですが例外的に被担保債権とは別に抵当権のみの処分が認められています。返済期日が到来していなければ債権の譲渡以外に債権の回収ができないとすれば、多額の債権を前提とする抵当権の場合債権者にとって酷な事態となりうるからです。このように付従性が緩和されています。

第三者に対抗するためには登記をしておく必要があります。債権額も登記事項であり返済により債務が減少すれば変更登記をすることができます。この場合、返済により被担保債権が減少し付従性により抵当権も減少します。登記は効力要件ではないため登記をしなくても返済により直ちに消滅します。

後述する根抵当権と異なり随伴性もあり、債権を譲渡すれば一緒に譲受人に移転することになります。
ここで気をつけなければならないのが債権譲渡の優劣と登記の関係です。
物権は第三者に対抗するためには登記等の対抗力を備えなければなりません。抵当権の移転についても登記を備える必要があります。
しかし、債権の二重譲渡があった場合、その優劣は確定日付のある証書による通知または債務者の承諾の先後によることになります。
たとえ登記を備えていたとしても確定日付のある証書による通知を先に備えられてしまえば被担保債権を有効に取得できないため付従性により抵当権は取得できず登記も無効となるからです。

例えば、AがXに対する3,000万円の抵当権付き債権をBに譲渡しその旨の登記を備えたがXに確定日付のある証書による通知をせず、かつXが承諾もしていなかった場合に、AがCに対し同じ債権を譲渡し確定日付のある証書でXにその旨を通知したときは、Cが当該債権を取得するとともに抵当権も取得することになります。Bの備えた登記は実体を伴わない無効な登記であるため抹消されることになります。

他の性質である不可分性や物上代位性も認められます。

根抵当権

抵当権の一種ですがあらかじめ定められた不特定の継続的取引について限度額の範囲で担保するものをいいます。

普通は特定の債権が対象であるところ設定当初は債権が特定されていないところに特徴があります。
何らかの債権を担保するものである以上、最終的には担保する債権が特定されなければならず一定の事実が生じることにより特定されます。元本が確定されることにより通常の抵当権に近い作用を営むことになります。

ここでは確定前のものについて見ていきます。

不特定の債権を担保することから付従性が否定されています。債権が成立していなくても成立可能であり、債権が消滅したとしても存続します。たとえ債務者に対するすべての債権がなくなったとしても根抵当権は消えません。
例えば、Aがこれまで取引のなかったBに対し自社製品を継続的に販売したい場合に、あらかじめB所有の不動産に根抵当権を設定することが可能であり、また既に取引を行っていた場合に代金債権すべての返済が完了したとしても根抵当権はそのまま維持されます。

同様に随伴性も原則として否定されています(相続、合併、会社分割の場合は例外とされ特別な規定が置かれています。)。
債権が特定されていないのが特徴であり、もし債権の譲渡により移転されることになれば権利関係の錯綜を招くからです。
例えば、AがBに対する根抵当取引から生じる2,000万円の債権をCに売却したとき、債権は無担保債権になるわけです。

この場合に、譲渡された債権についても根抵当権によって担保させたいことがあります。このようなときは根抵当権を被担保債権と切り離して処分する方法が認められています。すべてを譲渡するもの(全部譲渡)、分割して譲渡するもの、譲渡人と譲受人との間で準共有状態にするもの(一部譲渡)が認められています。
すでに債権の譲受人が根抵当権を有している場合には既存の根抵当権の債権の範囲の変更登記をすることで担保することもできます。その場合、必要に応じて限度額も広げる必要があります。

元本の確定後であれば付従性や随伴性が認められることになります。

仮登記担保権

金銭債務の担保を目的に、債務不履行となった場合に債務者や第三者から提供された物の権利の移転をするためにした代物弁済の予約等で仮登記や仮登録のできるものを指します。民法典に直接規定のないものであり特別法によって認められています。
この権利についても付従性、随伴性などが認められます。

まとめ

  • 担保物権に一般的に認められる性質を通有性と呼びます。債権を担保することに意義があることから被担保債権が存在しなければ成立せず、消滅すればともに消滅する性質があり付従性と呼ばれます。
  • 付従性から導き出される性質として随伴性があり、被担保債権の移転により一緒に譲受人に移転する性質を指します。
  • 債権との結びつきが強い場合に付従性、随伴性が認められることになることから、それが弱い根抵当権や根質権については元本の確定があるまで原則としてこの性質は認められません。したがって、譲渡した債権を担保するためには根担保権の処分などが必要です。