家賃の滞納金が発生した場合には賃貸物件の退去前と退去後で債権回収の方法に違いが生じます。退去前であれば借主の所在がはっきりしているのに対し退去後では遠くに転居されると動向がはっきりとわからなくなります。敷金の取り扱いにも問題が生じます。

この記事では賃貸物件の退去後の債権回収方法だけでなく滞納金全般の回収について解説していきます。

家賃滞納が発生した場合の大きな流れ

退去後の債権回収と退去前の債権回収については異なる面があります。債務者の心理面や債権者の取りうる選択肢などに違いが生じます。退去前であれば借主は物件の明渡しに不安を感じることが多いといえます。引越し先を見つけなければならず費用もかかり生活環境が大きく変わるためです。そのため優先的に家賃を支払おうとすることが多くなります。退去後についてはこのような心理面でのプレッシャーが弱くなります。遠くに引っ越してしまうことで家賃を踏み倒そうと考える人もいます。

家賃の回収と退去の検討

大家さんの選択肢として退去前であれば、1.家賃の回収のみ、2.退去のみ、3.家賃の回収と退去の両方、という3つの方法があります。これは債務者への交渉材料となりえます。滞納が短期であれば賃貸借契約を継続し家賃の回収のみに留めることもできます。反対に滞納が長期に及んでいてめぼしい財産もなかったり近隣住民に迷惑をかけていたりするときには退去を最優先し債権回収は退去後に検討する方法もあります。

債権回収も退去も最終的には法的手続きをとることになりますが、債権回収に比べて強制退去のほうが手続きの難易度などが上がります。そのため個々のケースに応じて大家さんが何を望むかにより手続きが変わることになります。

借主への連絡

初めは滞納の原因がわからないためシンプルに支払いが遅れている事実を伝えます。口座残高が不足していたなど単純ミスであればこれで問題は解決します。その場合であっても入金確認が必要なためいつまでに支払えるか確認することが大切です。

催促状の送付

借主と連絡がつかない場合や約束の期日を過ぎても支払ってもらえないときには文書で催促することが一般的です。これまで滞納をしていなかった人であれば単に支払いを忘れているだけである可能性もあるため支払いが遅れている事実を記載するに留めます。

支払いが遅れている事実を相手が認識している場合には支払いがなく困っていることなどを記載しより強く支払いを促す内容にすることも有効です。連帯保証人がいる場合には保証人に連絡する可能性を記載することも効果的です。滞納の事実を保証人に知られたくないことが普通だからです。そのため予告なく保証人に連絡するとトラブルのもとになることもあります。滞納が長期に及んでいるなど悪質なケースでは法的手段を予告してもかまいません。

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連帯保証人への催促

連帯保証人に対して未払い家賃の支払いを請求することもできます。債務者に遠慮して連帯保証人への請求を先延ばしにしていると滞納金額が多くなり全額の回収が難しくなることもあります。債務者に対し連帯保証人への連絡を予告したときは早めに連帯保証人にも催促状を送るようにします。

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内容証明郵便

通常の催促状を送付しても支払いに応じてもらえない場合には更に強いプレッシャーを掛けていく必要があります。一般的に内容証明郵便を利用して滞納金の支払いを請求していきます。内容証明郵便は法律上必要なものではありませんがどのような意思表示がなされたか証拠として残すことができるため後日訴訟になった場合に意味が出てきます。

また証拠として残すことができることから相手に与える心理的圧力が強いため支払いを促す効果もあります。特に弁護士名で送付することで法的手続きがなされる実感が湧きやすくなるため支払いに応じてくれる可能性が高まります。

内容証明の文面には期限までに支払いが確認できない場合には法的措置をとることを予告しておきます。賃貸借契約の解除を希望する場合には期限までに支払わないときには期限経過により解除する旨記載することで改めて通知を出すことなく解除可能です。ただし、解除に関しては信頼関係が破壊されていることが要件となるため滞納期間が長期に及ぶことなどが必要となります。期間でいえば3か月以上の滞納が目安となります。

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敷金

敷金を受け取っている場合に借主から滞納家賃との相殺(充当)を主張されることがあります。しかし、敷金返還請求権は賃貸物の返還時(明渡し時)に生じることになっているため応じる必要はありません。貸主から相殺することは可能ですが敷金は担保金ですから安易に充当するべきではありません。充当してしまうと債務不履行が解消され退去させることも困難となります。

退去後は敷金返還請求権が発生するため滞納賃料に当然充当されることになります。そのため敷金の方が多ければ残額を返還し滞納賃料が多ければ差額を請求していくことになります。

民事調停

どうしても支払いに応じてもらえないときには法的な手続きをとることになります。話し合いの余地がある場合には簡易裁判所に対し民事調停を申し立てることで調停委員に間に入ってもらい交渉することで円満な解決を図れる可能性があります。交渉が成立し調停調書が作成されれば万が一約束が守られないときには強制執行することもできます。

公正証書

当事者の話し合いにより分割払いなどを合意したのであれば公正証書(執行認諾文言付き)にすることで再び滞納した際に強制執行することも可能です。ただし、強制執行可能なのは家賃の支払いについてのみで明渡しはできない点に注意してください。そのため退去後であれば公正証書でかまいませんが退去前に明け渡しも強制執行したいときには即決和解を検討します。

即決和解(訴え提起前の和解)

即決和解は簡易裁判所の手続きで当事者が和解案に合意すれば和解調書が作成され確定判決と同様の効力が生じるものです。判決と同様の効力があるため家賃だけでなく明渡しの強制執行も可能です。費用も公正証書作成より安くすみます。したがって退去を含めて借主と合意が成立していれば即決和解が有力な選択肢となります。退去後でも利用できますが手続きに1か月程度かかるため迅速性という点からは公正証書のほうが優れています(公正証書の作成期間は公証役場の混雑具合で異なります。)。

支払督促

支払督促とは簡易裁判所の書記官に金銭その他の代替物の支払いを命じてもらうものです。退去前後を問わず利用できますが明渡しの請求はできません。書類審査だけで発出してもらえるため便利ですが借主から異議を出されると訴訟に移行するので注意してください。

少額訴訟

60万円以下の金銭請求の場合に1日で判決を出してもらえる簡易裁判所の手続きです。明渡しには利用できませんが滞納家賃の請求には利用しやすい制度です。

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通常訴訟

強制退去や60万円を超える滞納家賃の請求をすることができます。少なくとも数か月は解決までにかかることや手続きが煩雑であることがデメリットです。

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強制執行

確定判決などを得たら強制執行により財産を差し押さえたり強制退去させたりすることができます。

家賃催促の際の注意点。違法にならない方法

家賃を滞納しているからといってどのような手段をとってもいいわけではありません。催促の仕方によっては違法行為となることがあります。

退去前の滞納金の回収方法として問題となりやすいものに鍵を交換してしまう方法があります。借主の留守中に無断で室内に入ると住居侵入罪にあたります。また荷物を勝手に室外に出してしまう行為も違法です。玄関ドアに張り紙で催促する行為も名誉毀損となるおそれがあります。たとえ勝訴判決を得ていたとしても許されないため注意してください。

退去前後を問わず注意すべきこととして催促する時間帯があります。深夜や早朝に連絡をいれることは他に連絡手段がないか本人が承諾しているようなとき以外はしないほうがいいでしょう。

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強制退去を進める

明渡しが済んでいない場合には強制退去も検討することになります。強制退去させるには勝訴判決や同等の効力をもつ和解調書等が必要となります。これらを得てから強制執行の申立てをすることになります。実力で退去させることは自力救済といい違法な行為ですので絶対にしないでください。強制執行に必要な費用は借主に請求可能です。

強制退去には数か月程度かかることが多いため任意に明け渡してもらう方法もあります。よく使われるものとして立ち退き料を支払う方法があります。家賃を滞納している上に引越し代などを貸主が負担することになるため心情的に納得がいかないかもしれませんが家賃が高額なケースでは結果として安く済ませられることがあります。この場合即決和解や公正証書をとることが大切です。こちらが譲歩しているためこれらの書面作成に協力してもらいやすくなり約束が守られなかったときに直ちに強制執行可能とすることができます。

滞納による賃貸借契約の解除には3か月程度の滞納期間が必要です。そのため2~3か月滞納している段階で弁護士に相談しておけば最短で明渡しを含めた回収が可能です。

まとめ

・滞納金の回収については強制退去を予告することで支払いに応じてもらいやすくなります。

・退去後の債権回収の方法として連帯保証人への催促や内容証明郵便の送付、法的手続きが重要となります。退去前に公正証書や即決和解調書を作成しておくことで退去後の債権回収を容易にできます。

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