はじめに

取引先が支払いを遅滞している場合にはまず自社で必要な対応を行っていきます。基本的な督促を行いそれでも支払いに応じてもらえないときには強制的な方法を検討しなければなりません。
ほとんどの企業には訴訟をはじめとした法的手続きはハードルが高く気軽に行えるものではありません。専門的な知識を持った人材が必要であることや時間や費用を考慮し泣き寝入りしてしまうケースも少なくありません。
しかし回収を日常的に行っている専門家に依頼することで時間やコストをかけずに目的を達成することが可能です。
そのための選択肢として法律専門家に依頼するほかに債権回収会社の存在があります。比較的新しい制度でありあまり馴染みがない人も多いと思います。
選択肢が増えたことは債権者にとって好ましいことといえますが、一体どちらに依頼すればいいのか迷うことにもなります。
ここではどちらを選択するべきかその判断材料を提供したいと思います。

債権回収会社とは

法律事務は原則として弁護士のみが行うことが法律によって規定されています。もし自由にだれでも行えることになれば自分の利益のために依頼人や関係者を不当に害するおそれがあるからです。違反した場合には犯罪として処罰されることもあります。

取り立てを他人から請け負うことは法律事務に該当します。したがって原則として弁護士のみが行うことが可能です。
ところがインターネットの広告などで株式会社が実施しているケースも見かけるようになりました。違法な行為ではないかと疑う人もいるようです。
今は特別に許可された専門の会社が一部の請求権について回収を事業としてすることが可能とされています。
昔はこのような会社は存在していませんでしたがバブル経済の崩壊により大量の不良債権が発生したため、これを処理する必要性から債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)という法律が作られ株式会社であってもできるようになったのです。
ただしどのような会社であってもできるわけではありません。いくら不良債権処理が必要だからといってなにも規制がなければ不当な回収行為が横行することになってしまいます。もともと弁護士にしか取り扱えない内容であるため厳格な要件を満たした場合のみ取り扱いが認められています。
具体的には、資本金が5億円以上で常務取締役に弁護士がいること反社会的組織の構成員がいないことなどが必要とされています。
例えば、資本金が5億円以上であり弁護士が役員にいたとしてもそれがお飾りであり常務を担当していなかったときには要件を満たしません。同様に暴力団員が従業員として雇われているときにも要件を満たさないことになります。

このような要件を満たした上で法務大臣から許可を得ることではじめて業務を営むことが可能とされます。

かなり厳しい内容といえますが弁護士と同じようなことができる以上必要な規制といえます。規制が厳しいため利用者としてはそれだけ安心して利用できることになりますが、要件を満たせないため無許可で行う違法な業者の存在には気をつける必要があります。
正規の業者は法務大臣の監督下にあり立入検査を受けたり行政処分を受けたりする可能性がありますが、無許可の業者は違法であることを承知で行っているため依頼人に不利益な行動をとるおそれがあります。状況によっては依頼した人が無許可の業者であることを承知していたと疑われ面倒な事態になるかもしれません。最近では債務者にも知識がある人が増えており無許可業者からの請求には応じてもらえないこともあります。
依頼する場合には事前に法務省のホームページで許可された業者であることを確認する必要があります。
例えば、A社がB社に対し500万円の貸付金をもっているケースでB社が一向に支払いをしてくれないときにはA社としてはその取り立てをX弁護士にしてもらうこともY回収会社にしてもらうこともできます。

弁護士が行っていない業務として請求権の買取りがあります。弁護士に依頼した場合には本人に代わって債務者に請求することや訴訟などの手続きをしてもらえますがあくまで代理人として実施されます。もちろん回収会社にも請求のみ依頼することができますが権利そのものを買い取ってもらうことも可能です。その結果権利が完全に業者に移るためその後の回収の成否に翻弄されなくなるという利点があります。
そのため取引先との関係を完全に精算したいケースでは回収会社への依頼も選択肢に入ります。
例えば前例でY社に対して10万円で貸付金を売却することも可能です。

理由1~取り扱えない請求権がある

弁護士と同じような取り立てを行うことができ、しかも権利の買取りまで行ってくれるのであればすべて回収会社に依頼すればいいように思えてきます。
ですがもちろんいいことばかりではありません。いくつか気をつけたほうがいいポイントがあります。
特に注意すべきなのは扱える権利が限定されていることです。どんな場合にも依頼を引き受けてくれるわけではないのです。
一部の割賦(クレジット)債権、金融機関の貸金債権、金融会社や保証会社による保証債権、法的な倒産手続きが開始された者が保有している債権など法律で規定された特定金銭債権にあたるもののみ扱えることになっています。
それゆえ一般の企業がもつ売掛金や貸付金、損害賠償金などは原則として対象外となってしまいます。
例えば、運送会社であるA社がB社に対し交通事故による損害賠償請求権3,000万円をもっている場合、X弁護士に回収を任せることは可能ですがY会社に依頼するのは原則としてできません。

これに対し弁護士であればどのような債権であっても取り扱うことが可能です。

手数料や買取金額についても注意が必要です。たとえ業者が対応している債権であったとしてもコストが割高である場合には慎重に検討する必要があります。
例えば債権を譲渡する場合には額面の10分の1以下となることが多くあります。もちろん債権の回収見込みとの関係で金額は変わるため高額で引き取ってもらえるケースもあるかもしれません。もっとも業者は買い取った後に債権管理を引き継ぎ回収手続きに着手することになりますが最低でも投じたコスト以上を回収しなければならないため大幅に割り引いた金額にならざるを得えません。つまり未回収のリスクを負うため買取金額を調整せざるを得ないのです。
買取りを依頼するのに適しているケースは金額がわずかであっても早急に処分したい場合といえます。それ以外のケースでは債権者を変更せず弁護士に回収を依頼するほうが金銭的なメリットが大きいと考えられます。

理由2~弁護士に依頼する利点

債権の回収は必ずしも第三者に依頼する必要がありません。時間や費用、人材があれば自社で対応することもできます。法務部のある大きな企業であればある程度は社内で対応できるかもしれません。しかしそれでも処理すべき案件が多かったり専門的な知見が必要なケースがあったりするため大企業ほど弁護士と顧問契約を結んでいることが通常です。
問題となるのは法務部がないなど法的な対応に不慣れなケースです。このような企業の場合には債権の回収を最終的には外部に依頼することが多くなります。その選択肢として弁護士と回収会社があるわけです。その決定的な違いは法律家かそうでないかという点にあります。この違いが具体的な状況に大きな影響を与えることになります。

いずれであっても回収を専門に取り扱っているため自社で対応するよりも効率的であり根本的な解決につなげることが期待できます。両者ともに最終的には訴訟などの法的な手続きをとることができるからです。ですが弁護士は法律専門家でありその点が大きな強みとなります。

扱える請求権

一番のメリットは扱える請求権に限定がないことです。もともと回収会社が必要となった背景は金融機関等の抱える大量の不良債権処理にあり一般企業の請求権を対象にする必要はありません。そのため法律上取り扱える債権に制限が設けられており回収会社の依頼主は金融機関等の限られた企業が多くなっています。
もし回収会社を利用しようとする場合には事前に自社の債権が対象に含まれるか確認することが必要です。一般企業が繰り返し発生する債権について長期に契約を結ぼうとしている際には注意が必要です。さまざまな債権が発生することが予想されますが対象外の債権が混ざっていた場合には改めて弁護士に依頼しなければならないからです。

柔軟な対応

回収会社が取り立て行為を行う場合にはその社員が具体的な手続きを行います。督促状や電話、メールでの請求などを行うことになります。担当者は弁護士でなくても構いません。法律家ではないことや法律による規制の範囲内で業務を行うためどうしても対応に限界が生じます。たしかに効率性という観点からは定型的な対応もメリットといえます。しかし不良債権の処理というのは一筋縄ではいかないケースもあり状況によって臨機応変に対応することが求められます。
弁護士であれば個々のケースに合わせて専門的な知識と経験により督促の仕方や法的な手段をとる必要性の判断、具体的な手続きについて最適な判断をすることができます。

その他

債権管理の落とし穴として特に気をつけなければならないのが時効の問題です。自社で債権を管理している場合には最後に返済がなされた日など時効の起算日に注意しなければなりません。支払いを待っている間に権利をいつの間にか失ってしまうことはめずらしくありません。もちろん相手が請求権の存在を承認すれば期間はリセットされますが書面など証拠として残しておかなければ訴訟になったときに証明することができません。
このような事態を避けるためには早めに手を打つ必要があります。延滞から一定の期間が経過したら専門家に相談することに決めておくと有効な対策となります。回収会社に依頼することも一つの手ですが弁護士であれば法的なアドバイスを受けることも可能であるため一時的な対応にとどまらず債権管理全般を万全なものとすることができます。

回収会社を利用する際には適法な会社であるか事前に調べることが必要です。もし許可を受けていない疑いがあるときには絶対に依頼してはいけません。許可を受けている業者であっても取り扱いが禁止されている債権を扱っている場合も同様です。犯罪に関与することになってしまうため不必要なトラブルに遭遇するおそれがあるからです。
弁護士であれば取扱債権に制限がないため依頼人が事前に債権の種類について調べておく必要はありません。

もっとも弁護士は権利を買い取ってはくれません。この点はデメリットともいえます。しかし債権の譲渡は買い取る側にとっては回収不能となるリスクを抱えることになります。もともと回収が困難だからこそ売却しようとしているのにそれを買い取ってもらえるというのは不思議な感じがするかもしれません。もちろん買取金額と事務手続きにかかるコストを上回らなければ赤字となってしまうためそれらの費用を超える回収見込みが必要となります。つまり本来回収できるはずの金額よりも少ない金額で売却されることになります。そのため債権の売却は急いで処理しなければならない事情があるようなケースに限定すべきであり、債権者のまま回収を委任することが基本といえます。そのため買取りを行っていないことは特にデメリットにはなりません。

まとめ

  • 依頼を受けて債権回収を行うことができるのは原則として弁護士と司法書士に限られていますが一定の要件を満たした会社も可能です。
  • 一定の資本金が必要であることや弁護士が取締役であることなど厳しい要件が課されており法務大臣の許可が必要です。許可を受けた業者は法務省のホームページから調べることができます。無許可の業者に依頼することでトラブルに発展することがあります。
  • 業務内容として回収の代行のほか債権の買取りも行っています。
  • 対象となる債権は一部の貸付債権などであり限定されています。弁護士であればこのような制限はありません。
  • 弁護士と異なり法律家ではないことに注意が必要です。法律専門家としての柔軟な対応を望む場合には弁護士に依頼する必要があります。