〇 担保権の実行

債権回収、すなわち債権者が有している債権を充たすための手段としては、訴訟等に勝訴して、債務名義を得て強制執行を行うという流れがある一方で、その他にも方法が考えられ、その1つが担保権の実行という方法です。
担保権の実行とは、抵当権・質権・先取特権などの担保権の有する優先弁済権に内在する換価権に基づいて、担保権の目的財産を競売その他の方法によって強制的に換価し又は収益を回収し、
被担保債権の満足を担保権者に与える手続きのことをいいます。
とても難しい言い回しですが、平易に言い換えるならば、あらかじめ債権回収の目的となる契約について抵当権や質権、先取特権といった担保を設けていた場合には、債権者としてはその担保をお金に換えることにより、自身が債務者に有する債権を回収する手法という風にいえると思います。
民事執行の手段としては、やはり強制執行が執行手続の中心といえますが、こと不動産を対象とする民事執行実務についてみてみると、強制執行による債権回収よりも、むしろ担保権の実行による債権回収の方がより多く用いられているといえるほど、担保権の実行はポピュラーな執行手段なのです。
そこで、以下で担保権の実行についてその中身について、具体例を挙げながらみていきたいと思います。

〇 担保権とは

担保権の実行の基礎となるのは、担保権の存在です。
担保権とは、債権を担保するために供する債権のことをいいます。
担保権には、約定担保と法定担保があります。
約定担保は当事者間の合意により成立する担保権で、代表的なものとして抵当権が挙げられます。
その他にも、譲渡担保権や保証契約に基づく連帯保証(詳しくは保証人からの回収を参照)なども約定担保として挙げられます。
一方で、法定担保とは法律上の一定の要件を満たした場合に成立する担保権のことをいい、先取特権等が挙げられます。

〇 担保権の実行の特徴

・判決手続きを経ずに民事執行を申立てられる点
担保権の実行の特徴としては、やはり判決手続を経ずして民事執行を申立てることができる点にあります。
例えば、XさんがYさんに500万円の金銭を貸す契約(金銭消費貸借契約(民法587条))を締結し、
それと同時にYが自身の所有する土地αに抵当権を設定したとします。
この場合に、借主であるYさんが約束の期限に500万円を返還できない場合には、Xさんとしては、わざわざ訴えを提起することなく、抵当権を実行するという手段に拠ることで、判決を経ずとも民事執行の手続きを進めることができるのです。
・他の債権者との関係で優先して弁済を受けられる立場になれる点
また、担保権を有することのもう一つの大きな特徴としては、優先的に弁済を受ける権利を得ることができることがあります。
例えばですが、先ほどのXさんYさん事例にさらにもう一人、Yへ500万円のお金を貸しているZさんがいるとします。
つまり、Yさんは多重債務者であり、XとZがそれぞれ500万円、Yから債権回収をしようとしている、という状況ですね。
もし、この場面でYさんの土地αが競売され、お金に換価(金銭化)された場合には、土地αに抵当権を有しているXさんはZさんよりも優先的にこの金銭を自身の債権回収に充てることができるのです。
この優先弁済権ですが、債権者の総債権額が債務者の財産では確保できないような場合に、強力な意味を持ちます。

上記事例でいうと、債権者(XとZ)の総債権額は1000万円(XがYに対して500万円、ZがYに対して500万円)となります。
この場面で、土地αが1000万円以上で換価(金銭化)された場合には、2人とも500万円を確保することができるといえ、債権回収を実現することができます。
一方で、土地αが1000万円以下、例えば750万円で換価(金銭化)された場合を考えてみてください・・・
債権者の総債権額が債務者の財産では確保できないような場合にあたります。この場合に、土地αに抵当権を有しているXさんは、Zさんよりも優先的にこの金銭を自身の債権回収に充てることができるのです。
つまり、Xさんは自身の有する債権500万円全額を回収することができる一方で、ZさんはXさんに劣後する形で債権回収することになりますので、750万円(土地αの値段)―500万円(Xさんが回収額分)=250万円分しか、債権が回収できないということになってしまうのです。
実際の債権回収の場面においては、相手方の債務者が多重債務に陥っている場面が少なくありません。
債務者から債権回収を完遂するためには、債務者のみならずその債務者をとりまく他の債権者との関係でも優位に立つことが要求される場面があるのです。
こうした場面において、他の債権者との関係で優位に立つために有効な手段として、担保権の設定そしてその実行という手段が挙げられるのです。