目次
■ はじめに
■ 保証契約とは
■ 保証債務の性質
■ 保証債務の成立要件
■ 連帯保証
■ まとめ

 

■ はじめに

債権回収、すなわち債権者が有している債権を充たすための手段としては、
訴訟等に勝訴して、債務名義を得て強制執行を行うという流れがある一方で、
その他にも方法が考えられ、その有効な債権回収手段の1つとして担保権の実行という手法が挙げられます。
しかしながら、担保権の実行の中心である物的担保の設定・実行には欠点もあります。
それは、よほどの高額な貸金契約等でない限り、相手方から土地や建物といった不動産について担保の提供を受けることは稀であるということです。
やはり、債務者の土地・建物へ担保を設定させることは、かなりハードルの高い手法であるといえると思います。
そのような中で、有効な担保設定の手法として挙げられるのが、人的担保として相手方に対して保証人を据えてもらう、保証という手法なのです。

■ 保証契約とは

保証契約(民法446条)とは、主たる債務が履行されるよう担保することを目的として、債権者と保証人との間で締結される契約のことをいいます。
よく間違えられてしまう点なのですが、注意していただきたい点としては、保証契約は債務者と保証人との間の契約ではないということです。
保証契約は、債権者と保証人との間の契約のことを指すのであり、債務者と保証人との間では、保証委託契約が結ばれる場合があるにすぎないのです。

具体例として事例を挙げると、XさんがYさんに100万円の金銭を貸すことを内容とした金銭消費貸借契約(民法587条)が結ばれ、Zさんがその契約の保証人になるという場合には、Zさんは債務者であるYさんとではなく、債権者であるXさんとの間で保証契約を締結することになるのです。
そして、この場合にYさんがXさんに対して負っている債務を「主たる債務」、保証人ZさんがXさんに対して負っている債務を「保証債務」とそれぞれいいます。

■ 保証債務の性質

保証債務の法的性質としては、以下の4つが挙げられます。
1つ目として、保証債務は、債権者と保証人との間の契約により設定されるものでありますので、保証人は主たる債務とは別個に独立した保証債務を負うことになります。
この性質のことを①保証債務の主たる債務との間の別個独立性といいます。
2つ目としては、保証債務は主たる債務の存在を前提としていますで、主たる債務との関係では“従たる性質”を有します。このことを、②保証債務の付従性といいます。
この保証債務の付従性は様々な場面においてあらわれます。
具体的には、主たる債務が成立していなければ従たる保証債務は成立しませんし、逆に、主たる債務が消滅すれば従たる保証債務も消滅するのです。
また、主たる債務の同一性が失われずにその目的や範囲が変更する場合には、従たる保証債務の目的や範囲もそれに応じて変更することになります。
加えて、主たる債務に対して従たる性質を有するという点から、従たる保証債務はその目的や態様において、主たる債務よりも重い債務になることはありません。
3つ目の性質としては、主たる債務に対する債権が移転すると保証人に対する債権もともに移転します。このことを、③保証債務の随伴性といいます。
4つ目の性質として、保証人は主たる債務者がその債務を履行しない場合に、はじめてその債務を履行するという立場にあります。このことを④保証債務の補充性といいます。

この保証債務の補充性という性質から、保証人は債権者からの請求に対して、以下の反論(抗弁)をすることができます。
まず、保証人は債権者からの債務履行請求に対して、㋐「私ではなく、まずは主たる債務者に対して請求をしてください」という反論をすることができます。
この反論をすることができる権利のことを、催告の抗弁権(民法452条)といいます。
また、㋐の反論が認められない場合には、さらに㋑「まずは、私ではなく、主たる債務者の財産に対して執行をかけてから、それでも債権回収ができなかった場合に保証人に請求してください」という反論をすることができます。この反論をすることができる権利のことを、検索の抗弁権(民法453条)といいます。
これら2つの抗弁権については、保証人の立場からは、債権者からの請求を避けることができる点において有利であるといえますが、一方で、債権者の立場からみると、保証人からの債権回収を容易に行うことができないことになるため、不利なものであるといえます。
もっとも、債権者の立場からなすことができる対策もあります、詳しくは後述の連帯保証についての記載をご覧ください。

■ 保証債務の成立要件

保証債務の成立要件としては、①主たる債務が存在すること、②保証契約が成立していること、そして③②の保証契約が「書面」または「電磁的記録」によってなされていること(民法446条2・3項)が要求されます。
③の要件は、“保証の意思が外部的にも明らかになっている場合に限り保証の効力を認めよう”という趣旨から2004年の民法改正(2005年4月1日施行)で新たに加えられた要件です。

■ 連帯保証

連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する旨、特約で合意した保証契約のことをいいます。
連帯保証は、学問上は保証の特殊形態、例外パターンとして位置づけられていますが、実際の契約や取引実務等においては、むしろ連帯保証の方が日常的に使用されています(なお、保証が商行為である場合については、その保証債務は特約が無くとも連帯保証となります(商法511条2項))。
連帯保証が、通常の保証と大きく異なる点としては、
①補充性が無い点、
②分別の利益(456条)が無い点、
③主たる債務者・保証人の一方について生じた事由の効力について、連帯債務の規定が準用される点(458条)、の3点が挙げられます。
このうち、債権回収の観点から、特に重要となるのが①・②の点です。
まず①の補充性の点についてです。前述の通り、保証債務における補充性とは、保証人は主たる債務者がその債務を履行しない場合にはじめてその債務を履行することができる、という立場にある性質のことをいいます。
債権者が保証人との間に連帯保証契約を締結すると、この保証債務の補充性が無くなるため、債権者は保証人からの反論(具体的には、前述した「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」といった抗弁)を受けずに保証人に対して債務の支払いを請求することができます。
次に、②の分別の利益についてです。分別の利益とは、「共同保証人は債権者との関係で平等の割合で分割された額についてのみ保証債務を負担すると主張できるとする、共同保証人の利益」の事をいいます。
共同保証人とは、同一の主たる債務について、数人の保証がある場合の個々の保証人のことをいいますが、連帯保証ではない通常の保証契約については、複数人の保証人と保証契約を締結した場合でも、債権者は共同保証人それぞれに対しては、その債務全額を保証人の人数に分配した額の債務しか支払いを求めることができないのです。
それでは、わざわざ保証人を複数にした意味が半減してしまいます。
一方で、複数の保証人と、通常の保証契約ではなく特約で連帯保証契約を締結した場合には、その連帯保証人は分別の利益を有しないので、債権者は、連帯保証人それぞれに対して、債務者が負担している債務の全額の支払を求めることができます。
具体例を挙げるとすると、XさんがYさんに1000万円を貸すという金銭消費貸借契約を締結し、その共同保証人としてAさん・Bさんが通常の保証契約を締結した場合には、保証人であるAさん・Bさんの負担する保証債務は500万円ずつのみということになり、債権者のXさんからしてみると、それぞれに500万円分しか請求をすることができないことになってしまいます。
また、たとえXさんがAさん・Bさんにそれぞれ500万円の保証債務を履行する様に請求をしたとしても、Aさん・Bさんには「私たちに請求をする前に、まずは主たる債務者であるYさんに対して債務の履行請求をしてください」という催告の抗弁権(民法452条)や「まずは、主たる債務者であるYさんの財産に対して執行をかけてから、それでも債権回収ができなかった場合には私たちに履行を請求してください」という検索の抗弁権(民法453条)といった反論をされてしまうおそれがあります。
一方で、Aさん・Bさんが締結した保証契約が連帯保証契約であった場合には、債権者Xさんはそれぞれに1000万円分の保証債務履行請求を行うことができます。
また、連帯保証の場合には、連帯保証人であるAさん・Bさんは催告の抗弁権や検索の抗弁権といった反論をする権利を有していない(民法454条)ので、債権者のXさんは、通常の保証契約に基づくよりも、保証人からよりスムーズに債権回収を実現することができるといえます。

■ まとめ

以上から、人的保証である保証契約の締結は、債務者の財産のみならず保証人の財産を回収の対象とできる点、債権回収の方法としてとても有効な手段であるといえます。
また、保証人を相手方に求める場合には、通常の保証契約の締結に比べて、連帯保証契約を締結する方が債権回収を完遂するためには有利であるので、保証契約締結の際には、連帯保証の特約を付することができないか、交渉の場面で提案していくことが重要になります。
加えて、保証人を付す場合には、その保証人側の貯蓄や保有財産をはじめとする財務状況等を調査・確認することが債権回収の確実性を高めるためには不可欠です。
弁護士をはじめとする法律専門家のアドバイスの下で、適切な契約交渉・プロセスを経ることで、債権回収を確実なものにしましょう。