目次
■債権回収って何?
■債権回収が難しい理由は?
■債権回収を弁護士に依頼するタイミングは?
1.売掛金・未収金がある取引先や顧客が支払いをしない
■まとめ
■債権回収って何?
債権回収は特殊なことで、自分には縁がないと思われるかもしれません。
しかし、
売掛金がない企業はほとんどないでしょうし、
個人であっても、何らかのかたちで知人・友人・親族にお金を貸してあげているとか、
給与その他の賃金をもらっている、
家賃収入を得ている
等は日常的にあることでしょう。こうした売掛金、貸金、賃金、家賃等は債権です。
そして、
・売掛金がある取引先や顧客が支払いをしてくれない、
・知人・友人・親族が借金を返してくれない、
・雇い主が賃金を支払ってくれない
・賃借人が家賃を支払ってくれない
という場合には、売掛金、貸金、賃金、家賃等、つまり、債権の回収が必要になってきます。
また、離婚して養育費を定期的に支払ってもらうことにしたのに支払いがない、
という場合なども同様です。
■債権回収が難しい理由は?
もちろん、基本的には債務者に「支払ってくれ」と請求するわけですが、きちんと期日通りに支払ってもらえない場合も多いのです。
また、資力があって支払い義務があってもお金を出し渋るケースも少なくありません。
相手との関係を悪くしたくないと配慮したり、
「支払ってくれ」とは言い出しにくかったり、
「ちょっとだけ待ってくれ」と言われてズルズルと時間だけが経っていくということもよくある話です。
債権回収を弁護士に依頼すれば、
いろいろ悩みが解消するのはわかっているけど、
そこまでするのはちょっとというためらいもわかります。
それでは、どういうタイミングで債権回収を弁護士に依頼するのが良いでしょうか?
ケース別に解説いたします。
なお、金銭以外の債権についても、弁護士であれば、履行の強制等の相談に応じられますが、ここでは金銭債権に限って話を進めたいと思います。
■債権回収を弁護士に依頼するタイミングは? ~ 債権の種類別対応
1.売掛金・未収金がある取引先や顧客が支払いをしない
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売掛金・未収金とは?
取引先や顧客に対する債権は非常に一般的なものです。
どんな取引も現金と引換えの決済であれば問題はありません。
しかし、一定の締め日と決済日を設けて後払いというケースも少なくありません。
この代金が売掛金です。
例えば、八百屋さん等で飲食店に対し1週間の代金をまとめて請求することにしている場合、その野菜の代金は売掛金になります。また、飲食店によってはツケ払いもあるでしょうが、これも売掛金になります。商品販売に限らず、サービス業でも同様です。例えば、デザイン事務所でデザインを描いて提供したり、塾で教えた料金を後払いで受け取る場合も売掛金です。
ちなみに、本来の事業以外の取引で生じた未回収の代金を未収金(または未収入金)と言います。例えば、八百屋さんが野菜の陳列棚を後払いで売ればその代金は未収金です。
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売掛金・未収金の弁済が滞るケース
さて、こうした売掛金・未収金で困るのは、きちんと決済日に支払わない取引先や顧客が出てきた場合です。よくあるパターンは「そのうち払う」「必ず払う」「ない袖は振れないよ」等と言われて期日の先延ばしをせがまれるケースです。
取引関係や人間関係が悪くなるのを懸念して支払い猶予を認めがちですが、キャッシュフローが悪くなりますし、待っているうちに、相手が逃げてしまう場合もあり得ます。
こうした場合、いつ弁護士に依頼するのが良いでしょうか?
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売掛金・未収金の債権回収を弁護士に依頼するタイミングは?
結論から言えば、売掛金・未収金の債権回収では、極端に少額な場合を除けば、早めに弁護士に相談するのがお勧めです。債権額にもよりますが、決済期日を何ヵ月も繰り延べしたり、複数回遅らせる事態であれば、対応について弁護士に相談した方が良いでしょう。相談したからといって、必ず依頼しなければならないと言うわけでは有りませんので、下手にネット上の知識を基に自分でやってみて大きな失敗をするよりは無料相談・有料相談問わず専門の弁護士に相談することはとても良い選択です。
依頼するタイミングとしては、相談した上で時間的制約・法的知識が足りないなどの理由で自分では対処できそうもない事案で回収方針・見込みがはっきりしている、弁護士に依頼したほうが経済的利益になると判断できれば、迷わず弁護士に依頼したほうが良いと考えます。
確かに、払えるまで待ってあげるのも選択肢かもしれません。
しかし、決済期日に払えない状況が続く場合、
待っても事態が好転するのは期待薄です。
最終的に相手が経済的に破綻して一円も回収できなくなる可能性もあります。
また、債務者は、うるさく言わない債権者に対しては先延ばしを図りがちです。
さらに、「あの会社・あの人なら大丈夫だろう」と自分に言い聞かせつつ、
いつまでも返してもらえないというのは、債権者にとって精神的に大きな苦痛です。
弁護士や法律が出てくると話がきつくなる、相手に気の毒だ、裁判沙汰にしたくないと思われる方もいるでしょう。
しかし、弁護士を間に入れることで、
情に流されがちな人間関係が整理され却って良い関係が構築できる可能性が出てきます。
また、弁護士を介して相手に明確な意思を示すことは、
相手に本気のプレッシャーを与えます。
これは「甘え」を捨てさせ、長い目で見れば相手のためにもなることです。
しかも、弁護士が代理交渉をしたからといって、必ずしも裁判になるわけではありません。
弁護士が行う債権回収業務と言っても、裁判前の任意交渉で解決することが多くあります。
例えば・・・
準消費貸借契約を結ぶことで実質的に返済期限を先延ばしにしたり、
相手が払えるペースの分割払いの債務弁済契約書の作成で解決など多くの事例があります。
この場合、売掛金等では規定のなかった(連帯)保証や利息、遅延損害金、担保権を設定したり、
強制執行認諾文言付公正証書とするなど、
弁護士ならではの法律的知識により債権者としてもより安心できるかたちで問題の解決を図ることができます。
なお、強制執行認諾文言付公正証書とは、
契約を結んだ相手が弁済をしないときに、裁判を経ずに相手の財産を差し押さえるなど強制執行ができるものです。
さらに、小規模取引で契約書や納品確認がない場合は、
最悪、「そんなものは知らない」と債務者が言い出すおそれもありますが、
そうした危険を抑える上でも、弁護士のアドバイスは有効です。
言うまでもなく、契約書がなくても契約は成立します。
納品確認書類がない場合でも納品がなかったわけではありません。
しかし、書面等の証拠をしっかり確保をした方がよく、
法律的に有効な証拠を揃えたり、債務承認弁済契約書を締結するなど、
債権回収を確実にする手段は非常に重要になってきます。
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売掛金・未収金の債権回収、自分でやれば良いのでは?
なお、世の中には「債権回収のやり方」を解説した書籍等もあるので、
弁護士に依頼せずに自分で内容証明を出したり、
弁済を迫れば良いではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。
もちろん、債権者本人であればそのような手段もあり得ます。
しかし、債権者の個人名義で内容証明を出しても相手が意に介さないとか、
法律的に効果のある文言になっていないとか、
相手に逃げ道を与えてしまったり、
やり方によっては自力救済や脅迫等の不法行為になったり、
却って話がこじれてしまうケースもあります。
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短期消滅時効と民法改正
さらに、現行民法では、一定の小規模取引の債権には短期消滅時効があります。
消滅時効とは、権利行使が一定期間行われない場合、権利が消滅してしまう制度です。
この中でも比較的短期間で権利が消滅してしまうのが短期消滅時効です。
例えば、飲食店のツケ等は債権発生時から1年です。
八百屋さん等物品販売の売掛金は2年です。
デザイン事務所でデザインを描いて提供したり、塾で教えた料金を後払いで受け取る場合の売掛金等も同様です。医師の診療についての債権は3年です。
短期消滅時効は民法改正案で廃止される予定(2017年3月現在)ですが、
改正法施行前に発生した債権については現行法が適用になります。
民法改正案の施行は来年以降になる見通しですので、例えば、飲食店のツケ等を放置したままにすると1年で消滅時効に掛かってしまいます。
これは、お客さんが可哀想だと同情していた場合も変わりません
(請求や相手の承諾などで若干の影響はあります)。
また、改正民法でも消滅時効制度自体がなくなるわけではありません。
商事債権も含め、基本的には統一的に5年になりますが、いずれにしても放置は禁物です。
2.知人・友人・親族が借金を返してくれない
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貸金の弁済が滞るケース
取引先や顧客に対する売掛金は、言ってもビジネスなので、ある程度、ドライな対応が可能です。
しかし、知人・友人・親族が借金を返してくれないのは非常につらいものです。
あげたつもりであきらめる人も少なくないでしょう。
こうした場合、弁護士を間に入れて人間関係がこじれるのを恐れる気持ちはよくわかります。
しかし、貸したお金をきっぱり忘れることなどできません。
また、相手も負い目を感じままです。
放置するのは双方にとって良いことではありません。
ここは「甘え」を捨てさせるのが相手のためにもなると言えます。
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貸金の債権回収を弁護士に依頼するタイミングは?
さらに、民法改正案では、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間権利行使をしないと貸金債権も消滅時効に掛かってしまいます。
この場合、「ずっと請求を繰り返しているから大丈夫」ではありません。
請求だけでは完全には時効の進行を止められません。
また、「そのうち返す」という口約束だけでは時効が完成してしまうおそれがあります。
知人・友人・親族間の貸金の場合、借用書がなかったり、返済期日が明確に決められていない場合もあるので、これもなるべく早めに弁護士に相談した方が良いでしょう。
返済期日があいまいだと「債権者が権利を行使できることを知った時」がいつなのかも争いが生じる可能性があります。
消滅時効に掛かる前に債権回収を図るべきなので、そうしたタイミングを考慮して行動してください。
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元カレ・元カノへの貸金についての債権回収は?
また、恋愛関係にあった相手にお金を貸したものの別れてしまった、
せめて貸したお金だけ回収したいと思う場合は、すぐに弁護士に相談した方が良いでしょう。
できれば「別れる前」です。こうした場合、借用書がない可能性が高く、時間が経ってしまうと貸金の証明が困難になるからです。
また、明確に借金とはしなかったものの、贈与なのか条件付きで貸したなのかあいまいな場合もお金を取り戻せる場合があります。
この場合も相手の言質を取るためには完全に別れる前が望ましいですが、
とにかくすぐに弁護士に相談することです。
愛は取り戻せませんが、お金は取り戻せる可能性があります。
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ビジネス上の貸金についての債権回収は?
なお、知人・友人・親族以外、例えば、ビジネス上の相手に貸付(金銭消費貸借)をした場合は、返済期日を徒過したのであれば、すぐにでも弁護士に相談すべきです。
売掛金も期日までに支払うべきものですが、
借金は予めきちんと期日を決めています。それを過ぎても返さないのは許すべきではありません。
金銭消費貸借契約を結ぶ時点で、
人的または物的な担保を確保しておくべきですが、
金銭消費貸借契約の内容を含め、早急に検討して適切に対応しないといけません。
3.雇い主が賃金を支払ってくれない
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給料の支払いが滞るケース
会社等で経営が悪化してくると給料未払いが続くことがあります。こうした場合も早めに弁護士に相談することをお勧めします。
もちろん、会社の給料未払いでは、
経営者は
今は苦しいけどあの仕事がくれば楽になるから・・・
みんな苦しいのを我慢しているんだ・・・とか言うでしょう。
しかし、働いている以上、賃金をもらうのは当然のことです。
さらに給料日に払えない状況が続く場合、期待を込めて待っていても事態が好転するのは期待薄です。1回は待つとしても、2回以上払えない状況が続いた場合には公的機関なり弁護士に相談しましょう。
会社の給料未払いで弁護士を出してくると、さすがに会社にいづらくなることもあり得ます。
しかし、弁護士も基本的にはできるだけ依頼者の状況を把握したうえで解決策を考えます。
会社や同僚への裏切りではなく正当な権利行使なのですから、
悩んだりせずに弁護士に相談することをお勧めします。
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バイト代の支払いが滞るケース
また、バイトなどでも、何かといちゃもんを付けて時給・日給等の支払いをしない経営者もいます。
バイトの代わりを見つけて来ないと罰金などと称して不当に支払いをしないケースもあるでしょう。
バイト代の場合、金額的に弁護士に依頼するのは無理ではないか、と心配するのもわかりますが、
放置しておくと時効に掛かってしまいます。
通常のバイト代も現行民法では1年の短期消滅時効です(但し、労働法等により2年とされる場合が多い)。この短期消滅時効も廃止される予定ですが、ブラックな経営者を野放しにしておくのは、バイト仲間全員にとって、社会全体にとっても有害です。
早めに公的機関なり弁護士に相談しましょう。
4.賃借人が家賃を支払ってくれない
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家賃の支払いが滞るケース
アパート経営では賃借人が家賃を滞納するケースもあります。
実際に家賃収入で暮らしている場合は死活問題です。
サラリーマンが副業でマンションを買い、部屋を貸している場合は、
一方でローンの支払いもあるので大変なことになります。
また、賃借人が荷物をそのままに夜逃げしたりすると残った荷物の処分にも困ります。
こうした場合はすぐに弁護士に相談しましょう。
多少のコストが掛かってもしっかりした意思を示すことが重要です。
1ヵ月の滞納が2ヵ月、2ヵ月が半年になるのはあっと言う間です。
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その他の定期金の支払いが滞るケース
養育費等、定期的に支払ってもらう金銭についても同様です。
相手の支払い能力にもよりますが、サラリーマンであれば給与の差し押さえなども可能です。
■まとめ
以上の他にも、
事故などで損害賠償を受けることで示談にしたのに支払いがないという損害賠償債権の未払いや
保証人を付けた債務者が支払わないので保証人から債権回収をしたいというケースもあるでしょう。
保証債務についても民法の改正がありますし(2017年3月時点)、
相手が良い人であればこそ、保証人から債権を回収するのは「可哀想」だと思ってしまいます。
本人では対応が困難です。
その思いを断ち切るためにも法律の専門家である弁護士に早急に相談するべきです。
弁護士に相談することは劇薬を服用することではありません。
病気になって医者に掛かるのと同じです。
無料相談、有料相談問わず、弁護士に相談するタイミングはなるべく早くが基本です。
相談したからといって必ず依頼しなればならないわけではありません。
相談で具体的なアドバイスを聞いたうえで、自分で対応できるものなのか?弁護士に依頼したほうがメリットがあるのかを総合的に見極めて依頼するか判断すれば良いのです。
また、医師に対してのセカンドオピニオンと同じで重要な事案については、複数の弁護士に相談し、様々なアドバイスを総合的に判断して対応策を検討されることをお勧めします。