不動産の差し押さえは強制的な債権回収手続きの中で行われます。差し押さえが行われる原因にはいくつかあり手続きも異なります。

 

この記事では、不動産の差し押さえについて方法や流れについて解説します。

 

不動産の差し押さえとは

差し押さえとは、所有者による財産の隠匿などを防ぐために財産の処分を禁止することです。債権者の権利を保護するために行われます。差し押さえがなされると所有者であっても自由に財産を売ったり贈与したりすることはできず制限されます。

不動産差し押さえとは、土地や建物の所有者が売却などの処分を自由にできないように差し押さえの登記をしてしまうことです。

 

仮差し押さえとの違い

「差し押さえ」と「仮差し押さえ」はよく似ていますが利用目的が違います。仮差し押さえは強制執行をするまでに時間がかかるため、債務者の財産を暫定的に差し押さえる手続きです。普通の差し押さえは訴訟で勝った後に実施しますが、仮差し押さえは訴訟の前や訴訟の途中で行います。債権者が勝訴判決をもらったとしても強制執行をする前に不動産などの財産を処分されると差し押さえができなくなるからです。

 

不動産の差し押さえの種類

不動産が差し押さえられる理由には大きく3つあります。

・強制執行

・担保権の実行

・行政法上の滞納処分

 

それぞれどのような状況で差し押さえられるのかを見ていきます。

 

強制執行

強制執行というのは、裁判所を利用して債務名義上の権利を強制的に実現する方法です。債務名義とは、確定判決書など権利を証明した文書のうち執行力が認められているものです。

裁判に勝って判決が確定した場合には判決書を執行裁判所に提出することで不動産などの財産を強制執行することができます。財産は競売などにより処分・配当されますが手続きの始めの段階で差し押さえがなされて債務者による財産の処分が禁止されます。

 

担保権の実行

抵当権などの担保権は債権を守るために設定されます。契約で担保権を設定する利点は万が一支払いが滞った場合に優先的に担保から支払いを受けられる点にあります。また、担保権を設定しておくことでわざわざ訴訟を起こして債務名義を取得する必要がありません。

不動産担保権の代表格は抵当権です。不動産に抵当権が設定されている場合、ローンなどの返済がないときには抵当権を実行することで不動産を競売にかけるなどして強制的に債権を回収していくことができます。抵当権の実行は基本的に強制執行と同様であるため、手続きの始めの段階で不動産が差し押さえられることになります。

 

行政法上の滞納処分

税金などの公法上の金銭債権を滞納すると行政によって財産が滞納処分を受けることがあります。義務者が不動産を所有している場合には滞納処分として不動産を差し押さえられることがあります。

 

不動産の差し押さえの流れ

不動産の差し押さえの流れについて、強制執行(競売)手続きをもとに解説します。担保権実行については債務名義が不要な点に特徴がありますが強制執行手続きが準用されています。

 

不動産強制競売申立て

不動産を差し押さえるには強制競売の申立てが必要です。不動産所在地を管轄している地方裁判所に手続きをとります。申立てには以下のような書面が求められます。

 

・不動産競売申立書

・執行正本(債務名義)

・送達証明書

・不動産登記事項証明書

・租税公課証明(固定資産税評価証明書など)

・地図、建物所在図など

・債務者の住民票の写しや法人の場合は代表者の資格証明書

・不動産所在地までの経路方法を記載した図面

※事案により必要書類に違いがあります。

 

不動産強制競売開始決定~競売

手続きが順調に進めば裁判所は強制競売開始決定を出します。対象財産が不動産の場合には裁判所書記官が差し押さえ登記を法務局に嘱託し登記官が差し押さえ登記を実施します。裁判所は不動産の調査も行います。不動産の状態や価値を調査して「現況調査報告書」や不動産価格「評価書」、権利関係について記載した「物件明細書」が作られます。

不当に安い価格で売却されると困るため評価書を参考に「売却基準価額」が設けられます。買い受けるには売却基準価額の8割以上が必要とされます。競売の実施は通常はまず期間入札の方法がとられます。

 

不動産の引き渡し

売却許可後、代金納付が済むとそれと同時に買受人に不動産の所有権が移ります(民事執行法79条)。所有権移転登記や差し押さえ登記の抹消手続きは裁判所書記官が嘱託します。登録免許税は買受人が負担します。

 

配当

購入した人が納付したお金が配当に回されます。債権者全員の債権額を満足させられる場合には特に問題はありません。そうでない場合、配当には優先順位があり民法などの法律をもとに決められます。他の債権者にも利益となった共益費用が優先され、登記済みの不動産保存や不動産工事の先取特権と続きます。

公租公課と抵当権等の通常の登記された担保権の関係が問題となりますが、抵当権は法定納期限後に登記されたものについては公租公課の方が優先されます。

 

強制競売について詳しくは、「強制競売とは?強制競売の流れをわかりやすく解説」をご覧ください。

 

強制競売を開始するために必要なもの

強制競売で必要なもので特に重要なものについて詳しく見ていきます。

 

債務名義

「債務名義」とは一定の権利を表示した公的な証書で、「これがあれば強制競売などの強制執行ができますよ」と法律が認めたものを指します。裁判所に不動産を差し押さえてもらうためには、この債務名義がなければなりません。抵当権などの担保権の実行については不要です。担保権実行のためには債務名義ではなく登記事項証明書などを提出して申し立てます。

担保権がない状態で不動産を差し押さえたいのであれば、債務名義を取得する必要があります。

この債務名義にはいくつかの種類があります。

具体的には、確定判決(債権者が勝訴したもの)、仮執行宣言付判決、執行証書(強制執行認諾文言のついた公正証書のこと)、確定した執行決定のある仲裁判断、和解調書などが挙げられます。

このうち仲裁判断と和解調書、執行証書を得るには、執行証書の作成に同意してもらうなど債務者側の協力が必要です。そのため債務者の協力なしに強制的に債務名義を得るには、債務者を相手取って訴訟を提起し、確定判決もしくは仮執行宣言付判決を取得しなければなりません。

 

<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説

 

執行文

裁判で勝訴して確定判決を得られたとしてもそれだけで不動産を差し押さえられるわけではありません。

獲得した債務名義に「執行文」がついていなければ、原則として裁判所は不動産を差し押さえてくれないのです。この執行文の付与された債務名義のことを「執行正本」といいます。

執行文がどういうものかというと、「この債務名義によって不動産を差し押さえてもいいですよ」と示す文書のことです。

執行文は、それを付与しようとする債務名義の事件記録のある裁判所の書記官に対して、債権者が申立てをすることで付与してもらえます(ただし執行証書が債務名義である場合に限っては、裁判所書記官ではなく執行証書の原本を持っている公証人に申立てることになります。)。

債務名義だけで不動産を差し押さえても良さそうなのに、なぜわざわざ執行文をつけさせるといった面倒なことをするのでしょうか。

その理由は、債務名義だけでは現時点で強制執行していいのかわからないことがあるからです。

例えば、「○○の引渡しを受けるのと引き換えに金銭を支払え」という内容の確定判決を債務名義とする場合には、債務者に対して○○という物の引渡しがあって初めて強制執行が可能になります。

しかし、この債務名義を見ただけでは、実際に引渡しがなされたかどうかはわかりません。

そこで、「債務者に対して○○の引渡しがなされたのに、債務者はまだ金銭を支払っていません。だからもう強制執行しても良いですよ」ということを証明する執行文も必要になるのです。

 

その他必要なもの

裁判所に不動産を差し押さえてもらうには、執行文の付与された債務名義の他に、債務名義の謄本が債務者の元に届けられていることの証明書(送達証明書)、申立書が適法であること(当事者や請求債権、差し押さえの対象となる不動産をちゃんと記載しているなど)、債権者が費用を予め裁判所に納めること(収入印紙で)、なども必要です。

 

まとめ

・不動産の差し押さえとは、債務者による不動産の処分を防ぐために強制執行の最初に行われる財産処分を制限するする手続きです。差し押さえ登記がなされます。

・仮差し押さえは強制執行までに財産を処分されないようにするために一時的に財産の処分を禁止するものです。

・強制執行は、債務名義に記載された権利を強制的に実現する手続きです。債務名義は確定判決書など権利を公的に証明した文書であり執行力があるものです。

不動産差し押さえは強制執行のほかに担保権実行でも行われます。債務名義は不要です。

 

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