抵当権の効果的な活用方法(処分・転抵当・順位の譲渡)を専門家が徹底解説!!

 

目次
はじめに

強制執行の問題点
心理的圧迫を加える債権回収
処分の種類
債権自体の処分
随伴性と付従性
対抗するための方法
債権者代位の禁止
ほかの人に対抗するための方法
登記名義の変更の必要性
転抵当
対抗するための方法
抵当権の弁済期と転抵当の弁済期
債権自体の処分との違い
まとめ

 

■はじめに

抵当権などの担保についての権利をもっている場合、それはいつか、貸したお金や商品などを確実に受け取りたいからにほかなりません。
お金や商品を渡さなければいけないという債務を負っている人は、そのうち、お金や商品を「返してくれ」、「渡してくれ」と、そのように求める権利をもっている人に渡さなければならないのです。
 
ですが、催告しても任意に支払ってもらえるとは限りません。
そのようなとき、「裁判所に頼むしかないか」、と思うかもしれません。
 

・強制執行の問題点

たしかに、債務名義を取得して執行文の付与を受けた上で強制執行によって、お金を借りている人の持ち物を、競売してしまうという方法もあります。実際には、金目の物を隠されてしまうことがあるので、これを何とかするために、仮差押えという手続も使います。
 
ほかにも、支払督促や少額訴訟手続という比較的面倒が少ない手続きも考えられます。
不良債権をなんとかするために、最後は避けて通ることはできません。
 
ですが、裁判所は敷居が高く、いろいろ面倒くさいと思われるかもしれません(最近では、建物に入るだけで金属探知機をつかって身体検査をされたり、X線での手荷物検査を受けたりしなければなりません。)
 
ほかにも、悪いことをしたから訴えられるというイメージがあるせいか、訴えられただけで精神状態が不安定になる人も少なくありません。取引相手との関係を悪くすることにもなります。
 

・心理的圧迫を加える債権回収

このような裁判所の権威を借りる債権回収の方法もあります。

それは、裁判所の中にある郵便局から内容証明郵便を出すことで心理的圧迫を加えるというものです(「東京高等裁判所」など、裁判所の名前が記載されているので裁判所から出されたものだと誤解する市民がいます。)。

ですが、市民の無知につけこむかたちになるので、弁護士が仕事上裁判所に用があって行ったときについでに利用するという場合では仕方がないかもしれませんが、一般の方など裁判所を利用する必然性のない方がこのような手法を使うことは、誤解を与え、後で問題にされる可能性もあります。
運良く内容証明郵便に従って返してもらえても、住んでいる場所から遠く離れた裁判所の中にある郵便局からわざわざ発送したことについて、合理的な理由を説明できなければ、裁判所が送ったものだと誤解させ怖がらせて強引に支払わせたものだ、と相手方(や別の債権者)からクレームを言われることにもなりかねません。
特に、いついつまでに「支払わなければ強制的に回収する」というような書き方になっている場合、裁判所の命令であると誤解し、強制執行を免れるために無理に借金をして支払うということにでもなれば大きな問題になりかねません。
 

このように裁判所を使うことには多くの人にとって抵抗があります。すでに抵当権や根抵当権などの担保を目的とした権利をもっているのであれば、抵当権自体を処分することでお金を作り出すことができたりします。

ここでは、抵当権を処分する方法について見ていきたいと思います。
 

■処分の種類

抵当権という権利は、「権」利とあるように、自分がなにかをする力があるということを表しています(「権」という言葉は、なにかを支配する力という意味です。)。
 
所有権などであれば物自体を目的としたものであるため、財産としての価値があるということはわかりやすいと思います。
 
これと異なり、抵当権や根抵当権は、物自体というより、物を売り払ったりしたときなどの経済的な価値が目的といえます。
 
つまり、抵当権が土地や建物といったものについている場合、土地や建物の経済的な価値を支配する権利が抵当権ということになります。
 
ということは、このような権利も財産としての価値があるということになり、所有権と同じように処分できるはずです。
 

法律では抵当権の処分の方法として次のものを認めています。
・抵当権の付いた債権自体の処分
・転抵当
・抵当権の譲渡・放棄
・抵当権の順位の譲渡・放棄
・抵当権の順位の変更
ここでは、よくある処分である「抵当権のついた債権自体の処分」と「転抵当」を見ていきます。

■債権自体の処分

抵当権の付いた債権自体の処分とは、お金を貸したときなどに抵当権をつけてもらった場合に、弁済期まで何年も待っていられない、「早くお金にかえたい、債権はもういらない」、という場合に、お金を返してもらえる権利を売ってしまう方法です(お金を返してもらう日に支払ってもらえる金額よりも安いなら、買ってくれるひともいるかもしれないわけです。)。
 

・随伴性と付従性

抵当権には随伴性と付従性というものがあります。
 
ここでの随伴性というのは、お金を返してもらう権利がほかの人の手に渡ったときは、抵当権だけ残っても仕方がないので、これも移ることを指します。
 
付従性というのは、なにかに付き従うという性質のことで、本体になにかあったらそれと運命をともにするというもので、権利が発生したりなくなったりするときに問題となります。
本体の権利がなければ、付従する権利は発生しないし、本体の権利がなくなれば、一緒になくなるというものです。
 
両者はよく似ていますが、権利の発生や消滅に関わるものが付従性、それ以外が随伴性と考えるとわかりやすいと思います。
 
お金を返してもらえる権利を手に入れた人は、それを返してもらえなかった際、抵当権を使って、土地や建物を売ったお金からほかの人より先にお金を返してもらうことができるようになります。
 
たとえば、樫田さんが苅田さんに1,000万円を貸して、苅田さんがもっている土地と建物を担保にとったとします。お金を返してもらえるのは10年後です。
樫田さんは急に500万円が必要になり、10年も待っていられない、すぐにでも現金にしたい、と考えて、勝田さんに相談した所、700万円なら買ってもいいという意思表示をしたので、背に腹は代えられないので売却しました。
 
このような場合、勝田さんは、1,000万円を苅田さんから返してもらえる権利を手に入れるだけではなく、抵当権も一緒に買ったことになるわけです。
 

・対抗するための方法

ただし、権利を手に入れただけではお金を返してもらうことはできませんし、優先弁済を受けることもできません。
 
お金を借りた人(上記の苅田さん)に、お金を直接貸した人(樫田さん)から、「あなたに対するお金を返してもらう権利を勝田さんに売りました。」という通知をしなければなりません。
 
このようにすることでお金を借りた苅田さんは、勝田さんの存在を知り、勝田さんにお金を返す必要があることをはじめて知ることができるわけです。
ですので、通知の代わりに、「樫田さんが勝田さんに権利を売ったことを承知しました。」ということを、お金を借りた苅田さんから伝えることでもかまいません。
 

・債権者代位の禁止

このとき、権利を買った勝田さんが、売った樫田さんに代わって、お金を借りた苅田さんに通知できないか、という問題があるのですが、これはできません。
 
なぜかというと、お金を返してもらう権利を本当はもっていないのに、買ったとウソをついているかもしれないからです。
 
権利を譲った人からの通知や、お金を返す義務のある人からの承認が必要とされるのは、権利が他の人に移ったということを、お金を返す義務のある人がきちんと認識し、誤って権利のない人に支払ってしまわないようにするためだからです。
 

・ほかの人に対抗するための方法

また、勝田さんのほかに別の人も苅田さんに対する1,000万円を返してもらう権利を買うことがあります(もちろん二人の人に売った樫田さんは法的な責任を問われます。)。
 
どちらが権利者かはっきりしなければなりませんので、こういうときは日付の証明ができる通知を先にしたほうが勝つことになっています(日付の証明のできる通知というのは、通知書面を書いた日を確定的に証明できる通知のことです。公正証書でもかまいませんが、一般的には内容証明郵便を使います。)。
 
先に苅田さんに到達させたのが勝田さんなら、お金を支払ってもらえる権利も、抵当権も無事に勝田さんが取得します(書面の日付の先後ではありません。義務者の認識が基準になるからです。)。
 

・登記名義の変更の必要性

ただし、抵当権を実行するには、あらかじめ抵当権設定登記の名義を勝田さんに変えておくことが求められます。
 
登記をするには税金がかかるのですが、このような場合における税金は登記上の金額の1000分の2かかります。1,000万円なら2万円です。ほかに司法書士への費用もかかります(報酬は事務所によって異なりますので具体的には書けません。)。
 
取引を行うときは、そういった費用も考えておく必要があります。
 

■転抵当

お金を貸している人が、ほかからお金を借りたい、融資を受けたい、でも債権は手元に残しておきたい、というようなときに利用するものです。
 
その方法は、抵当権という権利そのものに抵当権をつける、というものです。
つまり、土地や建物の代わりに、抵当権そのものを担保にしてしまうわけです。
 
たとえば、樫田さんが苅田さんに1,000万円を貸して、苅田さんのもっている工場を担保にとったとします。お金を返してもらう約束の日が5年後だった場合に、樫田さんがいますぐにお金が必要になったというとき、勝田さんからお金を500万円借りることにし、その担保として樫田さんが苅田さんに対してもっている、工場に対する抵当権を担保にするわけです。
 

・対抗するための方法

お金を借りた最初の人である苅田さんの承認か、苅田さんに対する樫田さんからの通知がなければ、樫田さんから権利を手にした勝田さんは、苅田さんに自分が権利をもっているということを主張できません。
 
樫田さんが勝田さんに抵当権を担保に差し出し、転抵当が成立したとしても、苅田さんの承認や苅田さんに対する通知がないときは、苅田さんが勝田さんの許可を受けずに樫田さんにお金を返したとしても、弁済は有効になります。
つまり、権利を買った勝田さんは、苅田さんの工場を売ったお金があったとしても、そのお金は手に入りません。
 

・抵当権の弁済期と転抵当の弁済期

転抵当により苅田さんの工場を売り払ったりするには、苅田さんの樫田さんに対するお金を返すべき日が来ている必要がありますが、それだけでは不十分で、樫田さんが勝田さんに対するお金を返さなければいけない日も来ていなければなりません。
 
樫田さんが勝田さんにお金を返さなければいけない日が来ていなければ、苅田さんの樫田さんに対するお金を返さなければいけない日が来ているとしても、転抵当を使わせるわけにはいきませんし、樫田さんの苅田さんに対する権利を行使できる日が来ていないのに、転抵当により苅田さんの工場を有無を言わせず売り払えるとすれば、苅田さんがかわいそうだからです。
 
つまり、両方の弁済期が来ていなければなりません。
 

・債権自体の処分との違い

債権自体の譲渡の場合と違うのは、樫田さんはいまも権利をもっているということです。
樫田さんは1,000万円分の権利をもっていて、勝田さんは500万円分の権利ですから、500万円分あまっています。
 
そこで、転抵当により苅田さんのもっている工場が売りに出された場合、はじめに勝田さんがお金を受け取り、あまった分は樫田さんが受け取れます。
 
債権自体の譲渡の場合は、売ったらそれっきりで、あまったからといって、その分を返してと頼んでも権利が完全になくなっていますからできません。。
 
ほかに債権自体の売却の場合と違うのは、樫田さんが同じ権利を別の人にも担保として提供したような場合です。転抵当はいくつでもつけられるのです。
 
この場合、抵当権設定登記のされた順序で優先する順序が変わります。
 
そのため、登記を忘れずに行う必要があります。
 

■まとめ

・担保権は債権回収のためにありますが、裁判所を利用した手続と任意の処分による債権の回収手続きがあります。
・強制執行や支払督促など、裁判所を利用する手続は債権者にとっても債務者にとっても心理的負担の大きな手続であり、最後の手段とすべきです。

・特に、心理的圧迫を加えることを意図した裁判所内部の郵便局を利用した内容証明郵便の利用は、倫理的問題だけではなく、一般人が使うと法的な問題が生じるおそれがあるので避ける必要があります。

・任意的処分としては、債権自体の処分、転抵当等が存在します。
・いずれの処分も債務者に対してそのことを知らせることと、登記が重要です。

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