目次
■売掛金と未収金の問題!未回収は銀行評価に関係するの?
・売掛金が銀行評価と繋がるのはなぜか
・売掛金は回収が肝心
■売掛金と未収金の回収方法とは?回収の基本知識
・自社(自分)で行う債権回収とは
・債権譲渡や商品引き揚げによる債権回収
・訴訟や支払督促など裁判所を使う債権回収
・担保設定や公正証書の活用で債権回収
■弁護士を債権回収のパートナーにすることでスムーズに
■まとめ
■売掛金と未収金の問題!未回収は銀行評価に関係するの?
会社は契約さえ成立すれば利益が出るわけではありません。契約成立後、実際に契約に即した行動をしなければいけません。例えば、契約に従って商品を発送したり、個数をそろえて納品したりといった行動がこれにあたります。しかし、会社は、契約に即した行動を完了させても、取引相手がきちんと対応してくれなければ「利益」を回収することができません。要するに、「取引先が支払いをしてくれてはじめて会社の儲けとなる」のです。商品だけ渡しても支払いをしてもらうことができなければ、儲けどころかマイナスになってしまいます。
「契約=即座に利益」という式が成立しないからこそ、会社の経営は難しいと言えるでしょう。会社を続けて行くためには債権回収の知識が必要なのです。
売掛金の支払いをしてくれない取引先にはどのような対応が考えられるでしょうか。マイナスを回避するためにも、そして会社の利益に繋げるためにも、債権の回収は会社にとって重要事です。債権回収のために知っておきたい知識について解説します。
「売掛金」とは、会社の主営業から発生する未収入金(債権)のことです。「未収金」とは、会計上売掛金を除いた未収入金(債権)のことです。売掛金が主たる業務から発生する未収入金を指すことに対し、未収金とは主たる業務以外から発生する未収入金を指します。
加工食品を製造・販売するA会社があったとします。A会社が加工食品をB会社に販売し、まだB会社から代金を受け取っていないとします。この場合はA会社の主たる業務から発生している債権ですから、売掛金に分類されます。
A会社は土地と建物を所有しており、それぞれ個人と企業に貸していました。不動産を貸すことにより発生する債権は、A会社の主たる業務から発生した債権ではありません。加工食品とはまったく関係ありません。ですから、この場合の債権は未収金に分類されます。
両者は性質こそ違いますが、「未収入のお金である」「回収しなければ会社がダメージを受ける」「回収できなければ利益にならないどころかマイナス」という共通点があります。会社の場合は契約が利益に直結するのではなく、売掛金や未収金を回収できてはじめて利益になります。会社の利益を増やすため、そして会社を継続するためにも、売掛金や未収金に気をつけておくことは大切なことなのです。
売掛金や未収金は、会社に対する銀行評価にも影響を及ぼします。銀行融資は「その会社にお金を貸し付けても回収できるか」を重視するため、当然のことと言えるのではないでしょうか。
・売掛金が銀行評価と繋がるのはなぜか
会社は運営のための資金を銀行融資や株式・社債の発行などの方法で調達しています。中でも「融資」は、銀行側に申し込み、銀行が「貸す」という判断をしてくれなければ、融資してもらうことができません。銀行側が審査をし、審査にパスしてはじめてお金を借り入れることができるのです。
銀行側で融資を実行するかどうかは、いくつもの点を銀行側で確認して判断されます。銀行と会社の付き合いや、既に貸している融資(事業者ローンなど)の返済状況、返済日に遅延していないかなどの返済態度などなど、銀行はその会社が「お金を貸したら返してくれるか」を多角的な情報を用いて審査します。
審査においては会社の業績も重要な判断材料になります。業績が悪いと「貸しても返済できない」という銀行側の判断に繋がりやすいです。
銀行はお客さんから集めた預金などを融資というかたちで会社に貸し付けています。銀行は「融資をする側」であると同時に「預金者と会社を繋ぐ架け橋としての側面」を持つからこそ、融資の判断は非常に厳格かつシビアです。
融資担当と良好な関係を築いていても、業績が危ういと判断されたら融資は実行されません。
銀行が融資に踏み切るかどうかを判断する情報の中には、売掛金の状況も関係してきます。なぜかと言うと、売掛金はその会社の主たる営業から発生した債権だからです。売掛金がたくさんあると「繁盛しているのだな」という印象に繋がるのです。
・売掛金は回収が肝心
売掛金が多いと、営業利益が高いという評価に繋がりやすいと言えます。繁盛していれば次々に売掛金が発生します。まったく繁盛していない会社は、売掛金すらほとんど存在しないことでしょう。基本的に銀行側は売掛金の存在を悪い印象として捉えません。
しかし、売掛金がたくさんあっても、回収されていなのならば大問題です。売掛金がたくさん存在するということは、会社が繁盛しているということですが、会社はそれを回収してはじめて利益にできます。未回収のお金ばかり存在していると「この会社は売掛金を回収できずに赤字を出すのではないか」という印象に繋がります。
自分が銀行側に立ったつもりで想像してみてください。A会社は売掛金(債権)をたくさん有していました。しかしなかなか回収できていないようで、ほとんど利益が出ていません。未収の売掛金の回収にも「方法がわからない」と言い訳して、なかなか着手しようとしません。自分が貸す側であったら、こんな会社に融資するでしょうか。返済してもらえるか不安だからこそ、売掛金が多くても融資をためらうのではないでしょうか。
売掛金が多いことは好印象です。しかし実際に回収できなければ、売掛金とは「絵に描いた餅」ならぬ「絵に描いた利益」に等しいのです。銀行の評価を上げることや、いざという時にスムーズに融資を受けるために、売掛金の存在には常に気を払いたいところです。
「売掛金は早めに回収する」こと、「回収したらすぐに売り上げに計上する」こと、そして「回収するための知識を固めておく」こと、「回収を相談できる法的な知識を持ったパートナーを持つこと」が大切です。この4つは、会社の経営に関わる重要な鍵となるポイントです。
■売掛金と未収金の回収方法とは?回収の基本知識
会社にとって売掛金は回収しなければ利益に繋がらないからこそ、早期の回収が望ましいと言えます。これは売掛金以外の未収入金である未収金にも同じことが言えます。
二つの回収方法は基本的に同じです。まずはどんな方法があるか、基礎的な知識を身に着けておきましょう。債権の回収方法は、大きく次の4つにわけることができます。
- 自社(自分)で行う債権回収
- 弁済以外の手段を活用して行う債権回収
- 裁判所を使って行う債権回収
- 担保設定や公正証書の活用で債権回収
・自社(自分)で行う債権回収とは
売掛金や未収金を滞納する相手方に対し、自分自身または自分の会社の担当が働きかけて回収に繋げる方法です。未払いの相手に対して電話や内容証明郵便などの手紙で「催促」したり、「交渉」したりします。
自分で催促や交渉をするため、お金がかからないというメリットがあります。対して、法的な強制力がない上に法律の専門家による回収手段ではないため、相手に軽く見られて言い逃れされてしまうことや、無視されてしまうことがあります。
支払わないという態度が強固な相手に対して効果を見込むことが難しいのが、この自分自身で債権回収に乗り出す方法です。対して、未払いの相手方が誠実で、単に支払いを忘れていただけの場合や、支払日を間違って覚えていた場合、信頼関係が深く話し合いで解決しそうな場合は効果を見込むことのできる回収方法です。
・債権譲渡や商品引き揚げなどによる債権回収
「債権譲渡」や「商品引き揚げ」「相殺」などにより債権回収をはかる方法です。
債権譲渡とは、言葉通り「債権を譲り渡すこと」を言います。例えばA会社がB会社に商品を納品しても支払いをしてもらえませんでした。A会社はB会社に対して売掛金の債権を有していることになります。この債権をA会社はC会社へ譲渡しました。譲渡されたことでC会社とB会社には債権関係が発生します。未払いの相手に資力がなく、交渉や督促によっても支払いが見込めない場合に効果的な方法です。
債権譲渡には「債務者に債権を譲渡したことを通知する」ことや「契約書を作成する」という手間が必要だというデメリットがあります。また、必ずしも譲渡が成功するとは限りません。「A会社とB会社の100万円の債権を80万円でお譲りします」という話を持ち掛けても、B会社に返済能力がなければ、C会社は80万円で債権を購入してもマイナスになってしまいます。譲渡したくても断られることがあるというデメリットがあるのです。
商品引き揚げによる回収も、言葉通りの意味です。「売掛金の対象になっている商品を返してもらう」ことが商品の引き揚げです。商品を返してもらうことにより、その商品を別の会社や個人に販売することができます。また、商品を返してもらった分の代金は消えることになるわけですから、債権回収と似たような効果を期待できるのが商品引き揚げの特徴です。
ただし、支払いがないからと言って債権者側の一存で商品の引き揚げをすることはできません。勝手に敷地に入って、勝手に商品を持ってきてしまうと窃盗になってしまいます。商品引き揚げをする場合は債務者の協力を得て同意書などを作成する必要があります。
相殺もまさに言葉通りです。「お互いが所持する債権を差し引きし、帳消しにすること」を言います。簡単な例を挙げます。A会社はB会社が売掛金100万円を払ってくれないことに悩んでいました。そこで、B会社がA会社に対して所持する100万円の債権と相殺することにしました。現実的に100万円というお金が手元に入ったわけではありません。しかしA会社がB会社に支払うべき債務も帳消しになった上に支払い待ちの売掛金も消えたわけですから、債権回収に等しい効果を得たことになります。
ただ、債権の相殺も債権者側の一存で無条件にできるわけではありません。意思表示が必要になります。
債権の相殺をする場合は、債務者にきちんと相殺する旨を伝える必要があるのです。また、相殺には「同種の債権であること」や「相殺が禁止されている債権でないこと」などの法的な制約があります。相殺を望んでも制限されてしまうことがあるのです。
債権譲渡や商品の引き揚げ、相殺には法的な知識が必要になります。基本的に相殺や債権譲渡、商品の引き揚げは会社間ですることができますが、話がこじれると裁判所で法的な判断を仰ぐことにもなります。トラブルに発展しないよう、弁護士に相談してから進めるといいでしょう。特に商品引き揚げは、後々「引き揚げをするかもしれない」という可能性を想定して契約書を工夫しておくことが望ましいです。契約書作成の段階で弁護士に要望を伝えサポートしてもらうと安心です。
・訴訟や支払督促などの裁判所を使う債権回収
「訴訟」「調停」「少額訴訟」「支払督促」「強制執行」などの方法が、裁判所を利用して行う債権回収方法です。
「訴訟」は法廷で債権の存否等について審理し、最終的に判決を受けることにより回収に繋げます。
「少額訴訟」も訴訟の一形態ではありますが、60万円以下の金銭の支払を求める場合のみ利用できるという制約があります。裁判所での話し合いという性質の強い「調停」では、当事者同士が返済方法について協議し、結論を調書としてまとめます。
「支払督促」は裁判所で手続きすることにより発送することができる督促状です。手紙を使って個人で催促すると、無視されることや、軽く見られてしまうことがあります。裁判所から発送することにより、心理的にプレッシャーを与えることができます。加えて、「一定期間、受け取り手である債務者が異議を申し立てないことにより、支払督促は債務名義に変化するという特徴」があります。多くの債権者はこの特徴を目当てに支払督促を債権回収に活用しています。
「強制執行」は、公的な力でもって債務者の財産に執行し債権回収をはかる方法です。訴訟をして自分の望む判決をもらっても、判決通りに相手が履行してくれるとは限りません。少額訴訟や調停でも同じです。最終的に差押えをして強制執行という流れが基本的な回収方法になります。いきなり強制執行すればいいのではないかと思うかもしれません。強制執行をするためには、前提条件があるのです。その前提が国家権力による「債務名義」というものです。
強制執行は強い力を持つ回収方法だからこそ、条件を満たしたケースにおいてのみ可能な回収方法となっています。条件の一つが債務名義を用意することなのです。債務名義になるのは、裁判の判決や調停の調書、そして前述した異議申し立てなく一定期間が経過した支払督促などです。
裁判所で債権回収というと訴訟などを連想しがちですが、訴訟だけではなかなか債権回収できないのが現状です。
「訴訟」「調停」「少額訴訟」「支払督促」などの方法により「債務名義を取得し、最終的に強制執行で回収する」のが基本的な方法になります。
どの方法で債権回収の債務名義を取得するかは、状況を考慮して決める必要があります。債権の性質や債権額、債権者と債務者の状況によって適切な債権回収方法が変わります。弁護士に相談し、方法を検討するところからはじめるといいでしょう。
・担保設定や公正証書の活用で債権回収
契約の際にあらかじめ「抵当権」や「根抵当権」を設定するという、不動産を債権の担保にする方法があります。保証人を用意するという、人的な担保を求める方法もあります。担保を設定しておくと、不払いが発生した時は担保を売却する等の方法で対応することができます。
ただ、会社の売掛金は頻繁に発生することから、都度、担保を用意することは難しいといえます。抵当権の設定登記には登録免許税の支払いが必要になります。抹消時にも登録免許税の支払いが必要です。五月雨式に発生する営業上の債権を担保するために何度も抵当権を設定したり、抹消したりすることは面倒ですし、金銭面でも難しいことです。根抵当権を設定できればそのような手間も省けますが、不動産を所有する相手でなければできません。弁護士に相談し、担保を活用すべき債権はどれなのかをよく見極める必要があります。
同じく弁護士に相談して活用したいのは、「公正証書」による契約書です。
特定の条件を満たした公正証書による契約書は、即座に強制執行ができるという強みがあります。
しかし売掛金は五月雨式に発生することが多いため、契約の度に公正証書を作成していては、大変な時間と費用が必要になってしまいます。ここぞという大切な契約で公正証書の活用を検討したいところです。
担保権の設定や公正証書の作成は、不払い対策としても有効な方法です。債権回収に詳しい弁護士に相談し、債権の額や性質も踏まえて活用を検討してはいかがでしょう。
■弁護士を債権回収のパートナーにすることでスムーズに
前述したように、債権の回収方法には自分でできる方法から裁判所などを活用する方法まで様々です。それぞれの方法にはメリットとデメリット、そして特徴があります。一定の条件下でのみ許される強制執行のような方法もあれば、電話が手元にあればできてしまう個人的な催促まで、債権回収方法は多種多様です。債権回収方法が多種多様だからこそ、所持している債権の額や性質をよく考え、適切な債権回収方法を選択する必要があります。
売掛金は回収しなければ意味がありません。帳簿上にたくさん計上されているだけでは銀行の不信を招く可能性があります。スムーズな回収を実現するためにも、信頼できる弁護士をパートナーにして、売掛金や未収金には常に対策を講じることのできる態勢を作っておくことが必要なのです。
■まとめ
会計学上は売掛金は主たる営業での未収入金。未収金は主たる営業以外での未収入金。
言葉の意味は異なりますが、未払いに対する対処方法は共通しています。対処方法とは、自分で回収に向けて動く方法や、商品引き揚げなどの一定の手順や手続きが必要になる方法、訴訟や調停などの裁判所を使う方法、担保や公正証書を活用する方法の、大きくわけて4つです。
回収率を上げ、なおかつトラブルに発展させずきっちりと回収を済ませるためには法的知識が必須です。また、自分では債権譲渡しようと考えていても、法的には他の解決方法が望ましいことがあります。債権回収のためには基礎知識を固めると共に法律知識を持つ者をパートナーにすること、そして法的な知識を持つ者に回収方法のチョイスについてアドバイスしてもらうことがポイントになります。
特に売掛金の回収は銀行評価や会社への印象にも関わる重要事です。信頼できる弁護士をパートナーにして、早め早めに対策をすることが、会社にとって大きなプラスになるのです。