目次
■弁護士以外の士業事務所が報酬の回収を弁護士に依頼する4つのメリット
・メリット3、適切なタイミングで適切な債権の回収方法を講じることができる
■最後に
士業資格の取得者は独立開業して事務所を構えることが多いです。資格を使って職域にある仕事を行い、仕事の依頼者から報酬を得ます。士業は一見して債権問題と無関係だと思われがちです。ですが、士業の事務所を独立開業した人は、仕事に対する報酬を自身(自分の事務所)で回収しなければならないため、債権問題とは無関係でいられません。少なからず報酬の未払いが発生し、どのように回収を進めるか頭を悩ませることになります。士業事務所の開業者は、この現実を身に染みて実感しているのではないでしょうか。
社会保険労務士・税理士・公認会計士・弁理士・海事代理士・測量士・行政書士・司法書士などの士業事務所の独立開業者が弁護士に債権の回収を依頼することにはどんなメリットがあるのでしょうか。4つのポイントで解説します。
■弁護士以外の士業事務所が報酬の回収を弁護士に依頼する4つのメリット
士業には色々な種類があり、それぞれ職域が異なっています。士業の1つである弁護士は債権の回収をはじめとした法律問題のプロですが、士業は何も弁護士だけではありません。
税務を得意とする税理士や、会社の労務問題や助成金の申請などを行っている社会保険労務士。他にも会計監査を独占業務にしている公認会計士や、特許庁への申請を代理して行う弁理士、船舶登記や船員の労務の専門家である海事代理士、測量を行う測量士などがあります。不動産や会社の登記をする司法書士や、官公庁に提出する書類などを手がける行政書士などもあります。
これらの士業資格取得者が仕事をこなせば、当然のことですが、仕事に対する報酬が発生します。しかし、仕事さえこなせば依頼人が絶対に報酬を支払ってくれるという保証はありません。長期に渡って報酬の支払いをしない依頼人も出てきますし、報酬自体を踏み倒そうとする依頼人もいます。言い訳をして、なかなか支払いに応じない依頼人もいます。
士業の事務所は債権の未払いが発生した場合、回収を進めなければ大打撃を受けます。士業事務所の開業者にとって「報酬の回収」「未払いの報酬をどのように回収するか」という債権問題は、実に身近な問題なのです。
士業事務所を開業したからといって、同じ士業である弁護士に債権の回収を依頼できないわけではありません。むしろ、それぞれの職域と専門性を持つ士業だからこそ、弁護士という債権問題のプロに報酬の回収を依頼してスマートな解決をはかるべきではないでしょうか。
士業が士業である弁護士に依頼という点で、違和感を覚える人もいるかもしれません。しかし、士業にはそれぞれ職域があり、仕事の専門性が高いことを考えると、「餅は餅屋に」という結論に至るのではないでしょうか。仕事の専門性をよく理解している士業の独立開業者だからこそ、餅は餅屋ならぬ債権問題は債権回収のプロに依頼するメリットが見えてくるはずです。
社会保険労務士・税理士・公認会計士・弁理士・海事代理士・測量士・行政書士・司法書士などの士業事務所の所長や有資格者が弁護士に報酬の回収を依頼するメリットは「事務負担の軽減」「未払い報酬の放置を防止できる」「適切なタイミングで債権額や事情に合った回収方法を講じることができる」「ブランドイメージを守ることができる」の4つです。
・メリット1、債権の回収にかける時間や労力を軽減できる
士業の事務所は報酬により運営されています。事務所の経費から給料まで報酬に依るため、依頼人の報酬の支払いが遅れると、それだけ資金繰りに苦労することになります。スムーズに報酬を回収できてはじめて、事務所の利益がプラスになるのです。
しかし、仕事を依頼する依頼人全てがスムーズかつ迅速に報酬を払ってくれるわけではありません。中には「懐状況がよくないので待って欲しい」と相談されることや、報酬自体の支払いをせず踏み倒しに近いことをする依頼人もいます。仕事をこなせば100%の確率でスムーズな報酬の支払いを受けることができるという確証がなく、保証もない。これは、士業事務所にとって頭の痛い問題です。
さらに、報酬の未払いや報酬の支払いの遅れが発生した場合、事務所で回収に乗り出さなければいけません。この回収の労力と手間、精神的な負担や時間的な負担はかなりのものです。未回収の債権が増えると、それだけ時間と労力が必要になり、本来の仕事よりも報酬の回収に使う時間や労力の方が増えてしまうという本末転倒な結果になりかねません。
弁護士に債権の回収を依頼すれば、報酬の回収に必要な事務面での負担や時間面での負担が軽減できます。本業に専念することができるので、報酬の回収のことで頭を悩ませる必要がなくなります。弁護士に報酬の回収を一任すれば、回収の状況について報告を受けるだけでいいので、煩雑な督促などからも解放されます。
・メリット2、未払いの報酬を放置してしまうことを防止できる
士業事務所の場合も、普通のお店や会社と同じように未払いの債権が発生することは珍しくありません。未払いの報酬は事務所が回収しなければいけないのですが、本業に占める時間や労力を考えて未払いの報酬の回収に着手すらせず、放置してしまうことがあります。また、放置の末に報酬の回収を諦めてしまうことがあります。
士業の仕事はごく短時間で終わる仕事もあります。しかし、多くは、その依頼に見合った下準備や時間が必要になります。たとえば司法書士が不動産売買における所有権移転の登記を依頼された場合、単純にその場で登記をすれば終了とは、まずなりません。
登記をする前に売買の対象になる不動産の登記情報を確認し、売買契約書などの登記に必要な添付書類もチェックします。また、不動産の購入に金融機関のローンを使う場合は決済に足を運ぶことも多いはずです。登記の申請書類をしたため、添付書類に漏れがないか確認し、売買の当事者とも綿密に打ち合わせを行います。1日で登記をして完了とはいかず、長ければ半年以上の期間を見すえた手続きになります。
準備に時間を要する依頼や、仕事自体の難易度が高い依頼は、報酬も大きな額になりがちです。例でお話した不動産登記の場合、不動産が高額であったり、売買対象になる不動産の数が多かったりすると、報酬も数十万以上、時には百万円を超えることがあります。
登記手続きのために必要な印紙を用立てるための費用は前払いでお願いしていても、報酬は後払いという事務所も多いことでしょう。
大きな額の報酬が回収できず放置される。依頼は1つだけではなく、多くを同時並行でこなします。他の依頼との時間的な兼ね合いによって、督促をする時間すらろくに取れないことがあります。また、どのくらいの期間でどのような回収を進めればいいのかを定めたマニュアルが事務所になく、未回収の報酬がいくつも放置されたまま残っているという事務所も少なくありません。報酬の未回収は、仕事のために時間と労力を費やした士業事務所にとって大きな痛手です。
これは司法書士だけの事情ではありません。あくまで一例です。士業の多くはこうした事情を抱えています。税理士が税務書類を作成する時も、領収書や帳簿のチェックをしなければならないなど、時間と労力を必要とします。社労士、測量士、弁理士なども、大きな仕事は時間を費やし、準備に心を砕き、報酬額は相応に大きな額になる傾向にあることでしょう。
弁護士に未払いの報酬の回収を一括で依頼すれば、「回収できずに諦める」「督促すらできず額の大きな報酬を回収できない」「放置するしかなかった」ということを防ぐことができます。
・メリット3、適切なタイミングで適切な債権の回収方法を講じることができる
一言で未払いの報酬の回収といっても、全ての未払いの報酬を同じ方法で回収できるわけではありません。債権の回収には、支払督促や訴訟、強制執行など、色々な方法があります。法的手段を講じなくても、電話やメールでの督促や、任意交渉で解決することもあります。同じ未払いの報酬でも「債務者の態度」「額」「回収に向けてどの程度動いたのか」「契約内容」によって、回収に適した方法が違ってきます。
たとえば、報酬の未払いが数カ月続いており、電話やメールで何度か督促していたとします。しかし、依頼者は連絡を無視し、このまま時間が経過して報酬の支払を免れることを狙っている様子でした。この場合、もはや電話やメールでの督促では回収できない可能性が高いと考えられます。状況に合った回収の方法を検討する必要があります。
では、こちらのケースはどうでしょう。報酬が未払い状態でしたが、未払い期間は1カ月程度です。電話での督促は1度も行っていませんでした。こちらの場合、債務者がただ支払いを忘れているだけという可能性があります。電話やメールでの督促で解決する可能性があるため、いきなり法的な手段に訴えることは適切ではないと考えられます。
このように、どの段階でどんな回収手段を講じるかを判断することは重要なことです。債権の回収率にも大きく関わってきます。回収の実務経験がないと、適切な回収方法を判断することが難しくなります。色々な回収方法を試みて費用や時間をロスしてしまうより、状況にあった回収方法でスムーズに回収する方が、無駄がありません。弁護士に依頼することで、時間や費用のロスを回避することができます。
・メリット4、事務所のブランドイメージを守ることができる
士業の事務所には、ブランドイメージがあります。地域に密着して仕事をしている事務所や、職域の中でも一点集中型で依頼を受け、その分野で名を上げている事務所もあります。
たとえば、A県A市に事務所を持ち、父が税理士事務所を開業して息子が事務所を継いでいるなどの場合は、地域密着型事務所として知られていることでしょう。社会保険労務士の職域の中でも障害年金の受給申請を中心に依頼を受けている社労士事務所は、まさに一点集中型の事務所としての印象が出来上がっているのではないでしょうか。
弁護士にも弁護士ごとに得意分野や専門があります。士業事務所にもそれぞれの事務所によって得意分野や専門、そして地域密着型などの性質があります。専門や得意分野、経験を磨き続けることによって、事務所にはブランドイメージが生まれます。
たとえ話で説明するなら、「A県A市の代表的な税理士事務所。歴史が長い事務所」や「障害年金のことならあの事務所が詳しい」というブランドイメージです。ブランドイメージを大切にしなければならないのは、会社だけではありません。士業事務所も、ブランドイメージを守ることは重要です。
未払いの報酬を回収したくても、依頼主や顧問先に督促をすると、関係がこじれてしまうのではないか。そして、事務所のブランドイメージに傷がついてしまうのではないかと心配になります。弁護士に依頼することで、関係がこじれることや、ブランドイメージに傷がつくことを防止することができます。
債権の回収を得意としている弁護士は、督促1つでも、使う言葉にも気をつかいます。また、適切な場面で適切な回収方法を講じますので、闇雲に督促するよりもスムーズに回収が進みます。
任意交渉などで決着をつける場合も、弁護士が進め方などをサポートすることによって、話が円満にまとまる可能性が高くなります。
■最後に
士業が同じ士業である法律事務所に債権の回収を依頼することには、違和感を覚えるかもしれません。しかし、士業だからこそ、それぞれの職域が違っており、士業ごとに高度な専門性が求められることも理解しているはずです。餅は餅屋です。報酬の回収に悩んでいるなら、債権問題は法律のプロである弁護士へと依頼するメリットがあります。その方が仕事に集中でき、事務処理の負担が軽減されます。
士業の仕事では、似たような依頼を受けても、依頼の具体的な中身や契約内容、仕事の難易度によって報酬額ががらりと変わってきます。1つのサービスを提供したら絶対に定額の報酬が発生するわけではありません。税理士や社労士、測量士などの仕事においては、定額制はほぼあり得ないはずです。だからこそ、報酬は低額から高額まで、依頼によって異なった金額になります。
少額の報酬はいくつかまとまれば弁護士にまとめて回収を依頼することができます。高額の報酬の場合も、弁護士に手続きや具体的な対応などを任せることができます。事務所で放置している未回収の報酬を一括して弁護士へ回収を任せることや、債権トラブルや法的な問題のサポーターとしての関係を築くこともできます。
債権問題は法的な専門知識が絡みます。報酬の回収は、債権の回収実績とノウハウを持つ弁護士にご相談ください。