はじめに

相手からの支払いが滞り再三の催告にも関わらず支払ってもらえない場合、多くの人が訴訟を思い浮かべます。
確かに、最終的には裁判所の手続きを利用することになりますが必ずしも訴訟になるとは限りません。
訴訟の前段階となる保全手続きを利用することで相手方にプレッシャーをかけて支払を促すこともできます。

万が一訴訟に発展したとしても事前に財産を確保しておけば判決を得た後に強制執行を行っていくことが容易となります。

金銭債権を保全する手続きとして仮差押えという制度があり、うまく利用することで訴訟よりも迅速に債権を回収することが可能となります。

ここでは仮差押えを利用した回収の方法について見ていきたいと思います。

ポイント1~法律上の効果

債権回収にあたって仮差押えを検討する際、本来この制度が予定している法律上の効果と、事実上生じる効果の2点に分けて考えることが重要です。

通常、相手方が任意に債務の支払いをしてくれない場合には、裁判所に対し訴えを提起して債務名義を取得し相手方の財産を差し押さえる必要があります。

これらの手続きを行うには費用がかかるだけではなく時間もかかります。少なくとも数か月はかかることが多いといえます。それゆえ、はじめは相手に十分な財産があった場合でも債務者が財産を隠したり処分したりしてしまう可能性があります。たとえ訴訟で勝つことができたとしても差し押さえるべき財産がなければ債権の満足は得られません。むしろ訴訟に費やした費用を考えると損害を拡大させてしまったことになります。

このような事態を避けるためにあらかじめ債務者の財産の処分を制限することがこの制度の本来の意義です。
例えば、不動産であれば売却したり抵当権などの担保権を設定したりしたとしてもその効果を否定することが可能となります。債権であれば第三債務者による弁済を制限することができます。もし債務者に弁済してしまったときはあらためて弁済してもらうことになります。

また、債権回収にあたって大きな壁となる消滅時効の完成を猶予する効果が認められています。訴訟によって消滅時効をストップできますが本案の訴訟の準備に時間がかかり時効にかかるおそれがあるときには重要な手段となります。

ポイント2~事実上の効果

任意の支払いを促す効果

このようにとても強力な効果が法律上認められていることがわかります。そのため、訴訟を通じて債権回収を行う場合にとても重要な手続きであることになります。

しかし、実際には訴訟を起こさずに債権回収を行う場合にも有効な手段ともなります。
前記のように債務者の財産の処分が制限されることから相手方に強いプレッシャーを与えることになるからです。
例えば、不動産に対して行えば自宅が取られてしまうのではないかと不安になり支払いに応じることがあります。ローンが残っていれば期限の利益の喪失事由にあたり銀行から圧力を受けることもあります。
債務者が企業であれば預金に仮差押えを行った場合、金融機関から融資金の返済を求められたり新たな融資を受けられなくなったりするため支払いに応じてもらいやすくなります。
第三債務者に対する債権であれば取引の継続を打ち切られる可能性もあり、そのことをおそれて任意に支払ってもらえることがあります。
例えば、Xが取引先であるYに対し債権をもっている場合に、YがZにもっている売掛金債権に仮差押えをすると、裁判所からZに対しYに弁済しないように通知が来ることになります。そのためZがYとの取引を中止する可能性がありYの経営に打撃を与える可能性があります。

このように相手方に心理的な圧力を加えることになるため訴訟に至らずに問題が解決できることが少なくありません。

迅速な回収

債権の回収において特に重要なものの一つがスピードです。迅速な回収を行うことで回収率を高めることが可能となります。手続きが遅れると他の債権者に先を越されるかもしれませんし、場合によっては破産されてしまうこともあります。そのようなことになると回収が不可能となったり回収できたとしても全体の数%しか回収できなかったりすることもあります。

仮差押えを利用し訴訟で争わない場合には回収までの期間が大幅に短縮できます。相手方の状況によっては内容証明郵便などを出さずに直ちに仮差押えを行いより迅速に回収を行う方法も考えられます。事案にもよりますが一月もかからずに解決できるケースは少なくありません。
仮差押えは債権者にとって有利な交渉材料となるのです。

ポイント3~具体的な方法

どのような場合に利用できるか

相手に与える経済的心理的な影響が大きく、ときに相手を破産に追い込むこともある強力な手段であることから、どのような場合にも利用できるわけではありません。

要件として守るべき権利があることと保全する必要性があることが求められています。
まず、権利がなければならないのは当然ですが具体的には売掛金などの金銭債権のことです。
仮差押えの必要性は、処分を制限しなければ財産がなくなってしまい強制執行できなくなったり、執行がとても難しくなったりするおそれがあるときに認められます。

暫定的な手続きのため万が一不当に損害を与えてしまった場合に備えて担保金を収める必要もあります。そのため担保金を提供できることも重要な要件です。

財産の種類

最終的に換価可能なものであれば特に種類は問われません。不動産、動産、債権などが対象となります。

換価の手間などを考えるとできれば債権を対象にすることが望ましいと考えられます。不動産や動産の場合にはどの程度の価値があるのか査定する手間と時間がかかります。債権であれば第三債務者の資力に問題がない限り債権額を基準に考えればいいからです。

もっとも、債権については債務者に与える影響が大きいため他の財産がある場合には仮差押えの必要性が認められないことがあります。第三者が関係してくるからです。
例えば、預金債権を仮差押えすると金融機関に仮差押えの通知が行くことになり信用に傷がつくことになります。融資を受けている場合には契約によって期限の利益が喪失することとされており全額の返済を求められるおそれがあります。また、新規の融資を受けることも難しくなります。
売掛金の場合には取引の相手方から信用を失い取引を中止される可能性があります。
そのため、不動産などの他の財産があるときはそちらに仮差押えできないか検討しなければなりません。

もちろん、不動産に十分な価値がないことがわかれば仮差押えの意味がないため直ちに債権を目的にすることが可能です。具体的には債務者所有の不動産の登記事項証明書を確認し、抵当権や根抵当権などの担保権が設定されていないか確認します。その債権額の合計が不動産の価値を上回っていればオーバーローン状態であり、回収の見込みがないため債権に対する仮差押えが可能となります。
※仮差押えを申し立てる際、オーバーローン状態を疎明するための資料として登記事項証明書等の添付が必要となることがあります。

対象となる財産は1つに限らず足りなければさらに仮差押えすることも可能です。また、別々に行うのではなく同時に複数の財産に対して行うことも可能です。

手続きの流れ

裁判所や事案によって運用が異なりますが大まかな流れとしては次のようになります。
以下、東京地裁のケースをベースに解説していきます。

まず、疎明資料等を添えて仮差押えの申立を行います。その後3日以内に面接日が指定されるため債権者や弁護士が裁判官と面談することになります。この中で必要な要件や提出した疎明資料について審尋されます。問題があれば資料などの補てんを求められます。問題がなければすぐに担保決定を受けられます。

担保決定というのは一定の保証金を預けることを条件に仮差押えを認めるというものです。担保金額は一般的に債権額の1割から3割程度です。また、担保を立てなければならない期限は長くても1週間程度が多いと考えられます。
したがって、担保金をあらかじめ用意しておかなければならないことに注意が必要です。担保金は法務局を通じて納めることになります。

法務局から受け取った供託書などを裁判所に提出すると仮差押え決定が出されます。そして、債権が対象の場合には第三債務者に弁済を禁止する通知が送付されます。不動産であれば裁判所書記官が登記所に仮差押え登記を嘱託しその旨が登記されます。財産が隠匿されるのを防ぐため債務者には遅れて発送されることになっています。

東京地裁と大阪地裁の場合には専門部があるため債権者との面接が行われていますが、その他の裁判所では書面のみで審理することが一般的です。その場合でも必要と判断されたときは面接することもあります。面接がない状態で疎明資料の追完などが必要とされるときは書記官から指示がなされます。

訴訟とは異なる簡易迅速な手続きであるため、立証の方法も即時に取り調べることができるものである必要があります。そのため、契約書などの書類は原本を提出することが重要です。

その他注意すべきこと

すでに見てきたように仮差押えは債権の回収手段として特に強力なものといえます。相手はすでに資金繰りなどが悪化している可能性が高く相手を破産させてしまう可能性も考えなければなりません。破産すれば債権回収の可能性はとても低くなります。それゆえ債権額、相手の資金繰りや自分との関係などを総合的に判断して債権回収の方法として適切か否かを判断することが必要です。

また、債権に対する仮差押えの場合には実行するタイミングも重要となります。効力が生じるのは第三債務者に決定通知が届いた時からであり、もしその時点で債権額が十分になかった場合には目的を達成することができないからです。
例えば、XがYに対し1,000万円の売掛金債権を持っている場合に、YのZ銀行に対する預金債権に仮差押えをしても残高がほとんどなければ意味がありません。
売掛金などが振り込まれるタイミングをはかる必要があるのです。

担保金についても気をつけなければなりません。通常必要な担保金は債権額の1割から3割程度ですが債権額が多ければそれだけ負担が重くなるということです。
例えば、売掛金が1,000万円の場合には200万円前後、5,000万円であれば500万円以上必要となります。
そして、このお金は仮差押えが不要になるなど一定の条件が整うまで返還してもらえません。そのため仮差押えは、まとまったお金がしばらくの間手元になくても大丈夫な場合でなければ利用できません。ただし、債権額の一部のみ申し立てる方法も考えられます。この場合、その一部の金額をベースに担保額が算定されることになります。

契約書など債権を立証する書面がない場合にも利用ができません。契約書がないケースでは、まず債務承認弁済契約書などの作成が必要となってきます。

また、訴訟を提起しなくても手続きをとることができますが、いつまでも本案の訴えを起こさなくてもいいことにはなりません。債務者からの申し立てがあると一定の期間内に訴えを提起したことを証する書面を提出しなければならず、提出しないと決定が取り消されてしまいます。

このようにとても難易度の高い手続きといえます。
一方で仮差押えはスムーズに手続きを行えば数日で行うことも可能であり、そのためうまく利用すれば他の方法よりずっと早く回収できることになります。

したがって、仮差押えに限らずさまざまな手段を比較検討し最適と判断したときに利用することが重要です。そのためには経験の豊富な弁護士に相談することが大切です。

まとめ

  • 仮差押えには財産の処分を禁止する法律上の効果と心理的な圧力を加える事実上の効果の2つの意味があります。
  • 対象となる財産は特に制限はなく換価可能なものであれば構いません。不動産、動産、債権が一般的です。
  • 債権に仮差押えをすると第三債務者に通知がされます。そのため、取引先に対する信用を維持するため債務者が自発的に支払いに応じてくれることがあります。
  • 手続きは数日以内に完了します。
  • 担保金が必要であり債権額の1割から3割ほどが目安です。
  • 書面審理が基本であるため契約書などの債権の存在を示す書類が必要です。
  • 難易度の高い手続きであることからはじめから弁護士に相談されることをおすすめします。