はじめに

取引先の財務状況は簡単には把握することができません。
当初は信用状態に問題がなかったとしても景気の動向や突発的な出来事により急激に経営が悪化することもあります。
長年取引を続けていく中で突然資金繰りが悪化する取引先が出てしまうことはどうしても避けられないといえます。
そのように経営状態が悪くなったり個人でも収入が減少したりした場合には債務整理を考えることになります。
破産などいくつかの選択肢がありますが債務をある程度残して再起を図る選択をするケースがあります。その一つが民事再生です。
破産よりも手続きがやや複雑な側面があり債権者の側もそのつもりで対応することが求められます。
ここでは制度の概要と具体的な回収方法に焦点を当てていきます。

ポイント1~民事再生について

この制度は返済が困難な状況にある企業や個人の債務を大幅に減らしたり返済期間を伸ばしたりすることで破産せずに経済的復活を目指すものです。
債権者の立場から見れば破産よりも回収できる金額が多くなりやすいというメリットがあります。ただし債権額が大きく減ることに加え返済完了が何年も先になるため経営に支障をきたすこともあります。
裁判所を利用した強制力のある手続きであることから対応は慎重にする必要があります。対応を誤ると回収の機会を逃すことにもなります。

具体的にどのように手続きが進められるのか知っておくことが大切です。

通常は債務者自身が裁判所に申し立てることで開始されます。その際弁済を禁止する保全処分がされることが一般的です。これにより弁済が基本的にストップすることになります。
監督委員(弁護士等の専門家)が選任され財産の調査や今後の再生計画が作られることになります。
裁判所によって取り扱いが異なりますが企業が債務者の場合には債権者説明会が開かれることも多いです。どのように返済を行っていくのか説明を受けることになりますがそれが現実的な再建案であるのか見極める必要があります。内容によってはより好ましい計画を提案することや破産させることを検討します。

再生計画は一定数の債権者の承認が必要となります。後日開かれる債権者集会で可決されなければなりません。可決されれば裁判所の最終的な認可により再生計画に基づいた返済がなされていくことになります。

手続が開始される前の原因により取得した債権(再生債権)は認可された計画どおりにしか原則として返済してもらえません。例外については後述します。

ポイント2~基本的な対応

債務者は弁済を制限されているため原則として支払うことができなくなっています。そのため定められた手続きの中で回収していくことになります。

裁判所から債権を持っているのであれば届け出るように通知されます。記載されている期限までに回答しなければなりません。これを怠ると回収が難しくなったり債権者集会での議決権を失ったりするため気をつけなければなりません。
担保権をもっている場合にはそこから回収することも可能ですが全額を回収できないこともあります。そのため担保から回収できない金額についても届け出る必要があります。
仮に届け出ることを忘れてしまったとしても弁済を受けられる可能性はありますがその場合他の債権よりも返済を後回しにされてしまいます。

手続きの根幹部分は再生計画にあります。債権者が関与することもありますが基本的に債務者が立案することになります。そのため債権者にとって好ましくない内容のこともあります。そのような場合には計画に反対することが可能です。
再生計画は債権者集会の決議と裁判所の認可によって効力が生じます。集会については直接出席する必要はなく書面で賛否を投票することが可能です。
仮に否決されれば破産する可能性が高くなります。そのため提案された計画案と破産されたときを比較しよく検討した上でどちらに投票するのか決めることが大切です。

再生手続は企業だけではなく個人も対象となります。取り扱いは基本的に同じですが一部に違いが見られます。個人のケースでは小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きがあります。このうち給与所得者等再生では債権者の反対に関わらず利用できる点に特色があります。一般的に小規模個人再生のほうが支払額が小さくなることが多く債務者に有利とされており申立ての多くがこちらとなっています。ただし債権者集会で否決することが可能であり債権者の反対が予想されるようなケースでは利用しにくいといえます。

ポイント3~回収の具体的な方法

弁済は再生計画に沿って行われるのが基本ですがいくつか例外的な方法もあります。計画どおりに返済されるのを待っていたのではとても時間がかかってしまいますし回収金額が大きく減ってしまいます。そのためこれから解説する例外的な方法こそが債権者が真っ先に検討すべき方法といえます。

別除権行使

ある程度まとまった債務がある場合や継続的な取引がある場合には支払いが滞ったときに備えてあらかじめ物的な担保をとることがあります。
例えば根抵当権を債務者や第三者(物上保証人)の不動産に設定しておけばそこから回収することができます。
民事再生が行われているときにも担保権の実行は可能なのです。
そうはいっても取引先との関係や取引規模によっては担保を提供してもらうことができないことがあります。
あらかじめ担保をとっていなかったとしても法律上の規定により生じる担保権もあります。特に使い勝手のいいものとして動産売買の先取特権があります。これは取引先に商品を売却した場合に代金の支払いがないときにはその商品や転売代金から優先弁済を受けられる権利です。
例えば、AがBに商品甲を売却したが代金の支払いが滞った場合に、Bが商品甲をCに転売していたときにはAはBのCに対する売買代金請求権を差し押さえることができます。
ここで注意すべきなのはCの支払いがなされる前でなければならない点です。そのため迅速に行動する必要があります。債権の回収は速やかに行うことが特に大切といえます。
担保権はいくつも種類があり法律上当然に発生するものもあるため気がついていないうちに権利者となっていることがあります。契約書をよく確認しできれば弁護士に取引の状況について精査してもらうことをおすすめします。

保証人

担保はなにも物的なものに限りません。人的担保も重要となります。特に連帯保証人となっている人がいる場合にはその人(企業)から回収することを検討することができます。よくある誤解として破産や再生手続がなされると保証人にもその効果が及び免責されてしまうのではないかというものがあります。しかし債務者の支払いが滞った場合に備えて保証契約を結んでいる以上破産や再生手続が行われたとしても保証人自身の債務には影響がありません。保証人自身の債務を軽減するためにはその人自身が破産などをしなければならないのです。
したがって債務者が再生手続を行なっているとしてもそれとは関係なく保証人に対して返済を求めることが可能であり訴訟や強制執行をすることもできます。

相殺

ケースによっては自らも取引先の商品やサービスを利用していることがあります。このような場合に代金の支払いをまだしていないのであればその状況を利用して回収することも可能です。つまり自らの売掛金債権と相手方の売掛金債権を相殺してしまうのです。これにより事実上優先弁済を受けたのと同じ状態となります。言い換えればもし相殺しなければ民事再生によりこちらの債権はほとんど回収できなくなるのに対し、相手からの請求には全額支払わなければならないことになります。
気をつけるべきことは債権届出期間が満了するまでにしなければならない点です。そのため未払いの債務がないか速やかに調査しもし見つかった場合にはすぐに行使することが必要です。相殺を行なった証拠がいるため配達証明付き内容証明郵便で行います。

弁済許可

再生手続が開始されれば本来再生計画とは無関係に弁済してもらうことはできなくなります。ですが例外的に裁判所の許可を受けることで適宜弁済を受けられることになっています。具体的には中小企業が返済を受けられないと事業継続ができなくなるようなときに認めてもらえることがあります。また少額の債権であるときにも許可をもらえることがあります。具体的な許可の基準は裁判所の運用やケースによって異なるため相手方に確認する必要があります。

共益債権

再生手続の申立てから開始決定がなされるまでにはそれなりの期間を要します。この制度は債務者の経済的な立て直しが目的であるため企業であればこれまでと同じように事業を続けていかなければなりません。そのためには商品を作るために原材料を仕入れたり運転資金を借り入れたりすることなどが必要です。ですが再生計画に従ってしか返済してもらえないのであれば誰も民事再生の申立てをした企業と取引をしたいとは思わないはずです。そこで裁判所や監督委員が許可したこのような取引に係る債権については随時弁済をしていいことになっています。他の債権者にとっても悪い話ではないからです。このような他の債権者にもメリットのある債権については優先的に弁済を受けられることになっています。
手続き開始後に業務上の取引をした場合の債権についても同様であり全額をいつでも請求することができます。

訴訟

一般的に債務者が支払いを滞らせたときには最終的に訴訟を行い債務名義を得て強制執行をすることになります。しかし再生決定等があると訴訟は中断されてしまうため破産や再生手続の準備をしている可能性があるときには気をつける必要があります。せっかく費用をかけても無駄になりかねないからです。そのため相手方の資金繰りが悪化している兆候があればどのような対応をとるべきか早めに弁護士に相談することが大切です。

ポイント4~その他の注意点

具体的な回収方法を見るとわかるように事前に担保を確保することが重要であるのがわかります。担保の種類ごとの特徴を把握しその価値を最大限に活かすことにも気を配ることが大切です。
例えば相殺をするためには債権の届出期間内に相殺適状となっていなければなりません。つまり相手方の債務の履行期が来ていなければならないのです。これを偶然に頼っていたのではせっかくの相殺の機会を失うことになりかねません。このようなケースではあらかじめ契約書で期限の利益を喪失する原因として民事再生の申し立てを明記しておくことで確実に回収することが可能となります。

担保をとる場合人的担保と物的担保の違いにも注意がいります。不動産などの物的担保であれば担保価値は比較的安定していますが保証人の場合にはその人の経済力は変化しますし過大な債務であればその人自身が破産してしまうおそれもあります。

また物的担保をとることは通常好ましいことだといえますが支払いが滞るようになった後に設定を受けると否認権の行使を受け権利がなかったことにされることがあることに留意する必要があります。

以上のように契約段階から万が一の事態に備えて準備を整えておくことが安定した経営につながります。契約書の文言一つ、担保のとり方一つで明暗を分けてしまうこともあります。契約時や担保の取得実際の回収の時点でそれぞれ細心の注意を払うことが大切です。

まとめ

  • 民事再生により原則として債権額が大きく減らされ返済も猶予されてしまいます。
  • 手続を進めるには債権者集会で再建案が承認され裁判所が認可する必要があります。否決されると破産する可能性が高くなります。
  • 債権届出を行わないと回収が難しくなり集会での議決権も失います。
  • 担保権があれば再生手続によらずに回収することができます。保証人がいればその人から回収することもできます。
  • 自社も取引先に金銭債務を負っているときには相殺ができます。ただし期間制限があります。
  • 事業継続に支障があったり少額の債権であったりするときには裁判所の許可を受けて弁済を受けられることがあります。
  • 再生手続開始後の取引債権など他の債権者にも有益な費用については随時弁済を受けることができます。