売掛金にも時効は存在します。消滅時効にかかると売掛金は未回収となってしまいます。消滅時効が成立するためには一定の期間が必要とされていてその期間はケースによって異なります。また、時効期間はいつから数えるのかという起算日の問題もあります。万が一売掛金が回収できないときには貸倒れとして処理することも必要です。

この記事では、売掛金の時効はいつから数えいつ完成するのか、時効を阻止する対応策などについて解説します。

売掛金の消滅時効とは

売掛金はいつまでも請求できるわけではありません。長い間回収せずに放置しておくと売掛金を失うことになります。

消滅時効とは

時効には権利を手に入れることのできる「取得時効」と、権利がなくなってしまう「消滅時効」の2つがあります。売掛金は消滅時効にかかることで失うおそれがあります。

消滅時効とは、「権利を使わずに放置していると権利がなくなってしまう制度」のことです。売掛金に限らずさまざまな権利は一定の期間が過ぎると無くなる可能性があります。ただし、所有権だけは別であり他人に取得時効されない限り時効で消滅することはありません。

権利が消滅するには一定期間の経過が必要ですが、権利の種類や契約の内容などによって長さが異なります。

売掛金の時効

売掛金の時効期間は原則として5年です。5年の間に何らかの回収手段をとらないと売掛金がなくなるおそれがあります。

起算点

時効期間

権利を行使できることを知った時から

5年

権利を行使することができる時から

10年

売掛金については債権者が支払期日を知らないはずはないので、「10年」ではなく「5年」と覚えておけば問題ありません。

ただし、2020年4月1日より前に生じた売掛金についてはもう少し早く消滅する可能性があります。この日から新民法が施行されているのですが施行前に発生した権利については旧法が適用されるためです。

<旧法の短期消滅時効(売掛金)>

種類

期間

医師、薬剤師の診療、調剤費等

3年

工事業者、設計士の報酬

生産者、小売商人の売掛金等

2年

自己の技能により注文を受けて物の制作をし、又は自己の仕事場で他人のために仕事をした場合の報酬

学校や塾の授業料、教材費等

運送賃

旅館、ホテル、飲食店の料金等

1年

動産のレンタル料金

このように最短で1年で消滅することもありました。注意しなければいけないのは時効期間が更新される点です。期間がリセットされることがあるため上記の期間が経過していたとしてもまだ消滅しているとは限らないのです。詳しくは後述します。

売掛金の時効の起算日

時効期間を数え始める日を「起算日」といいます。

では具体的にいつから期間を計算し始めたらいいのでしょうか。売掛金の場合には契約で支払期日を定めたかそうでないかによって変わります。

支払期日を定めた場合

支払期日を定めたのであればその日から売掛金を請求できるため支払期日から数え始めるようにも思えます。

ですが実際には支払期限の翌日が起算日となります。これは「初日不算入の原則」と呼ばれるものです。一日の途中では完全な一日とはいえないからです。

例外として期間が午前0時から始まるときには初日から起算することになっています。そのため確定期限があるときにはその日になった瞬間から請求でき支払期日から起算するようにも思えます。ですが売掛金の請求は夜中の0時にすることは通常ないはずです。慣習により取引時間があるときにはその時間内しか弁済を請求できないので(民法484条2項)、支払期日を定めたときにも翌日から起算することになります。

例えば、2022年4月15日に売買契約を結び同月30日が支払期日となっている場合には、その翌日である2022年5月1日を起算日とし、5年後の2027年4月30日が経過した2027年5月1日に売掛金は消滅する可能性があります。

支払期日を定めていない場合

支払期日を特に定めなかった場合には売掛金はいつでも請求することができます。そのため契約した日の翌日を起算日とします。

例えば、2022年4月15日に売買契約を結んだが支払期日を定めなかった場合には、15日から売掛金を請求可能であり、翌16日を起算日として、5年後の2027年4月15日を経過した時、つまり翌16日に売掛金を失うおそれがあります。

請負については注意が必要です。引渡しが必要なものについては引渡しの翌日、引渡しが不要なときは仕事完成の翌日が起算日となります。

売掛金が回収できないとどうなる

売掛金の回収ができなければすべて自社の損失となってしまいます。売掛金は単なる金銭債権にすぎず回収して初めて意味があるものです。帳簿上の売上が多くても回収率が悪ければ黒字倒産することもあります。

売掛金はあくまで回収することが基本ですがどうしても回収しきれないものについては納税額を安くする方向で考える必要があります。経理上の処理により貸倒損失として損金扱いにしてしまうのです。

<関連記事>売掛金の回収が不能になった時の対応方法(貸倒損失)とは?未収金を未然に防ぐ方法

貸倒損失として処理できる3つの要件と処理基準

貸倒損失とは、債権の回収を見込めない場合にその金額を損失として処理する勘定科目を指します。損金にしてしまうことで税金を抑えることができます。

勘定科目とは、取引の内容をわかりやすく表示するために記載する帳簿上の科目(見出し)のことです。貸借対照表や損益計算書などの帳簿の作成は勘定科目を使って仕訳することになります。「売掛金」も勘定科目の一種であり「資産」として分類されます。貸倒損失は「費用」に分類されます。

一口に貸倒損失といってもその種類は3つに分類されていて損金処理するための要件が異なります。

法律上の貸倒

法律上の貸倒れとは、法律で決められた一定の事実があった場合に、切り捨てられた金額につき損失処理がされるものです。

法律により売掛金が当然に切り捨てられることから、経理上の処理として貸倒損失を計上しなかったときでも税務申告の段階で所得の減少をすることができます。

<法律上の貸倒れ>

・更生計画認可の決定

・再生計画認可の決定

・特別清算に係る協定の認可の決定

・債権者集会での決定

・債務超過期間が継続し金銭債権の弁済を受けることができない場合に債務免除を書面で通知したとき(期間は3~5年程度)

上記の要件を満たした場合には法律上の貸倒れとして損金処理が可能となります。

このうち債務免除については注意を要します。回収に必要な十分な行動をとらなかったと判断されると寄付金扱いとなってしまうからです。

事実上の貸倒

取引先の資産状況等から債権全額につき回収が不能であることが明らかなときには事実上の貸倒れとなります。

不動産などの担保を持っている場合には回収の見込みが残っているので事前に抵当権の実行などが必要となります。

注意点としては回収が不可能であると税務当局に判断してもらわなければいけないことです。そのためには必要な回収の努力をしたことを示さなければなりません。

法律上の貸倒れのときには会計上の処理がなくてもよかったのですが、事実上の貸倒れのときには会計処理が必要な点にも注意して下さい。

形式上の貸倒

形式上の貸倒れは次の要件を満たした上で、

・継続的な取引により生じた売掛債権

かつ

・催促しても弁済してもらえない

次の2つの内どちらかの要件を満たすと認められます。

・取引が停止され1年以上経過している

または

・取り立て費用が債権額を超えている

仕訳の際の注意点ですが備忘価額の設定が必要なので忘れないようにしましょう。

<関連記事>売掛金が回収が不能・困難な場合の仕訳・対応をわかりやすく解説

未回収にさせないためにするべきこと

売掛金の回収をあきらめないことが基本です。回収できなかった場合に損金処理できるとしても経営に大きな影響を受けることに変わりはないからです。たとえ損金処理するとしても前提として回収の努力をしたことが必要となります。

基本的な方針として、時効が差し迫っているときには消滅時効の成立を阻止し、そうでない状況では法的手段も視野に迅速かつ確実な回収を目指します。

時効の成立の阻止

滞納されている売掛金を回収する場合に特に注意すべき点は消滅時効です。消滅時効にかかると法的手段を用いても回収が難しくなってしまうからです。

消滅時効が成立するためにはいくつか要件があります。その一つが時効期間であり売掛金の場合には「5年」です。

支払期限から5年が経過すると当然に売掛金が消滅すると誤解している人もいるかも知れません。しかし実際には5年経過していたとしても売掛金が消滅するとは限りません。消滅時効が成立する要件の一つとして「時効の援用」が必要なことが一つ目の理由です。これは時効の利益を受ける人が債権者に対して「時効だから支払わない」と意思表示することです。この意思表示がないと売掛金は消滅しません。

もう一つの理由は、時効の期間はリセットしたり一時的にストップできたりするからです。リセットは「更新」、一時ストップは「完成猶予」といいます。昔は「更新」のことを「中断」、「完成猶予」を「停止」と呼んでいましたがわかりにくいため変更されています。

<時効の更新(リセット)>

更新事由

効果

確定判決やそれと同一の効力を有するものによる権利の確定

期間が始めからになる

強制執行、担保権の実行、換価のための競売、財産開示

債務者による権利の承認

※リセットされるとその翌日を起算日として計算し直すことになります。確定判決やそれと同等の効力があるものについては期間が10年になります。

一番簡単な方法は債務者に売掛金の存在を認めてもらうことです。債務確認書に署名してもらう方法に限らず、支払いの猶予の申し出があったり一部弁済があったりしたときにも更新されます。証拠が重要なので書面にサインしてもらうのが一番です。

<時効の完成猶予>

完成猶予事由

猶予される期間

裁判上の請求、支払督促、訴訟上の和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

・事由終了まで

・確定判決や同一の効力を有するものにより権利が確定せず事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで

強制執行、担保権実行、換価のための競売、財産開示

・事由終了まで

・申立ての取下げや取消しにより事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで

仮差押え、仮処分

事由終了時から6か月経過するまで

催告

催告から6か月経過するまで

権利について協議を行う旨の書面による合意

下記のいずれか早い時まで

・合意から1年経過した時

・合意において定めた期間を経過した時(1年未満に限る。)

・一方から協議を拒絶する旨の書面による通知がされたときは通知から6か月を経過した時

天災その他避けることのできない事変

障害が消滅した時から3か月経過するまで

売掛金の支払いを請求するだけで「催告」にあたるので時効完成間近であっても6か月間は猶予ができます。その間に訴訟などの法的手続きを準備します。ただし、再度催告したとしても再延長されない点には気をつけて下さい。催告は証拠に残すことが重要なため内容証明郵便を用います。

<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!

売掛金の回収方法

では売掛金を実際に回収するにはどういった対処法があるか見ていきます。時効の更新や完成猶予をするための手段にもなります。一般的な催促状の送付などで効果がないときには裁判所を利用した方法を検討していきます。

・支払督促

支払督促は取引先に対して売掛金を支払うように簡易裁判所の書記官に命令してもらう回収方法です。必要な書面を提出するだけでいいので簡単で費用もあまりかかりません。取引先が異議を唱えたときは別ですがそうでなければ相手の財産を差し押さえることもできます。手続きは取引先の住所地を管轄している簡易裁判所で行います。

一つ気をつけなければならないのは取引先が異議を出すことで通常の訴訟に移行してしまうことです。その際は取引先の住所地の裁判所で訴訟を行うことになります。

支払督促をせずに当初から訴訟を選択していた場合には債権者の住所を管轄する裁判所に訴えを起こすことができるので取引先が遠方にあるケースでは注意して下さい。

・通常訴訟

どうしても売掛金を支払ってくれない取引先がある場合には訴訟を使って回収していくしかありません。

訴訟と聞くと大事になりそうでなるべく関わりたくないイメージがあるかもしれません。実際、別の回収策と比較すると費用や時間がかかりやすく他の方法で回収できるのであればそれに越したことはありません。他に方法がないのであれば訴訟は最後の拠り所となる売掛金の回収手段といえます。証拠さえしっかり押さえておけば問題なく手続きを進めていくことができます。

被告が出廷しないなど面と向かって争ってこないことも多く短期間で終結することもあります。そのため早ければ2か月程で終了します。相手が争わないときには1回の裁判で終わるからです。和解で終わることもよくあるので円満に解決することも期待できます。

ただし、専門的な知識や経験がないと回収に失敗する可能性も高くなります。弁護士に依頼しすべて任せてしまうことをおすすめします。弁護士に相談すれば訴訟以外の最適な回収方法をとることも可能となります。

<関連記事>債権回収の民事訴訟!知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説

・少額訴訟

売掛金が少ないときには少額訴訟という専用の簡易な訴訟手続を利用することもできます。少額訴訟とは、1日で終わる訴訟手続でその日のうちに審理だけでなく判決までしてもらえるものです。ただし、金額に制限があり60万円以下の売掛金でなければなりません。また、通常の訴訟と違い控訴が認められていないこと、勝訴しても分割払いとなる可能性や同一裁判所での利用は1年に10回までと制限されている点に注意が必要です。

<関連記事>少額の売掛金の回収と少額訴訟のやり方、費用、メリット、デメリットを解説

・仮差押え

仮差押えは金銭債権の価値を守るための仮の差押えのことです。実際の差押えは訴訟を起こして勝訴判決を得てから強制執行する必要がありますが、それでは時間がかかるためその間に取引先が財産を処分したり隠してしまったりすることが考えられます。もしそうなってしまうと差し押さえるべき財産がないためせっかく勝訴判決をもらったとしても意味がなくなってしまいます。こういった状況にならないようにするために「仮差押え」があります。訴訟を行う際にはセットで仮差押えも検討する必要があります。

実は、訴訟を起こさなくても仮差押えの段階で取引先が売掛金を支払ってくれることがあります。不動産や預金などが仮差押えされると処分したり引き出したりすることができなくなります。このような事態になると訴訟になる可能性が高いと判断し支払ってくれることがあるのです。融資銀行による評価が落ちることを気にしていることもあります。

仮差押えも専門的な手続きとなるため弁護士に相談されることをおすすめします。

<関連記事>あなたの会社が債権回収を行う方法と注意点を弁護士が解説

まとめ

・売掛金の消滅時効期間は5年です。

・売掛金の時効期間は支払期限の翌日から数えます。期限が定められていないときには契約日の翌日から数えるのが基本です。請負の場合には目的物を引渡した翌日、引き渡しがないときには仕事完成日の翌日が起算日です。

・売掛金の回収が不能になったときには貸倒損失として処理すれば税負担を軽減できます。

時効は債務者に承認してもらったり催告したりすることで阻止することができます。

・売掛金の回収方法として支払督促や訴訟を利用すれば回収しやすくなります。売掛金が小さいときには1日で解決できる少額訴訟も利用できます。

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