目次
■ はじめに
■ 売却の準備の前に…売却条件とは?
■ 換価のための売却の準備が始まります
① 裁判所書記官からの債権届出の催告
② 裁判所からの現況調査命令と評価命令
③ 売却基準価額の決定
④ 無剰余措置とは?
⑤ 裁判所書記官による物件明細書の作成!
これで「3点セット」が揃います。
■ いよいよ売却の実施
① 売却方法は?入札と特別売却
② 物件の内覧もできるけれど…
③ 買受申出があったら
④ 買受申出がなかったら
⑤ 開札期日
⑥ 売却許可決定とその確定
⑦ 差押債権者による競売申立て取下げの制限
⑧ 買受人による代金の納付
■ 売却の効果
■ まとめ 

 

 

■ はじめに

債権回収のための不動産競売手続は、
裁判所による債務者の財産の「差押え」
➡その財産を金銭に換える「売却(換価)」
➡その金銭を債権者に与える形での「満足」
という段階を踏んで進められます。
このページでは、差押後、対象物を現金に変えるための「換価」という段階の手続の流れ等について説明していきます。

■ 売却の準備の前に…売却条件とは?

手続の流れについて説明する前に、まず「売却条件」について簡単に説明しておきます。
「売却条件」とは、強制競売の成否や内容について法律が定型的に定めた事項のことです。
強制競売は、売主と買主が合意して契約を結ぶといった形の売買ではないため、こうしたことについては予め法律で定めておく必要があるのです。
具体的には、以下の内容が法律で定められています。

  • 買受可能価格以上でなければ買受申出はできないこと(a)
  • 競売される不動産についている担保権や用役権はどうなるか
  • 買受申出人は申出の際に裁判所が定めた保証を提供すること(b)
  • 債務者自身は買受人になれないこと(c)
  • 所有権の移転時期(d)
  • 代金を納付しなかった場合にどうなるか(e)
  • 法定地上権はどうなるか
  • 一括売却について

これらのうち、a~eについては、以下で見る手続の流れの中で説明していきます。

■ 換価のための売却の準備が始まります

不動産を差押えたからといって、すぐに売りに出せるわけではありません。
強制競売によって不動産を適正な価格で売るためには、その不動産の情報を収集・整理し、買受を希望する人たちに対して公開する必要があるのです。
では具体的にどのように準備がなされるのでしょうか。以下で順番にみていきましょう。

① 裁判所書記官からの債権届出の催告

差押えの効力が発生すると、まず裁判所の書記官が配当要求の期限を決め、公告し、債権届出の催告をします。
これは、差押えた不動産の仮差押債権者や担保権者、債務者に租税債権を有する官公庁に対して、債権の存否・原因及び金額を裁判所まで届け出るように呼びかける手続です。
これらの情報は、「換価」の後の「配当」の段階で、誰がいくらもらうかを決める際に重要になります。

② 裁判所からの現況調査命令と評価命令

一方、差押えの効力が発生すると、裁判所からは「現況調査命令」と「評価命令」が同時に発されます。

  • 「現況調査」

現況調査とは、執行官が不動産の現在の状況や、誰が実際にその不動産を占有しているのかといったことを調べ、現況調査報告書を作成するという手続です。この現況調査報告書は執行官から裁判所へ提出されます。

  • 評価

現況調査と同時に進められる「評価」とは、評価人が不動産の価格を評価するという手続です。
不動産鑑定士が裁判所の命令によって評価人となり、競売される不動産の近隣にある、同じようなスペックの不動産の価格等を参考に、差押え不動産の価格を評価します。その後、評価の結果をまとめた「評価書」を作成し、裁判所へ提出します。
ちなみに、競売の場合、普通の売却に比べて売却価額は2〜3割ほど安くなります。これは、強制競売については民法の瑕疵担保の規定が適用されず、また住宅ローンも組みにくいという事情があるため、通常の価額で売ってしまうと買い手がつかない・買い手が損をするといった可能性が高くなるためです。

③ 売却基準価額の決定

裁判所は、以上の債権届出の催告と現況調査、評価という3つの手続の結果をもとに、「売却基準価額」を決定します。
そして、その価格で売った場合に差押債権者が債権を回収できるのか(つまり、「無剰余」にならないかどうか。詳しくは下の④で説明しています。)を判断し、最終的に競売にかけるかどうかを決定します。
 「売却基準価額」とは、売却額がそれの8割以上の価額でないと競売は不成立となるという価額のことです。
この売却基準価額の8割にあたる価額を、「これ以上の価額であれば買受ができる」という意味で「買受可能価額」と呼びます。(売却条件のa)
つまり、 売却基準価額 × 0.8 買受可能価額 ということです。
売却基準価額を定める理由は、競売は債務者の意思に反して行われるため、あまり安すぎると債務者の権利を損ねてしまうおそれがあるためです。

④ 無剰余措置とは?

買受可能価格が低いために、強制執行をしても差押債権者が全く債権を回収できないことが見込まれる執行を「無剰余執行」といいます。
具体的には以下の2つの場合に「無剰余」となります。

  • 差押えた債権者の債権より優先される債権(「優先債権」と言います)があって、以下のようになる場合

不動産の買受可能価格 < 手続費用+優先債権

  • 優先債権がなく、以下のようになる場合

不動産の買受可能価格 < 手続費用
これらのような場合に強制競売しても、差押債権者は債権を全く回収できません。
そのため、無剰余執行になることがわかると、無駄な強制執行であるとしてその競売手続は取消されてしまいます。これを無剰余措置といいます。
差押債権者がこの取消を止めるためには、裁判所から取消の通知を受けた後1週間以内に、以下のうちいずれかの方法を取る必要があります。

  • 現金などによる保証の提供
  • 剰余を生じる見込みがあることを証明する
  • 優先債権者の同意を得ていることを証明する

差押債権者がこれらの方法を採らなければ、競売手続は取消され、なかったことになります。

⑤ 裁判所書記官による物件明細書の作成!これで「3点セット」が揃います。

裁判所書記官は、登記事項証明書、そして上述の現況調査報告書、評価書などをもとに売却条件を検討・確定して、「物件明細書」を作成します。
物件明細書とは、その不動産を買い受けた場合に、どのような権利関係を引き継ぐことになるのかを記載した文書です。
具体的には、土地の一部が一般の人に通路として利用されていること、法定地上権の成立の有無などが記載されることになります。
この作成が終わると、裁判所書記官が不動産の売却方法を定め、執行官に対して売却実施命令を発し、これでやっと売却手続が始まるのです。
これらの現況調査報告書と評価書、物件明細書を合わせて「3点セット」と呼びます。
競売においては、所有者である債務者からの詳細な情報提供が期待できないため、その不動産を入札するかどうかを判断する材料となる情報を、裁判所が集めて公開しなければなりません。そのために3点セットが作成されるのです。
3点セットの写しは、執行を担当する裁判所に置かれていて閲覧することができる他、インターネットでも見ることができるようになっています。

■ いよいよ売却の実施

3点セットもそろって、やっと売却の準備が終わりました。いよいよ売却が始まります。

① 売却方法は?入札と特別売却

まずは、誰が買い受けるかを決めなければなりません。
不動産競売における買受人の選出は、ほとんどの場合は期間入札によって行われます。
期間入札とは、2〜3週間の決められた期間に買受希望者に入札書を提出させて、その中で最高額の入札価額を書いていた買受希望者が最高買受申出人になるという方法です(この後の売却許可決定の確定によって、この最高価買受申出人が「買受人」になります。)。
この期間入札で誰も入札せず、どうしても売れない場合のみ特別売却が行われます。
特別売却の具体的な方法は裁判所書記官の裁量によりますが、ほとんどの場合は、決まった期間中に、最初に売却基準価額以上の価格での買受を申し出た人に売却するという方法が採られています。

② 物件の内覧もできるけれど…

差押え債権者の申立てがあった場合、裁判所から執行官に対して内覧の実施が命じられます。買受希望者に、差押えた物件を内覧させることができるのです。
しかし、内覧にも費用がかかり(この費用は差押債権者が立て替えておいて、競売された不動産の代金によって充当します。最終的に負担するのは債務者ということです。)、また内覧時のトラブルによって物件が損傷し価値が下がるおそれもあるため、現時点ではほとんど使われていない制度です。

③ 買受申出があったら

買受の申出があった場合、裁判所が申出人に売却基準価格の2割、もしくはそれ以上の額の保証金を積ませます。(売却条件のb)
これは冷やかしによる入札を防ぐためで、この保証金は後に支払代金に充当されます。
また、債務者自身は買受申出をしてはいけないことになっています。(売却条件のc)
これは、「そのようなお金があるのだったら、債務の支払に充てなさい」という意味合いで定められた規定です。

④ 買受申出がなかったら

期間入札と特別売却を3回繰り返しても買受申出が無く、売却の見込みが立たない場合は、裁判所は強制競売の手続を停止することができます。
手続をそのまま取消されたくなかったら、手続停止の通知から3ヶ月以内に差押債権者自身が買い手を探して連れてくる必要があります
崖の下にある不動産などは価値が低いためどうしても売れず、競売手続が停止されることがよくあります。

⑤ 開札期日

期間入札で買受申出人があった場合は、開札期日に最高価買受申出人が決まります。
ここまでくると、最高価買受申出人は不動産に対して保全処分をすることができるため、かなり強い影響力を持っているといえます。

⑥ 売却許可決定とその確定

売却不許可事由がなければ売却許可決定
裁判所は、開札期日後の売却決定期日に、売却の許可または不許可を言い渡します。
売却不許可事由があった場合は、せっかくここまできても売却は不許可になってしまうのです。
 売却不許可事由としては、例えば以下のことが挙げられます。

  • 執行文の付与された債務名義の正本がないのに手続が始まってしまっていた
  • 売却基準価額や物件明細書の作成などの手続に重大な誤りがある
  • 最高価買受申出人が権利無能力であるなど、不動産を買い受ける能力や資格を持っていない

開札から1週間ほど経って、最高価買受申出人に売却不許可事由がなければ売却許可決定が出されます。
売却許可決定が出されることによって最高価買受申出人は晴れて「買受人」になるのです。

  • 売却許可決定の確定

そして、1週間の期間内に不服申し立てがなければ、売却許可決定は確定します。
これが確定すると、今度は裁判所書記官が代金納付の期限を指定します。
この期限は、売却許可決定が確定した日から1ヶ月以内の日が指定されることになっています。

⑦ 差押債権者による競売申立て取下げの制限

 買受申出があった後は、差押債権者が自由に競売の申立てを取下げることができなくなります。
これは、買受を申し出た人の期待を損なわないように定められた規定です。
どうしても競売の申立てを取下げたいときは、開札期日に最高価買受申出人が決まった後で、その人の同意を得なければなりません。

⑧ 買受人による代金の納付

買受人による代金の納付は、指定された期限内に現金で全額、一括で納付することになっています(このことを「一括納付」と言います。)。
この代金の納付が完了した時点で、やっと買受人に不動産の所有権が移るのです。(売却条件のd)
そして、代金納付後に裁判所が登記官に所有権移転登記を嘱託します。
万が一、買受人が期限までに代金を納付しなかった場合は、売却許可決定の効力がなくなり、買受人は予め納めていた保証金を返してもらえなくなってしまいます。
そしてその他の関係者は、せっかくここまできたのに、再び期間入札から手続をやりなおさなければなりません。
買受申出の際に保証金を積ませることには、こういった面倒な事態を防ぐという意味合いもあるのです。

■ 売却の効果

代金を納付して、競売にかけられた不動産の所有権を無事に得た買受人は、前の所有者である債務者に対して不動産の引渡しを求めることができます。
それでも引き渡してもらえない場合は、裁判所に申立てて、引渡命令を発してもらうことができます。

■ まとめ

今回は、差押後から競売が終わって買受人に所有権が移るまでの流れをみてきました。
競売が始まっても買受申出が1件もないかもしれませんし、買受人が代金を支払ってくれなければ競売もやりなおしになってしまいます。無事に差押えができたとしても、債権が回収されるかどうかはまだまだ未知数であるということがわかったかと思います。
売却(換価)の手続全体の流れを事前に把握しておいて、必要な申立て等を忘れないように常に注意しておきましょう。