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裁判で勝訴した場合や公証人に作ってもらった執行証書などがあれば強制執行していくことが可能です。債務者が自分から支払いに応じてくれれば問題はありませんが、支払いに応じてくれないときには強制的に回収するしかありません。
この記事では、強制執行の流れなど基本的な強制執行に関する解説を行っていきます。
強制執行とは
強制執行とは、裁判所に頼んで私法上の権利を強制的に実現してもらう手続きのことです。裁判で勝ったとしても相手が自分から義務を果たしてくれるとは限りません。その場合には判決書などの権利を公的に証明する文書を執行裁判所に提出して権利を強制的に実現してもらいます。
強制執行の種類
強制執行は、金銭の回収を目的として行う「金銭執行」と、物の引き渡しなどを目的とした「非金銭執行」に分かれます。
金銭執行にも種類があり主に「不動産執行」、「債権執行」、「動産執行」があります。これらは強制執行の対象となる財産による分類です。
不動産執行
不動産を対象とした強制執行を不動産執行といいます。資産価値が高いため強制執行の対象となりやすいものです。
不動産執行の方法には種類があり、「強制競売」と「強制管理」があります。強制競売は不動産を差し押さえて強制的に売却し代金から配当を受ける手続きです。強制管理は賃料収入から債権を回収する方法ですがあまり利用されていません。
不動産執行について詳しくは、「不動産執行とは?執行の流れ、メリット・デメリットを解説」をご覧ください。
債権執行
債務者が第三者に対して持っている金銭債権を強制執行することもできます。債権執行は強制執行全体でも特に利用件数が多いとされています。
対象となる債権には給料や売掛金などがあります。預金も銀行に対する金銭債権ですから債権執行の対象です。
ただし、給料など一定の債権については差押えできる範囲が制限されています。
<関連記事>売掛金の回収する手段としての差押え|必要な手続きを解説
動産執行
動産とは、民法では不動産以外の物のことをいいます。例えば、店舗の商品や貴金属などです。民事執行法では民法の動産の範囲と一部異なります。例えば、登録自動車は民法では動産ですが不動産に準じた執行手続きをとることになります(軽自動車は動産執行)。
ただし、日常生活に必要な財産など差押えが制限されることがあります。また、売却しても執行費用以下にしかならない場合にも差押えはできません。
<関連記事>動産執行・債権執行とは?それぞれの効果や手続きの流れを解説
強制執行で差し押さえられる財産
強制執行の対象となる財産には以下のようなものがあります。
給与
相手の勤務先が分かっている場合には給与も強制執行の対象として有力です。注意点としては給与の全額を強制執行の対象にはできないことです。強制執行の対象となるのは原則として社会保険料や税金などを含まない手取りの4分の1までです。ただし手取り額が44万円を超える場合には33万円を超える部分について全額を差し押さえることができます。養育費や扶養義務など一部の債権については2分の1まで強制執行の対象となります。養育費など継続的な支払いを確保するのに適しています。
<関連記事>債権回収のために給料の差押えを行う方法と手順を詳しく解説
預貯金
預貯金も強制執行の対象として代表的なものです。給与の場合には差し押さえの制限がありましたが預貯金の場合には基本的に全額が強制執行の対象となります。ただし給与と違って差し押さえた時点の預金残高のみが強制執行の対象となります。
不動産
不動産は財産的価値が高いため有力な強制執行の目的財産となります。ただし不動産に対する強制執行は預貯金などへの差し押さえと違い調査や処分などの手続きに時間や費用がかかるという問題があります。また抵当権などの担保権が設定されている場合には担保権者が優先されるため回収見込みがあるか慎重に判断する必要があります。
動産
高級アクセサリーや美術品、自動車なども強制執行の対象となります。自動車は登録自動車については不動産の強制執行に準じた方法で手続きが行われます。軽自動車など未登録の自動車は動産執行の方法で処分・配当されます。
<関連記事>動産執行とは?手続きの流れや費用を解説
債権
売掛金や家賃債権など給与や預貯金以外の金銭債権も強制執行の目的となります。
生命保険
個人債務者の場合にはめぼしい財産をもっていないことも多くあります。そのような場合であっても債務者が生命保険に加入している場合があり解約返戻金等が高額なケースがあります。生命保険の場合には債務者が解約していない状況であっても債権者が解約返戻金請求権を差し押さえて保険契約を解約して解約返戻金を保険会社に請求できると考えられます(最高裁平成11年9月9日判決)。
強制執行できる財産がないとき
強制執行できる財産がなければ差し押さえは行えません。
差し押さえできない財産
債務者が財産を持っていたとしても以下のような財産は差し押さえが制限されています(民事執行法131条、152条)。
・66万円以下の現金(法人を除く。)※現金も動産の一種です。 ・債務者等の生活に欠かせないもの(家具、衣服、食器、家電等) ・債務者の仕事に必要な器具等 ・仏像、位牌など礼拝や祭祀に直接供するのに欠かせないもの ・債務者等の1か月間の生活に必要となる食料や燃料 ・給料、賞与の4分の3(ただし、手取額が44万円を超えるときは33万円まで。養育費などは2分の1まで) ・退職金の4分の3(中小企業退職金共済法等で差し押さえ自体禁止されるものもある。) ・国民年金、厚生年金など各種年金受給権(国民年金法24条、厚生年金保険法41条)、生活保護受給権(生活保護法58条)、児童手当受給権(児童手当法15条) |
ただし差し押さえ範囲は変更されることがあります(132条、153条)。
繰り返し強制執行を行うことが可能
強制執行は一度で終わりとは限りません。一度は空振りに終わったとしても他の財産に強制執行していくことは可能です。時間が経てば債務者の財産状況が改善する可能性もあります。
強制執行の手続きの流れ
強制執行の基本的な流れを給料差し押さえのケースで見ていきます。
債務名義の取得
強制執行をするには事前に債務名義を取得しておかなければなりません。債務名義というのは、私法上の請求権の存在を公的に証明し、強制執行できる力を法律により与えられた文書です。確定した判決書が代表的です。
債務名義は確定判決書のほかに仮執行宣言付判決や、和解調書、調停調書、仮執行宣言付支払督促や執行証書などがあります。
債務名義について詳しくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご参照ください。
強制執行の申し立て
債権執行の申立ては原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所に行います。
必要な書類は裁判所やケースによって異なりますが次のようなものがあります。
・申立書 ・収入印紙(手数料4,000円分) ・債務名義の正本(執行文が付与されたものなど執行力があるもの) ・送達証明書 ・法人の場合資格証明書 |
執行文
執行文とは、債務名義が現在執行力を有することを証明する文書をいいます。
債務名義を持っていたとしても実際に今執行できるのか定かではないことから、債務名義の正本の末尾に証明文言を付記してもらうことが必要です。手続きは事件の記録がある裁判所の書記官や執行証書の場合には原本を保管している公証役場にお願いします。
ただし一定の場合は執行文なしで強制執行できるケースがあります。仮執行宣言付判決や仮執行宣言付支払督促、少額訴訟の確定判決などでは執行文なしで強制執行することができます。
送達証明書
強制執行を開始するには債務名義の正本または謄本が、事前または執行開始と同時に債務者に送達される必要があります。判決であれば訴訟手続きの流れで職権により判決書が送達されています。和解調書や執行証書については当然には送達されないため、裁判所書記官や公証人にお願いして送達してもらうことになります。執行証書については作成した際に債務者に送達することもあります。送達されたことを証明するために送達証明書の発行も申請します。ただし動産執行の場合には事前に送達すると債務者に気づかれて財産を隠されてしまうおそれがあるため、執行開始と同時にその場で送達することもあります。
裁判所の差し押さえ命令
順調にいけば差押命令が出されます。この命令は債務者と第三債務者(債務者の債務者)に送達されます。
<関連記事>債権回収における第三債務者とは?第三債務者が拒むとどうなるのか詳しく解説
給料の差し押さえ
差押命令の効力が生じると債務者は自分で取り立てることができなくなり、第三債務者は債務者に対して支払うことが禁止されます。差押えの効力は第三債務者に送達されたときに発生します。
差し押さえた給料の取り立て
債権執行をすると第三債務者から直接取立てをすることができます。取り立てが可能となるのは差押命令が債務者に送達されて一週間経過してからです。ただし、給料債権など生計に関わるような債権については4週間必要なことがあります。
強制執行までの期間
債権を目的とした差押命令が出されるには判決から最短でも10日程度は必要です。ただし実際にはどの債権を対象とするかによって異なる可能性がありますし、裁判所の運用や混雑状況などによっても変わってきます。差押命令送達後一定期間経過後に取立権が生じることもあり、取り立てまで1~2か月程度は見ておいた方がいいでしょう。
<関連記事>強制執行にかかる費用とは?裁判所に強制執行を申請する手順をご紹介
まとめ
・債権回収における強制執行には、「不動産執行」、「動産執行」、「債権執行」の3種類あります。
・債権執行は預金や給料、売掛金などから回収する方法です。
・強制執行の基本的な流れは、1.債務名義の取得、2.執行文の付与、3.送達証明書を取得し、財産に応じた差押えを行い、配当を受けることになります。
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