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動産執行や債権執行について詳しく知らない方も多いと思います。
この記事では、動産執行・債権執行の基本から手続きの流れまで解説していきます。
動産執行とは
動産執行とは、金銭債権を強制的に回収するために現金や貴金属などの動産を強制執行の対象とするものです。動産差押えともいいます。
預金などの債権を差し押さえた方が差押えた物の処分がいらないため適切なことも多いです。ですが事前に預金を引き下ろされて口座残高がなくなっているようなケースでは動産執行が必要となります。
動産執行の対象となるもの
動産執行の対象となるものは現金や宝石類、機械類、骨董品、有価証券、債務者が小売業の店舗といった店であればそこにある商品などがあります。
軽自動車など未登録の自動車も対象となります。
動産執行の対象にならない財産
差押えをすることができない動産もあります。
例えば以下のようなものです(民事執行法131条各号)。
・現金66万円まで(民事執行法施行令第1条) ・債務者が仕事を行うのに必要な動産(大工の工具、農家の肥料など) ・祭祀や礼拝といった宗教的行為に使用する動産(仏像など) ・義足や義手など生活に必要な動産 ・発明・著作に関するもので、未発表の動産 ・日常生活に欠かすことのできないもの(食器や寝具、家具、畳、冷蔵庫、エアコン、テレビ、実印など) |
これらをまとめて「差押禁止動産」と呼びます。
一般的な家庭にある家財道具は、そのほとんどが差押禁止動産にあたることが分かると思います。
債務者も生活をしていかなければなりませんので、財産を全て奪ってしまうようなことはできないのです。
また、信教の自由の保護や知的財産権の保護の関係で、祭祀に使う動産や知的財産に関する動産は差押えが禁止されています。
また、「債権額+執行にかかる費用」の合計額を超えた価値の動産を差し押さえることは、超過差押えとして禁止されています(民事執行法128条1項)。
これは不動産の差押えにはない動産差押え特有の制限です。(ただし複数の不動産を差押えた場合については、売却許可決定を保留するという措置が採られることがあります。同73条1項。)
しかし差押えを行う時点では、差押えの対象となった動産がどのくらいの価値なのかわからないこともあるため、後から超過差押えであったことが分かる場合もあります。
その場合は、執行官は超過分について差押えを取り消すことになります(同128条2項)。
また、「無剰余差押え」にあたるとして、差押え自体が禁止される場合もあります(民事執行法129条1項)。
「無剰余差押え」とは、動産を差押えて売却しても手続費用と同額かそれに満たない額にしかならないと見込まれる差押えを指します。つまり、債権に充当できるだけの剰余が出ない、全く意味がない差押えのことです。
無剰余差押えは、意味がないだけでなく、債務者の財産を切り崩してしまうだけなので禁止されています。また、差押えを始めてから剰余が出ないことが判った場合には、執行官は差押えを取消さなければなりません(同129条2項)。
また、登録された自動車や登記された建設機械などは動産ではありますが動産差押えの対象外となります。これらは強制執行においては不動産に準ずるものとして動産とは別の扱いを受けるのです(民事執行法120条や民事執行規則97条などを参照。)。
動産執行手続きの流れ
動産執行手続きは、「差押え→換価→満足」と進んで行きます。
それぞれの段階について、要点を押さえていきましょう
・動産の差押え
動産の差押えも不動産の差押えと同様、確定判決などの債務名義に基づいて、債権者が申立てることによって開始します。
もちろん、不動産の差押えの申立てと異なる点もあります。
まず、債権者は申立ての際に差押え目的物を個別に指定する必要がないことが挙げられます。動産の所在する場所、例えば債務者の住所などを特定して申し立てればそれで十分なのです(民事執行規則99条、同100条を参照。)。
債務者がどういった動産を持っているか知ることは難しいため、これを特定して申し立てるのは現実的ではないからです。
また、動産の場合の差押えは以下の2通りにわけて考える必要があります。
①債務者自身が目的物の動産を占有している場合 ②債権者や第三者など、債務者以外の人が目的物を占有している場合 |
①の場合は、執行官が目的物を債務者から受け取ることで差押えします。
執行官は債務者の住居などに立ち入って執行の対象になりそうな動産を探すことができます。警察官の援助を求めることもできます(民事執行法123条1項、同6条)。
どの動産を差し押さえるかは執行官の裁量で判断されます。
②の債権者が目的物を占有している場合には、債権者が執行官に提出することで行います。
第三者が動産を占有している場合には説得して任意提出してもらうことになります。
任意提出しないときは、「債務者が第三者に対して有する引渡請求権」を差し押さえるという方法をとります。
動産の差押えをしても執行官がそれを持ち去らず、債務者にしばらく保管させたままにすることもあります。
動産によっては特殊な保管方法を必要とするものもあるため、執行官は相当と認めるときは債務者自身に差押物を保管させることができるのです(民事執行法123条3項前段)。
この場合には差押えをしたことを表示する封印などが施されます(同条後段)。
保管させるだけではなく、執行官が認めた場合は、債務者は差押物を売却までの間、使用することもできます(同123条4項)。
・動産の換価
動産を差し押さえたら次は換価する必要があります。
「換価」は、執行官の責任の下で、差押えた動産を売却して金銭に換える手続です。
ただし、手形に関しては売却ではなく取立てによって換価されます(民事執行法136条、138条)。
売却の際には執行官が裁量でその動産の価値を評価するのが一般的ですが、中には貴金属や宝石、骨董品といったように値打ちが高く、執行官がその価値を評価するのが難しい動産もあります。
これらを換価する場合には、執行官は適切な評価人(鑑定士等)を選任し、その価格を評価してもらうことになります。
動産の換価手続においては、不動産と異なり売却基準価額などは設定されません。
ただし、債務者の財産権を保護する必要があることから、不相当に低い金額での売却はできないことになっています(民事執行法規則116条1項ただし書、120条3項)。
さらに、株式などの相場がわかる有価証券は、売却日の相場以上の価格で売却しなければならないこととなっていますし(同123条)、貴金属などは地金としての価額以上の価額で売却しなければなりません(同124条)。
もし相場の価格で売れなかったとしても、むやみに値段を下げて安く売ることはできないのです。このような場合は売却を取消すことになります(同130条)。
また、動産の換価では、同じ種類のものをまとめて一括売却することができます(民事執行法113条)。これは不動産の換価との大きな違いです。
売却の方法には、「競り売り」、「入札」、「特別売却」、「委託売却」という4種類があります。
しかし、これらのうち入札については、動産売却の場合にはほとんど行われません。
もっとも一般的なのは競り売りです。
競り売りを行う場合は、差押えから1か月以内のいずれかの日を売却期日として、その日時や場所を債権者や債務者に通知し、同時に公に告知します(民事執行規則115条)。
そしてその期日に競り上げの方法で売却がなされます。最高価で買受申出をした人に買受が許可され、その者は原則としてその場ですぐに代金を支払います(同118条1項)。
動産の種類によっては、執行官が動産の種類等を考慮して競り売り以外の方法で売却することがあります。これが特別売却です(民事執行規則121条)。
特別売却は、特別な資格を持った人でないと使用することができない機械など、競り売りに適さない動産を個別の交渉で売る時などに用いられる方法です。その方が適正な価格で動産を売却できるため債務者の保護につながります。
また、執行官以外の者に売却を委託することもあり、これを委託売却と言います(同122条)。美術品等は専門家である美術商などに任せた方が債務者保護につながりますし、効率的でもあるため、委託売却という形で売却が行われることが多いです。
・債権者の満足(配当)
動産執行では超過差押えが禁止されており、差押債権者の債権を満足させる分しか差押えが認められていません。
そのため、動産の強制執行では不動産の強制執行と異なり、配当を受け取ることができる人が限られています。もしあらゆる債権者に配当を受ける権利を認めてしまうと、債権額分しか差押えをしていないのにもかかわらず動産の換価額が分割され配分されてしまい、最初の差押え債権者が債権を回収できなくなってしまうからです。
動産執行での配当要求権者は、その動産の動産先取特権者と質権者です(民事執行法133条)。
そのため、差し押さえた動産に先取特権者か質権者がいた場合のみ、差押債権者と先取特権者・質権者とで売却額を分け合うことになります。
この先取特権者と質権者は、その権利の対象となる動産から優先的に弁済を受けることになっています(民法303条、同342条)。そのため、差押債権者がこれらの権利を有さない場合、債権はほとんど回収できなくなってしまいます。
そのため、差押えの段階で先取特権や質権の付着していない動産を差押えることが重要となります。
債権執行とは
債権執行とは、債務者の持っている第三者に対する債権を差し押さえて強制的に債権を回収する方法です。
債権に対する強制執行は不動産や動産に対する強制執行に比べても成功率が高く、債権回収において重要な地位にあります。
不動産に対する強制執行は、対象となる不動産が何重にも抵当に入っていることが多いですし、動産に対する強制執行は差し押さえられる動産が限られてしまいます。
一方で債権は、差押え対象の債権の債務者(この債務者を「第三債務者」と呼びます。)に債権を弁済するだけの資力があればその債権額だけは回収できる可能性が高いのです。
債権執行の対象となるもの
強制執行の対象となる債権のうち代表的なものが、「預金債権」と「給料債権」です。これらは多くの債務者が有している債権だからです。
給料債権に関しては、債務者の勤務先がわかれば差し押さえることができるため、探索しやすく、差押えしやすい債権であるといえます。
もちろん、売掛金債権や貸金債権などといった他の債権も執行の対象となります。
ただし、動産と同様、債権についても差押えが禁止されているものがあります。
以下のものは差し押さえることができません。
・給料、ボーナス、退職金などの4分の3(ただし、手取額が44万円を超えるときは33万円まで) ※夫婦間の扶助義務や子の監護義務に関して生じる債権であれば、2分の1まで差し押さえることができます(152条3項、151条の2第1項各号)。 ・国民年金や厚生年金などの各種年金受給権(国民年金法24条、厚生年金保険法41条)、生活保護受給権(生活保護法58条)、児童手当受給権(児童手当法15条) |
※差押禁止の範囲は債権者や債務者の申立てにより変更される可能性があります。
これらの債権は債務者の生活を支える基盤となるものであるため、差し押さえられてしまうと債務者が路頭に迷ってしまいます。そのため差押えが制限されているのです。
また、差し押さえられた債権の価額が「債権者の債権+執行にかかる費用の額」を超えている場合には、他の債権は差押えてはならないことになっています(民事執行法146条2項)。
債権についても、債権回収に必要な分だけ差押えが許されるということです。
債権執行手続きの流れ
債権に対する強制執行は、「差押え→換価→満足」と進んで行くので、順に手続の概要をみていきましょう。
・債権の差押え
債権が差し押さえられると具体的にどのような効果が生じるのでしょうか。
まず、債務者は債権を回収したり、他人に譲渡したりすることが禁止されます(処分禁止効)。また、債権の時効は差押えによって更新されます(民法148条)。
第三債務者については弁済が禁止されます。もし第三債務者が差押え後に債務者に弁済してしまったら、差押えをした債権者にも同じように弁済しなければなりません(二重弁済、民法481条1項)。
・債権の換価
債権の場合は、売却による換価はあまり行われません。
債権の換価は、その債権の債務者である第三債務者から債権を取り立てることによって行われます。
差押命令が第三債務者に送達され、かつ債務者に送達されてから1週間経つと、債権者は自動的に差押債権を取り立てる権限を得られます(民事執行法155条1項)。
ただし、給料等への差押えの場合は、差押債権者の債権に扶養料債権等が含まれているときを除き「4週間」となります。
つまり、債務者に代わって債権者自らが第三債務者から債権を取り立てることができるようになるのです。
債務者と第三債務者へ差押命令が送達されると、送達された年月日が裁判所書記官から債権者に対して通知されることになっているので(民事執行規則134条)、この通知をみればいつ取立権限が生じたのかがわかります。
・債権者の満足(配当)
債権執行の場合、配当手続が少し複雑になっています。
とりあえず簡単に、どのような債権者が配当手続に参加できるかを説明しておきましょう。
まず、不動産執行とは異なり、配当要求なしに自動的に配当に加入できる債権者はいません。
しかし、配当要求をすることによって配当に加入できる債権者はいます。それは以下の債権者です(154条2項)。
・債務名義を有する債権者 ・文書により先取特権を証明した債権者 ・仮差押え・差押えをした債権者 |
債権執行では二重差押えができるので、複数の債権者が同一の債権に対して差押えをすることがあります。
そのため、仮差押え・差押えをした債権者が複数存在しうるのです。
これらの債権者が配当要求をして配当に加入してきた場合には、それらの債権者も一緒に、法定の順位に従った弁済を受けることになります。
<関連記事>売掛金の回収する手段としての差押え
強制執行における弁護士の役割
強制執行を弁護士に依頼することのメリットを説明します。
財産調査
強制執行するには相手に財産がなければできません。財産があることは分かっていても具体的に何がどこにあるのか特定できなければ回収は困難です。
そのため強制執行をする前に相手の財産を調査する必要があります。
不動産や自動車、預金などの財産ごとに調査が必要です。財産調査は知識と経験が必要ですが専門の弁護士であれば安心して任せることができます。
執行方法の選択
ケースによって効果的な執行方法は異なります。預金債権を差し押さえたほうが効果的な場合もあれば、不動産を差し押さえたほうが効果的なこともあります。
専門の弁護士であればケースに合わせて最適な執行方法を選択できます。
書類の作成や手続きの代理
強制執行は難しい手続きです。裁判所に提出する書類を作成するだけでも簡単ではありません。弁護士に依頼することで裁判所や執行官とのやり取りを任せることもできます。
迅速な債権回収
債権回収は時間との勝負です。時間がかかるほど債権回収の難易度は上がります。
弁護士であれば状況に応じて適切な債権の回収ができるため迅速な回収が可能です。
強制執行をせずに回収できることもあります。
債権回収に強い弁護士の選び方
弁護士にも専門分野があります。債権の回収を依頼する場合には債権の回収に強い弁護士に依頼することが大切です。WEBサイトで債権回収に強いことや実績の有無を確認してください。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
まとめ
・動産執行とは、現金や貴金属などの動産を差し押さえて強制的に債権回収する方法です。登録自動車は動産執行の対象ではありません。
・差押えが禁止される動産があり、「日用品」や「仕事で使う道具」などがあります。
・債権執行とは、債務者の持っている第三者に対する債権(預金、給料債権など)を差押えて強制的に債権回収する方法です。
・差押えが制限される債権があり、給料など生計を維持するための債権については差押えが制限されることがあります。
・強制執行を弁護士に依頼することで難しい手続きを代行してもらうことができ、回収の可能性を高めることができます。
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