債務者にめぼしい財産がみつからずに債権回収を断念せざるを得ないことがあります。しかし、状況によっては詐害行為取消権を行使することで債務者の財産を回復させ債権の回収が可能となることもあります。

 

この記事では、債権回収における詐害行為取消権について要件や注意点などを解説します。

 

詐害行為取消権とは

詐害行為取消権とは、債権者が弁済を得るために債務者のした財産の減少行為を取り消す権利のことです。債務者による不当な財産減少行為のことを「詐害行為」といいます。詐害行為取消権は「債権者取消権」とも呼ばれます。

売掛金や貸付金などを持っている場合、支払期日に弁済をしてもらう権利があるわけですが、債務者が支払いに応じてくれないこともあります。債務者に支払いができる財産があれば訴訟などを行い強制執行により債務者の財産から強制的に債権回収することもできます。

しかし、債務者にめぼしい財産がないこともあります。財産がなければ強制執行をしても債権回収をすることが難しくなります。

債務者に財産があったはずなのに債務者が財産を安く売却したり贈与したりして財産がなくなることがあります(差押えを逃れるために隠匿しようとする債務者もいます。)。

このような債務者の行為に対抗するための手段の一つが詐害行為取消権です。処分そのものを防ぐ方法としては仮差押えがあります。

 

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詐害行為取消の要件

自分の財産をどのように処分するか本来は自由なはずです。債権者であっても無制限に干渉することはできません。そのため、詐害行為取消権にはいくつか要件があります。

 

債務者が無資力であること

詐害行為取消権の目的は債務者の財産を守ることで債権回収を図ることにあります。債務者に十分な財産があり債権回収に問題がなければ詐害行為取消権は認められません。

 

債務者が財産権を目的とした行為をしたこと

詐害行為取消権の目的は債務者の責任財産を保全することにあります。そのため財産権を目的としたものが対象とされています。婚姻や養子縁組のような身分行為について取り消しを認めることは行き過ぎだからです(過大な財産分与など例外的に詐害行為取消権が認められる可能性はあります。)。

 

債務者が債権者を害することを知っていたこと

債務者が行為の時に弁済に支障が出ることを知っていることが必要です。弁済資力に問題が生じることを単に知っていればよく、債権者を積極的に害そうという意図まではいりません。

 

債権が詐害行為前に成立していたこと

詐害行為取消権の目的は特定の債権を保全することにあるため、被保全債権は原則として詐害行為前に成立していることが必要です。債権が後から発生したのでは債権を害されたとは言えないからです。

 

受益者や転得者が債権者を害することを知っていたこと

受益者とは詐害行為により利益を受けた人のことです。転得者とは受益者から利益を転得した人のことです。

詐害行為取消権を行使するには債務者だけでなく受益者や転得者もそれぞれが利益を受けた時において債権者を害することを知っていることが必要です。

転得者に詐害行為取消権を行使するには受益者とすべての転得者がそれぞれの利益を受けた時(転得の時)に債務者の行為が債権者を害することを知っている必要があります。この点は旧法と取り扱いが異なっているので注意が必要です。

簡単に契約が取り消されてしまうと安心して取引できなくなってしまうからです。

 

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詐害行為取消権を行使した際の効果

詐害行為取消権の主な効果は以下の通りです。

 

債務者とすべての債権者に詐害行為取消の効果が及ぶ

詐害行為取消権は2020年4月1日に改正されたのですが、改正前は詐害行為取消権の効果は相対的なもので債務者には及ばないとされていました。改正により債務者や他の債権者にも詐害行為取消権の効果が及ぶことになります。

 

財産の返還または価額の償還の請求ができる

詐害行為取消権の行使により債務者の行為の取り消しとともに、移出した財産の返還を求めることができます。その際、金銭又は動産が目的物のときには債権者に支払うよう請求できます。債務者が受け取らないこともあるからです。債権者は受け取った金銭を債務者に引き渡す義務がありますが相殺することにより事実上の優先弁済を受けることができます。財産そのものの返還が難しいときには価額の償還を求めることになります。

 

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受益者・転得者の権利の回復

詐害行為取消権が認められると受益者や転得者は詐害行為により得た財産や利益をなくします。そのため受益者等は反対給付の返還を請求できたり、失った権利が回復したりすることになります。

 

権利行使時の注意点

詐害行為取消権は他の権利とは異なる面があります。特に注意すべきは以下の点です。

 

2年の期間制限がある

詐害行為取消権は期間制限があり、債務者が債権者を害することを知って行為したことを債権者が知った時から2年で権利を行使できなくなります。また、知らなくても行為の時から10年経った場合も行使できません。

 

裁判所に請求しなければならない

詐害行為取消権は裁判所で行使することになっています。他人である債権者が債務者の行為を取り消せるという重大な結果を生じさせるため、要件を満たしているかどうかを慎重に判断する必要があるからです。特に債権者を害する意思があったかという主観的な問題は裁判所に客観的に判断してもらう必要があるからです。

 

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まとめ

詐害行為取消権とは、債務者の行為により減少した財産を回復する権利のことです。

・詐害行為取消権の要件として、「債務者が無資力であること」、「債務者が財産権を目的とした行為をしたこと」、「債権が詐害行為前に成立していたこと」、「受益者や転得者が債権者を害することを知っていたこと」が必要です。

・詐害行為取消権の効果として、「債務者とすべての債権者に詐害行為取消の効果が及ぶこと」、「財産の返還または価額の償還の請求」が認められます。

・詐害行為取消権の注意点として、「2年又は10年の期間制限があること」と「裁判所に請求する必要があること」が挙げられます。

 

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